【本編完結】ハリー・ポッターと何も知らない転生者 作:シャケナベイベー
今回はとある『もしも』の話
トム・リドルは前提として愛を知らない少年
産まれてすぐに自身を産んだ母親は死に、孤児院で生活をし物心がつくと自分は他の人間と違うのだと気付いた。
そこから孤児院にダンブルドアが訪れ、ホグワーツに通い、その中で自分の悪なる才能を開花させ闇の帝王なんて呼ばれる───それが本来のお話だ。
だからこれは、そのちょっとした分岐から成る、愛を知った彼のお話になるのだろう。
◆
「初めまして。君がトム・リドル君だね? 俺はオミニス。オミニス・サロウって言って君の親戚なんだ。隣にいるのは妻のアン」
1931年十二月三十一日。五歳の誕生日を迎えたトム・リドル少年の前に二人の男女がやってきた。自身の親戚だと名乗る男の顔をトムはジッと見つめた。
差し出された手、それでもなぜか目だけはコチラと合わない。「オミニスは目が見えないの」と隣に座る女性が呟いた。そうなのか、と幼い心では思うしかない。
まして親戚の言葉の意味も五歳のリドル少年には分かるはずもなかった。
でも、それでも。この手を取るべきだと本能が囁いた。だからトムはその手を取り、「………よろしく」と小さく呟いたのだ。
「……と言うのが僕とオミニスおじさんたちの最初の出会いさ」
「へぇ、お前も大変だったんだなぁ」
呑気に呟いて菓子を食べ、紅茶を飲む親友にトムは苦笑した。「感謝はしているけどね」と自分もクッキーを摘む。
「俺にそんなこと話して良かったのかよ?」
「君が聞いてきたんじゃないか。お前の出生話せって」
いきなりスリザリンの談話室に乗り込んできて叩きつけるように叫んだ彼───トム・リドル最大の親友であるエドワード・アーデルに何故グリフィンドールに組み分けされないのだろうとトムは常日頃から疑問に思っていた。
「……そりゃさ、お前がこの前あんな馬鹿なこと言うから親友として気が気じゃないんだよ、察しろ」
「はは。うん、感謝してる」
ちょうど一週間前。トムはとある偶然から自分の本当の両親とその家族について知ってしまい、それはもう荒れた。母親は父親に愛の妙薬を盛って自分を妊娠し、挙句の果てに夫に逃げられたから自分を育てる気力すら失せるとかどういうことだ、と。
それはもう普段は漆黒の瞳が感情の昂りで紅く染まり、いよいよゴーント家に殴り込みでも掛けようかと思うほどには荒れた。そりゃオミニスおじさんも一応は生家の筈のゴーント家を嫌うわけだと納得した。
だがそんなことになる事を未来視で察知したらしいエドワードが止めに来て、決闘に発展し自分は止められたのだ。しかも完封されたのだ。いつもならここまで無様な負け方はしなかったのに。
そう愚痴ればエドワードは笑って言った。
「だってあのときのお前精神ガタガタだったろ。そんなお前に負けるわけないし」
なるほどそれが理由かとトムは笑った……本当に、心の底から。
そしてホグワーツを卒業するまで、彼らはごく平穏に学生生活を謳歌した。開かれる筈であった秘密の部屋が解き放たれることはなく、バジリスクの被害者になるはずであったマートル・ワーレンはごく普通にホグワーツを卒業していく。
そしてリドルによって退学されるはずのハグリッドも無事に……いや無事にとは言い難いが──何せ週に一度は何かしら魔法生物絡みの問題を起こしていたのだ、卒業出来ただけ奇跡だろう──ホグワーツを卒業し、ダンブルドアによって禁じられた森の庭番になった。
「それで、どうでしょうダンブルドア先生……僕が、その……教師になることについて」
時は少し戻り1945年。ホグワーツを卒業してすぐ、トムは恩師ダンブルドアの下を訪ねてホグワーツで教鞭を執りたいと打診した。
半月眼鏡の奥から覗くライトブルーの瞳がトムをジッと見つめる。それに背筋をピンと伸ばしたトムは真っ直ぐその目を見返した。
「学生時代の君は、問題も起こさず、エドワードという友と共に実に品行方正に過ごしておった……いや、危うい時期はあったかもしれぬがエドワードが止めておったの」
「アイツには……エドには感謝してもしきれませんよ」
純粋な笑みでトムが笑う。それを見てダンブルドアは嬉しそうに顔を綻ばせた。
きっと大丈夫だと、かつて自身の先輩が引き取ったこの子は正しい道を歩んでいけると、そう思ったから。
「……君を歓迎しようトム。君は、きっとわし以上に素晴らしい教師になるとも」
・トム・マールヴォロ・リドル
未来の闇の帝王ヴォルデモート。この世界ではオミニス・サロウ(旧姓ゴーント)とその妻アン・サロウに引き取られて愛を知ったことで原作ほど変な真似はしなかったし、ホグワーツで親友のエドワードを得たことで大変に愛を知る生徒になった。
結果として秘密の部屋は開かれずマートルがトイレ憑きのゴーストになることもなくハグリッドが不当に……不当に退学になることもなかった。
そしてホグワーツ卒業と同時に闇の魔術に対する防衛術の教師になる。
ヴォルデモートが生まれないことで魔法戦争が勃発せず多くの有力な純血旧家が絶えることもなく、エドワードとユスティアが殺されることもない。マローダーズの不和が起きることもなくハリー・ポッターが英雄と呼ばれることもない。
ごく普通の、ありふれた魔法界がそこに広がるだけだ。
・オミニス&アン・サロウ
トム・リドルを引き取った夫妻。かつての同級生であるステラ・アーデルが視た未来を伝え、トムを保護するよう言い含めたことで二人が孤児院にやってきた。トムとの生活はとても楽しかった。
ちなみに二人がトムを引き取った1週間後にステラは視え続ける未来に耐えきれず心を壊して発狂し自死した。
・エドワード・アーデル
トムの一番の親友。荒れる親友を殴り飛ばし、決闘でボコボコにして落ち着かせた。この世界線では妻共々元気にしているので産まれた息子を可愛がり、孫を可愛がる大人になった。特に孫は自分に瓜二つな上に未来視まで持ってるので色々教え込んでは妻と息子夫妻、親友たちに折檻されている。