【本編完結】ハリー・ポッターと何も知らない転生者   作:シャケナベイベー

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本編後、大体ホグワーツの戦いから一年後くらい


血濡れた剣

 コツコツと足音だけが響く。初夏だからか身体に張り付く汗が鬱陶しい。辺りはワイワイと酒盛りで騒ぐ老人やら駆け回る子供の無邪気な声で溢れている。

 この場所に来たのはかつて両親の墓を訪れて以来だなと何の気なしに思った。ここから目的地まではまだ少し距離があるものの、自分の目はその場所を捉えていた。

 ゴドリックの谷の中心にある一際大きな邸。千年続く魔法騎士の家系、アーデルの邸宅が彼──ハリー・ポッターの目的地だった。

 

 

「見舞いなんて必要ないって言ってもお前は来るんだろうよ」

 

 たどり着いたアーデル邸……の一室で寝間着のままベッドから半身を起こしてそう愚痴るのはこの家の主のリオン・アーデル。

 彼は窓から差し込む陽光に身を任せ、不貞腐れたように鼻を鳴らしていた。

 

「そう邪険にしないでよ。僕だって忙しい合間を縫って来たんだからさ」

 

 テーブルにハーマイオニーから手渡された袋包のクッキーを置くと、腰掛け用の椅子と丸い小さなテーブルとカップに注がれた紅茶が音もなくそこに出現した。恐らくこの家の屋敷しもべ妖精の仕業だろう。

 椅子に座り、紅茶を一口飲むとゆっくり息を吐いてから寝台で身を起こす親友を一瞥した。

 

「時の英雄様が俺のような一介の魔法使いの見舞いに来られるなんてなんとも恐悦至極に存じますなぁ」

「心にもないことどうも。ていうか、君の方が僕なんかより凄いじゃないか」

 

 おちゃらけるリオンを軽く睨む。細々と続いているとはいえ千年続く魔法騎士の当主にしてダンブルドアもヴォルデモートもいない今の英国魔法界において間違いなくその存在を知らしめるに足る彼の方が自分なんかよりよっぽど英雄と呼ばれるに相応しいのだろう。

 

 ダンブルドアのこともスネイプのことも、誰一人として救うことが出来なかった自分と違ってリオンはセドリックもシリウスも救ってみせたのだ……二人ともが自分のせいで命の危機に瀕したのに自分は何も出来ていなかったというのに。

 

 そんなことを考えているとリオンが先ほどまで読んでいたのだろう本に目がいった。何の本だろうと思い、尋ねてみる。

 

「これか? アルバートさんから貰ってな。蛇語を学ぶための本だよ」

「えっ……なんでそんなものを?」

「蛇語を覚えること自体は悪いことじゃないだろうと思ってな。しばらくは療養だって言われたし暇つぶしに読んで学んでるんだ」

 

 白い包帯が巻かれた方の腕をヒラヒラとさせながら誉れある騎士殿はニヤリと笑った。その包帯の下はドス黒い傷跡があるのだろうによく動かすものだ。

 つい先日死喰い人の捕縛作戦を行い、リオンはアントニン・ドロホフとロドルファス・レストレンジを一人で相手取るというお馬鹿を敢行し、無事に叩きのめしたものの呪詛を食らったのだ。リオン曰くスネイプ産のセクタムセンプラを数倍凶悪にした質の悪い呪詛だとかで『愛護の指輪』による加護及び治癒でも完治には至らなかった。

 

(だからしっかり安静にしてなきゃいけないはずなんだけどね……)

 

 目の前の彼はそれがどうしたと言わんばかりに杖無し呪文やらを駆使して色々なことをこなしている。彼の妻が見れば怒髪天を突く勢いで怒るだろう。リオンと来たらホグワーツを卒業して堂々と無茶するようになったのだ。猫を被っていたのか、色々な解放感からか彼はどうにも活動的になっていた……それで怪我をされたら堪ったものではないが。

 

「ヴォルデモートの野郎が生きてた頃に比べりゃマシだよ」

 

 ヴォルデモート、と口にする時のリオンの顔に陰が差したのをハリーは見逃さなかった。闇の帝王と恐れられ、誰からも理解されることのなかった憐れな男。自分の武装解除によって死の呪文が跳ね返った時点でヴォルデモートは真の意味で死んでいた。彼の偽の不死性を保っていた分霊箱は全て壊していたのだから。だが彼の内に残った淀んだ魔力が全てを破壊しようと溢れ出そうとして───それをリオンが止めたのだ。首を刎ね、その肉体ごとヴォルデモートは消え失せた。

 

「……お前は気に病まなくていい。奴を終わらせたのは──殺したのは俺だ。首を刎ね、奴の肉体は消えた。日刊預言者はヴォルデモートを殺したのは俺だと報じた……それで良い」

「とことん不器用だよな君って」

「優しさと言ってほしいね」

 

 その通り、それはリオンの優しさなのだろう。ヴォルデモートを殺したのは自身だと宣伝させることでハリーに人殺しの烙印を押させないようにしたのだ。いくらヴォルデモート相手とは言え人殺しであることに変わりはないのだから。

 アーデルはそういう家だ。魔法騎士は常に血と屍と共にある。だから人殺しの烙印を押されるなら俺が適任なのだとリオンは平然と口にした。決戦が終わって数時間後のことであった。ハリーはリオンの頬を殴ったしリオンもそれを避けることなく受け止めた。

 あの場で一生分の罵倒は口にしたと思う。だがそれでも、ハリーはリオンがヴォルデモートを殺したことを詰ることは無かった。あの男はあまりに罪を重ね過ぎていた。法で裁くにはあまりにその罪過は重い。

 

「……君は正しいことをしたんだリオン。だから気に病むことはないよ」

 

 彼を責める人がいるなら自分も責めるべきだ。何故ならあの時自分はリオンの隣にいて止められる立場であった──いくらヴォルデモートを何とかしなければ淀んだ魔力で辺りが消し飛ぶ状況であったとは言えリオンの事を人殺しと揶揄する輩はいるだろうから──のにハリーはそのまま事の成り行きを見守っていた。

 

『殺しちゃ駄目だ。アズカバンに連れていこう。コイツに相応しい罰を受けさせるんだ』

 

 かつて叫びの屋敷でピーター・ペティグリューが殺されそうになったのを見てそう言った自分は、既に遠い過去なのだから。




大変久しぶりな気もするハリーとリオンの絡み
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