【本編完結】ハリー・ポッターと何も知らない転生者   作:シャケナベイベー

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とあるスリザリン生から見た彼らの話
時系列はハリーたちが5年生の時


誰がためでなく

「正直、リオン・アーデルって危ないわよね」

 

 とある日のスリザリン談話室でそんなヒソヒソ話が聞こえたので、ソファに座って本を読んでいたエディン・セルウィンは顔を上げた。

 話し込んでいるのは同じ学年の女子三人だ。その中のリーダー格だろうフリント家の令嬢が先ほどの言葉を発したようだ。

 

「どうして?」

「だって噂だと彼の父親って戦争の時に死喰い人をたくさん殺したんでしょう? それにその彼もこの前、『穢れた血』をホグワーツから追い出そうとしてくれた上級生を甚振ったって言うし……」

 

 そう言って如何にも悲しげに目を伏せるフリント家の令嬢を見たエディンは「とんでもない暴論もあったものだ」と軽く引いた。

 彼女の兄──言うまでもなくマーカス・フリントの事だ──と同じく頭が足りていないようだ。ヒソヒソ話とはいえ穢れた血という言葉を平然と口にするとは。

 

「そもそも純血なのに穢れた血に良いカッコしてるのが気に入らないのよね〜」

 

 うわ言ったよコイツ……と辺りのスリザリン生の心が一つになる。穢れた血という言葉はマグル生まれに対する最大の蔑称だ。いくら心の中で思っていても言葉にする馬鹿は早々いない……いや、三年前に我らが監督生ドラコ・マルフォイがグリフィンドールのハーマイオニー・グレンジャーに口にしたとか何とか聞いたような……とアランは考え込む。

 

「あんなのがエラソーに私達に口出しするとか何様のつもりなのかしらほんと。ああいうのがいるから魔法界が暗くなってくのよ」

 

その言葉を最後に彼女らは談話室を後にする。そして姿が完全に見えなくなったところでエディンは隣の友人たちと顔を見合わせた。

 

「どうする?」

「どうするって言われても……」

「さっきの話がグリーングラス先輩かアーデル先輩の耳にでも入ったら……」

「フリントの奴、多分引きこもりになるぜ」

 

 人前で平然と穢れた血と口にするような奴らだ。多分リオン・アーデルは女相手だろうが容赦はしないだろう。彼が『穢れた血』という言葉が何より嫌いなのは周知の事実なのだ。

 

「まぁ。ああいう輩はどっかしらで痛い目を見ると思うよ」

「いくら聖二十八一族だからって言って良いことと悪い事の区別もつかないとか駄目だよな」

 

 その言葉はきっとマルフォイの坊っちゃんにも当てはまるんじゃないか、とは口にしなかった。極東の諺曰く『口は災いの元』だ。

 

 

 

 

 エディン・セルウィンは言うまでもなく聖二十八一族たるセルウィン家の生まれだ。とはいえ、エディン自体はセルウィン家の母とマグル生まれの父の間に生まれた半純血であった。

 まぁその両親も自分が小さい頃に揃って死んだわけだけど…とホグワーツの廊下を歩きながら内心で自嘲する。

 なにせ家に帰ってきたらそれぞれ杖と銃を手にした両親が血を流して死んでいるのだ。当時八歳だった自分からしたらトラウマ必定だろう。

 

 そうして自分は母方の祖父母に引き取られ、セルウィン家の人間として暮らすことになった。半純血の人間を受け入れるなんて聖二十八一族なのに何か言われたりしなかったのかと今なら思うが、当時の自分はこれでひもじい思いをしなくて済むのだと思って泣いてしまった。

 

「おじいちゃん達には感謝しなきゃだよね……」

 

 何せ家を出ていった娘の子を引き取ってくれたのだ。それだけでもありがたいのにこうして今に至るまで育ててくれている。何と有難いことか。

 

「───貴女にユーモアのセンスが備わっていたなんて初めて知ったわよフリント?」

 

 叫び声が昔の思い出に浸っていたエディンの感覚を引き戻す。

 次いで聞こえてきた声にゾワッ、と全身の毛が逆立つ感覚に襲われた。慌てて透明呪文を行使して姿を消し、声のしたほう──廊下の突き当たりの空き教室の扉を慎重に、そーっと開けた。

 

 そこに居たのは一人のスリザリンのローブを着た生徒とその足元で檻の中に収められた憐れな鼠一匹だ。

 生徒の方はその白にも見える金髪を背に流し、氷と見紛う程に青い目を足元の檻に向けている。その檻の中で鼠が必死に抜け出そうと藻掻いていた。

 

「貴女の兄も大概だったけど、貴女はそれ以上に頭が弱いのねぇ? 物事の分別がついて然るべき四年生にもなって、堂々と『穢れた血』と口にするなんて……フリント家のお歴々はさぞ悲しむことでしょう」

 

 その少女の周りだけ冬になったかと錯覚するほど冷え込んでいるように、エディンは感じた。鼠は相変わらず抜け出そうと必死になっていたが、少女が乱暴に柵を蹴りつければ大人しくなった。

 

「知っているかしら? 海の外では鼠を食べる事もあるそうよ。ならそこで貴女の内臓を綺麗に食べてもらいましょうか。こんなに元気なんだもの。きっととても喜ばれる筈よ?」

 

 だって、挙げ句に私の恋人の事も好き放題言ったのだものねぇ?

 声は優しげですらあるのに、その一言の時だけエディンには彼女の事が闇の帝王より恐ろしく感じた。そして鼠はあまりの恐怖ゆえか失神したようだ。

 

「隠れてないで出てきたらどう? 覗き見なんて趣味が悪いでしょうに」

 

 鋭い声が飛んで、エディンはすぐさま透明呪文を解いて敵意は無いと知らせるために両手を上げながら姿を見せた。

 そして現れたエディンを見た少女は「あら」と驚いたような声を上げた。

 

「エディンじゃない。何をしているの」

「こっちの台詞ですよグリーングラスのご令嬢。幼気な動物一匹に何してるんです?」

 

 その鼠が誰なのか知っていながらエディンは問いかける。それに少女───ダフネ・グリーングラスは「あぁ忘れていたわ」とアッサリ言ってのけてから檻を壊す。

 すると瞬く間に鼠が一人の女子生徒の姿へと変わった。誰あろう先ほど談話室でリオン・アーデルのことを貶していたフリントだ。

 

「見苦しいところを見せちゃったわ……言わないでおいてくれる?」

「貴女の騎士様に?」

 

 からかいを多分に含んで返せば「まぁ……そうね」と顔を赤くしながら肯定した。

 エディンはそんなダフネの態度を意外に感じた。何せ自分が知っているダフネ・グリーングラスは恋人とのあれこれを恥ずかしがるような質ではなかった筈だったのだが。

 

「グリーングラス先輩、もしかして恥ずかしいので?」

「こうやってからかい気味に他人に指摘されるとどうにもね。自分から言うなら問題は無いのだけど」

 

 自分から言う方が難易度高くないだろうか、とエディンは口に出しそうになったが慌てて口を噤む。代わりに白目を剥いて床に転がり失神している憐れなフリントを見やった。

 

「……随分過激な制裁だったんじゃないですか?」

「これでも穏便な方よ? だって脅しているだけじゃない」

「こっわ」

 

 正直な感想が口をついて出た。アンタ鼠に変えてたろうがよ。

 

「とにかく、この件はリオンには言わないでおいて」

「言えば良いじゃないですか。きっと喜びますよアーデル先輩は」

「どうせあの人背負い込むもの……」

 

 腕を組み、壁に背を預けたダフネが重々しくため息を吐く。嫌に確信めいた物言いにエディンはただならぬものを感じ取った。

 

「彼は関係ないでしょう?」

「いいえ。リオンの事だもの、『自分のせいで他人に迷惑がー』とか何とか言って勝手に落ち込むのよあのお馬鹿」

「……苦労してますね」

「付き合って二年になるもの。それくらいの機敏は分かるわ」

 

 いっそ抱えてるもの全部打ち明けてくれれば一緒に背負うのにね……

 そう語るダフネの目はここでは無いどこか遠くを見ているように揺らいでいた。

 

「もういっそ押し倒してキスでもしたらどうです? ウジウジしてる男にはこれくらいしたって許されると思いますけど」

「あけすけねエディン」

 

 エディンの遠慮の無い物言いにダフネがクスリと笑う。そして杖を振ってフリントの身体を浮かせるとエディンにウインクした。

 

「この愚か者は私が寮まで運んでいくわ」

「愚か者て……いえ、分かりました」

「それじゃあねエディン」

 

 そう言ってダフネが部屋を去った後、しばらくしてエディンもその場を離れた。

 

 

 

 

「……今日は随分といろんな場面に出くわすなぁ」

 

 目の前で繰り広げられる光景を見てエディンは思わず呟いた。

 何せついさっきまで話の話題に上っていた人物──リオン・アーデルがグリフィンドール生二人を廊下に設置されていた『携帯沼地』に蹴り落としているのだから。

 

「ちょ、待っ…! アーデ───」

「いやはやまさか勇猛果敢、正義の寮グリフィンドールの最上級生ともあろう先輩方がまさか。一年生のスリザリンをイビろうなんてこと、あるわけ無いですよねぇ?」

 

 必死に沼地から抜け出そうとする最上級生達を蹴り落としながら喋るリオン・アーデルの顔は大変にこやかだ。

 やってる所業は不良じみているが──まさかこれがかの魔法騎士の一族だとは初見では思うまい──話を聞く限り悪いのは上級生たちのようだ。

 

「あ、そこに隠れてる君。悪いんだけどそこの一年坊を寮まで送ってってくれないか?」

「え、僕?」

 

 隠れていたが見破られていたらしいエディンは素っ頓狂な声を上げて所在なさげにしていたスリザリン一年生の顔を見る。

 リオンは「そこのお兄ちゃんが一緒にいてくれるからな」と言いながらしつこく沼地から這い上がろうとする上級生たちを軽めの金縛り呪文で沼地に沈めていた。鬼なのだろうか。

 

「えっと……じゃあ、帰ろっか?」

 

 そう言って差し出した手を一年生が握ったのを確認してからエディンはスリザリン寮に向けて歩き出した。




エディン・セルウィン
セルウィン家の男子。母がセルウィン家の出で父はマグルの花屋さんをしていた。
ある日家に帰ったら両親が揃って亡くなっていたので母方の祖父母に引き取られ、改めてセルウィンを名乗ることとなった。
容姿は茶髪に緑の目をした整った顔立ちの少年。成績優秀でマグル生まれに対する差別意識なんて持ち合わせていない。
ダフネとは聖二十八一族の社交界で何度か顔を合わせている。

ちなみに両親が揃って亡くなっていたのは父が借金して店の常連客の女と不倫したのを母が咎めたら父が拳銃を発砲し、母が反射で死の呪文を唱えたから。
魔法使いにマグルの武器はあまり効果が無いとされているが、それでも流石に心臓を撃ち抜かれたら生きては居られなかった。
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