【本編完結】ハリー・ポッターと何も知らない転生者   作:シャケナベイベー

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I am Lord Voldemort

 父さんが石にされてから一週間ほど経った。実の父親が被害にあったということもありしばらくは意気消沈としていたが、ダフネやマークにランス、他にも様々な人が俺を励ましてくれたお陰で持ち直すことが出来た。

 

 そうして六月の期末テストが三日前に迫った今日、マクゴナガル先生が大広間に居た俺達を見回して口を開いた。

 

「善い知らせです」

 

 その言葉を聞いた生徒達は各々の考えを口に出す。ついに継承者が捕まっただとか、期末テストが中止になっただとか。様々な憶測が飛び交っていた。

 

「マダム・ポンフリーからマンドレイクの調達が出来たとの報告がありました。明日にでも薬の調合が行われることでしょう」

 

 その言葉に歓声が上がる。拍手する者、口笛を吹く者、安堵のあまり抱き合う者など多種多様だった。

 

「スプラウト先生愛してる!」

「俺、薬草学の授業だけは真面目に受けるって決めてんだ…」

「先生好き!抱いて!」

「!?」

 

 かくいう俺も安堵していた。肩の力が抜け、体勢がへなへなと崩れる。

 

「良かったね、リオン」

 

 前に座っていたダフネが笑顔でそう言うのに頷き、マクゴナガル先生を見る。

 先生もこちらに気付いたようで小さくウィンクした。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 その後に大広間を出て寮に向かっている最中、誰かにローブの袖を掴まれる。振り向くと袖を掴んでいたのはジニーだった。

 

「ジニー?どうしたんだ?」

「リオン…その、今いいかしら…?」

 

 不安げな眼差しでジニーは俺に言う。それに違和感を抱きつつもジニーと共に離れた場所へと移動した。

 

 

 

 

 

 

「……それで、どうしたんだ?」

 

 周りに誰もいないことを確認し、努めて穏やかな声でジニーに話しかける。

 ジニーはギュッと裾を掴んで下を向いていた。よほど言いにくいことなのだろうと急かすことなく待っていると、ようやくジニーが顔を上げる。

 

「リオン……私、私……!」

「ジニー?一体どうし……!?」

 

 何かを伝えようとしたジニーの目から涙が溢れたのを見た俺は彼女に近寄ろうと一歩踏み出す。

 が、それよりも早くジニーが俺に抱き着いてきた事に驚いて思考が止まってしまう。

 

「え、あ…ジ、ジニー!?君はハリーが……」

「馬鹿だなぁ、君は」

 

 好きなんじゃないのか。そう続けようとした俺を遮るようにジニーが言葉を発する。

 抱き着いた体勢のままジニーが顔を上げて俺を見る。その顔には、先程までとはまるで違う彼女らしい穏やかな笑顔が───

 

(いや違う。これはジニーじゃない。あの子はこんな作り物の笑顔なんか浮かべない…!)

 

 ジニーの姿をした誰かから離れようと体を動かすが、ぴくりとも動く気配がなかった。

 

「駄目じゃないかリオン。スリザリンの継承者が引き起こした事件でホグワーツは大騒ぎになっているのに、いくら知っている子だからとはいえこんなあっさりと付いてきては」

「お前…は…!」

 

 “ソイツ”は俺から離れると、嘲るような笑みを浮かべながら杖をこちらに向けた。

 なんとか体を動かそうとするものの、まるで見えない何かに足を捕まれたかのように動かない。しかし口は動くのでコイツの正体を口にする。

 

「……ヴォルデモート……っ!!」

「正解。……インペリオ(服従せよ)

「……っ……!」

 

 その呪文が唱えられた瞬間、俺の意識は深い闇の中に沈んだ。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 石にされたハーマイオニーが握り締めていたメモを読み解き、スリザリンの怪物がバジリスクだと突き止めたハリーとロンはそれを教師に伝えようと職員室を訪れた。

 そこでマクゴナガル達の話し声が聞こえ、物陰に隠れながら様子を伺うことにした。

 

「我々の油断が招いた結果です。生徒が二人、怪物に『秘密の部屋』へと連れ去られました」

「一体、誰なのですか?」

 

 マクゴナガルの言葉にマダム・フーチが震えた声で問い掛ける。

 マクゴナガルは軽く息を吐き出すと、その名前を告げた。

 

「リオン・アーデルとジニー・ウィーズリーです」

 

 横でへなへなと崩れ落ちるロンを視界の端に捉えながらも、ハリーにそれを支える余裕は無かった。

 

 

 

 

「ジニーは何か知ってたんじゃないかな。秘密の部屋について」

 

 職員室から少し離れた小部屋に移動した二人は、連れ去られたジニーとリオンについて話していた。

 

「だから怪物…バジリスクに連れ去られたって言いたいの?」

「だってそれ以外にないだろ?ジニーを連れ去る理由なんて!」

 

 ロンはハリーの問い掛けにほんの僅かだが声を荒げる。それに気付きすぐさま「ごめん」と謝罪する。

 

「大丈夫。僕の方こそ無神経に聞いちゃってごめん」

「……もっとアイツに真剣に向き合ってあげれば良かった…そうすればジニーは……」

 

 そう言って肩を落とすロンを慰めながら、二人は部屋を出る。

 

「とにかく、三階の女子トイレに行こう。そこに何かの手がかりがあるかもしれない」

「おぉ!居た居た。ハリー!ロン!」

 

 三階の女子トイレに向けて歩き出そうとした二人に後ろから声が掛かる。

 振り向くと、マークとランスがこちらに走ってきていた。

 

「マーク!それに、君は……」

「あ、俺とこうして話すのは初めてだっけ?ランス・パーシヴァルだ!よろしくな」

「え?あ、よろしく」

 

 ランスが差し出した手に困惑しながらも握手を交わす。

 

「二人してどうしたのさ?僕らこれから行かなきゃいけないところが……」

「秘密の部屋、行くんだろ?僕らも同行したいんだ」

「俺たちもマクゴナガル先生達の話が聞こえてさ。居ても立ってもってことで走ってきたんだ」

 

 どうやら二人もハリーたちと同じ目的であったらしい。味方は多い方が良いということで四人揃って三階の女子トイレへと向かった。

 

 

 

「三階の女子トイレっていうとあれだろ?嘆きのマートルがいるっていう」

「うん。一度会ったことがあってね。それで色々聞いてみたいんだ」

「女子トイレに落ちてたっていう日記に、ハリーが見た昔の光景か……」

 

 四人は歩きながら今回の目的について話していた。

 そして会話している内に、ついに目的の女子トイレへと辿り着いた。

 マークとランスは女子トイレに入ることに抵抗したものの、背に腹は代えられないと思ったのか意外とすんなり入っていく。

 目的である嘆きのマートルは、一番奥の小部屋のトイレに腰掛けていた。

 顔を上げたマートルはハリーの顔を見て表情を明るくすると「あら、アンタだったの。今回は何の用?」と尋ねた。

 

「マートル。非常に聞きにくいんだけど君が死んだときのことを聞きたいんだ」

 

 ハリーが聞くと、マートルは声を上げて泣き出した。あまりの激しさにロンとランスが引いている。

 

「オォォォォォウ!!怖かったわ。まさにここだったの。この小部屋で死んだのよ。よく覚えているわ。オリーブ・ホーンビーがわたしのメガネのことをからかったものだから、ここに隠れたの。鍵を掛けて泣いていたら、誰かが入ってきたわ。何か変なことを言ってた。外国語だった、と思うわ。とにかく嫌だったのは、喋ってるのが男子だったってこと。だから、出ていけ、男子トイレを使えって言うつもりで鍵を開けて、そして――死んだの」

「どうやって死んだかは覚えてる?」

「大きな、黄色い目があったの。それを見た瞬間に体が動かなくなって、フワーって浮く感覚があったわ」

「どこでその目を見たの?」

 

 マートルは泣きながら手洗い場の辺りを指差した。四人は手洗い場に近付くと何かの仕掛けがないか隅々まで探す。

 やがてハリーは蛇口に蛇の彫刻が彫られているのに気が付いた。試しに蛇口を捻ってみるが水が出てこない。

 しばらく蛇口を捻り続けているとマートルが「その蛇口、壊れっぱなしよ」と楽しげに笑いながら教えてくれた。

 

「ハリー、何かを蛇語で言ってみたらどうだ?」

「蛇の彫刻があるくらいだからそれが適切かもね」

 

 ロンとマークがそう言ったのを聞き、ハリーは深呼吸をした後、「開け」と口にした。

 何も起こる様子がない。三人の方を見ると、ランスが「普通に英語だったぜ」と言った。

 ならばと、本物の蛇に出会った事を想像しながら「開け」と口にする。

 

 今度は自分でもはっきりと理解できた。自分の喉からシューシューと蛇の息遣いのような音が鳴る。

 次の瞬間、手洗い場が動き出した。

そして遂に──

 

「これが、秘密の部屋……」

 

 50年ぶりに秘密の部屋が開かれた。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 時は戻り、リオンが服従の呪文を喰らってしばらくのこと。

 

 

 

「さぁ着いた。ここが秘密の部屋への入り口だ」

 

 ジニー──いや、ヴォルデモートが平然とそんなことを口にする。

 なんと秘密の部屋の入り口は三階の女子トイレにあったらしい。

 

「僕がホグワーツに入学するよりも昔にホグワーツの改修工事が行われた際、秘密の部屋が暴かれることを恐れたサラザール・スリザリンの子孫がここに入り口を移したそうだ。実に馬鹿らしい場所に移したものだと思うよ。君もそう思うだろうリオン?───あぁ。念のため声も出せないようにしたんだったかな。反応がないというのも寂しいが仕方無いか」

 

 忘れてなどいないだろうに、ヴォルデモートは態とらしく残念そうな顔を浮かべる。

 

「───開け」

 

 ヴォルデモートが蛇語で何かを口にした瞬間、手洗い場が動き出し、秘密の部屋の入り口が姿を見せた。

 

「それじゃ行くとしようか。何、道中で退屈はしないはずさ」

 

 

 

 

 

「さぁ、ようこそ秘密の部屋へ」

 

 パイプを下り、巨大な蛇の脱け殻を通り過ぎてしばらく歩いた。

 ついに秘密の部屋へと足を踏み入れた。

 

「まぁ、もうこれは必要ないかな」

 

 ジニーの体がまるで糸の切れた人形のように地面に横たわる。

 そして、俺の目の前には一人の男が立っていた。

 

 黒い髪にとてつもないほど整った顔立ち。なるほど、外面だけで語るとすればこんな少年が途轍もなく邪悪な魔法使いだと言われても信じるものは少ないだろう。

 

「そうだね。暇潰しになぜヴォルデモートと名乗っているのか教えてあげよう」

 

 そう言って、彼は杖で空中に自分の名前を書き出す。

 

 “Tom Marvolo Riddle”

 

そして名前を組み替えていき、一つの単語を作り出した。

 

 “I am Lord Voldemort(私はヴォルデモート卿だ)

 

「僕は自分の名前が心底嫌いでね。トムという平凡な名前に汚らわしいマグルであった父親の姓。マールヴォロは母方の祖父の名だがそこまで思い入れもない。いずれ偉大な魔法使いとして名を馳せる自分に相応しい名前はないか。そう考えたときに僕自身の名前をアナグラムとして生み出したのがヴォルデモートという名前さ。魔法界にいる者全てが恐れ、ついには誰もが口にしたくないような名前となった」

 

 顔に喜悦を滲ませながら語るヴォルデモートを、俺はフワフワと漂う意識の中で聞いていた。

 今すぐ動き出し、ジニーを安全な場所へ逃がさなければという思いと、逃げ出したとしてもなにも変わらないという思いがせめぎ合う。だって相手は闇の帝王だ。本人でないとはいえ、たかが一学生でしかない自分が敵うとも思えない。

 それに今は服従の呪文で奴に従わざるを得ない状況だ。これを打ち破る術を俺は持っていない。

 だから諦めて、来ることもないであろう助けを待つしか──

 

 

 

 

───ここで諦めちゃ駄目だ

 

 

 

 

「……え?」

 

 どこからかそんな声が聞こえて、首に掛けていた祖父のペンダントがバチッ!と電流のような音を出す。

 するとどういう訳か体の自由が戻っていた。

 

「何……!?」

 

 奴が驚いたように声を出す。まさか服従の呪文を破るとは思っていなかったのだろう。俺もそうだ。

 だがこれは好都合。全力でジニーの前に飛び出し、ヴォルデモートに向けて杖を構える。

 

「……一体どうやって服従の呪文を破った?」

「さぁな。俺が知るか」

 

 ヴォルデモートは杖を向けられていることには反応を示さず、なぜ俺が服従の呪文を破れたのかについて気になっているようだった。

 

「まぁいい。それで?服従の呪文を破り僕に杖を向けるのはいいがこの闇の帝王に勝てるとでも?」

「違う。お前は闇の帝王じゃない」

「……何?」

 

 諦めかけていた心を奮い立たせ、ヴォルデモートと会話する。

 

「今のお前はトム・マールヴォロ・リドルだ。ヴォルデモートじゃない」

「……その名を口に出すな」

「何度だって言ってやるさ。この時代に居たお前はともかく、その姿のお前はホグワーツの生徒、トム・マールヴォロ・リドルだ。名前を変えたって、結局トム・マールヴォロ・リドル(その名前)はお前自身なんだよ」

「知ったような口を!!」

 

 激昂したヴォルデモート──トムが打ち出した呪文が直撃し、体が地面を転がる。

 

「随分と馬鹿にしてくれるじゃないか。アーデルの姓を持っているから少しは期待したが、とんだ期待外れだったな」

「ぐっ……そうそう、一つ、聞きたいことがあったんだよ、お前に……」

 

 勢い良く地面に叩き付けられたからか上手く言葉が出ないものの、立ち上がってトムの目を見る。

 

 

 

 

「お前にとってエドワード・アーデルはなんだ?」

「───どういうことだ?」

 

 祖父の名前を出した瞬間、奴の顔が強張る。そこを見逃さずに畳み掛けるように喋りかけた。

 

「友達なんだろ?だったら教えてくれよ。お前にとって爺ちゃんは殺しても構わないくらいどうでも良かったのか?単なる取り巻きでしかなかったのか?友達だと公言しておきながら殺すなんて流石は闇の帝王。これからたくさんの命を弄ぶ人間として素晴らしい行いじゃないか。───お前なんかと友達だなんて爺ちゃんが可哀想でならないよ」

クルーシオ(苦しめ)!!」

 

 その呪文が唱えられた瞬間、あまりの痛さに声にならない叫びを上げる。とはいえ数秒で呪文は終わり、近付いてきたトムが俺の髪を引っ付かんで無理矢理立ち上がらせる。

 

「あまり調子に乗るなよリオン・アーデル。君のような奴が僕の何を知ってるって言うんだ。僕がエドを殺した?ハッ、冗談も休み休み言うんだね」

 

 トムは紅く変化した目をギラつかせながら俺に言う。成る程、俺が言ったことを冗談と思っているらしい。

 

「まぁいい。君なんかに構っている暇は───」

「リオン!ジニー!」

 

 まだ何か言おうとしていたトムを遮るように俺とジニーを呼ぶ声が響く。

 まだ痛む体を起き上がらせ、声のした方を見てみれば、ハリーがそこにいた。

 

「彼女は目覚めない」

 

 トムはさっきの激情が嘘のように不敵な笑みを浮かべ、ハリーに近付いた。




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