【本編完結】ハリー・ポッターと何も知らない転生者 作:シャケナベイベー
この年は唯一ヴォルデモートが関わってこない作品ですがシリウスやルーピンなどハリーと深く関係のある人達が初登場する作品ですので上手く書けるかどうか……
波乱の三年目、どうぞ楽しんでいってください!
友愛の果てに
8月も後半に差し掛かり、暑さもピークを迎えた。俺はといえばあまり家から出ることなく、友人たちと手紙を送りあったりして過ごしていた。
別に暑いから外に出ないというわけではなくちゃんとした理由がある。その理由とは───
凶悪犯、シリウス・ブラックがアズカバンから脱獄した。
そんな耳を疑いたくなるような情報が飛び込んできたからには外出するのも憚られた。
シリウス・ブラック。魔法界の王族と言われるブラック家の長男であり、彼らの掲げる純血思想に反発してブラック家が大抵所属するスリザリンではなく真逆のグリフィンドールに所属した破天荒過ぎる男。(両親情報)
そして今から12年前にマグル12人と友人であったピーター・ペティグリューを殺害し、アズカバン送りとなった凶悪犯でもある。
当時は例のあの人が居なくなったと騒がれており、さらに当時の魔法法執行部長であり闇の魔法使いに対して強硬な姿勢を貫いたバーテミウス・クラウチ氏が裁判官だったこともあってかシリウス・ブラックは裁判なしでアズカバンへ収容されたらしい。
なぜ彼が裁判なしでアズカバン送りとなったかについては詳しく分かっていない。父さんに聞いたこともあったが上手くはぐらかされてしまった。
一応理由として考えたのが当時の魔法省がシリウス・ブラックが無実だった場合のリスクを恐れたからではないかというものだ。
彼は魔法界の王族であるブラック家の人間だ。それが無実の罪で逮捕されたとなればとんでもないバッシングを受けるのは火を見るより明らかだ。……まぁもし本当に無実だったとしたら12年もアズカバンに収容されていた今の方が厄介になりそうだが。
◆ ◆ ◆
そんな理由もあって不要な外出は避けていたのだが、どうしてもダイアゴン横丁に行かなければならなくなり手の空いていた母さんが付き添うということで外出することになった。
そもそもなぜダイアゴン横丁に行く必要があるのかといえば三年生となって魔法生物飼育学で扱う教材の『怪物的な怪物の本』とかいう、ロックハートの出版した本並みに信用ならなそうな本が他の教材を噛み千切ったために新しく買い直さなければならなくなったからだ。
犠牲になった教科書たちを買い終え、母さんと並んで道を歩いているとフローリアン・フォーテスキュー・アイスクリーム・パーラーの店内でハリーがアイスを食べているのを目撃した。
思わずそちらを見て絶句しているとハリーも俺に気付いたのか嬉しそうに手を振ってくる。
とりあえずなんでいるのか理由を聞き出そうと俺も店内に入る。そして注文したアイスを受け取るとハリーのいるテラスに足を運んだ。
「久しぶりだなハリー。何してるんだ?」
「何って、アイスを食べているだけさ」
そういうことではないんだけどなぁ。頭を抱えていると母さんがハリーに挨拶する。そして二人でしばらく談笑していた方がいいと思ったのか母さんは店を出ていった。
「いや……俺が聞きたいのはそうじゃなくて、なんでこの危険な時期に外出してアイスを食ってるんだって聞いたんだ」
「……危険な時期ってどういうこと?」
俺が聞くとハリーは怪訝な顔をして聞き返してきた。どうやら何が起こっているのか分からないようだ。
「…そうか、ハリーは知らないのか。……実は、アズカバン──魔法界の刑務所から凶悪な犯罪者が脱獄して皆怯えてるんだ」
「犯罪者?」
「あぁそうだ。シリウス・ブラック──十二年前一人の魔法使いとその場にいた大勢のマグルを皆殺しにして捕まった魔法使いで……例のあの人の忠実な僕だ」
ハリーの顔が驚きで染まる。無理もないか。そんな凶悪な犯罪者が脱獄したとあってはヴォルデモートを追い払った自分に矛先が向くのではないかと思わずにはいられないだろう。
「もしかして、狙いは僕?」
「多分な。だけど彼は十二年もアズカバンに居たから真面な精神状態とは考えにくい。お前を狙うにしてもホグワーツにいればダンブルドアの目もあるからそうそう狙われることはないはずだ」
顔を強張らせたハリーを見て、落ち着けるように声を落として話す。他にもシリウス・ブラックはハリーのお父さん──ジェームズ・ポッターと親友だったと聞いたがこれを話せばハリーがどんな行動を取るかは目に見えている。話すべきじゃないだろう。
「そっか。だからリオンは僕がここにいることを不思議がってたんだね」
「あぁ。だから長く外にいるのは危険だ。それを食べ終わったらお前は親戚の家に戻るんだぞ」
俺がそう言うと、ハリーは露骨に不機嫌そうな顔になった。
「……何かあったのか?」
「そうなんだよ!聞いてよ、実は───」
と、俺の問いかけに余程鬱憤が溜まっていたのか興奮ぎみにハリーは今までの事を話してくれた。
今から二週間以上前に叔父の姉がやって来てハリーやハリーの両親を馬鹿にしてきたこと。それにキレてその人を風船にしてしまいホグズミードの許可証が得られなかったこと。(ホグワーツでは三年生になると親の許可証を得てホグズミードに行くことが出来る)
そうして家を飛び出して偶然やって来たナイトバスに乗り込んでダイアゴン横丁まで辿り着いたこと。ダイアゴン横丁で魔法大臣のコーネリウス・ファッジ氏と出会い、『漏れ鍋』の宿舎を提供してもらったこと。(なぜファッジ大臣が居たのかという理由については、大臣曰く『ハリーがナイトバスに乗り込むのを付近をパトロールしていた闇祓いが目撃し、大臣に連絡がいったことでこの時期にハリー一人で出歩くのは危ないということでやって来た』ということらしい)そうして今日までダイアゴン横丁で過ごしていたということだったようだ。
「なるほど……そんな理由があったのか」
「えっと…リオンは怒らないの?」
普通に納得した俺を疑問に思ったのかハリーがおずおずといった様子で聞いてくる。
「怒る?いやまさか!親戚の人に魔法を使ったって言うのは確かに問題だけど自分やご両親の事を馬鹿にされたんだろ?そりゃキレてもしょうがないさ。俺だって両親を馬鹿にされたらキレる自信あるぞ」
確かに親戚の人──それも魔法を知らないマグル相手に魔法を使ったというのは問題かもしれないが何も知らない両親の事を好き勝手に言われてキレるなという方が無理な話だ。
「辛かったろ?でもさ、君は一人じゃないんだぜ?ロンやハーマイオニー、ネビルにウィーズリー一家の人達だって君の味方だ。勿論俺もな。だからさ、なんかあったら頼ってくれていいんだよ」
「……ぇ……あ、あり…がとう……っ!」
ハリーが感謝の言葉を述べながら涙を流す。ハリーの手に握られていたアイスを受け取り、ハリーにハンカチを差し出す。それを受け取って涙を拭いたハリーはお礼を言ってハンカチを返してきた。
「もう大丈夫か?」
「う、うん…ありがとうリオン。君が友達で居てくれて本当に良かった」
なんとまぁ照れ臭いことを言ってくれる少年だ。精神年齢三十を過ぎた俺の涙腺も刺激されるというものだ。
「リオン、そろそろ帰るわよ」
と、見物を終えたらしい母さんが店に入ってくる。ハリーの方を見ると、笑顔を浮かべていたものの少し寂しそうな目をしていた。それを見た俺は立ち上がって母さんに声をかける。
「母さん、少しいい?」
「どうしたの?」
「ハリーを新学期が始まるまで家に泊めることって出来ない?」
俺の突然の提案にハリーは目を大きく見開き、母さんも驚きつつ「理由を聞いてもいいかしら?」と先を促してきた。表だって反対せず子供の意見を聞いてくれる辺りしっかりした母親だと思う。
とりあえずハリーのこれまでの経緯を少しかいつまんで説明する。
説明を聞き終えた母さんはハリーに目線を合わせるようにしゃがみ、「ハリーは嫌じゃないかしら」と問い掛ける。未だに状況を飲み込めていない様子のハリーだったが「ご迷惑じゃなければ……」と口にしたことでハリーが家に泊まることが決定した。
「ふふ、それじゃあ帰りましょうか」
「了解。……ほら何してるんだハリー?置いてくぞー」
「あ!ま、待って!」
そうして残り一週間の夏休みをハリーと共に過ごすこととなった。
◆ ◆ ◆
あっという間に時は流れ、新学期の始まる九月一日になった。
我が家に泊まることになったハリーは最初の方こそ緊張していたものの、父さんと母さんが普段通りでいいと言ったお陰か大分リラックスできたようだった。
空き部屋が無かった為ハリーは俺の部屋で寝ることとなり、ハリーとは寝るまでの間様々な事を話し合った。
三年生からの選択科目のこと。今年の防衛術の教師のこと。ホグズミードに行きたいこと。これまでのホグワーツでの事件についてなど。
ちなみにハリーは魔法生物飼育学、占い学を選択したようだ。俺の選択科目についても聞かれたので魔法生物飼育学、古代ルーン学、数占い学を選択したと答えておいた。
そんなこんなで時は過ぎ、ハリーは父さんと母さんにお礼を言ってホグワーツ特急へと乗り込んだ。
俺も父さんと母さんに別れを告げて列車へと乗り込んだ。
「久しぶり、リオン」
空いていたコンパートメントで寛いでいると聞き馴染みのある声が横から降ってくる。
顔を上げればそこにはダフネが荷物の入ったカートを持って立っていた。
「ご一緒しても?」
「お構いなくグリーングラス嬢」
「もう。からかわないでよ」
少し頬を膨らませながらダフネが俺の対面に座る。「悪い悪い」と謝罪し、少し崩れたローブを直す。
「……なんだか機嫌が良さそうだな?」
「えぇ勿論。なんと言っても今年はアストリアが入学してくるのだもの。機嫌が良くなるのも当然というものよ」
「なるほど、それでか」
去年の夏休みにダイアゴン横丁で出会った少女を思い出す。髪や目の色はダフネと違うものの顔立ちがそっくりで姉妹と分かるほどだった。ダフネもアストリアを可愛がっているようだしホグワーツに入学となればご機嫌になるのも理解できた。
そうしてしばらくダフネと談笑していたのだが、到着予定時刻の少し前となった時、列車がスピードを落とす。突然のことに何があったのかと通路に出て様子を伺おうとすると、ダフネもついてきて一緒に通路に出た瞬間に列車が急停止した。
急停止したことで体が後ろに下がるが何とか踏ん張って倒れないようにする。しかしダフネはそうもいかなかったようでバランスを崩し俺の方に倒れてくる。何とか受け止めるもそのまま俺の体は床に激突した。
激突した痛みとダフネの肘が奇跡的に俺の鳩尾に食い込んだことで「ぐぇっ!」と、なんとも情けない声を上げてしまった。
「あっ…!ご、ごめんなさいリオン!大丈夫!?」
「なんとか……」
顔を紅潮させたダフネが急いで立ち上がり心配の言葉を掛けてくる。それに答えながら俺も立ち上がり辺りを見回した。
車内は暗闇に包まれ、荷物の落ちる音やらなんやらでとんでもない事になっていた。
「
杖先に光を灯して辺りを照らす。ダフネもルーモスで同じように辺りを照らした。
「何が起きたの?」
「分からない。とりあえず他の場所を見てくる」
「私も行くわ」
そうして列車の中を進んでいき何が起こったのか把握しようとする。奥へ奥へと進んでいくと、ハリー達の姿が見えた。
「皆!何やってるんだ?」
「あ、リオン。僕らも何が何だか分からないんだ」
コンパートメントの中にはハリー、ロン、ハーマイオニー、ネビル、ジニーのグリフィンドール組が揃っていた。
どうやら彼らも何が起こったのかは分かっていないようだ。さてどうするかと考えていると、後ろの席から「静かに!」と嗄れた声が聞こえた。
声の出所を探ってみれば一人の男性がローブを捲りながら現れた。
男性は「動かないで」と俺達に告げると、魔法の火を灯して正面の扉に向かう。
すると扉が勝手に開き、中に何かが入ってくる。
それは人ではなかった。大きな背に擦り切れたマントを羽織った黒いナニカ。その姿に加えて発せられる体の芯から冷えていくような強烈な寒気を感じればどんな存在なのかは理解できた。
アズカバンにて囚人達の魂を吸い、死刑執行人のような扱いをされている恐ろしすぎる魔法生物──
強烈な寒気に身を襲われながらも横にいたダフネを後ろに隠すようにして下がらせる。
すると、ディメンターの近くの席に座っていたハリーがふらりと体を倒す。床に激突する前になんとか受け止めたが完全に気を失っているのかぐったりとしていた。
ディメンターは俺達を一人一人見つめていたが、そんなディメンターに男性が一歩踏み出す。
「シリウス・ブラックをマントの下に隠している者は誰もいない。去れ」
ディメンターは男性の毅然とした言葉にも耳を貸さず俺達を見つめ続ける。
瞬間、男性の杖から白銀の靄が飛び出して辺りを駆け巡る。
靄が通り過ぎると先ほどまでの寒気が少し和らいだ。そしてディメンターはその靄から逃げるようにしてスーッと消えていた。
ディメンターが去っていくと列車に明かりが戻り、再び動き始めた。
安堵のため息を溢し、腕に抱えていたハリーをロンとネビルの助けを借りて横に倒す。
「ハリー、大丈夫なの?」
「気絶しているだけだ。すぐに目を覚ますと思う」
不安げに声を掛けてきたネビルにそう返す。そしてハリーの側にハーマイオニーがしゃがみ込むとハリーの頬を数回叩いた。
幸い頬を叩かれたハリーはすぐに目を覚まし、辺りをキョロキョロと見回している。
「大丈夫?」
「あぁ……。何が起こったの?どこに行ったんだ───あいつは?誰が叫んだの?」
ロンがハリーに声を掛ける。ハリーはいまいち状況を理解できていないようで少し混乱しながらそんなことを言う。
誰も叫んでなどいないので顔を見合わせる。ハリーには何かが聞こえたのだろうか?
すると、後ろの方でパキッ!と小気味いい音が鳴る。振り返ると先ほどの男性の手に板チョコが握られておりそれを割った音のようだ。
「食べるといい。気分が良くなる」
男性からチョコを受け取り、一口齧る。横に座り、未だ体を震わせるダフネにも齧るよう促すとようやく一口齧った。
「大丈夫か?」
「えぇ。大丈夫よ」
大丈夫か聞けばそう返ってくる。見たところ体の震えも止まったようだし、ひとまず問題はないだろう。
皆の方を向けば話すのに夢中で誰もチョコを齧っていなかった。
「あれは何だったの?」
「
ハリーが俺を見て問い掛けてきたのでそれに答える。直接ディメンターを追い返した男性の方が詳しいのかもしれないが彼から訂正が入らないことを見るに恐らく内容は当たっているのだろう。
俺は改めて男性に向き直り言葉を掛けた。
「あの、さっきの『守護霊の呪文』ですよね?ディメンターを唯一追い払えるっていう……助けてくれてありがとうございました」
「構わないよ。むしろ君達に被害が無くて本当に良かった」
俺が頭を下げると男性は安心させるような笑みを浮かべながら逆にこちらを気遣ってきた。なんと出来た大人なのだろう。
「君達もチョコレートを食べた方がいい。元気になる。私は運転士と話してこなければ。それでは……」
男性は未だチョコを齧っていなかったハリー達に告げると足早に去っていった。
「それじゃあハリー。俺とダフネも戻るよ。他の皆が心配だしな」
「うん。また後でね」
俺とダフネもハリー達に別れを告げて自分達のコンパートメントへと戻っていった。
こうして、いよいよ波乱の三年目が始まったのだった。