【本編完結】ハリー・ポッターと何も知らない転生者 作:シャケナベイベー
あの後、自分のコンパートメントに戻って荷物を整えた俺とダフネは他の皆に何か起きなかったか聞いて回った。
聞いて見た感じ何も起こってなさそうだったので一先ず安堵した。しかしドラコがどうやらハリーがディメンターを見て倒れるところを見ていたようで、その再現をしてクラップやゴイル、その他ドラコに従ってる子達を笑わせていたのにはカチンと来たので、ドラコの首根っこを引っ掴み「聖28一族ともあろう奴がそんな馬鹿な真似をするな」と言っておいた。
仮にも貴族相手にする振る舞いではないのかもしれないが俺も母方の血筋にプルウェットとブラック家がいるのだ。そこら辺は大目に見てほしい。
こういうのはしっかりと言っておかないと後々一人立ちした時に面倒になるので今の内に言っておかなければと思った次第だ。
しかし、俺の予想に反してドラコは大人しく従った。
何か裏があるのかと訝しんだものの、ダフネから「去年自分が差別用語を口にして俺に殴られたのが堪えたのではないか」と聞かされて納得した。
とはいえ俺の前でだけしおらしくなるようでは意味がない。どうか他の皆とも上手くやれるようにと願うばかりだ。
そしてホグズミード駅に到着した列車から降り、馬車に乗ってホグワーツへと向かった。
「アストリア・グリーングラス!」
ホグワーツに到着し、大広間で新入生の組分けを見守っているとついにアストリアの名前が呼ばれる。
思わずダフネと一緒にほんの少し腰を浮かせて見守る。
アストリアの頭に組分け帽子が被せられ、間髪入れずに「スリザリン!!」と声が響いた。
ダフネと共に盛大な拍手を送り、それに気づいたアストリアが恥ずかしそうに頬を染めるものの口元には笑みが浮かび、足早にスリザリンのテーブルへ駆け寄っていった。
その後も組分けが行われ、ついに今年の組分けが終了する。
そしてダンブルドア先生が壇上へ上がり、全員の視線がそちらに向いた。
「新学期おめでとう!みなにいくつかお知らせがある。一つはとても深刻な問題じゃから、みながご馳走でぼうっとなる前に片付けてしまうのがよかろう」
ダンブルドア先生は一つ咳払いをして続けた。
「ホグワーツ特急での捜査があったからみなも知っての通り、我が校はただいまアズカバンの吸魂鬼、つまりはディメンターを受け入れておる。魔法省の用でこちらに来ておる」
ディメンターの話をするダンブルドア先生の顔がどこか険しくなる。確かに今学期シリウス・ブラックが脱獄したのを受けてディメンターを配置することとなったと父さんから聞いていた。そのことをダンブルドア先生が快く思っていないことも。
だがなるほど。ディメンターを直接目にした今ならその意味が良く理解できた。ディメンターは生きている人間の幸福という幸福を奪う。そんなものが警備のためとはいえ学校をうろついているとなれば快く思うものなどいないだろう。
「これを決定したのは魔法省じゃが、同時にもう一つの案も提示してきた。そうそう無いとは思うが万が一にディメンターの警備をすり抜けて何者かが校舎へ侵入したときの警備役として闇祓いよりフランク・ロングボトム氏、アリス・ロングボトム女史をお迎えすることとなった」
その言葉と共に二人の男女が笑顔で壇上に上がる。その二人はネビルの両親のフランクさんとアリスさんだった。病室で見たときより格段に健康そうな顔立ちとなっていた。
拍手が溢れる中でグリフィンドールのテーブルを見てみればネビルがあまりの驚きで固まっていた。
「内部はお二人が警備なさるが外はディメンター達が警備しておる。くれぐれも許可もなく外出せぬことじゃ。彼らには悪戯も変装も───透明マントさえ意味をなさぬからのう」
最後の言葉はどうもハリーに向けた言葉のようだ。ハリーの体がビクッと震える。
「楽しい話に移るとしようかの。今学期から新任の先生を二人お迎えすることとなった。まず、ルーピン先生。ありがたいことに空席となっておった闇の魔術に対する防衛術の先生を引き受けてくださった」
そう言われて壇上に上がったのはあの時ディメンターを追い払った男性だった。
そのみすぼらしい格好ゆえか拍手はまばらにしか起こらず、その中でも盛大に拍手しているのはあの場にいた七人だけだった。
「もう一人の新任の先生は──」
ダンブルドア先生が拍手が止むのを待ってから続ける。
「ケトルバーン先生は『魔法生物飼育学』の先生じゃったが、残念ながら前年度末をもって退職なさることになった。手足が一本でも残っている内に余生を楽しみたいとのことじゃ。そこで後任じゃが、嬉しいことに他ならぬルビウス・ハグリッドが、現職の森番役に加えて教鞭を取ってくださることになった」
その言葉に思わず頭が真っ白になった。グリフィンドールのテーブルから盛大な拍手が遠く聞こえる。恐らくハリー、ロン、ハーマイオニーだろう。
だが納得はいった。なぜ『怪物的な怪物の本』などという他の教科書を食べるような、ご家庭に優しくない本を教材として選んだのか。それがハグリッドであるのなら納得がいってしまう。
俺は別にハグリッドのことが嫌いなわけじゃない。彼の友人を思いやる優しい心は素晴らしいし魔法生物飼育学の教鞭を取るのにこれほど相応しい人物もいないだろう。
しかし、しかしだ。彼は一年生の頃にドラゴンの卵を秘密裏に飼い、五十年前に飼っていたアクロマンチュラなどという特級の危険生物をあろうことか禁じられた森で大繁殖させた(これはハリー達から聞いて思わずハグリッドの小屋に殴り込んだ)実績のある倫理観が人とズレている人物なのだ。
そんな彼が教師となってしまえばどんな事態が起きるか分からない。そうそう無いと思いたいが扱う魔法生物次第では最悪死人だって出るかもしれない。
彼のやらかしを理解しているはずのダンブルドア先生が何だってよりにもよってハグリッドを教師にしたのか理解できないまま、夜は更けていった。
◆ ◆ ◆
翌朝。
ハグリッドが教師になることに一抹の不安を抱えたまま、大広間で食事を取っていると正面にグリーングラス姉妹が腰掛ける。
「お久しぶりです。リオンさん」
「久しぶり、アストリア。入学おめでとう」
互いに挨拶を交わし、アストリアの入学を祝う。
「リオンはこの後、魔法生物飼育学なんでしょう?」
「そうだな。ダフネは選択科目どうしたんだ?」
「古代ルーン学とマグル学よ」
ダフネが少し心配そうな顔を向けてくる。まぁハグリッドに不安はあるが最悪の事態は起こらないだろう……起こらないといいなぁ。
そんなことを考えながらトーストに手を伸ばした。
午前の授業を終え、昼食を食べ終わるといよいよ魔法生物飼育学の時間がやってきた。
授業を行うハグリッドの小屋に向かいながら同じく授業を受けるマークとランスと話していると、ハリー、ロン、ハーマイオニーのグリフィンドール三人組が駆け寄ってくる。
「ねぇリオン。お願いがあるのだけど……」
俺達の下にやって来てすぐ、ハーマイオニーが口を開く。
「今回の授業、リオンはハグリッドを責めないであげてほしいの」
「どういうことだ?」
ハーマイオニーの言葉の意味が分からず困惑していると、ハリーとロンが説明を引き継いだ。
ハグリッドはダンブルドア先生からこの授業を任されたことを凄く喜んでおり、やる気に満ち溢れていること。ならせめて初回の授業は大成功で終わらせたいからハグリッドをよく叱っている俺には何も言わないでほしいとのことだった。
「最初の授業だけでいいんだ。お願いできる?」
「授業次第としか言えないな。もしこれで怪我人が出るようなら俺は彼を責めるだろう」
元より怪我人を出すなという話なのだろうが俺はどうもハグリッドを今一信用し切れないでいた。
「……ところで、三人は占い学だったんだろう?どうだった?」
「占い学は適当で当てにならない学問だわ!死神犬なんて馬鹿馬鹿しい」
話題を変え、グリフィンドール三人組に占い学について聞くと、ハーマイオニーが憤慨した様子で言う。それに困惑しているとロンがハーマイオニーを見て呆れたように言った。
「ハーマイオニーってば、トレローニーに才能が無いって言われたのが気に入らないんだ。ハリー、もし死神犬が本当にいるなら君は気を付けないといけないよ!」
とりあえず何が何やらということで三人に話を聞くことにした。
それによると、どうも占い学の教鞭を取っていたシビル・トレローニー先生がハリーに対して貴方には死神犬(魔法界に伝わる怪談みたいなものだ。その姿を見たら死ぬと言われている)が憑いていると言い、ロンはハリーが黒い犬を見たというのもあって余計に心配しているようだ。
対してハーマイオニーはそれを迷信として取り合わず、トレローニー先生が教科書は不要と宣言したことで怒ったようだった。
「死神犬かぁ……僕も話には聞いたことはあっても実際に目にしたことはないよ」
「まぁ、確かにな。死神犬については俺も迷信だと思う。とはいえ占い学に教科書が要らないってのはどうなんだろうな?」
「君らはハーマイオニーの肩を持つのか?」
俺とマークがハーマイオニーを擁護するような発言を耳にしたロンが信じられないような物を見る目で見てくる。
「死神犬が本当にいるとしたらハリーはとっくに死んでなきゃおかしいだろ?」
「そりゃそうだ。死神犬を見た人は24時間以内に死ぬ……だったっけ?もうとっくに24時間過ぎてるよな?」
立て続けに俺とランスがそう言うとロンもさすがに反論の余地が無いのか押し黙った。
と、ついに目的のハグリッドの小屋が見えてきたことで全員が小走りで向かった。
飼育学を受ける生徒が小屋の前に集合したことを確認したハグリッドは俺達を少し離れた牧場へと案内した。
「さーて、まずイッチ番先にやるこたぁ、教科書を開くこった───」
「どうやって教科書を開けるんです?先生、どうやって?」
ついに始まった飼育学の授業でハグリッドが教科書を開くよう促すとニヤニヤしながらドラコが進言した。
ドラコを見て顔をしかめたハグリッドだが、全員が拘束された『怪物的な怪物の本』を取り出したことで驚きの声を上げた。
「だ、だーれも教科書を開けなんだか?」
「そりゃ放っておけば何にでも噛みつくような危険な代物は拘束して当たり前だと思いますよ?」
俺がそう言うと三人が凄い目で俺を見てくる。別に良いだろこれくらい。
鎖でギッチギチに拘束された俺の教科書を見たハグリッドは「お前達、撫でりゃー良かったんだ」と心底残念そうに口にした。
初見でそんなん分かるかと心の中で愚痴りつつ、今回扱う魔法生物を探しに行くハグリッドを見送った。
「ねぇリオン。お願いだから──」
「あのなぁ、この本のせいで教科書を新しく買う羽目になった子達だってたくさんいるんだぞ?家計がいっぱいいっぱいな家庭から苦情でも来たらその責任は当然ハグリッドに行く。元よりハグリッドが事前に伝えていたら防げた事態だ。ハグリッドの授業を成功させたい気持ちも分かるが、それなら尚更厳しくいかないと」
ハリーが懇願するように俺に言ってきたが、それを遮って捲し立てるように言い放った。
「けどあの言い方は良くないわ。もっと穏便な言い方だって」
「甘やかしてたら余計にハグリッドの為にならないだろう。彼を信頼するのは君たちの役目、厳しくするのは俺の役目だ」
そう言って会話を終えると、女性陣の甲高い声が聞こえる。
振り返ってみればハグリッドが十数頭にもなるヒッポグリフを鎖で繋いだ状態で引き連れていた。生徒達はその姿に見惚れる一方で、俺はハグリッドに感心していた。
きちんと礼節を以て接すれば問題のないヒッポグリフだが、一度彼らの機嫌を損ねればたちまち大怪我を負う。
そんなヒッポグリフを鎖で繋ぎ、あまつさえ生徒たちの見世物として扱うなど相当な信頼関係が無ければ難しいことだ。その点においてハグリッド以上の適任はいないだろう。
まぁ、いささかヒッポグリフの数が多すぎる気がしないでもないが。
鎖で繋がれ、柵で隔てられたヒッポグリフに近付くようハグリッドが促す。そうして初めに三人組が近付き、代表してハリーが一歩前に出る。
ハグリッドの隅々までとはいかないものの要点を押さえたヒッポグリフの説明を聞き、ハリーは一頭のヒッポグリフと向き合う。
そして見事にハリーはヒッポグリフに認められ、撫でさせてもらうことに成功した。
周りにいた生徒が拍手を送り、ハリーも顔を赤くしながらも満足そうに微笑む。
ハリーの姿に触発された生徒たちもヒッポグリフと関わり、比較的良好な関係を築けていた。
かくいう俺もヒッポグリフの背に乗せてもらい、空を駆け回るまでには認められた。
そうしてヒッポグリフとの体験を終え、周りの皆は大丈夫かと見回していたのだが───
「きゃあああ!!」
少し離れた場所で悲鳴が聞こえる。声のした方に目を向けてみれば、そこには興奮した様子のヒッポグリフを宥めているハグリッドとその足元で倒れているドラコの姿があった。
「何があった!?」
駆け寄り、とりあえずドラコを避難させようと体に触ると「痛い痛い!」と騒ぐ。
よく見てみれば腕を押さえており、恐らくは骨折したのだろう。未だ喚くドラコを無理矢理引き離すと、近くでオロオロしていたパーキンソンに話を聞くことにした。
「パーキンソン。何があったんだ?なんだってドラコが怪我してる?」
「あ、あの……ドラ、ドラコが、「ポッターに出来たなら自分にも出来る」ってヒッポグリフに話し掛けて……そ、それで怒ったヒッポグリフにドラコが攻撃されちゃって……!」
なるほど、要するに自業自得だ。どうせヒッポグリフを馬鹿にするような言動でもしたんだろう。
腕を折られたのは不幸だが礼を欠いたのなら当然の報いだろう。
とにかくドラコを医務室に運ぼうと近寄ると未だに痛みに喚いていた。
「死んじゃう!」
「これくらいで死ぬなら魔法界は終わりだよ。今回は自業自得だ馬鹿。医務室まで付き添ってやるから。ほら、行くぞ」
折れた腕とは反対側からドラコを担ぐと、ヒッポグリフの対処を終えたハグリッドが寄ってくる。
「……俺の責任だ……俺がやんなきゃなんねぇ……」
「責任を感じてるなら他の生徒たちを気にかけてやってくれ。ドラコが怪我してパニックになってる」
見たことがないほどに意気消沈しているハグリッドを気の毒だとは思いつつも、そもそもヒッポグリフの数を減らして自分が全て見切れる範囲でやれば良かったことなのでこれ以上は何も言わずに医務室へ向かった。
……なぜ俺はこうもハグリッドを批判的にしか見せられないのか。彼にも良いところはあるんですけどね……
※ミニお知らせ
活動報告を書きました。