【本編完結】ハリー・ポッターと何も知らない転生者   作:シャケナベイベー

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まね妖怪と閉心術

 俺達スリザリン生は闇の魔術に対する防衛術の授業を受けるためにルーピン先生に連れられて職員室へと向かっていた。

 職員室へと向かう中で引率していたルーピン先生を見たスリザリン生は小声で口々に彼を小馬鹿にするような発言をしていた。

 

「ねぇリオン。あの人が先生だって知ってた?」

「まぁ列車にいたから何かしらあるんだろうとは思っていたけどまさか先生とは分かんなかったなぁ」

 

 ダフネと歩きながらそんなことを話す。今のルーピン先生はホグワーツ特急で見たときよりも格段に良い顔つきとなっていた。まぁ草臥れた鞄やお世辞にも格好が整っているとは言えないからか、大多数のスリザリン生は彼のことを侮っているようだが。

 

「にしたって、まさか座学をすっ飛ばして初めっから実践を行うなんて考えられなかったけどな?」

「僕も同じさ。まさかこの時間全てを実践に当てる気か?」

 

 と、近くに寄ってきたブレーズとセオドールも口々にそんなことを言う。

 一年の頃の後頭部にヴォルデモートをくっ付けてたクィレルはともかく父さんは実技と座学を併用して行っていたから丸々実技に当てるというのは初めてのことだった。

 

 そんなわけで職員室に到着した俺達が初めに目にしたのは広い部屋にポツンと置かれたタンスだった。

 ルーピン先生は俺達を並ばせると、タンスの横に立ち生徒をぐるりと見回した。

 

「さて、皆も何故こんなものが置かれているのかとさぞ疑問に思うことだろう。この中にはまね妖怪『ボガート』が入っている。ボガートの生態について説明できる子はいるかな?」

 

 ルーピン先生が質問しながら辺りを見回し、生徒の一人が手を上げる。

 その生徒のボガートの要点をよく押さえた説明にルーピン先生は満足そうに頷くと俺達を一列に並べた。

 

「これから、このボガートを使って実践を行う。先程の説明にもあったようにボガートはその人の一番怖いものに姿を変える。そんなボガートを退けるための呪文がある。一度実践してみようか……」

 

 そう言うとルーピン先生は俺達より前に立ち、タンスの戸を開け放つ。

 そうしてタンスから現れたボガートはルーピン先生を視認すると一瞬にしてその姿を光り輝く球体へと変える。

 対するルーピン先生はそうなることはよく分かっているのか落ち着き払った様子で杖をボガートへと向け、「リディクラス!」と唱えた。

 するとボガートがゴキブリとなって辺りを走り回る。ルーピン先生はそれを見届けるとボガートを捕まえてタンスの中に戻し、こちらへと向き直った。

 

「今のがボガートを唯一追い払える呪文、リディクラスさ。リディクラスは一番怖いものに姿を変えたボガートをその人の思い描く面白いものへと変化させる呪文でね。面白いものであれば恐怖も無くなるだろう?それでは一人ずつやってみようか」

 

 

 

 そうしてルーピン先生によるボガート退治の授業が始まった。ある時は巨大な蛇、ある時は教師の誰かといった風に相手の一番恐怖するものに姿を変えていくものの、その度にリディクラスで可笑しな姿へと変えさせられていった。

 そうしていよいよ残すところあと二人───俺とダフネのみとなった。

 俺の前に並んでいたダフネが一歩進む。しかし、その体は震えており明らかにボガートに対する恐怖が彼女を蝕んでいた。

 

「大丈夫かダフネ?ルーピン先生に言って止めさせてもらうことも」

「大丈夫よ。心配しないで。他の皆が乗り越えたのに私だけ出来なかったなんて許せないわ」

「……そうか」

 

 余計なお世話だったなとダフネから離れ、その後ろ姿を眺める。

 ダフネが立ち止まるとボガートはその姿を変えた。

 

 

 それは、一人の少女が横たわっている姿だった。黒い髪に閉じられた目。しかし顔立ちはダフネと瓜二つ。

 そんな少女を俺は知っていた。知っているからこそ理解できてしまった。ダフネが何を恐れているのかを。

 

「……リ、リディクラス」

 

 ダフネは震える指で杖を構え、震えた声で呪文を唱える。

 しかしそれは弾かれてしまい、ボガートは未だ健在だった。

 

「ダフネ、もう一度だ!」

「ダフネ!負けるな!」

 

 ルーピン先生と一緒にダフネに声を掛ける。そしてダフネは先程よりも力強く「リディクラス!」と唱えた。

 たちまち少女の姿をしていたボガートが花火に変わって空へと打ち上がる。ボガート退治に成功したのだ。

 ボガート退治を終えたダフネを拍手で迎え、胸を撫で下ろす彼女が後ろに下がるのを見送ると俺もボガートの前に出た。

 

 さて、俺のは一体何に化けるのだろうかと考えているとボガートがいよいよその姿を変えた。

 

「……なるほど、そうなんだな……」

 

 それは人だった。いや、人と言うのには些か語弊があるのかもしれないがとりあえず人だろう。

 

 ボロボロの擦り切れた黒いマントを羽織り、その下にはスリザリンの制服が着込まれている。

 とてつもないほど整った顔には残忍な笑みが浮かんでいる。しかし、その目は黄色に輝いており瞳孔が縦に長く伸びていた。

 

 俺の恐怖しているもの。ディメンターのマントにトム・リドルの顔、そしてバジリスクの目。ということは俺はディメンターとバジリスク、そしてトム……というかヴォルデモートに恐怖しているのだろう。

 

リディクラス(馬鹿馬鹿しい)!!………ブハッ!!」

 

 そして俺は呪文を唱え、ボガートの姿を変えた……と、その変わった姿を見て思わず吹き出しながら膝から崩れ落ちる。

 

 

 まず、姿はトム・リドル一択に絞られたのだが問題はその格好だった。

 デカイハートマークがあしらわれたピンクのエプロンに三角頭巾。左手で泡立て器を持っており、右手でサムズアップをしていた。しかも真顔でそんなことをしているものだからいくら俺が想像したこととはいえこれを見て笑うなと言う方が無理だろう。

 案の定、後ろの方からも笑い声が響き渡り、ルーピン先生に至っては俺と同じく膝から崩れ落ちながらもなんとか腕を机に乗せて体が倒れないようにしていた。まぁ爆笑しつつ拳で机をバンバンと叩いてはいるが。

 

「ヒーッ、ヒーッ……ゲホッ…さ、さぁ。ありがとうリオン。も、もう戻ってくれて大丈……ハハハハハハッ!!」

 

 なんとか立ち上がった先生が俺を後ろに下がらせようとしたものの至近距離であの姿となったボガートを見たからかまたも爆笑してしまった。

 その後、なんとかボガートをしまったルーピン先生により、今日の防衛術は終了となった。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「百味ビーンズ」

 

 ホグワーツ城の三階。校長室へと続くガーゴイル像の前で合言葉を唱える。

 合言葉を聞き届けたガーゴイル像はひとりでに動き出して扉を開ける。それを通り、動く螺旋階段を上ると樫の木の扉がある。

 それを開くと校長室に到着した。

 

 校長室の止まり木で眠っていた不死鳥のフォークスは俺の姿を見つけると嬉しそうに一声鳴いて俺の頭の上に止まった。

 

「おっとと……なぁフォークス。俺の頭は止まり木じゃないぞ?」

 

 俺の言葉は届いていないのかはたまたあえて無視しているのか、歌声のような鳴き声を響かせながらフォークスは俺の頭に陣取った。

 

「随分と懐かれているな?」

 

 声のした方に目を向ける。そこにあるのはホグワーツの歴代校長の肖像画だけ。その中で自分に声を掛けるとしたら一人しか思い付かなかった。

 歩み寄り、一つの肖像画へ目を向ける。

 

「フィニアス・ナイジェラス・ブラック様ですね?祖母ルクレティアの曾祖父に当たり、俺にとっては高祖父の父に当たることになるのでしょうかね」

「ふん、小僧がよくもまぁ……如何にも。私がフィニアス・ナイジェラス・ブラックだ。貴様の言う通り私と貴様には血の繋がりがある」

 

 どこか傲慢とも思える口調で話すのはフィニアス・ナイジェラス・ブラック校長。ダンブルドア先生の二つ前の校長だ。

 フィニアス氏は俺を見てどこか馬鹿にするような目をしているが、しばらくして口を開いた。

 

「小僧。ダンブルドアなら今はいない。とっとと素晴らしいスリザリン寮に戻ってはどうだ?」

「そうしたいのも山々なのですが生憎とダンブルドア先生に呼びつけられた身ですので早々帰るわけにもいかないんですよ」

「ふん……これだから餓鬼は嫌いだ。もし私が生きていれば貴様のような生徒は地下牢で鎖に繋いでやったがな」

 

 なるほど。こんな態度ならホグワーツ一人望のない校長と言われるのも納得だ。

 反論しない俺に気を良くしたのかフィニアス氏はさらに言葉を続けた。

 

「それにスリザリンでありながらグリフィンドールの奴らと組むとはなんたる恥さらしか。我が子孫ながら恥ずかしい。貴様のような奴はハッフルパフがお似合いだと思うのだがね」

「時代は移り行くものですよフィニアス様。貴方の考え方は百年前の考え方だ。それにスリザリンはスリザリンだけで仲良くするようでは孤立を深め、結束の前に破れるだけです。特に他寮を見下す者ほど手痛いしっぺ返しを喰らうことになりかねませんよ」

 

 俺の反論を受けたフィニアス氏は忌々しそうに目を細める。無論、俺もこの人は好きになれそうもない。

 

「……生意気な餓鬼だ。気に入らん」

「奇遇ですね。俺も貴方が気に入りません」

 

 

「そこまでじゃよ二人とも。先達は敬い、若人は導かねばならん」

 

 お互いを嘲るようにして言い合いを終えると、後ろからダンブルドア先生の声が聞こえた。

 フィニアス氏はダンブルドア先生が来たことで完全に興味を無くしたのか目を閉じて眠ってしまった。

 

「遅れてすまぬのうリオン。フィニアスと会話しておったのかね?」

「はいダンブルドア先生。フィニアス様と話していたんですがお互いの価値観の違いからぶつかってしまいました」

 

 俺の言葉に頷いた先生は机に腰掛けると、俺の顔を見つめた。

 

「さて、君を呼んだのは他ならぬ儂じゃが何故呼び出したのかは分かるかな?」

「まったく。一体どんなご用で?」

「君に閉心術を教えようと思っておるのじゃ」

 

 その言葉に目を見開く。

 閉心術といえば心を空っぽにして相手に自分の考えを読み取られないようにする技術だ。これを会得することが出来れば無言呪文を使うときにもどんな呪文が飛んでくるのか分からないし、極めれば開心術をも無効化することが出来る。

 

「受けてくれるかね?」

「閉心術の練習をするのは構わないんですけどなんだって俺を?」

「君は色々と複雑な事情を持っているじゃろう?それを知っているのは儂しかおらぬ故こうして提案したのじゃ」

 

 ダンブルドア先生の言い分に納得するように首を縦に振った。確かに俺の前世関係について知っているのはダンブルドア先生しかいない。閉心術を習得する都合上、ダンブルドア先生が適任だろう。

 

「分かりました。それじゃあご指導のほどよろしくお願いします」

「ありがとうリオン……さてフォークスよ。そろそろリオンの頭から離れてはどうかのう?」

 

 フィニアス氏と話しているときは俺の頭から離れていたフォークスがダンブルドア先生と話すときは俺の頭に戻っていたことに苦笑したダンブルドア先生がそう呟く。

 フォークスは名残惜しそうな声を出しながら止まり木に移った。

 

「……さて、閉心術を習得する上で大切なのは思考も心も空にすることじゃ。何も考えてはならぬし思ってもならぬ。難しいかもしれぬが一度習得すれば己の心を隠す術となる」

「心と思考を空に……」

 

 さてそんなことが出来るだろうかと思考するも、ダンブルドア先生が杖を取り出したことで思考を中断する。

 

「そして実際に開心術とはどのようなものなのか実践してみるのが早いじゃろう。リオン、そこの椅子に座りなさい」

 

 ダンブルドア先生の言葉通りに椅子に座り、先生と向かい合う。

 

「では始めるとするかの……レジリメンス(開心)

「ぐっ……!」

 

 先生が呪文を唱えた瞬間に心の中が引っ掻き回されるような不快な感覚が広がり、思い出そうとしていないはずの記憶が次々と浮かんでは消えていく。

 

「っ……!……ハァ、ハァ、ハァ……!」

 

 呪文が終わり、心が楽になると同時に肩で息をする。先生は申し訳なさそうな顔をしながら「これが開心術じゃ」とコップに注がれた水を差し出しながら言った。

 水を呷り、息を整える。そして落ち着いたところでダンブルドア先生の顔を見た。

 

「開心術……恐ろしい魔法ですね。心の中が荒らされていくような感覚がありました」

「それがこの魔法の恐ろしいところじゃ。これ一つあれば相手の考えも過去さえも読み取れてしまう。それに対抗することが出来るのが閉心術なのじゃよ」

 

 

 

 

 その後、何度か心を空にする訓練を続けたところで一度休憩を挟むこととなった。

 

「ダンブルドア先生。一ついいですか?」

「何かね?」

 

 校長室にある椅子に座り、フォークスを撫でていた先生が俺に顔を向ける。そして俺は疑問に思っていたことを聞くことにした。

 

「先生は何故、俺に閉心術を教えようと思ったんですか?いや、確かに前世という特殊な生まれではありますけど無闇矢鱈と心の中を暴こうとする人なんていないのでは?」

 

 俺の言葉にほんの少し驚いたような表情となった先生は椅子から立ち上がり俺の近くに来た。

 

「確かに外から見れば君はこの世界で生きる人と何も変わらぬ。そして前世というものを知ったとてそれをどうしようと思う者は居らぬじゃろう」

「ならどうして──」

「ヴォルデモートが復活する」

 

 被せるようにして紡がれた言葉に動きを止めてしまった。

 思わず先生の顔を見る。その顔は至って真剣で嘘を言っているとは思えなかった。

 

「ヴォルデモートが復活する……いや、それが本当だとしても俺が閉心術を習得することとなんの関係が」

「あやつは君に執着しておる。ヴォルデモートの開心術は強力じゃ。殆どの者は抗えず心の内を覗かれることじゃろう。そしてもし君の心をあやつが覗き、君の秘密を知ったならその方法で生き延びることは出来ないかと模索するじゃろう」

「……先生はアイツが死を恐れていると言いました。けど、俺は一度死んでから生まれ変わったんです。ならヴォルデモートはこの方法を試そうとは思わないのでは?」

 

 俺はそう反論するもダンブルドア先生は首を横に振るだけだった。

 

「確かに君の言う通りかもしれぬ。じゃがそれを元として死を逃れる方法さえもあやつは造り出すかもしれぬ。そうなってしまえば我々に勝ちの目は無い。リオンよ、どうか分かってほしい」

「ちょちょちょ……!止めてくださいダンブルドア先生!」

 

 頭を下げる先生を慌てて止める。俺のような一生徒に頭を下げる必要はないのだから。

 

「先生の言う通りです。唯でさえ強力なのに死ぬことさえ超越したとなれば魔法界は今度こそ終わってしまう……分かりました。先生に従います」

「……すまぬ」

 

 俺の言葉を聞いたダンブルドア先生は謝辞を述べながらも穏やかな笑みを浮かべていた。反対に目は悲しそうにしていたが。

 

 

 

 

 

 こうして俺とダンブルドア先生は閉心術の訓練を続けていくこととなった。

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