【本編完結】ハリー・ポッターと何も知らない転生者 作:シャケナベイベー
俺とダフネが恋人となってしばらく。やはりと言うべきかなんと言うべきかマークやランス、アストリアなど俺達の関係にやきもきしていた人はどこからか嗅ぎ付けて祝福してきた。
嬉しくない訳ではないので素直に受け取っておいたが逆に祝福され過ぎるのも疲れてしまう。
そして12月に入り、しばらくした日の週末。マークとランスに誘われた俺はホグズミードの三本の箒に来ていた。
「てな訳で、リオンとダフネが付き合ったことを祝して乾杯!!」
音頭をランスが取り、それに合わせてバタービールのジョッキを突き合わせる。
事の発端は至極単純で俺達が付き合った記念にパーティーしようとランスが提案し、それに乗っかったマークによって俺は連行されたということだ。(ダフネは用事があったらしく来れなかったが)
「しっかし、これで俺達も肩の荷が降りるってもんだぜ」
「いや全く。ダフネから告白されたのにそれを保留にした誰かさんのお陰で気が気じゃなかったからね?」
「……悪かったな優柔不断でよ」
くっそ、こいつら俺を弄ることを楽しんでやがる!なんて奴等だ。
「まぁまぁそう僻むなよ……ありゃ、ロンとハーマイオニーじゃね?」
「え?…あぁホントだ。どうしたんだろ?」
ランスの声に釣られ、扉の方を見ると丁度ロンとハーマイオニーが入店してきたところだった。
二人はキョロキョロと辺りを見回し、俺達の姿を見つけると驚いたように声を上げて顔を俯かせながら奧のテーブルへ消えていった。
「なんだか挙動不審じゃなかった?」
「気にはなるけど俺達に知られたくない何かがあるんじゃないか?あんまり気にしても仕方ないだろ」
マークの疑問に俺も不思議に思いながら返答する。そうしてしばらく三人で話していたのだが、来店してきた人物達を見て目を丸くすることになった。
「ハグリッドにマクゴナガル先生にフリットウィック先生にファッジ大臣だ……」
「あの四人の組み合わせは初めて見たかも」
来店してきた四人は肩に付いた雪を払いながらロンとハーマイオニーが座ったテーブルの近くに座りジョッキを抱えたマダム・ロスメルタと話し始めた。
「ギリーウォーターのシングルです」
「私です」
「ホット蜂蜜酒、四ジョッキ分は───」
「ほい、ロスメルタ」
「アイスさくらんぼシロップソーダ、唐傘飾りつき───」
「ムムム!」
「それじゃ、大臣は紅い実のラム酒ですね?」
「ありがとう、ロスメルタのママさん。君にまた会えて本当に嬉しいよ。君も一杯やってくれ……こっちに来て一緒に飲まないか?」
「まあ大臣。光栄ですわ」
四人はそれぞれが注文した物が届くと談笑を始める。
気になった俺達は近くのテーブルに移動し様子を伺うことにした。
「それにしても私、未だに信じられませんわ。どれだけの人が闇の陣営に与しても彼だけは───シリウス・ブラックだけはそうはならないだろうと思っておりましたのに」
マダム・ロスメルタが感慨深そうに呟いた。その言葉に先生方も頷く。
「彼がまだ学生だった頃のことを憶えていますわ。あの頃の誰かにブラックがあんなことをしたなんて言ったなら「貴方、蜂蜜酒の飲み過ぎよ」って笑ったはずですもの」
「人は変わるものさロスメルタさん。彼の最悪の行いは知られていないからね」
「最悪の行い?あれだけたくさんのマグルを殺しておいて、それ以上に酷いことがありますの?」
「ロスメルタさん。君はブラックの一番の親友を知っているかね?」
「ジェームズ・ポッターでしょう?勿論知っていますわ。二人ともよく一緒になってここを訪れていましたから。あの二人の仲の良さと言ったらほんの少し関わっただけの私でもよく理解できましたもの!」
マダム・ロスメルタが溢した名前にランスが叫びそうになるのを慌てて抑える。
「その通りです。ブラックとポッターは悪戯っ子達の首謀者。勿論、二人とも非常に賢い子でした──全くずば抜けて賢かった。しかしあんなに手を焼かされた二人組はなかったですね」
「そりゃ、分かんねぇですぞ。フレッドとジョージ・ウィーズリーにかかっちゃ、互角の勝負かもしれねえ」
「皆、ブラックとポッターは兄弟じゃないかと思っただろうね!一心同体!」
「全くそうだった!ポッターは他の誰よりブラックを信用した。それは卒業しても変わらなかった。ブラックはジェームズがリリーと結婚した時に新郎の付き添い役を務めたし、二人はブラックをハリーの後見人にまでした。ハリーは勿論全く知らないがね。こんなことを知ったら、あの子がどんなに辛い思いをするか……」
ファッジ大臣が沈痛そうな面持ちで語るのを聞き、今はホグワーツにいるだろうハリーを思う。彼がこのことを知ってしまえばきっとブラックを探し出してその怒りをぶつけようとするかもしれない。
「ブラックが例のあの人の一味だったからですの?」
「さらに酷い…。ポッター夫妻は自分達が例のあの人のにつけ狙われていると知っていた。ダンブルドアは例のあの人と弛みなく戦っていたから、数多の役に立つスパイを各地に放っていた。その内の一人から事態を知ったダンブルドアは二人に身を隠すよう勧めた。だが知っての通り例のあの人から身を隠すのは容易な事ではない。ダンブルドアは『忠誠の術』が最も助かる可能性があると二人に言ったのだ」
「どんな術ですの?」
マダム・ロスメルタの問いに答えたのはフリットウィック先生だった。先生は咳払いをし、「恐ろしく高度な術ですよ」といつもの甲高い声で言った。
「一人の生きた人間の中に魔法を使って秘密を封じ込める。選ばれた者は『秘密の守人』としてその情報を自分の中に隠す。こうすれば誰も情報を得ることが出来ない───秘密の守人が暴露しない限りはね。秘密の守人が口を割らない限り、たとえ例のあの人であってもジェームズとリリーの居場所は分からない。彼らの住む村を何年探そうが二人を見つけることは出来ない。たとえ鼻先を二人の家に押し付けることが出来たとしても見つけることは出来ないのだ」
「それじゃ、ブラックがポッター夫妻の秘密の守人に?」
マダム・ロスメルタの疑問に今度はマクゴナガル先生が答えた。
「当然です。ジェームズ・ポッターはブラックだったら二人の居場所を喋るくらいなら死を選ぶだろうと、それにブラックも念のために身を隠すつもりだとダンブルドアにお伝えしたのです。……それでもダンブルドアはまだ心配していらっしゃった。自分がポッター夫妻の秘密の守人になろうと申し出られたことを覚えていますよ」
「ダンブルドアはブラックを疑っていらした?」
「ダンブルドアには誰かポッター夫妻に近しいものが例のあの人に情報を渡しているという確信がおありでした。ダンブルドアはその少し前から味方の誰かが裏切って例のあの人に相当の情報を流していると疑っておいでだったのです」
「それでもジェームズはブラックを使うと?」
「そうだ」
ファッジ大臣が重苦しい声で認める。
「そして、忠誠の術をかけてから一週間も経たない内に──」
「ブラックが二人を裏切った?」
「まさにそうだ。ブラックは二重スパイの役目に疲れて『例のあの人』への支持をおおっぴらに宣言しようとしていた。ポッター夫妻の死に合わせて宣言する計画だったのだろう。ところが、知っての通り『例のあの人』は幼いハリーのために凋落した。力も失せ、酷く弱体化し逃げ去った。残されたブラックにしてみれば、全く嫌な立場に立たされてしまった訳だ。自分が裏切り者だと旗幟を鮮明にした途端、自分の旗頭が倒れてしまったんだ。逃げる他なかった……」
「あのくそったれのあほんだらの裏切り者め!!」
ハグリッドが外にまで響くかと言うほどの声量で吐き捨てる。それにバーの半分ほどが静まり返り、マクゴナガル先生が「シーッ!」とたしなめていた。
「俺は奴に出会ったんだ。奴に最後に会ったのは俺にちげぇねぇ。その後で奴はあんなに皆を殺した!レックスから、レックス・アーデルから騎士団に連絡が入って誰も手が空いとらんと言うもんで俺が代わりに二人の家に行ったんだ」
「彼はダンブルドアと一緒に念には念をと二人の家に守りの結界を何重にもかけていましたからね。結界が壊された時に真っ先に気付くことが出来たのでしょう……」
ヒュッ、と息が詰まるような感覚に陥る。まさか父さんもここまで深く関わっていたとは知らなかった。マークとランスから気遣わしげな視線が飛んでくるのを気にするなとジェスチャーで止めさせ、再び会話に耳を傾けた。
「連絡を受け取って駆け付けてみりゃ、そこは酷ぇ有り様だった……今にも崩れそうな家に二人の亡骸……そん中で生まれたばっかのハリーを抱きながら泣き叫んどるレックスがおった……人間があそこまで絶望して涙を流しとるのを俺は初めて見た……。
俺はレックスに近付いて「ここに居ちゃ危ねぇ。いつ崩れるか分からんぞ」って言って安全な場所まで連れてこうとしたんだ……そしたらレックスは、ハリーを頼むって震えた声と腕で俺にハリーを寄越すと『姿くらまし』で消えちまった。可哀想なちっちゃなハリー。額におっきな傷を受けて、両親は死んじまって……そんでシリウス・ブラックが現れた。
いつもの空飛ぶオートバイに乗って。あそこに何の用で来たんだか、俺には思いもつかんかった。奴がリリーとジェームズの秘密の守人だとは知らんかった。例のあの人の襲撃の知らせを聞きつけて何か出来ることはねぇかと駆け付けてきたんだろうと思った。奴め、真っ青になって震えとったわ。そんで、おれが何したと思うか?裏切り者を慰めたんだ!!」
「ハグリッド!お願いだから声を低くして!!」
酔いが回ったのか、今まで溜め込んでいたものを吐き出すようにハグリッドは長々と喋る。その声が段々と大きくなるのをマクゴナガル先生が咎めた。
「奴がジェームズとリリーが死んで取り乱してたんではねえんだと、俺に分かる筈があっか?奴が気にしてたんは『例のあの人』だったんだ!俺はあの後何度も後悔した。あん時レックスを少しの間でも引き留めておけば、奴を見た瞬間にレックスはブラックの奴を捕まえただろうさ!
ジェームズ達の兄貴分みてぇなもんだったレックスなら秘密の守人がブラックだったことくれぇ知ってただろう!あんな凄惨な事件が起こることもなかっただろうさ……。
ほんでもってヤツが言うには『ハグリッド、ハリーを俺に渡してくれ。俺が後見人だ、俺が育てる』……ヘン!俺にはダンブルドアからの言いつけがあったわ。そんで、ブラックに言ってやった。『ダメだ。ダンブルドアがハリーはおばさんとおじさんのところに行くんだって言いなさった』ってな!
ブラックはゴチャゴチャ言うとったが、結局諦めた。ハリーを届けるのに自分のオートバイを使えって、俺にそう言った。『俺にはもう必要がないだろう』…そう言ったな。もし俺がハリーを奴に渡してたらどうなってた?えっ?海のど真ん中辺りまで飛んだところで、ハリーをバイクから放り出したにちげぇねぇ。無二の親友の息子をだ!闇の陣営に与した魔法使いにとっちゃ誰だろうが、何だろうが、もう関係ねぇんだ……」
その後、五人の間で沈黙が流れたが、マダム・ロスメルタが切り出した。
「でも、逃げおおせなかったわね?魔法省が次の日に追い詰めたわ!」
「魔法省……というよりはブラックを見つけたのはブラックやジェームズ達の友人だったピーター・ペティグリューだった。捕まえたのはレックスだがね。……ともかくペティグリューはブラックを追った。きっと彼も信じたくはなかったろうね。友人夫妻を手にかけたのがその無二の親友だったのだから。しかし、彼が死の間際にレックスに連絡を入れてくれたお陰でブラックのこれ以上の凶行は阻止出来たとも言える。連絡を受けたレックスは即座に闇祓いと魔法警察部隊の中でも選りすぐりの人物を選出してブラックのいる場所に向かった。
私はその時魔法惨事部の次官でね。ブラック逮捕の第一陣として現場に向かったのだが……そこはまさに地獄絵図だった……深く抉れたクレーターにその底の方に亀裂の入った下水管。大勢のマグルの叫び声。周囲を覆うほどの血の池……その中心で仁王立ちしながら高笑いするブラック……そして、そしてペティグリューの血のついたローブの切れ端に僅かな……僅かな肉片。今でも時たま夢に見るほどだ。そんな中でレックスは他の闇祓いと共にブラックを囲んだ。彼が精鋭を選んでいたことはこういう場面も想定してのものだったのかと後になって気付かされた。
流石のブラックも彼らには敵わないと思ったんだろう。大人しく捕まって連行されていった……その時にレックスの顔が見れたのだが、彼は「何故だ、シリウス……何故……」と泣いていたよ……。
けれどレックスはシリウスを捕まえた後に真犯人が別にいるのではないかと考えたらしかった。状況的にあそこまでする必要が無いのではないかとね。しかし魔法省は取り合わなかった。既にブラックはアズカバンだしこれまで彼に起きた悲劇から彼が狂ったと考えるものまで出ていた。そう思ってしまうのも分かるほどに彼は沢山のものをあの戦争で失ってきた……」
「レックス・アーデル……えぇえぇ。よく覚えていますわ。お友達のエドガー・ボーンズやマーリン・マッキノンと一緒になってよく来てくれましたから……あんなに幸せそうな笑顔を浮かべた彼を見ていると私も何だか幸せな気分になれたものです……」
「レックス君とマーリンちゃんは私の寮生でエドガー君はハッフルパフでしたね……レックス君とマーリンちゃんは幼馴染みだというので仲の良さもひとしおでした……それが、それがあんなことに……」
フリットウィック先生がマクゴナガル先生から差し出されたハンカチで涙を拭う。
「それだけじゃねぇ。ブラックの野郎はマーリンとエドガーを連中に売りやがったんだ!!」
「……どういうことですの?」
「ボーンズ家とマッキノン家の事件についてはロスメルタさんも知っているでしょう?その事件が起きたのはブラックが二人の居場所を例のあの人に売ったからだと言われているんですよ」
「もしかして二人も忠誠の術を?」
「いや、そうではないが工夫しなければ見つからないように彼らは隠れていた。それにたとえ見つかったとしても逃げる術はいくらでもあった。それなのに襲撃を受けたのは彼らの家の構造をよく理解していなければ不可能だ」
もう完全に五人の周りはお通夜のようになっていた。いつの間にかバーの人達もその話に聞き耳を立てていた。
「事件が終わってしばらくした頃にレックスと会ったが酷い顔だったよ……目の下には濃い隈が出来ていたし目付きも鋭くなって頬も痩けていた。そして当時の闇祓い局長だったマッドアイ・ムーディーが見かねてレックスを強制的に休ませたそうだ。まだ息子も生まれたばかりだったから良いタイミングだったんだろう。二年後に復帰してきたときは、もうすっかり元気になっていて安心したものだ」
大臣がどこか思いを馳せるように呟く。父さんは長いこと大臣にはお世話になったと言っていたから、やはり昔を知るものとして思うところがあったのだろう。
「大臣、ブラックは狂ってるというのは本当ですの?」
「そう言いたいがね……例のあの人が消滅したことで、確かにしばらくは正気を失っていたと思う。ペティグリューやあれだけのマグルを殺したというのは、追い詰められて自暴自棄になった男の仕業だ──私とて彼があんなことをしたなど信じたくはないがね。しかしだ、先日私がアズカバンの見回りに行った時ブラックに会ったんだが、なにしろあそこの囚人は大方みんな暗い中に座り込んで、ブツブツ独り言を言っているし、正気じゃない……ところが、ブラックがあまりに正常なので私は本当に驚いた。私に対して全く筋の通った話し方をするものだから何だか意表を衝かれた気がした。
ブラックは単に退屈しているだけなように見えたね。私に、新聞を読み終わったならくれないかと言った。洒落てるじゃないか、クロスワードパズルが懐かしいからと言うんだよ。ああ、大いに驚いたとも。ディメンターがほとんどブラックに影響を与えていないことにね。しかもブラックはあそこでもっとも厳しく監視されている囚人の一人だったのでね。そう、吸魂鬼が昼も夜もブラックの独房のすぐ外にいたんだ」
「だけど、何のために脱獄したとお考えですの? まさか大臣、ブラックは『例のあの人』とまた組むつもりでは?」
「可能性は無くは無いだろう。しかしブラックを捕まえ、例のあの人が孤立無援ならそれはそれで良し……我々としても例のあの人が復活したとすれば対抗する手段は限られてくる。かつてのように強行手段を取らざるを得ないところにまでね」
その時、テーブルにジョッキを置く音が響いた。
「……さぁコーネリウス。ダンブルドアとお食事をしたいのならそろそろお暇しなければなりませんよ」
「おっとこれはいけない。ロスメルタさん、お金はここに置いておくよ」
マクゴナガル先生の言葉を皮切りに一人、二人とテーブルから人が離れて行く。カランカランと三本の箒の扉が開く音と共に、先生方は立ち去ったようだ。
ふぅ、と肩の力を抜く。楽しいパーティーに来たはずがとんでもない事を知ってしまったものだ。
「大丈夫かいリオン?」
「あんま無理するなよ?」
「俺は大丈夫さ。さぁ、とっとと戻ろう。考えたってしょうがないさ」
そして俺達も三本の箒を後にした。