【本編完結】ハリー・ポッターと何も知らない転生者 作:シャケナベイベー
楽しかったクリスマス休暇はあっという間に過ぎ去り、気付けば1月も中盤だ。
そう言えば、クリスマス休暇の時に一つ奇妙な事があった。11月に行われたグリフィンドールVSハッフルパフのクィディッチでハリーの箒『ニンバス2000』は暴れ柳に突っ込んで見るも無惨な姿となって帰ってきたのだが、そんなハリーの下に一本の箒が届いたのだと言う。
その名も『
そんな箒がハリーのベッドサイドに置かれ、あまつさえそれの差出人が不明だと言うのだから益々謎が深まるばかりだ。
そんな箒が届いたことにクィディッチに並々ならぬ情熱を注ぐハリーとロンは大盛り上がりだったのだが、ハーマイオニーはこれを『シリウス・ブラックがハリーを陥れるために用意した罠』ではないかと疑い、二人に無断でマクゴナガル先生に報告したのだそうだ。
当然そんなことを報告されれば安全確認のために没収されるわけで。ハリーとロンは大層お怒りになり、ハリー&ロンVSハーマイオニーという仲良し三人組による喧嘩が勃発してしまったのだ。
さて、何故スリザリンである俺がこんなにも彼らの事情について詳しいのかといえば朝食を食べていたときにハリーとロンがやって来て不機嫌そうに話したからだ。
俺からすればハーマイオニーの方が正しいと思うのだが、そんなことを言えば二人がさらにめんどくさ……怒りを爆発させるのは目に見えているので当たり障りの無い事を言ってとりあえずその場は帰らせた。
ハリーは自分宛に届いた箒(しかも最新式)がハーマイオニーのせいで使えなくなるかもしれないということで腹を立て、ロンに至ってはハーマイオニーの飼い猫のクルックシャンクスがペットのスキャバーズを執拗に付け狙うということもあっていつも以上にピリピリしている。
それに加えて当事者のハーマイオニーもなんだかいつも以上に忙しくしており、話しかけられそうもない状態ということもあってか今回の喧嘩は想像以上にややこしい事態となっていた。
◆ ◆ ◆
「……ハーマイオニー?」
とある日。ここ最近の授業が改善されていることから、改めて内容の確認とこれからについての話し合いをしようとハグリッドの小屋に向かっている途中で見知った少女を見つけたので声を掛ける。
そうして振り返った彼女の姿を見て絶句した。
目の下には濃い隈が出来ており、髪もボサボサで背負っている鞄が重いのか姿勢も前屈みになっていた。
声を掛けてきたのが俺だと気付いたハーマイオニーが「ハイ、リオン」と返事を返すが、疲れた雰囲気は隠せていなかった。
「どうしたの?私これからハグリッドの所に行こうと思っているのだけど」
「俺もちょっとハグリッドに用があってね。ご一緒しても?」
「私は───いえ、いいわ。一緒に行きましょう」
申し出に躊躇う素振りを見せたハーマイオニーだが、ややあって頷き並んで歩き始めた。
「荷物、代わりに持とうか?重いだろう」
「──大丈夫よ。これくらいで倒れる訳じゃないわ」
「そういうことじゃないんだけど……まぁ、あんまり無理するなよ。何かあったら頼ってくれて───」
と、そこまで言ったところで俺は言葉を切った。いや、切らざるを得なかったと言うべきだろうか。
なんとハーマイオニーがその場に踞ってワッと泣き出してしまったのだ。
あまりにも突然のことだったので唖然としたが、すぐさまハーマイオニーを宥める。
「ど、どうしたハーマイオニー!?何か気に障ったか!?」
本当に何が原因か分からない。とりあえず涙を流す彼女の背中を撫でながら落ち着かせようとしていると、しばらくして「違うの」と嗚咽混じりの声が聞こえた。
「わ、私──全然、上手く出来ない──私は、自分のことで、せ、精一杯なのに……あ、貴方は校長先生からの課題もこなして、ハグリッドの、ことだって……私は、こうすればいいって、か、考えることしか出来なかったのに──貴方は他の──人を頼っ、て──マクゴナガル先生に褒められて、それで──私は、マクゴナガル先生に期待を懸けてもらったのに──」
そこまで言い終えて、ハーマイオニーはまた泣き出した。
正直、ハーマイオニーがここまで追い詰められているとは気付かなかった。
とりあえず何とかしてハーマイオニーを落ち着ける場所に移動させようと声を掛ける。
「ハーマイオニー。ハグリッドの所に行こう?彼なら君の事を理解してくれるし、そこでなら落ち着いて話もできる。俺も力になるよ」
月並みの言葉だか、効果はあったようで小さく頷くのが見えた。
なんとかハーマイオニーを立ち上がらせ、ハンカチを渡すとハグリッドの小屋に向けて歩き出した。
「ハグリッド!ハグリッド、いるか!」
小屋に着いた俺は声を上げながら扉をノックする。しばらくしてハグリッドがその大きな体を扉を開けて晒した。
「おう、待っとったぞリオン……ハーマイオニー?お前、ハーマイオニーはどうしたんだ?」
「詳しい話は中で。ハグリッド、紅茶か何か用意できるか?」
「おう。ちょっと待っとれ。二人とも、中に入って寛いでろや」
手招きするハグリッドに従って小屋に入る。
未だ足取りが覚束ないハーマイオニーをソファに座らせ、彼女の鞄をソファの下に置いた。
しばらくしてハグリッドがボウルに並々注がれた紅茶を持ってやって来る。
「それで、何があったんだ?」
ハーマイオニーが紅茶を飲んで一息吐くのを見届けて、ハグリッドが口を開く。
俺もチラリとハーマイオニーを見て様子を窺う。
それから少しして、ポツリポツリとハーマイオニーが喋り始めた。
選択科目をすべて選び、計十二科目の授業を受けることになったハーマイオニーは特別措置としてマクゴナガル先生から
逆転時計を使って全ての授業を受けてきたハーマイオニーだったが日に日に辛くなっていき、ほとんど眠れずにいたらしい。しかしマクゴナガル先生から逆転時計を渡されて期待をかけてもらったこともあり、嫌だと投げ出すことも出来なかった。
さらに自分のペットであるクルックシャンクスが何故かロンのペットのスキャバーズを襲い、ロンとの関係がピリついたり、ハリーに届けられたファイアボルトをブラックからの罠ではないかと忠告していたが二人は取り合わず、彼らが危ない目に遭わないようにと秘密でマクゴナガル先生に報告したが二人は激怒して口も利かなくなったこと。
さらに誰かに相談しようにも疲れや忙しさ、何より自分のことで迷惑を掛けたくないというハーマイオニーの思いが重なってここまで溜め込んでしまった……と。
「──そ、それで、ハグリッドの授業のこともリオンが解決したでしょう……?だか、だから、私──私には何が出来るんだろうって。そう思っちゃう自分が嫌で──」
溜め込んでいたものを吐き出したからか、辛さを思い出したからなのか先程より大きな声で泣き出したハーマイオニー。
ハグリッドと二人して宥め、なんとか落ち着かせる。
「なぁ、ハーマイオニー。君は本当に優しいよな」
「……え?」
一通り泣いて落ち着いたのか、さっきのように涙を流す事も無くなったハーマイオニーに優しく語り掛ける。
ハーマイオニーは俺がこんなことを言い出したことに不思議そうな顔をしている。
「だって、先生の期待に応えよう、二人が危ないかもしれない──そんなことを思って行動に移せる人間ってそう多くないんだ。いざって時に一歩踏み出せるのはグリフィンドールならではだよな。
それに、ハーマイオニーがここまで憔悴してるのは相手の事を考えての結果だ。それを優しさって言わないでなんて言うんだ?」
俺の言葉にハーマイオニーは思いもしなかったことを言われたかのように目を丸くする。
そんな俺たちの様子を見守っていたハグリッドもハーマイオニーに声を掛けた。
「リオンの言う通りだぞハーマイオニー。お前さんが優しいってことはよーく分かっとる。
ハリーとロンは今はちぃとばかしクィディッチに夢中だが、それが終わっていつも通りに戻ったらお前さんが自分のためにしてくれたんだって気付くさ。
それにマクゴナガル先生だって、こんなに頑張ってるお前さんを期待外れだなんて言いなさる訳がねぇ」
ハグリッドの思いやり溢れる言葉に、ハーマイオニーは再び泣き出してしまった。
とはいえこれまでのような悲しいものではなく、安心したような、解放されたような涙だった。
その後、ハグリッドに連れられて俺とハーマイオニーは城に戻っていた。
来たときと違って晴れやかな顔を見せるハーマイオニーに心の中で安堵していた。このまま三人の仲も戻ってほしいが、そうはいかないのだろう。
「ねぇ、リオン──これからなんだけど、良かったら私の勉強に付き合ってくれないかしら?最近は授業を受けても頭に入らないことが多くて……」
「それくらいならいくらでも付き合うさ」
遠慮がちに言われた申し出を快く受け入れる。出来ることは少ないが、友達のためなら喜んで引き受けよう。
それから、週に一度のペースで俺とハーマイオニーはハグリッドの小屋で勉強会を開いた。
この三年でよく理解したが、やはりハーマイオニーは頭が良い。本人曰く組み分け帽子はレイブンクローに入れるか迷ったほどらしいがこうして教え合うと改めて彼女の天才さに舌を巻くことになる。
加えて、勉強会以外にもハグリッドの授業の振り返りや改善策を考えるなどしてかなり充実した時間を過ごせた。
予想外だったのが、どこからか勉強会を嗅ぎ付けたダフネも参加するようになったことだ。勉強会に参加すると表明してきたときの彼女は凄まじい迫力があり、思わず一歩下がってしまったほどだ。
そんな日々を過ごす内に二月に入り、マクゴナガル先生預かりとなっていたファイアボルトがハリーに返却された。
驚いたことに呪いなどは付与されていなかったらしく安全そのものだったらしい。
ということはこの箒を送ってきたのはシリウス・ブラックではないか、もしくは本当にただの善意でシリウス・ブラックが送ってきたということになる。
前者に関しては差出人が分からない状態にする意味が無いし、後者の場合はシリウス・ブラックが純粋にハリーにプレゼントしたことになる。
しかし、これで三人の仲もようやく元通り───とはならなかった。
その日の夜にクルックシャンクスがスキャバーズを食べてしまったからだ。いや、語弊があるかもしれない。正確にはスキャバーズの血痕とその場所に金色の猫の毛が落ちていたということしかない。
しかしロンはクルックシャンクスがスキャバーズを食べたと信じて疑わず、逆にハーマイオニーはクルックシャンクスは襲っていないと頑なであり、この二人の喧嘩はまだまだ続きそうだった。