【本編完結】ハリー・ポッターと何も知らない転生者   作:シャケナベイベー

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可能性と秘密

 前回のファイアボルトの一件以降、俺の中でシリウス・ブラックが冤罪なのではないかという思いが強くなっていった。

 少なくともファイアボルトに何かしらの呪いを仕掛けておけばハリーを攻撃することはできた筈。

 しかし実際はなんの変哲もないただのプレゼントだった。これは不可解だ。まるでハリーを害する気なんて元からありませんと告白しているようなものだ。

 不可解な点は他にもある。あのハロウィーンの日に『太った婦人』の肖像画を八つ裂きにしたことだ。そもそもブラックもホグワーツ生であったのならその日がハロウィーンであることくらい知っていた筈だし、これほどまでに捜索しても見つからないのならハリーが一人になるタイミングを見計らって襲撃することだって出来たのだ。

 アズカバンに閉じ込められていた影響で精神がおかしくなったと言えばそれまでだが、どうにも腑に落ちない。

 しかもつい最近、ネビルが落とした合言葉のメモを拾い寮に入ったにも関わらずハリーを襲わなかったそうだ。

 いよいよシリウス・ブラックの行動理由が分からなくなってきた。グリフィンドール寮に侵入し、いつでもハリーを殺せる機会がありながらそれをしなかった。

 ダンブルドアがいたから殺さなかった───この線は薄いだろう。そもそもそこで怖気づくならホグワーツに侵入などしない。

 もしくは───ハリーではなく、別の何かを狙っていたのか。

 俺としてはこれが最たる理由だと考えている。これまでの彼の情報を見ても辻褄が合うのだ。

 だが、これは単なる推測に過ぎない。この考え自体が的外れでシリウス・ブラックは本当に殺人鬼であり、ハリーを襲わないのも何らかの要因が絡んだということだって十分に考えられる。

 

 

 

 

 そこで俺はある人物を頼ることにした。学生時代、ブラックと友人だったルーピン先生だ。

 かつてのブラックを知るルーピン先生から何か聞き出せないかと考え、早速防衛術の授業が終わったところで声を掛けた。

 

「ルーピン先生」

「おやリオン。どうしたんだい?何か忘れ物かな?」

「あの、このあと空いてる時間ありますか? 少しお話ししたいことがあるんですけど……」

「……そうだな、夕方なら大丈夫だろう。研究室に居るからいつでも来てくれて構わない」

「ありがとうございます。それじゃ、また後で」

 

 快く承諾してくれたルーピン先生に頭を下げ、教室を後にした。

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 そして夕方。この日の授業も全て終了し、皆思い思いに過ごすなかで俺はルーピン先生の研究室にやって来た。

 扉をノックすると「入ってくれ」と声が聞こえたので扉を開けて中に入る。

 

「やぁリオン。待っていたよ」

「お待たせしてすみません。ルーピン先生」

 

 先生に促されて椅子に腰掛ける。

 

「レパートリーが無くてね……紅茶で良いかな?」

「大丈夫です」

 

 立ち上がり紅茶を淹れに行くルーピン先生を見送り、机の上に無造作に置かれた瓶を見る。

 

「お待たせ……おっと。出しっぱなしにしていたね」

 

 やがて、二人分の紅茶を持ってやって来たルーピン先生が机の上に置かれた瓶を見て苦笑しながら近くの棚に仕舞った。

 

「……君はあの瓶の中身が何なのか知っているのかな?」

「脱狼薬ですね。それをスネイプ教授ではなく先生が持っているということは……」

 

 そこから先を口にすることはなかった。ルーピン先生の心情を考えた結果なのかもしれないしわざわざ口にせずとも分かるだろうという考えなのかもしれない。

 

「いつ頃気付いたんだい?」

「先生が俺の前で脱狼薬を飲んだときですかね?その時は先生がそうかもしれないという疑いでしかありませんでした。

 ですがそれ以外にも満月の時に体調が悪いと言っては休んでいたことや、スネイプ教授がご丁寧に人狼の授業をしてきたことも理由ですね」

「……君は、怖がらないんだね。人狼である私を」

 

 先生が自嘲するように呟く。その目には俺の態度に対する疑問と人狼という魔法界にとって差別される対象である自分に対する諦めの色が浮かんでいた。

 

「私がホグワーツの教師になると決まったとき、最も正体を知られてはならないのはスリザリンだろうと思っていた」

「それは貴方がグリフィンドールだったからですか?」

「それも理由かもしれない。私がまだ学生だった頃のグリフィンドールとスリザリンの対立は凄まじいものだった。今もそうなのではないかと思っていたよ」

 

 先生はそこで言葉を区切ると「でも……」と続ける。

 

「でも、君は私の正体を知っても怖がっていないね。人狼のことを知らないわけでは無いだろうに」

「確かに。人狼という生き物の事を俺は知っています。だけど、だからと言ってその全てが貴方に当てはまる物だとも思いません。この数ヶ月貴方の授業を受けてきました。貴方に沢山のことを教えて貰いました。

 貴方は本当に優しい人です。俺達一人一人のことを見てくれる、それがたとえスリザリンであっても。さっき貴方が言ったようにグリフィンドールとスリザリンの対立はもっと酷かった。グリフィンドールの貴方からすればスリザリンに良い思い出なんてないでしょう。なのにスリザリンを見てくれる、気にかけてくれる。

 それだけかもしれなくても俺はリーマス・ルーピン先生のことを信じます。人狼であったとしてもそれは変わらない。そう思うのは変でしょうか?」

 

 しばらくの間、沈黙が続く。先生は顎に手を当てて何か考えるような仕草をしたあと、改めて俺を見た。

 

「……スリザリンらしくないスリザリン生というのは聞いていたけど、まさにその通りだね。私が知るスリザリン生とは何もかもが違う」

「皆が皆、俺の事をそう言うんですよねぇ」

「気分を悪くしたのならすまない」

「大丈夫ですよ。慣れてますし」

 

 先生が申し訳なさそうに頭を下げるのを制する。

 

「だけど、君が言ってくれた言葉に救われたのも事実だ。本当にありがとう」

 

 先生は深く頭を下げ、俺に感謝の言葉を告げてくる。ありきたりな言葉だったかもしれないが少しでも救いになったのなら良かった。

 

「……ルーピン先生。実はもう一つお聞きしたいことが」

「なんだい?」

「シリウス・ブラックのことについてです」

 

 その名前を出した瞬間、先生の顔が強張る。

 

「先生とシリウス・ブラック、ハリーの父親のジェームズ・ポッターにピーター・ペティグリューは学生時代の友人だとお聞きしました。だからご迷惑でなければ先生の知るシリウス・ブラックについて教えてほしいと思いまして」

「構わないが……なぜそんなことを?」

 

 怪訝そうな顔をするルーピン先生に一瞬言うべきか否か迷ったものの意を決して口を開いた。

 

「───俺はシリウス・ブラックが冤罪ではないかと考えています」

 

 それを聞いた先生の目が大きく見開かれる。しばらくして、やはり怪訝そうな顔をして先生が問い掛ける。

 

「なぜそう思うんだい?」

「父さんから無理矢理聞き出したんです。あの日、ブラックが捕まった時に色々不可解な点があったと」

「不可解な点?」

「はい。まず大勢のマグルを手にかけた事。親友を騙し続け、裏切りの素振りを一切見せなかった冷静で冷徹な人間がそんなことをするだろうか、と」

 

 人差し指を立て、父さんから聞いた情報を話す。これには『確かに』と思った。

 ジェームズ・ポッター氏から信頼され、秘密の守人に選ばれて尚彼らを欺き続けた男がそんな短絡的な行動に出るとはどうしても思えなかった。

 しかしルーピン先生はふるふると首を横に振り、「いや、それはあり得る話だ」と話し始めた。

 

「当時、シリウスがピーターを手にかけた時には大勢のマグルもその場に居た。彼ら一人一人に忘却呪文を掛けていては時間が掛かり過ぎるし、その間に闇祓いに追い付かれてしまう可能性があった。だから彼らを手にかける理由としては十分なものがある」

「確かにそうかもしれません。けど彼は闇祓いが到着したときその血溜まりの中で高笑いしていたそうです。その間に逃げることだって十分可能であったのにも関わらず、です」

「それは……気が触れたからじゃないのかい?いくらシリウスとはいえ大勢のマグルを殺したことに精神がおかしくなった可能性も……」

「直前に親友を裏切り、あまつさえもう一人の親友さえ手にかけようとしていた人間が?俺は当時の事を知りませんし人殺しのことなんて分かる筈もありませんが、少なくともそんな人間が今さら大勢のマグルを手にかけたところで気が触れるとは思いません」

 

 俺の考えに先生は苦しそうな顔をしたものの、すぐにいつも通りの顔に戻る。

 

「それ以外に何かあるかい?」

「勿論。次にピーター・ペティグリューの行動です」

「ピーターの?」

「……というよりはシリウス・ブラックの行動について──でしょうか。ルーピン先生、シリウス・ブラックが秘密の守人だと言うことは誰から聞いたんです?」

「シリウスとジェームズからだ。シリウスなら秘密を喋るくらいなら死を選ぶだろうから守人に適任だとそう言ってね」

「本人達から?ダンブルドア先生からでなく?」

 

 気付いていたことだが、それでも声をあげる。

 

「そうだけど……何かおかしいことがあるのかい?」

「秘密の守人はその中に秘密を隠すんですよね?だったら誰にも知られないようにするんじゃないですか?父さんが言ってましたけど戦争時は誰が敵になるかも分からないほどだったそうですね」

「その通りだ。実際に例のあの人に敵対していた者からも裏切り者が出ることだって珍しくなかった───待て。リオン、まさか君は」

「誰が敵かも分からない状況下で秘密の守人が誰かを喋ることは大きなリスクになると思います。たとえそれが学生時代からの友人であっても。ましてや誰もが納得する人選をすれば真っ先に狙われるのは確実です」

「守人はシリウスではないと、そう言いたいのかい?」

 

 ルーピン先生の問いに頷く。シリウス・ブラックなら死を選ぶ───これは当時の誰もが思っていたことで、だからこそ彼が裏切ったと聞かされたときに真っ先に犯人として挙がったのだと父さんが言っていた。

 

 

 

 なら、その逆はどうだろうか。

 

「シリウス・ブラックが秘密の守人である可能性を相手だって真っ先に考え付く筈です」

「───あぁ。確かに死喰い人たちはシリウスから秘密を聞き出そうと何度も襲撃していた」

「なら尚更不思議なんです。ポッター夫妻の居場所がバレるのはとても不味いことのはず。なのに守人となったシリウス・ブラックは死喰い人と戦っていた。秘密を預かったのなら戦わずに隠れ潜むべきだと思うんです」

「……まさか」

 

 先生は俺の言わんとすることに気付いたのか信じられないような目で俺を見る。

 

「──シリウス・ブラックは囮で、本当の秘密の守人は他にいる。そういう風に考えることだって出来ませんか?」

「………確かにそういう風に考えたのならシリウスは冤罪だろう。だけど彼の杖からは明らかにマグルに向けて爆発呪文が放たれた痕跡があった。直前呪文でもそれは証明されている」

「ならピーター・ペティグリューはどうです?ペティグリューは殺される直前にマグルにも聞こえるような声でブラックを糾弾したと聞きました。彼の友人だった貴方から見てペティグリューの行動は理解できるものですか?」

「………いや、アイツはどちらかと言えば逃げの一手を選ぶ男だ。曲がりなりにも立ち向かおうなんて思うはずが───」

 

 そこまで言ったところで先生は何かを考えるような素振りを見せる。

 

「先生?何か思い当たることが?」

「───いや、いや。アイツの行動を考えてみたけど確かにピーターらしくない行動だったと言える。だけどアイツもジェームズにはよく懐いていたから殺されたことで立ち向かおうと思えたのかもしれない」

 

 そう言った先生は立ち上がって「そろそろ時間じゃないかい?」と俺に退室を促す。

 あまりにもあからさまな態度に思わず訝しんだものの、本当に時間だったので俺も立ち上がる。

 

「ありがとうリオン。君の意見を聞くことが出来て良かった」

「俺も色々話すことが出来て嬉しかったです」

 

 扉の前まで見送りに来たルーピン先生と言葉を交わす。

 

「それじゃあ、また明日」

「はい。また明日。お休みなさいルーピン先生」

 

 その言葉を最後に俺は研究室を出た。

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