【本編完結】ハリー・ポッターと何も知らない転生者 作:シャケナベイベー
「ポッター夫妻の襲撃事件の犯人。あれは貴方じゃありませんよね?」
リオンが口にした言葉にシリウスは目の前の少年をまじまじと見つめる。
この十二年、誰一人としてあの襲撃事件を誰もがシリウスが犯人として疑っていなかった。だがこの少年は自分が犯人ではないと言う。シリウスはそんなリオンの目に懐かしい
「お、おいリオン。何言ってるんだよ?」
「なぜそう思ったか聞いてもいいか?」
リオンを見て困惑するロンと今までにないほど穏やかな声で先を促すシリウス。リオンはそんなシリウスを見て頷くと足を怪我して立てずにいるロンの隣に座って話し始めた。
「十二年前のハロウィーン。貴方は友人だったピーター・ペティグリューを追い掛けて殺害した。その時点でおかしいんですよ。だって仮にポッター夫妻を闇の帝王に売ったのが貴方だとしてなぜペティグリュー氏を殺害する必要があったんですか?ペティグリュー氏がポッター夫妻殺害の現場に居たなんて情報は無かったはずですが」
「それってそんなに気になることかい?皆ブラックは狂ってたって言うからその時居なかった人を追い掛けることだってするんじゃないか?」
「この前、三本の箒にいたハグリッド達が話してただろ?『ブラックは青い顔をしてポッター家に来てオートバイを貸し出した』って。直前までそんな事を考えられるほど正常だった人間が狂って人を殺すなんて考えられないんだ」
そこまで話したリオンはチラリとシリウスを見る。その強い光を宿した目に今何が映っているのか。それを知る術をリオンは持っていなかった。
「それに──「リオン!」……ん?」
さらに続けようとしたリオンに声が掛かる。声のした扉の方を見てみれば、そこからハリーとハーマイオニー。さらにその後ろから二人が呼んだであろうフランクとアリスがやって来た。
「ロン……!良かった、無事だったのね」
「犬はどこ?」
「ハリー……ハーマイオニー、来ちゃダメだ。ここにはアイツが……アイツは『
「そうか……大人を呼んで来てしまったか。面倒だが仕方無い」
ハーマイオニーがホッと息を吐き、ロンが喘ぐように注意を促すと彼らから見えない位置にいたシリウスが立ち上がる。
「エクスペリアームス!!」
枯れ木のように細い腕に握られた杖から武装解除呪文が放たれ、ハリーとハーマイオニーの杖がシリウスの下に転がる。フランクとアリスはそれぞれ盾の呪文を展開して防ぐとハリーとハーマイオニーを庇うように前に立つ。
「そこまでだシリウス。これ以上は許さない」
「大人しくして。そうすれば決して悪いようにはしないわ」
目の前に立った二人を見て、シリウスはまるで亡霊を見るかのように「──信じられない」と呟く。
「信じられない───これは夢か?生きていたのか。フランク、アリス?」
「お陰様でね」
喜色満面。それとしか言いようがないほどに嬉しそうな笑みを浮かべたシリウスをフランクは冷静に見つめる。
「彼らを呼んできてしまったかハリー……出来れば君達だけで来てほしかったがそうも言っていられなくなったな」
「ハリーを殺したらただじゃおかないぞ!!」
残念そうに呟いたシリウスの目がロンに向かう。
「座っていろ。足の怪我が余計酷くなるぞ」
「聞こえなかったのか?僕達全員を殺さなきゃいけなくなるんだぞ!」
「ロン、落ち着け」
興奮して立ち上がろうとするロンをリオンがなんとか抑える。そしてロンの言葉を聞いたシリウスは歪んだ笑みを浮かべた。
「いや……今夜はただ一人を殺す」
その言葉にフランクとアリスが鋭い視線を向け、我慢の限界と言うようにハリーが叫ぶ。
「何故なんだ? この前は、そんなことを気にしなかった筈だろう? ペティグリューを
「ハリー、落ち着け」
「コイツが僕の父さんと母さんを殺したんだ!!」
そう言ってハリーはシリウスに飛び掛かり、馬乗りになって顔面や至るところを殴る。
「ハリー、やめろ!」
リオンは未だ殴り続けるハリーを羽交い締めにしてシリウスから引き剥がす。ハリーとシリウスはお互いに肩で息をしていたがハリーは今にもリオンの拘束から逃れてシリウスに飛び掛かろうとしていた。
「ハリー、私を殺すのか?」
「あぁそうさ!父さんと母さんを殺したお前を僕が……!」
「よせっ……ハリー……!違う、違うんだ、この人は──」
その時、閉ざされていたはずの扉が勢い良く開き、人影が飛び出してくる。リオンがそちらに目を向けるとそこには額に汗を浮かべたリーマスが立っていた。
飛び出したリーマスは青い顔をして辺りを見回すと杖を向けて「エクスペリアームス!!」と唱えた。そしてフランクとアリスの手から杖が弾かれリーマスの手元に収まる。
「リーマス!?」
「突然すまないフランク、アリス……だけど──だけどシリウスを殺すのは少し待ってくれないだろうか…?」
「いいけど……突然どうしたの?」
突然のリーマスの行動に驚きつつ未だシリウスを警戒する二人にリーマスが告げる。
「ピーター・ペティグリューだ……アイツが、生きている」
その言葉に、シリウス以外の全員がリーマスに視線を向けた。
「ロン、スキャバーズを渡してくれないか?」
「え……な、なんで」
「リーマス、まさか……!!」
「そのまさか、さ」
突如スキャバーズを渡せと言ってきたリーマスにハリー達三人が困惑しているとフランクは何かに気付いたのか声を上げ、アリスもまさかと口元を覆い、目を見張る。
その中で唯一、リオンだけが転がっていた自分の杖を回収し後ろ手に忍ばせていた。
そしてリーマスは座り込むシリウスに手を貸し、そのまま抱き締めた。シリウスは一瞬体を強張らせたものの、おずおずとリーマスの背中に腕を回した。
「ムーニー……いやリーマス。君は……」
「その話は後でしよう」
「……どういうことだよ。先生とブラックが、まるで、友達みたいに……」
リーマスに何事かを聞こうとしたシリウスをリーマスが遮る。そんな二人を見てロンが声を上げ、抱擁を解いたリーマスが顔を向ける。
「……あぁ。友達だ、私達は」
「何てことなの!」
告げられたその真実にハーマイオニーが悲鳴じみた声を張り上げる。
「やっぱりそうだったのね──あぁ……先生が、先生がホグワーツにブラックを手引きしたんだわ!」
「ハーマイオニー、落ち着きなさい──」
「私、誰にも言わなかったのに!先生が、先生が狼人間だってこと!!」
ハーマイオニーがそう告げた途端、ロンの目に恐怖の色が浮かぶ。それを見たリーマスは一瞬悲しげに目を伏せたものの、次の瞬間にはいつものように優しげな声でハーマイオニーに『いつ自分が狼人間だと気付いたのか』を尋ねた。
「スネイプ先生のレポートを書いた時から……後、ボガートが先生の前で月に変身するのを見たわ……それに、月の満ち欠けと先生の体調不良が一致したことも」
「一人でその結論に辿り着くとは、しかもこんなに短時間で……だけど聞いてほしい。私はシリウスを手引きしていない」
ハーマイオニーの結論にリーマスは称賛の声を掛ける。それと同時に自身はシリウスのホグワーツ侵入の手引きを手伝っていないことも告白した。
そこからリーマスは過去の事を話し始めた。
ジェームズ・ポッター、ピーター・ペティグリュー、そしてリーマスとシリウスの四人で『忍びの地図』を作り上げたこと。世間の例に漏れず、自身もシリウスを犯人と信じて疑っていなかったがリオンの考えを聞いて疑問を持ち、今日の夕方『忍びの地図』に
長年飼っているペットのネズミの正体が、未登録の『動物もどき』であり、シリウス・ブラックに殺された筈のピーター・ペティグリューであると言われたロンは、信じられないと言わんばかりの顔をした。
「リオンが?」
「あぁ。この前の休暇の時に父さんから色々聞いてね。やっぱりシリウス・ブラックを犯人とするには不自然な点が多かった」
「レックスは真犯人が別にいるのではと考えていたようだったからね」
「レックスが……」
ハリーが驚愕の声を発し、リオンが肯定する。そしてリーマスの補足にシリウスは嬉しそうに微笑んだ。
そんな風に話しつつ、リーマスは再び話し始める。
自身が狼人間になったことを知った三人の友人達が『動物もどき』となって自分の側にいてくれたこと。そしてシリウスの悪戯でスネイプもリーマスが狼人間だと知ってしまったこと。
「そうか……だからスネイプは貴方が嫌いなんだ。スネイプはその悪ふざけに貴方も関わったと思っているんですね?」
「その通り」
底冷えするような声が背後から聞こえ、ハリーは慌てて後ろを振り返る。
そこには暗く冷たい笑みを浮かべたセブルス・スネイプが立っていた。
「スネイプ……!」
「ごきげんよう諸君。このような遅くまで何をしているのかと思えば……なるほど。リーマス・ルーピンとシリウス・ブラックはグルでしたか。再び闇の帝王の下へ馳せ参じて力を得ようとでも考えましたかな?」
「待ってくれセブルス。違うんだ、これは──」
そしてスネイプとシリウスの煽り合いとそれを宥める他の大人という構図になった。やがてシリウスを校長の下に送り届けるということでスネイプが嘲笑を浮かべる。
しかしそこにハリー達三人組が立ちはだかって一斉に武装解除呪文を唱えてスネイプを吹き飛ばす。吹き飛ばされたスネイプは壁をずり落ちて意識を失った。
「力業すぎない……?」
「仕方無いだろ?これくらいしかなかったんだから」
少し引いた様子のリオンにハリーが告げる。リーマスは子供達に相手させてしまった事実に申し訳なさそうにしていた。それを見ていたリオンは気になっていたことをシリウスに尋ねる。
「そういえばシリウスさん。どうしてスキャバーズがペティグリュー氏だと思ったんですか?ネズミなんてごまんといるでしょう?」
「私も気になっていたところだ。何故だいシリウス」
二人の言葉にシリウスは懐に仕舞っていた新聞紙を放り投げる。表紙にはロンと他のウィーズリー一家の写真が載せられていた。
「ファッジだ。アイツがくれたんだ……去年にアズカバンの視察に来たときにな。ピーターがそこにいた。私にはすぐ分かった。こいつが変身するのを何回見たと思う? それに写真の説明──この子がホグワーツに戻ると書いてあった。ハリーのいるホグワーツへと……」
それを聞いたリーマスが「何たることだ……」と呻き、フランクとアリスは悔しげに唇を噛んだ。
「コイツの前足だ」
「それがどうしたんだい?」
「指が一本ない」
それは、他のネズミと分ける点で決定打とも言えるものだった。
「あいつを追い詰めた時、あいつは道行く人全員に聞こえるように叫んだ。私がジェームズとリリーを裏切ったんだと。それから、私が奴に呪いを掛けるより先に、奴は武装解除した私の杖で道路を吹き飛ばし、自分の周り五、六メートル以内にいた人間を皆殺しにした……そして素早く、ネズミがたくさんいる下水道に逃げ込んだ……レックスには申し訳ないと思った。あそこで話していれば何かが変わっていたかもしれないと」
驚くべき真実だった。つまり、彼は本当に冤罪で十二年もの間アズカバンに収容されていたことになる。
そしてリーマスが再びロンにスキャバーズを渡すよう促すと、ロンは躊躇いながら肩にいたスキャバーズをリーマスに預ける。
「二人でやるかムーニー?」
「あぁ。……いち──に──さん!」
スキャバーズに向けられた二人の杖から閃光が走り、スキャバーズを飲み込む。
光が収まり、全員が目を向けるとそこには一人の人間がいた。
まばらな髪はくしゃくしゃでスキャバーズと同じく頭頂部は禿げていた。そんな人間をハリー達は呆然と見つめる。
そんな中、リーマスが男に歩み寄り、口を開いた。
「久しぶりだねピーター──いや、ワームテール」
次話でアズカバンの囚人編は終わる……予定です