【本編完結】ハリー・ポッターと何も知らない転生者 作:シャケナベイベー
そしていよいよ炎のゴブレッド編がスタートします。ここから混迷を極めていく魔法界。リオンはどうするのか……
少年三人
「リオーン、準備出来てるー?」
「おーう」
新学期に入る前の長期休暇。リオンは自室で鞄に荷物を纏めていた。
やがて荷物を纏め終えるとリオンは部屋を出てリビングに降りていく。
「あら、準備万端ね」
「そりゃ勿論」
やって来たリオンに微笑みかけるエレインにリオンも頷く。
「ふわぁ~あ……あぁリオン。もう出るのか?」
欠伸をしながらリビングに来たレックスがリオンを見て言う。
「あぁ。煙突飛行ですぐに行けるといっても早い方が良いと思ってさ」
「それもそうか」
「レックス、ネクタイが曲がってるわ」
「ん、あぁ悪い」
リオンの考えに頷いたレックスにエレインが近付いてネクタイを直す。
「というか、父さん仕事なの?」
「あぁ。会場回りの警備をな。ワールドカップは他国の魔法使いや要人も多く訪れるからその警護も兼ねてるんだよ」
闇祓いの制服に身を包んだレックスにリオンが尋ねるとそのような答えが返ってくる。
「俺個人としてはワールドカップを気兼ねなく観戦したい気持ちもあるけどファッジ大臣や内閣府のジェラルド・カリアンさんまで観戦に来るってんだからいつもより気を張らないとね」
ゲンナリするレックスに苦笑しつつ、カリアンというラストネームが出てきたことに疑問符を浮かべる。
「父さん、ジェラルド・カリアンさんって?」
「ん?あぁ、そういえばリオンは知らなかったかな?ジェラルド・カリアン。お前の友人のマーク・カリアンの祖父で魔法省内閣府王室警護を任されている人だ。カリアン家については知っているだろう?」
レックスの問いに頷く。カリアン家は今のイギリス魔法界の大部分を取り仕切る謂わば生命線と言える。
『中立不可侵』が示す通り、カリアン家はどちらにも肩入れすることはなくあくまで公平に物事を判断する。そんな彼らの使命はイギリス魔法界の平穏を守ること。故にそれを脅かそうとするものがあれば介入してその元凶を排除する。そんな存在故に敵も多く、カリアン家の人間は魔法や学問だけでなく武術も会得するのだとマークに聞かされていた。
「とにかく、そんな重要人物達が観戦するとなれば必然的に俺達闇祓いも駆り出されるって訳さ」
「父さんも大変だねぇ」
疲れたように語るレックスだがその顔は本気で嫌がってはいない。やはり彼も歴戦の闇祓いということだろう。
「さて、そろそろ行くよ。マークを待たせちゃ悪いし」
「楽しんでらっしゃい。ワールドカップを生で観戦できる機会なんて早々ないんだから」
「分かってるよ」
両親に手を振ったリオンはフルーパウダーを暖炉に投げ、「カリアン家!」と叫ぶ。次の瞬間、暖炉にリオンが足を踏み入れると緑の炎がその体を包み一瞬でその姿を消した。
◆ ◆ ◆
「おはようございます」
煙突飛行で移動したリオンは暖炉から出るとにこやかに挨拶した。
「おぉリオン。よく来たね、おはよう。そして久しぶりだね」
「お久しぶりですバルツさん」
声に気付いたバルツがリオンを歓迎し、二人とも握手を交わす。そしてもう一人、バルツの後ろに居た女性がリオンに近寄った。
「君がリオン君ね?初めまして、私はサラ。マークの母親よ」
「初めまして。リオン・アーデルです。息子さんとは仲良くさせてもらってます」
マークの母親、サラとも握手を交わす。そして階段を駆け降りる音と共にマークがリビングにやって来た。
「あれ、おはようリオン。もう来てたの?」
「おはようマーク。ま、早い方が良いかと思ってね」
やって来たマークと肩を組み、お互いに挨拶を交わして離れた。
「そういえばランスはまだ来てないのか?」
「これから迎えに行くところさ。折角だからリオンも来るかい?」
リオンの疑問に答えたのは車のキーを指に引っ掻けてくるくると回しているバルツだった。
「車で行くんですね?」
「あぁ。ランス君のご両親はマグルだろう?だから驚かさないように車で迎えに行った方が良いと思ってね」
荷物を置いたら来なさいと言って、バルツは玄関から出ていく。それを見送ったリオンはマークの案内で部屋へと向かった。
「ここなら使えるよ」
「おぉ広っ……あれ、ベッドが三つ?」
「あぁ。父さんと母さんが折角ならって部屋に魔法を使って広くしたんだよ」
与えられた部屋の広さに目を丸くするリオンだがマークの説明で納得する。
「それじゃ荷物を置いて向かおうか。自分が使うベッドの上に置いてくれていいよ」
「りょーかい」
マークの言う通り、三つあるベッドの一つに荷物を置いたリオンは家を出てバルツの乗る車に乗り込んだ。
「それじゃ二人とも。シートベルトはしたね?」
「はい」
「勿論」
「よし、出発するぞ」
イングランドの少し都会から離れた住宅街にパーシヴァル家はある。そこにある一軒家の前に車が停車する。
「さて、着いたよ」
「意外と近いんだな」
「まぁ車で二十分はかかるけどね」
そんな話をしつつ、三人は車から降りて玄関をノックする。
しばらくして玄関が開き、一人の女性が顔を出した。
「はい、どちら様でしょう?」
「あぁすみません。今回ランス・パーシヴァル君を預かることになりましたバルツ・カリアンと申します」
「まぁ!ようこそいらっしゃいました。ランス!お友達が来たわよ!」
バルツが目的を述べると女性は笑みを見せる。そして家の奥に声を掛けると「おーう」という声と共にランスが荷物を持って歩いてきた。
「お!よっすリオン、マーク!」
「おはようランス」
「おはよう」
リオンとマークに気付いたランスが片手を上げると二人も片手を上げて挨拶する。
「貴方はまったく……しっかり挨拶なさい!」
「ぬぐっ……!おはよう二人とも」
ランスの様子に母親がダメ出しすると渋々ながらランスが挨拶し直す。リオンはそれを見てなんとなく二人の力関係を垣間見た気がした。
「そういえば、お父様はいらっしゃらないのですか?」
「あぁ。主人はもう仕事に出たんです。ただ、息子をお願いしますと伝えてくれと」
「分かりました。ご子息は責任を持ってお預かりします」
バルツとランスの母親がそんな会話をし、バルツに促されて三人は車に乗り込む。
「ランス!お友達に迷惑掛けないようにね!」
「わーってるって!」
「どうだか……それじゃ、息子をお願いします」
「はは……えぇ。任されました」
母からの再三の忠告に煩わしそうにするランスだが、そんな様子をリオンとマークはニヤニヤしながら見守り、ため息を吐いた母親が頭を下げるとバルツも頷いて車を走らせた。
「……ったく。一々言わなくたって分かってるっての……」
「それだけ心配されてる証拠だよ。良いことじゃないか」
ランスを乗せた車がカリアン家に到着し、一度部屋に集まった三人はそれぞれのベッドに腰掛けて談笑していた。
「……まぁ親御さんからしてみればまったく知らない世界のイベントを見に行くんだ。色々不安になるのも分かるさ」
「そりゃあ俺だって分かってるけどよ……もう14だぜ?ガキじゃねぇんだよガキじゃ」
「親からしてみればいつまで経っても子供なんじゃないかな?」
リオンとマークの諭すような言葉にランスはバツの悪そうな顔をしつつもどこか納得いかないようだった。
「だからってわざわざ他人の前で言うかぁ?」
「“親の心子知らず”、“子の心親知らず”……ってね」
不満そうに溢したランスにリオンがそんな言葉を投げる。その言葉の意味が分からないマークとランスが首を傾げるとリオンは苦笑しながらも口を開いた。
「日本にあることわざだよ。親は成長していく子供の気持ちを理解しきれずにお節介を焼いてしまうし、子供はそんな親の深い優しさに気付かずに煩わしさを覚える……まぁ、要はすれ違いだよな。お互いがお互いの気持ちに気付かないで言い合いになるってのは良くあることだ。だからたまには本心を打ち明けてみたら良いんじゃないか?難しくても、まずは一歩踏み出すことが大事だ」
「……なるほど」
長々としたリオンの説明を終えて、納得したようにマークが呟く。そしてランスといえば……
「だーっ!わーったわーった!ちゃんと本心さらけ出すようにするって!」
「……まぁ、あまり無理はしないようにな」
投げやり気味ではあるものの肯定したランスに無理をしないよう助言すると、ランスが「おっ!」と何かを思い付いたように声を上げた。
「そういやマーク」
「なに?」
「俺、この前お前がハッフルパフの女子と仲良さそうに話してるの見掛けたんだけど……」
「えっ」
マークはランスの予想もしなかった発言に石のように固まる。それを聞いたリオンも獲物を見つけたかのように目を輝かせた。
「知ってる知ってる。スーザン・ボーンズだろ?」
「な、なんでリオンまで知ってるんだよ!?」
「いや、彼女からお前のこと色々聞かれたし……良かったなマーク。我が世の春だぞ」
そう語るリオンの顔は面白くてたまらないとばかりに満面の笑みが浮かんでおり、同様にランスもニヤニヤしていた。
マークは二人から逃げようと後退るがその度に二人が一歩ずつ近付き、ついには壁際に追い詰められてしまった。
「……あ、あの、リオン?君ひょっとして怒ってる?」
「はっはっは。これが怒ってる顔に見えるのか我が友よ」
「うん、満面の笑顔だね。でも目が笑ってないって分かるよ!わ、悪かった!君とダフネの仲を冷やかしたのは謝るから!」
「ふふふ……苦しめ……苦しめ……!」
それからサラが呼びに来るまで、二人によるマークへの追及が止むことはなかった。