【本編完結】ハリー・ポッターと何も知らない転生者   作:シャケナベイベー

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闇の印

「おや。レックスではないか」

 

 クィディッチワールドカップ決勝戦の開催が間近に迫り、人々がスタジアムに集まりだした頃。複数の闇祓いに指示を飛ばしていたレックスの横にジェラルドが姿を見せた。

 

「ジェラルドさん。護衛の闇祓いはどうしました?」

「あぁ、彼には少し待ってもらっているよ。久しぶりに君と話がしたくてね」

「離れたんじゃ護衛の意味が無いじゃないですか」

 

 ジェラルドの行動に頭を痛めつつもレックスはさりげなくジェラルドの横に立っていつでも襲撃に備えられるようにしていた。

 

「……あの子は良く似ているな」

 

 ぽつりとジェラルドが呟く。そんな抽象的な言葉でもレックスは何を指しているのか分かったのか静かに頷く。

 

「父さんはペンダントに自分の記憶を移した……いや、正確には魂の一部でしょうか。偶発的とはいえ、それによりあのペンダントは分霊箱と言ってもいい代物となった──まぁ分霊箱のように復活するとかはありませんが」

「エドの奴も賭けに出たものだ。それほどまでに悔いているのだろうよ」

 

 ジェラルドの脳裏に学生時代よく共に行動していた二人組が思い浮かぶ。隣に居ながら見抜けなかったとため息混じりに呟いた友を思い出す。

 

『俺はきっと地獄に落ちるだろうよ。アイツの隣に居ながらアイツの行動を止められなかったんだからな』

 

 友はそう言って深く項垂れていた。あれは仕方が無い。お前ばかりが悪いわけではないと励ましたが効果は無かった。

 

「───もし」

 

 レックスがどこか遠くを見ながら低い声で呟く。その声を聞いたジェラルドはその目を見て『危ういな』と思った。

 

「もし奴が復活してあの子に手を出そうというのなら俺は奴を殺す。死ぬことになったとしても」

 

 ───もう、失うのは御免だ。

 

 ジェラルドは重く、けれど静かに溜め息を溢す。親子揃って責任感が強い。加えて自分の命を投げ捨てる覚悟さえ併せ持っている。せめてリオンだけはそうならぬようにと祈るしかなかった。

 

 

 

 

 

 アイルランドとブルガリアによるクィディッチ決勝戦が終わってしばらく。観戦しに来た人達の熱は収まることがなく未だお祭り騒ぎだった。

 いや、それだけならばよかったのかもしれないが今は別の意味で人々は声を上げていた。

 

「何があったって?」

 

 テントから出たリオンはマークの言葉に目を丸くする。バルツは三人にテントの外に出るよう言った後、魔法省の高官と合流するために去っていった。

 

「だから出たんだよ死喰い人が!」

「……マジか」

 

 人混みに押されるようにして走る三人の背後では煙が立ち昇り、さらには逃げ惑う人の悲鳴もあわさって阿鼻叫喚となっていた。

 

「偽物とかじゃねぇの!?」

「チラッと見えたけどマジっぽい!けどなんだって死喰い人が出てくるんだよ!」

 

 走りながらリオンは思わずと言ったように吐き捨てる。そも、ここには闇祓いやら魔法省の高官やらがいるというのにそんな場所に姿を見せたことが気にかかった。

 兎に角、安全確保の為に走り続けようとして……

 

「おかあさーん!おねぇちゃーん!」

 

 その声が耳に届いた瞬間、リオンは足を止める。後ろを走っていたランスが背中にぶつかったのか「いてっ!」と呻く声がした。

 

「おいリオン、急に止まるなよ!」

「あ、悪い」

「何かあったの?」

「いや、声がしたような……」

 

 立ち止まったリオンは辺りを見回し、声の出所を探す。ややあって人混みの向こうに一人の女の子が座り込んでいるのが見えた。

 

「いた!」

 

 少女を発見したリオンが人混みを掻き分けながら少女の下に向かう。

 

「相変わらずのお人好しぶりだよな……」

「お人好しというか他人思いというか……まぁこうやって追い掛けてる僕らも僕らだけどね」

「違いねぇや」

 

 リオンの行動に呆れればいいのか称賛すればいいのかどっちつかずな思考を巡らせながらマークとランスもリオンに続いて少女の所に走る。

 

「君、大丈夫か?」

 

 リオンがしゃがんで目線を合わせながら少女に尋ねる。少女は少し間を置いてから英語ではない外国語で何かを喋った。

 

「なんて言ってるんだ?」

「多分フランス語だと思う……『俺の言葉が分かる?』」

 

 ランスの疑問に答え、リオンがフランス語で話し掛けると少女は目を見開いて『フランス語が話せるの?』と聞いた。

 

「少しだけどね……君は家族と来たの?」

「うん。お姉ちゃんやお母さんと来たの……でも、はぐれちゃって……」

 

 話している内に少女の目に涙の膜が張る。それを見たリオンは優しい笑みを浮かべ、少女の頭を撫でる。

 

「大丈夫。俺達が君のお姉ちゃんとお母さんを探すのを手伝うよ」

「いいの……?」

「勿論───て訳で二人とも。この子どうも家族とはぐれたみたいでさ。俺はこの子を家族の下に送り届けてくるから先に逃げててくれ」

 

 少女と話していたリオンが後ろにいたマークとランスに告げる。

 

「いや、どうもその必要は無いみたいだよ」

 

 しかしマークはその必要が無いと言った。リオンが疑問に思っていると、遠くの方から「ガブリエル!ガブリエル!」と誰かを探す人の声がした。

 

「お姉ちゃん!」

 

 そしてその声を聞いた少女が笑みを浮かべる。どうやら彼女の姉が近くにいるようだ。

 それから少しして一人の女性が姿を現した。その女性のあまりの美しさに三人は固まるもののリオンとマークは頭を振って気を保ち、フラフラと女性に近付こうとするランスの脇腹を左右それぞれから殴って正気に戻す。

 

「殴んなくても良くねぇ?」

「フラフラと行こうとしたお前が悪い」

「紳士的に行こう紳士的に」

 

 三人がそんな会話を繰り広げる中で、二人の少女の内、妹の方がやって来た姉に飛び付く。

 姉は突如飛び込んできた妹に目を丸くするもどこにも怪我が無いと知って胸を撫で下ろした。

 

「良かった……ガブリエル!全く、あれだけ離れては駄目だと何度も……!」

「……ごめんなさい」

「……はぁ~。でも、貴女が無事で良かった。さぁ急いで離れましょう」

 

 やがて姉妹は三人に頭を下げて人混みの中に消えていった。

 

「で、俺らも早いとこ逃げようぜ」

「賛成」

「異議なし」

 

 ランスの提案に頷いた二人も急いでその場を離れようと動き出そうとして───

 

「リオン、マーク、ランス!」

 

 三人を呼び止める声に足を止めた。振り返り、声のした方を見れば鬱蒼と茂った草の向こうにハリー、ロン、ハーマイオニーのグリフィンドール三人組がリオン達を手招きしていた。

 思わぬ人物達の登場に三人とも目を丸くするがこれ幸いと彼らと合流する。

 

「三人ともまだ逃げてなかったのか?」

「貴方達こそ。あんなところで何してたの?」

「このお人好しが困ってる人を助けてたのさ。そんで改めて逃げようとしたところでお前らの声がしたって訳よ」

 

 ハーマイオニーの疑問にランスが答える。『お人好し』という言葉でその場にいる全員から視線を向けられたリオンは居心地悪そうに体を縮こませた。

 

「……困ってる人がいたら話を聞いてあげたいって思うだろ?」

「そりゃ気持ちは分かるけどさ。こんな時までそんなことするの君くらいじゃないか?」

 

 リオンは気まずげに目をそらす。リオンとて自覚はしているので反論することは無かった。

 そんなことでしばらくその場に留まっていた四人だが、ふとハリーが顔を上げて「誰かいるの?」と森の奥に顔を向けた。

 

「どうしたハリー?」

「奥の方から音がして誰かがいるんじゃないかって」

「風で揺れたんじゃない?」

 

 「そんなはず──」と、ハリーの言葉は続かなかった。ハリーの見ていた方向から男の声と甲高い声がしたのと同時。空に向かって緑の閃光が伸び、一つの形となって現れた。

 髑髏に蛇。見るものに恐怖しか与えないような恐ろしい呪文。そこかしこで悲鳴が響く。

 

「あれ、は──」

「……闇の印だ」

 

 ハリーの呻くような声にリオンが返す。当のリオンもなぜだがあの闇の印を見て胸がざわついた。と、隣にいたハリーが膝を突く。

 どうしたと覗き込めば彼は額にある稲妻型の傷を押さえていた。痛むのだろう。

 ロンとハーマイオニーがハリーに寄るのを横目にリオンは森の奥の方に視線を移す。

 

「……闇の印を出した奴がいるな」

「さっきの死喰い人の誰か?」

「分からん。だけどあそこにいた奴らとは別の奴の可能性もある」

 

 その言葉を聞いたマークとランスが杖を抜きハリー達を庇うようにして立つ。

 リオンも杖を握り、意を決して進もうと一歩足を進めたところで───

 

「伏せろ!!」

麻痺せよ(ステューピファイ)!!」

 

 リオン、マーク、ランスがハリー達の頭を押さえて地面に伏せた瞬間、失神呪文が彼らの頭でぶつかり合い火花を散らした。

 顔を起こし、ざっと辺りを見回せば杖を構えた闇祓い達がリオン達を囲んでいた。

 六人全員が立ち上がると、構えていた闇祓いを押し退けて一人の男が般若もかくやの形相でリオン達を睨みながら前へ進み出た。

 

「お前達はここで──犯行現場で何をしていた!」

 

 「犯行現場だって?」とロンのすっ頓狂な声が響くのと同時、ハーマイオニーがリオンに「この人、バーテミウス・クラウチさん」と耳打ちする。

 とりあえず目の前の人物が誰か知らなかったリオンは教えてくれたハーマイオニーに目礼を返し、再度クラウチに向き直る。

 

「答えられないのか?ならば──」

「待ってくれ!うちの子達だ!止めてくれ!」

 

 何事かを続けようとしたクラウチを遮り、一人の男性がリオン達とクラウチの間に立つ。

 

「パパ!僕ら滅茶苦茶疑われてるよ!」

 

 ロンの哀れみを誘う声が妙に様になっている気がしないでもないと考えながら、リオンは割り込んできた人物──アーサーに視線を向けた。

 

「杖を向けているのは私だが?アーサー」

「あ……これはこれはクラウチさん。しかし──いえ、しかしですね。こんな子供達に闇の印が作れると本気でお考えですか?彼らはまだ十四の子供なんですよ?」

「その通りだバーティ。今の時代、子供がそんな馬鹿な真似をする筈がないと思わんかね?」

 

 アーサーの言葉に顔をしかめたクラウチを追撃するようにして新たな声が響く。ジェラルドだ。側にはレックスとバルツ、エイモスがおり、レックスは杖を構えたままの闇祓いに杖を降ろせとジェスチャーする。

 

「……ジェラルド」

「こんな子供達に闇の印が作れるならばかつての時代で我々はもっと後手に回っていた可能性もあるのだぞ?」

「バーテミウス。貴方の悪を許さない姿勢には大いに同意しますがその姿勢が罪無き者にまで及んだのをお忘れなく」

 

 ジェラルドに被せるようにレックスもクラウチに苦言を呈する。

 

「マーク!お前たちはまったく……逃げろと言っただろう!」

「すみませんバルツさん……俺のせいで」

 

 一方でバルツのお叱りを受けたリオン達は肩を落とす。逃げろと言われていたのにも関わらず森に留まっていたのは自分達なのでバルツの怒りも理解出来た。

 

「クラウチさん!あの……僕たち、怪しい人を見ました!」

 

 と、ハリーがおずおずとそうクラウチに告げるとクラウチは血相を変えてハリーに詰め寄った。

 

「どんな姿だった?」

「姿というより、声ですけど──男の人の声と甲高い声が」

 

 ハーマイオニーがいつもより若干拙いながらも伝えた情報にクラウチは「しもべ──?」と呟いて固まったが、すぐに持ち直して「場所は?」と問う。ハリーが茂みを指差すとクラウチは靴音を響かせながら茂みの奥に進んでいった。

 誰もが固唾を呑んで見守る中、数分してクラウチは額に一筋の汗を垂らしながらも脇に何かを抱えて戻ってくるとその抱えた物を乱雑に地面に放る。

 酷い、とハーマイオニーが呟くのもお構いなしに全員の目線がそれに吸い寄せられた。

 

「クラウチ家の屋敷しもべだな──ウィンキーだったか」

 

 そんなジェラルドの声を掻き消すようにウィンキーのすすり泣きが夜の森に響き渡った。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「ホントに災難だった……」

 

 波乱のクィディッチ決勝戦からしばらく。新学期を明日に控えたリオンは朝食を摂りながら久しぶりの母の味に舌鼓を打っていた。

 

「大変だったわね……それにしても闇の印だなんて」

「しかもあの屋敷しもべ妖精はハリーの杖を持っていた。何も知らない人が見たらハリーに脅されてやったようにしか見えないだろうな」

 

 スクランブルエッグを口に運びながらレックスは不満そうに言う。事実、あの後クラウチはハリーの杖を自身の屋敷しもべが持っていることに憤慨し、ウィンキーだけでなくハリーにまで詰め寄った。

 既に闇の印を彼らが浮かばせたのではないと分かっていながら詰め寄ったのだ。レックスの怒りは正当なものだ。

 

「闇の印を誰が打ち上げたかは分かっていないの?」

「誰かが顔を見たのなら話は別だったけど今回は声だけだ。それだけで判別できる人間はあの場には居なかった。手詰まりもいいとこだ……やれやれ。三大魔法学校対抗試合も近いと言うのに……」

 

 レックスは次から次へと押し寄せる問題に頭を抱える。一介の闇祓いといえど問題は山積みなのだ。

 

「ボーバトンとダームストラングだっけ?ホグワーツに来るの」

「そうだな。ボーバトンは綺麗所が多いと聞くし、ダームストラングは……まぁ要注意だ」

「なんでさ?」

「あそこの校長が元死喰い人なんだ」

「はぁ?」

 

 レックスからもたらされた情報にリオンは気の抜けるような声を漏らす。ダームストラングといえば闇の魔術に関心が高いことで有名だが、まさか現校長がその闇の魔術をバンバン扱っていた人物だとは思いもしなかった。

 

「イゴール・カルカロフだ……気を付けろよ」

「……分かった」

「よし……さて、そうだな。リオン。お前に渡すものがある」

 

 気を取り直してレックスが杖を振るうとリオンの目の前に一つの細長い箱が出現する。中を開けていいか確認すると頷いたのでリオンは慎重に箱を開ける。

 そこに入っていたのは───

 

「杖?」

 

 一本の杖だった。箱から取り出し、手に持ってみる───違和感は無い。むしろしっくり来る。

 

「二本目の杖だ。持っておくと何かと便利だぞ」

「ありがたいけど……わざわざオリバンダーの店まで行ったのか?合わなかったらどうする気だったんだよ?」

「それはないな。その杖はお前に良く合うだろう。林檎にとあるホグワーツの生徒が飼っていたと噂される不死鳥から提供された尾羽根。長さは二十七センチ───」

 

 

 

 

 

「お前の祖父──エドワードの杖だ」

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