【本編完結】ハリー・ポッターと何も知らない転生者   作:シャケナベイベー

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宿命

『私にこんなに優しくする必要なんてないのよ』

 

 目の前のスリザリンの制服に身を包み、プラチナブロンドの髪を肩の下辺りまで伸ばした少女が悲しげに目を伏せる。見れば少女の体の至るところに青アザや何かで焼かれたかのような痛々しい火傷痕があった。

 

『私の親のことを知らない貴方じゃないでしょ? 私なんかに構っていたら貴方まで酷いことされるわ』

『その親のことを知っても構い続けてる俺に言う台詞か?』

 

 笑ってそう返せば彼女は小さく笑ってまた目を伏せた。

 

『貴方には感謝してるわエド……でも、やっぱり貴方に頼ってばかりでもいられないの……』

『……俺は……』

 

 どう言えばいいか分からない。困っている女の子一人にさえ手を差しのべられないなど初代様が聞いたら呆れるだろう。

 

『……そろそろ行きましょう。授業に遅れるわ』

 

 少女が立ち上がって去っていくのを慌てて追い掛ける。これ以上彼女が傷付かないで良い方法は無いのかと考えながら。

 

 

 少女の名はユスティア・グリンデルバルド。いずれエドワード・アーデルの妻となる女性である。

 

 

 

 

 

 

 

「───ん」

 

 ガタンゴトンと揺れる汽車の音で目を覚ます。両手を開いたり閉じたりしながら、「はて、自分は何故ここにいるのか」と考えたが、行き着いた結論は簡単なものだった。

 

「偶発的に表に出てきたのか。俺の杖を貰ったことに加えて俺の過去を夢という形で見たのも関係してるのかな?」

 

 何にせよ、自分が表に出てくるのは想定外だ。幸いにも対面に座る孫の友人二人はぐっすりと眠っているようで彼が身動きしても起きる気配は無かった。

 これ幸いと彼はコンパートメントを抜け出して列車のデッキへと向かう。途中で走り回る下級生を見掛けてなんとなく懐かしい気持ちになった。

 デッキに出て外を見てみると酷い雨が降り、数メートル先も見えないような悪天候だった。

 そんな中で彼は懐から一枚の羊皮紙を取り出して広げると杖を突き付ける。やがて羊皮紙に望み通りの文章が綴られたことを確認した彼はその手紙を『とある場所』に出現させるように魔法をかけると手紙は一瞬にして消えた。

 

 

『時は来た。一年以内に全てを話すように』

 

 

 そうしてしばらく土砂降りの雨を眺めていた彼だったが、デッキの扉が開いて「リオン?」と呼ぶ声に振り返る。

 

「君は───」

 

 白金の長髪にアイスブルーの瞳を持ったスリザリン生───リオンの恋人のダフネの登場に目を丸くする。

 

「こんなところでどうしたの?扉は開けていないようだけど風邪を引くわ」

 

 困ったように笑うダフネが一歩彼に近付く。しかし、その足がそれ以上前に進むことは無かった。

 

「……どうした?」

「……貴方は、誰……?」

 

 そんなダフネに心配そうな顔で彼が声をかけるとダフネは先程より固い声音で尋ねる。

 

「何言ってるんだよ、俺は」

「いいえ。リオンはそんな風に影のある笑顔をしなかったし私にそんな他人行儀な態度では無かったわ」

「……他人行儀……?」

 

 え、あれで?と彼は内心驚愕する。かなり友好的にしたつもりだったのだが目の前の少女にはそれが別物に見えたらしい。

 

「もう一度聞くわ。貴方は誰?彼に何をしたの?」

 

 先程と違って杖を突き付け、目に凄まじい激情を宿しながらもあくまで冷静にダフネは問い掛ける。

 

「グリーングラス家の令嬢にここまで愛されているなんてリオンはまったく果報者だな……」

「茶化さないで早く答えなさい」

 

 軽く息を吐いて感慨深げに呟く目の前の誰かにダフネは先程より強く杖を突き付ける。

 

「茶化してる訳じゃなかったんだが……すまない、あまり多くを語ることは出来ないがリオンを害そうとしている訳じゃないことは信じてほしい」

「その言葉だけで信用すると?」

「ごもっとも。だけど俺には今のところそれを願う他にない」

 

 両手を上げて危険がないことをアピールする。もしこれでも効果が無かったらいよいよ交渉材料が尽きる。

 

「………本当に害する気はないのね?」

「マーリンに誓おう」

「……分かったわ。貴方を信じる。けど、もしも私の最愛に害を及ぼすような真似をしたらただでは済まさないわ」

 

 深く溜め息を吐いたダフネが杖を下ろす。何とか聞き入れてくれたことに安堵するが、突如として視界が歪みダフネの方に倒れてしまった。

 

「うぐっ……」

「きゃっ!ちょ、ちょっと!」

「すまない……どうやら、限界のようだ……」

 

 倒れてきた体を何とか受け止めたダフネは、その顔に脂汗が滲んでいるのが分かった。

 

「心配、しなくても……次に目が覚めるときは……リオンに戻っている……それと、どうかこのことは……あの子には、秘密、に……──」

 

 そう言ってリオンの体は糸の切れた人形のようにぐったりとする。ダフネは何とかリオンの体を支え、座り込んだ自身の膝に彼の頭を乗せる。所謂膝枕だ。

 

「……ん……」

 

 それから間もなくリオンの瞼がピクピクと動き、ゆっくりと持ち上がる。

 

「お寝坊さんね。私の騎士様?」

「……ダフネ……?なんで……」

 

 未だに回りきっていない頭でリオンは何故ダフネが自分を膝枕しているのかと疑問に思う。それに、コンパートメントに居たはずの自分が何故デッキにいるのかも分からなかった。

 

「俺はなんだってここに……?コンパートメントに居たはずなんだけど……」

「寝惚けてここまで来たんじゃないかしら。私がここに来たときは貴方が寝ていたものだから焦ったわ」

 

 最愛の彼の頬に手を添えて優しく笑うダフネは先程の彼との約束を守り、リオンに嘘をつく。

 それを聞いたリオンは「そう、なのか……」と特に気にすることもなく納得し、体を起こした。

 

「あー…なんだか悪いな。膝枕までしてもらっちゃって。起こしてくれても良かったんだぞ?」

「あまりにも気持ち良さそうに寝ていたから起こすのも憚られたわ」

「そうか」

 

 リオンが立ち上がるのに合わせてダフネも立ち上がる。首を回し、筋肉をほぐしたリオンはダフネに向き直る。

 

「じゃ、コンパートメントに戻ろう。そろそろホグワーツに着くだろうし」

「そうね」

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「ウィーズリー・ウィザード・ウィーズ?」

 

 ホグワーツに到着し、新しく新学期の始まりが告げられた次の日。

 廊下でフレッドとジョージのウィーズリー双子に出くわしたリオンはそんなよく分からない単語を鸚鵡返しした。

 

「そう!僕ら卒業したら悪戯専門店を開こうと思っててさ」

「ゾンコに勝るとも劣らない至高の品々を取り揃えて売りに出すんだ」

「ヒュー!良いじゃん。もし出店したら是非とも顔を出すよ」

 

 楽しげに語る双子を見てリオンも面白いことを考えるなぁと感心する。

 

「店を構えるのはいいけどその為の軍資金はどうするんだ?」

「そこは今のところ考え中さ。リオンさえ良ければ投資してくれても良いんだぜ?」

「う~ん……まぁ考えておくよ。といっても今は流石に無理だろうけどな」

「まぁ、俺たちも年下から借りようなんて考えちゃいないさ。けど、開店した暁には是非ともウィーズリー・ウィザード・ウィーズを宜しくな!」

 

 そう言い残すと、双子は肩を組んで大声で校歌を熱唱しながら去っていった。

 

「あんなに張り切るなんて……余程軍資金を調達したいんだなぁ……」

「随分と騒がしい声が聞こえたが何かあったか?」

「ん?……あぁ、ムーディ先生」

 

 双子の張り切りぶりに苦笑したリオンは後ろから声をかけられて振り向く。

 そこには今年の『闇の魔術に対する防衛術』の教師となったマッドアイ・ムーディことアラスター・ムーディが双子の去っていった方を見つめながら尋ねた。

 

「今走り去っていったのはウィーズリー家の双子だな?」

「はい。悪戯専門店を開くんだって張り切ってましたよ」

「フン……呑気なものだ。いずれ来る脅威に対抗するにはそんなことをしておる暇など無いと言うのに」

「まだ学生です。そういうことを夢見たって許されるんじゃないですか?」

「学生だからこそだ。リオン・アーデル。レックスの倅よ。ダンブルドアから聞いたがお前は闇祓いを目指しているそうだな?」

 

 鼻の欠けた傷だらけの顔にギョロギョロとあちこちを見回す魔法の目でリオンを穴が開くほどに見つめながらマッドアイは問う。

 

「えっと……はい」

「ならば覚えておけ。もしも……もしもヴォルデモート卿が生きていたとしたら、このホグワーツも戦場になるかもしれん。そうなったとき、誰もが抗うための術を知っておくというのは決して悪いことではない。油断大敵!」

「それは……そうかもしれませんが……」

 

 マッドアイの言葉を聞いて尚、リオンはどこか納得いかなそうな顔をする。それを見たマッドアイは鼻を鳴らし、魔法の目でリオンを射抜かんばかりに見つめる。

 

「何も相手を殺せと言っているのではない。だが最低限身を守る手段は必要だ。大切なものを守りたいのなら力を付けるのだな」

「力を……」

「アーデル。お前はスリザリン生だな?ならば狡猾に立ち回り、守るための手段を模索することだ。時として手段を選ばぬ狡猾さは何よりも強い武器になる」

 

 あまりに真剣な目で言ってくるものだからリオンは特に言うことなく頷いた。それを見たマッドアイは満足そうに頷き、「わしの初授業を楽しみにしておくことだ」とだけ言い残して立ち去っていった。

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