【本編完結】ハリー・ポッターと何も知らない転生者   作:シャケナベイベー

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「変人変人と聞かされてたけど……なるほど、こりゃ変人だ」

 

 来年度のOWL(ふくろう)試験に備えて各々の授業が厳しくなっていく中で、『闇の魔術に対する防衛術』の授業はとんでもない内容になっていた。

 

「あの……先生……」

「なんだ?」

「服従の呪文は……使うだけで終身刑に値すると……」

 

 おずおずと口にしたハーマイオニーをマッドアイはいつもの仏頂面で見つめる。

 リオンには、その顔が「終身刑がなんだ」と物語っているように感じた。

 

「確かに使えば一発でアズカバンにぶち込まれることになるだろう。だが、対処法を知り、打ち破ることも必要だ。知らぬ間に友を手に掛けたいかグレンジャー?」

 

 マッドアイがそう言えば項垂れながらハーマイオニーは下がった。

 とはいえハーマイオニーの言い分も仕方ないだろう。何故ならこの教師、実際に『服従の呪文』を掛けるので抵抗してみせろと宣ったのだ。

 『服従の呪文』を打ち破ることは容易ではない。基本的にどんな魔法使いであっても掛けられてしまえば術者の思うがままだ。

 

「さて、一人ずつ呪文をかけるとしよう。列になって並べ」

 

 その言葉に従って一列に並んだ生徒達にマッドアイは問答無用で『服従の呪文』を掛けていく。

 例えばネビルは綺麗にバク宙を決め、ロンは蜘蛛を撫で、ランスとマークはオペラを合唱した。そんな中でハリーが『服従の呪文』を破るとマッドアイは飛び上がらんばかりに喜んだ。

 他の生徒たちに質問攻めにあっているハリーは、本人もどうやって『服従の呪文』を破ったか分からないようだった。

 

「流石は生き残った男の子だ。次、アーデル。前に出ろ」

「先生、これって辞退出来ます?」

「駄目だ。油断大敵!」

「強制かぁ……」

 

 次に指名されたリオンは、気が進まないながらもマッドアイの前に立つ。そしてマッドアイが杖を構え、『服従せよ(インペリオ)』と唱えるとリオンの思考がまるで靄が掛かったかのようにぼやけていく。

 朧気な意識の中で、リオンの頭の中に行動を強制する暗示が流し込まれる。

 

 

 頭を下げろ。いいか、頭を下げるんだ。

 

 

「うっ……ぐ……」

「思考を止めるなアーデル。強い意思の力ならば『服従の呪文』を破れるだろう」

 

 

 聞こえなかったか。頭を下げろ!早く!

 

 

 徐々に暗示の力が強くなっていく。しかしリオンも何とか『服従の呪文』を打ち破ろうと必死に頭を回す。

 

「神経を研ぎ澄ませろ!思い通りにさせないという考えを強く持て!」

 

 マッドアイの声が遠くなっていく。そしてゆっくりとリオンの頭が下がっていき───

 

「一々……うる、せぇ!!」

 

 握った杖を押し立て、呪文で腕を切り裂く。生徒間で短い悲鳴が聞こえた。

 

「よくやった!!」

 

 マッドアイが喜色満面の顔でリオンを褒める。血の滴る腕を押さえながら、リオンは皆の下に戻っていく。

 

「アーデル、すぐさま医務室に行け。誰かアーデルに付き添え」

「あ、じゃあ俺行きますよ」

 

 マッドアイの提案に名乗り出たのは『服従の呪文』の実践を終えて暇そうにしていたザビニだった。

 ザビニはリオンに肩を貸すと一緒に教室を出ていった。

 

「で、どうだったよ『服従の呪文』は」

「最悪だ。出来ることなら今後掛かりたくないね」

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 十月三十日。終業のベルが鳴り響くと、生徒たちは慌てて寮に戻ってホグワーツでの正装に着替えると玄関ホールに集まっていく。

 

「で、そろそろ来るわけか」

 

 それぞれの寮監の指示に従って並んだ生徒たちはソワソワと辺りを見回す。リオンもその一人で、少し落ち着きがなさそうに辺りを見回していた。

 

「わしの目に狂いがなければボーバトンの代表団が近付いてくるぞ!」

 

 ダンブルドアの声で生徒たちのざわめきが強くなると同時にどこからやって来るのかとあらゆる場所に目を向け始めた。

 

「おい見ろ!空だ!」

 

 誰かの興奮したような声に従って空を見上げると、天馬が水色の巨大な馬車を引いて降りてくるのが見えた。

 生徒の前に降り立った馬車からとても背の高い女性が現れる。『マダム・マクシーム』。ボーバトンの校長だ。そしてマクシームに続いてボーバトンの正装に身を包んだ男女学生が降り立つ。

 誰も彼もがとびきりの美男美女で、顔だけでもやっていけるのではと思わせるほどだった。

 

 続いてダームストラングの一団を乗せた船が湖からやって来る。

 降り立った学生は皆、厳つい顔立ちをしており、そんな学生の先頭を銀色の特別な服に身を包んだ男が歩く。

 

「あれが、イゴール・カルカロフか……」

 

 男───現・ダームストラングの校長にして元死喰い人のイゴール・カルカロフを見たリオンがその顔を注視する。

 魔法省の裁判で仲間を売り、司法取引によって罪に問われなかった卑怯者───レックスからそう聞いていたリオンは『警戒するに越したことはないな』と視線を外した。

 そしてカルカロフが最後の一人を招き寄せた時、生徒間でざわめきが広がった。

 

「ビクトール・クラムだ!」

 

 クィディッチワールドカップでブルガリアを優勝に導いたシーカーのトップヒーローの登場に沸き立つ。

 ずんずんと進んでいくボーバトンとダームストラングに続き、ホグワーツの生徒も玄関ホールから大広間へと場所を移した。

 

 生徒が席に着き、ダンブルドアの短く簡潔な口上が終わると、テーブルに食事が並べられる。

 今回は海の外からのお客人も居るからか、見たことの無いような海外料理が並べられているテーブルに物珍しさを感じる。

 そしてリオンのいるスリザリンのテーブルにダームストラング、レイブンクローのテーブルにボーバトン(レイブンクローの男子は小さく歓声を上げ、他の寮の男子から凄まじい目で見られていた)の生徒たちがそれぞれ座ると、一斉に料理へと手を伸ばした。

 

「やぁ、初めまして」

「え?あぁ、初めまし───ブフッ!?」

 

 ふと、目の前の席からブルガリア語が聞こえ、食事の手を止めたリオンが挨拶を返そうとその相手の顔を見た途端、まだ飲み込みきれていなかったトーストが喉に詰まり、勢い良くむせてしまう。

 

「ゴホッ……!ゴホッ……!いや、失礼……」

「大丈夫さ。僕の方こそ食事の途中で話しかけてすまない」

「いや、いや。ブルガリアのヒーローに話しかけて貰えるなんて光栄さビクトール・クラム」

 

 話しかけてきた人物、ダームストラングのビクトール・クラムはその厳つい顔をほんの少し、本当に少しだけ柔らかくしながらリオンと会話する。

 

「クィディッチワールドカップ、見ていたよ。優勝おめでとう」

「あぁ、ありがとう───ところでだが、君はブルガリア語を話せるんだね?」

「母から叩き込まれたんだよ。ブルガリアとフランスからお客様が来るのだから最低限話せるようにしておきなさいってね」

 

 リオンはあの時の母の顔を思い出して軽く震えた。「別に無理して覚える必要無くない?」と言えば無言の圧が飛んできて、反論することさえ許されなかった。

 プルウェット、ブラックというイギリス魔法界屈指の血を持つ母からすれば妥協は許されないのだろう。

 

 その後、一言二言会話を交わしたリオンとクラムはクラムがドラコ達の方に去っていったことで終了となった。

 そして間髪入れずに、今度はリオンの隣に一人の生徒が腰掛ける。その制服がボーバトンのものだと気付いたリオンは、「ボーバトンの生徒がわざわざこっちに来るなんて」と考えながらも挨拶をしようと相手の顔を見る。

 

「初めまして。この旅が良き思い出になりますよう───あれ?」

 

 そこまで言って、リオンはそのボーバトンの生徒にどこか既視感を覚えた。長く美しい銀色の髪に深い青色の目。そして美の女神もびっくりの整った顔立ち。さてどこで見たんだったか───とまで考えて、それがクィディッチワールドカップで迷子になっていた妹を探していたフランス人の少女だと思い出した。

 

「あぁ、ワールドカップの時に妹さんを探していた!」

「まぁ!覚えていてくれて光栄だわ!あの時はお礼を言えなくて……妹を、ガブリエルを助けてくれてありがとう!」

 

 リオンの両手を握りながらフランス語で感謝を伝える少女。戸惑いながらもされるがままになっているリオンに周りの男子は殺意の籠った目で睨む。

 

「あー……っと、そうだ。お互い、名前知らないよな?俺はリオン、リオン・アーデルだ」

「フラー・デラクールよ」

「よろしくデラクール」

「フラーでいいわ、リオン」

 

 お互いに自己紹介しつつ、周りの目線に気を配る。否、気を配っているのはリオンだけでフラーに至っては気にもしていなかった。

 

「……やっぱり。貴方、私と普通に会話できるのね?」

「え?あぁ、会話出来るけど……それがどうしたんだ?」

 

 フラーの言っていることが分からず、首をかしげていると「実はね……」とフラーは自身の身の上について話し出した。

 

 曰く、祖母がヴィーラであり自分と妹もその性質を受け継いでいること。それ故に大抵の男は自分に見惚れて会話も儘ならないのだが、リオンはヴィーラの力が効かず普通に会話できていた。

 

「なんでかなって疑問に思っていたのだけど……リオン。貴方、好きな人がいるのではなくて?」

「好きな人というか恋人がいるけどそれがどうしたんだ?」

 

 微笑ましいものを見るような目で見てくるフラーに戸惑いつつも恋人がいることを明かしたリオンに、フラーは「やっぱり!」と納得が行ったようだ。

 

「強い思いを抱いている相手がいるならヴィーラの魅了は効かないの。だから貴方やあの時一緒にいた金髪の彼はそうなんじゃないかってガブリエルと話してたのよ」

「なるほど……けど、なんだか恥ずかしいな」

「あらどうして?恋人がいるなら堂々とするものよ」

「む。いや、まぁそうかもなんだが……如何せん俺は臆病者でね。無いと思いたいけど俺より好い人を見つけるんじゃないかって思っちゃうんだよ」

 

 羞恥で顔を赤くしながらリオンはそう語る。それはダフネと付き合って一年の間で抱えていた不安であり恐怖だった。

 

「そんなことは無いと思うわ」

「……なんでそう言い切れるんだ?」

 

 フラーが目線で後ろを見るよう促すので振り返る。その視線の先には会話する二人を不安そうな表情で見つめるダフネの姿があった。

 ダフネは見られたことに気付いたのか顔を赤くして明後日の方向を向いた。

 

「ね?あんな顔をしてくれるなら貴方は相当想われているわ」

「……そうみたいだな」

「ふふふ、それに」

 

 突如、フラーがその顔をリオンの真横に近付ける。少しでも動けば触れてしまいそうなほど近くに接近してきたことにリオンが目を白黒させ、周りの男子に至ってはガタッと、椅子から立ち上がる者まで出てくる始末。

 

「私の趣味では無いけど……こうやってからかうのも楽しいわね」

「い、いきなり何を……」

 

 耳元で囁くフラーを引き離そうとしたリオンは、悪寒を感じて振り返る。

 

「…………」

「ヒエッ」

 

 そこには、持っているフォークを折れんばかりに握り締め、しかし顔は恐ろしいほどの無表情でこちらを──正確にはフラーを見つめるダフネの姿があった。

 

「あらあら、お姫様を怒らせてしまったわ」

 

 それだけ言ってフラーはパッとリオンから離れる。そして席から立ち上がるとリオンに軽くウィンクして去っていった。

 

「か、からかってただけか……いや、肝が冷えた……」

「リ オ ン ?」

「はいぃ!!」

 

 去っていくフラーを眺めながら胸を撫で下ろしたリオンの耳に地獄から聞こえたような声が掛けられる。

 勢い良く振り返れば、そこには不機嫌そうな顔を隠そうともしないダフネの姿があった。

 

「……随分と楽しそうに話していたわね……?」

「あれは楽しいとかじゃなくて単にからかわれてただけで……はいすみません大人しく聞きます」

 

 ダフネの誤解を解こうとしたリオンだが、無言の圧に負けて身を縮こませる。ダフネはリオンの隣に座るとズイッとその顔を目と鼻の先まで近付けた。

 

「そんなにあの女が良かったのかしら?」

「違います違います!あれは単に俺たちの関係をからかわれてただけで本人とどうこうって話じゃ無いんですぅ!!」

 

 ハイライトの消えた目で覗き込んでくるダフネに凄まじい恐怖を感じながらリオンは必死に弁明する。

 その必死の言い分が届いたのか「そう……」とだけ言ってダフネは顔を離す。ホッと息を吐いたリオンに再度ダフネが言葉を掛ける。

 

「ねぇリオン?今度、ホグズミードにデートに行きましょう」

「あ、あぁ。それは構わないけど……」 

「良かった!それでね、その時のお金は全部貴方が支払うということで良いかしら?」

「え゛っ!?」

 

 笑顔のダフネから飛び出した狂気の提案にリオンは思考が停止する。

 

「だって大事な彼女を不安にさせたんだもの。これくらいは良いでしょう?次のデートの時だけだし」

「持ち合わせが……」

「これを断られたらそうね……私のものだという証を刻んでおく他ないのだけど……」

「全額払います」

 

 リオンは賢い。それ故に何をされるか分かったものではないことより一度きりの散財を選ぶことこそ自身の安全に繋がる道だと結論付けた。

 サラザール・スリザリンもきっと素晴らしい狡猾さだと認めてくれるに違いないと考えながら、リオンはグリンゴッツからお金を引き出しておこうと決意するのだった。

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