【本編完結】ハリー・ポッターと何も知らない転生者   作:シャケナベイベー

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過去の足音

 ハロウィーンが過ぎてからの数日間は、ハリー・ポッターにとって居心地の悪い日々となった。

 『炎のゴブレット』があり得るはずのない四人目の名前を吐き出し、あまつさえそれが自分の名前だったのだから。

 他のグリフィンドール生からは期待の羨望の眼差しを向けられ、スリザリンからは毎度の如く嫌がらせを、レイブンクローからはいつもの五割増しで冷たく突き放され、普段温厚なハッフルパフでさえハリーに少なくない敵意を向けていた。

 

 とは言ってもハッフルパフの態度に関してはハリーも理解できた。

 普段は目立たず、ひっそりとした彼らがこの三校対抗試合という大きなイベントでとびっきりに輝けるかもしれなかった。……それなのに、その機会を自分が奪った。十七歳にも満たない、参加資格を何一つとして満たしていない自分が。

 そうなればハッフルパフの態度にも納得は出来る。

 

「……それなのに、君達はいつもと変わらないよね」

 

 そう言って、ハリーは両隣に座るマークとランスを見る。

 一番の親友であるロンが、三校対抗試合に選ばれた自分に嫉妬して口も利いてくれなくなったというのは、ハリーにとって大きな傷となっていた。

 そんな中で、いつもと変わらずに接してくれる同性のマークとランスに、ハリーは心底安堵していた。

 

「まぁ、ハッフルパフの態度は分かるけどね……スリザリンはドラコを筆頭にいつものようにハリーをイビるし。そんな中でのレイブンクローの君への態度ったら無いね」

「あ、言っとくけどレイブンクロー(俺達)の中にもちゃんとお前の味方はいるぜ!」

「うん。ありがとう二人とも」

 

 レイブンクローのハリーへの態度に困った顔をするマークと、豪快に肩を叩いてはニヒルな笑みを浮かべるランスに心が軽くなる。

 そこで、ハリーは二人に気になっていることを聞くことにした。

 

「それで……二人とも。その、リオンなんだけど……」

「あぁ……何だかなぁ、アイツもお前のことは疑ってないぜ。ただ、あのパーティーの後に何かあったみたいで気分が沈んでるんだよなぁ……」

「最初はハリーが代表選手に選ばれたことを気にしてるのかと思ったけどどうも違うみたいでね。全く、僕らもお手上げさ」

 

 おずおずと切り出したハリーに、二人はお手上げといった様子で両手を上げる。

 あのハロウィーンパーティーの後、何かがあったらしいリオンは表面上はいつもと変わらないように演じてはいたものの、彼と関わりの深いマークとランスは違和感に気付いていた。この分だと自分達よりさらに関係の深いダフネは確実に違和感を持っているだろうと二人は考えていた。

 

「まぁ他人の心配も良いけどよ。まずは何よりお前自身の事を考えなきゃ駄目だぜ?」

「分かってるよ……ありがとね二人とも」

「あぁ。次は変身術の授業だろ?遅れないようにね」

 

 立ち上がり、二人に頭を下げてから立ち去っていくハリーを、二人は何とも言えない顔で見送った。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「はぁ……やっぱり見つからないか……」

 

 あのハロウィーンの日に見た幻。そしてこの二年間見てきた予知夢について、なにか詳しい事を知ることが出来ないかと図書館に通っているが、何一つ目ぼしい物は無かった。

 

「あの場所についても手掛かり無し、予知夢のことも詳しくは知れない……あーくそ、無駄骨かぁ~!」

 

 机の上に積み上がった本を尻目に空を仰ぐ。長時間、読み物を続けていたからか目が霞むのを堪えながら、本を各々元あった場所に戻す為に立ち上がった。

 

「ハリーの方も気にかかるし一度切り上げた方が良さげかね」

 

 本を一通り戻し終え、目を擦りながらそんなことを呟いた。

 どうにも疲労が積み重なっているし、何人かには感づかれているかもしれない。一度気持ちをリセットするべきだろう。

 

「だけど……セドリックは死なせない……絶対に」

「僕がどうしたって?」

 

 後ろから聞こえた声に思わず飛び上がる。ゆっくりと振り向けば、そこには怪訝そうな顔でこちらを見つめるセドリックの姿があった。

 

「あ、あぁセドリック……いや、何でもないんだ。うん」

「え、気になるなぁ。何か嫌な噂とかじゃないの?」

「違うさ。ホントに取り留めも無いことだよ……三校対抗試合の事とかさ」

 

 そう言うと、セドリックは「あぁ」と納得したような声を出し、僅かに眉を下げる。

 

「ホグワーツの殆どがハリーの事を疑ってる」

「リオンは違うの?」

「俺が? まさか。ハリーにダンブルドア先生の敷いた年齢線を越えられる訳が無いし、かといってそれを越えられたとしてもゴブレットに手紙を入れるとかそんな真似出来ないだろ」

「……確かに、ムーディ先生もそんなことを言ってたな。誰かがゴブレットに『錯乱の呪文』を掛けてハリーの名前を入れたんじゃないかって」

 

 どうやら、セドリックもハリーを疑ってはいないようだ。いや、少し複雑そうな顔をしていることから何かしら思うところはあるのだろう。

 

「……死ぬなよ、セドリック」

「え? どうしたんだ突然」

「三校対抗試合は危険が一杯だ。ダンブルドア先生がいるから安全は確保されてるだろうけど、どんな危険な課題があるか分からない。それで命の保証が無いとも言い切れない」

「──あぁ。十分分かってる。心配してくれてありがとう。それじゃ、僕は行くよ」

 

 俺の忠告にも似た言葉にセドリックは真剣な顔で頷くと、肩を叩いて去っていった。

 

 

 

 

 

 

「リオン、今度の土曜日は空いてるわね?」

「あぁ、空いてるけど……」

 

 スリザリンの談話室に戻ると、俺を待っていたらしいダフネが開口一番にそんなことを聞いてくる。

 

「なら、この前のホグズミードの件。その日にしましょう」

「パーティーの時のあれか。分かった、それでいいよ」

「決まりね。待ち合わせは玄関ホールにしましょう───それと」

 

 そこまで言ったダフネが、ビシッ! と俺の鼻先に指を突き付ける。

 

「デートの日までにその隈、何とかしてちょうだい。折角の整った顔立ちが台無しだわ」

「え? 隈出来てる?」

「えぇ。うっすらとだけどね。何をしてるかは聞かないけど無理はしないことね」

 

 それだけ言ってダフネはさっさと女子寮へと戻っていってしまった。

 

「……早めに寝るか」

 

 顔に触れながら、そんなことを決意した。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 それからさらに数日。いよいよホグズミード行きを明日へと控えたリオンはいつもより早めに眠りについた。

 その顔から隈は消えており、顔色もいつもの健康な状態へと戻っていた。

 

 しかし、リオンはその体をムクリと起き上がらせ、足音を立てないように立ち上がり、スリザリン寮を抜け出す。

 キョロキョロとゴーストや教員に見つからないよう辺りを警戒しながら、リオンは急ぎ足で玄関ホールまで歩くと、ゆっくりと扉を開けて外に出た。

 

「ふぅ……」

 

 息を吐き、軽く手を擦り合わせる。十一月も序盤とはいえ、夜は冷え込む。

 

光よ(ルーモス)

 

 リオンはいつも使っている杖ではなく、かつて祖父のエドワードが使っていた杖で呪文を唱える。

 ルーモスによって杖先に光が灯る。その光を頼りにして、リオンは森の方へと歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 やがて、森の中を突き進んだリオンの足がある場所で止まる。

 そこは、ホグワーツ歴代校長の墓所だった。これまでの様々な校長の名が掘られた墓には目もくれず、リオンはその墓所の不自然に開けた場所で足を止めた。

 

現れよ(レベリオ)

 

 地面に杖を向け、出現呪文を唱える。すると、何もなかったはずの場所に一つの白い棺が姿を現した。

 その棺の蓋を動かすと、中には一人の女性が入っているのが分かった。

 磁器のように白い肌と長く伸ばされたプラチナブロンドの髪は一種の芸術のように美しかった。その女性はただ眠っているだけで、声を掛ければ目を覚ますのではないかと思わせる程に生きた人間と変わらない。

 

 杖を仕舞ったリオンがその頬を撫でる。そこに生者の温かみは無く、ただ死者としての冷えきった感触だけが伝わってきた。

 

「夜間外出とは感心せんのう、リオン」

 

 そんな時、一つの声がリオンに掛けられる。振り返り、視線の先にいるのがダンブルドアだと分かったとき、リオンは大人しく棺から離れた。

 

「それに、安らかに眠る死者の墓を悪戯に暴いてはならぬよ。よく知っておろうエドワード?」

 

 リオン───否、その体を動かしているエドワードを咎めるようにダンブルドアが視線を向ける。それを受けたエドワードは「分かっていますよ」と溜め息をつきながら、棺を閉じてその存在を隠す。

 

「最近やっと動けるようになりましてね。それに今日は()()()()()なので、墓参りの一つでもと」

「だからと言って棺を動かす必要はあったかね?」

「久しぶりに妻の顔を見ておこうかと───冗談ですよ。そんな顔しないでください。ただ、どうしても無性に顔を見たくなってしまったんです」

 

 ホームシック的な奴ですかね、とエドワードは力なく笑う。その顔を見て、ダンブルドアは何も言えなかった。

 

「あの時、君達が犠牲になる必要は無かったはずじゃ」

「どうですかね? ユスティアはともかく、トムは俺を引き入れるのに失敗すれば殺そうって考えてたと思いますがね」

 

 そうだ。あの時、ユスティアまで死ぬことは無かった。自分一人死ねば、妻と息子に手を出させないようにするプランは考えてあった。なのに、彼女は自分と運命を共にすると言った。まだ成人もしていない息子を一人にすることに抵抗が無かったと言えば嘘になるけれど。

 

「ユスティアは、もし自分が死んだら遺体はホグワーツに置いてくれとわしに頼んだんじゃ」

「仕方が有りませんよ。ユスティアにとって母親は自分を疎んでいて、父親は稀代の犯罪者ともくればホグワーツが家と考えるのも無理はありません」

「グリンデルバルド……かの……」

 

 グリンデルバルドという名は、魔法界にとっては忌み名だ。現在のイギリス魔法界ではヴォルデモートの方が脅威だが、大陸の方では未だグリンデルバルドの影響力は色濃い。

 故にこそ、ゲラート・グリンデルバルドの一人娘として産まれた少女が恐れられ、迫害されるのも仕方のない事だった。

 

「……ダンブルドア、俺が送った手紙は読みましたか?」

 

 唐突にエドワードが話題を変える。しかし、ダンブルドアはそれを深く追求せず、「読んだとも」と頷きを返した。

 

「この前のハロウィーンパーティーでリオンの未来視が完全に開花しました。近い内に全てを話してください」

「……エドワードよ。考え直すつもりはないかね? 全てを知るにはリオンはまだ幼すぎる」

「早い内に話してしまった方が傷は浅く済みます。それに、いつまでも引き延ばすわけにもいかないでしょう? 先送りにしたい貴方の心境は理解出来ますがトムが復活してからでは遅いんです」

 

 どこか責めるような口調で話すエドワードに、ダンブルドアは言い返すことが出来なかった。そうなってしまった原因も、それによって引き起こされた事もよく知っているが故に。

 

「じゃあ、俺はそろそろ戻りますよ。干渉はしないと言っておいて出てきてることについては反省してますし、何より明日はリオンがデートだそうなので」

 

 それだけ言い残して、エドワードは墓所から立ち去る。しばらくその背中を見つめていたダンブルドアも、重苦しい息を吐いてからその場を後にした。

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