【本編完結】ハリー・ポッターと何も知らない転生者 作:シャケナベイベー
「ペティグリュー脱獄ね……」
第一の課題から数日。大広間で朝食を取りながら眺めていた日刊予言者新聞に掲載されていたひとつの記事に俺の目が吸い寄せられた。
内容としてはピーター・ペティグリューが脱獄したこと。それに伴い不要不急な外出は控えてほしいことなどがファッジ大臣の口から発表されたと言う。
「父さん達も大変だろうなぁ……」
今頃魔法省でてんやわんやになっているであろう父を思い、顔に笑みを張り付ける。それと同時に、父さんから送られてきた手紙も思い出していた。
『魔法省のバーサ・ジョーキンズという魔女が亡くなった。お前に言うことでは無いかもしれないが嫌な予感がする。用心しなさい。それと再三になるがカルカロフには充分注意するんだ。分かったね』
と、このような内容だった。バーサ・ジョーキンズが亡くなったのは最後に例のあの人が目撃されたというアルバニア。これが父さんに取って無関係とは思えず、こうして忠告してきたということだったらしい。
アルバニアで亡くなったバーサ・ジョーキンズと今回のペティグリュー脱獄。どうにも無関係とは思えなかった。それに未来視の事もある。もしかしたら──
「近い内にダンブルドア先生に話してみた方が良いかもな……」
今日の魔法生物飼育学の授業は、『尻尾爆発スクリュート』とかいうトンデモ生物が冬眠するかどうかを試すというものだった。
結果から言えば冬眠はしなかった。しかも尻尾爆発の名の通り尻尾から火花を出して暴れ回るもんだからハリーを始めとしてハグリッドの助けに入ったものは例外なく切り傷などを負うはめになった。
「あーらあら、何やら面白そうなことをしてるざんすねぇ?」
そんなこんなで疲弊した俺たちの下にそんな声が届けられる。
そこに居たのは金髪の派手な服装に身を包んだメガネの女性だった。
「誰だねアンタ」
「リータ・スキーター。日刊予言者新聞の記者ざんす」
ハグリッドが警戒心を剥き出しにして問うと女性が自身の名前を答える。
しかしリータ・スキーターか……どっかで聞いたような……
「アンタはもうホグワーツに入っちゃならねぇとダンブルドア校長先生に言われたはずだが?」
へぇ、そうなのか。と思ったところであることを思い出した。
(コイツ……ハリーや他の代表選手の誹謗中傷記事を書いた奴じゃん……)
決定。この女は敵だ。まさしくマスコミの闇の部分だ。
しばらくハグリッドに話し掛けていたリータは、今度はハリーを標的に変えて質問し始めた。
「まぁハリー! 君、こんなところにいたの! 魔法生物飼育学がお気に入りなのかな?」
「はい」
スキーターの問いにハリーは淀みなく答える。それを見たハグリッドがニッコリと笑みを浮かべた。
その後も、授業が終わるまでスキーターの付き纏いは続くこととなった。
◆ ◆ ◆
クリスマスダンスパーティー開催の知らせは、ふくろう便や箒よりも早くホグワーツに広まった。
生徒(特に女子)はこのイベントに目を輝かせ、やれ誰から誘われるだ誰を誘うだのとそんな話で持ち切りとなっていた。
そしてそんな中で、俺も少し困った事態に遭遇していた。
「あ、あの! アーデル先輩! 私では駄目でしょうか!?」
「いや、あの…俺は誘いたい人がいるから他を当たってくれると嬉しいかな……きっと俺以外に良い人が見つかるよ」
三年生のレイブンクロー生が崩れ落ち、様子を伺っていた友人に引っ張られて去っていった。
これで何度目だろうか。申し訳ないと思うが、俺に誘いたい相手がいるというのも気づいている人もいると思うのだが。
グリフィンドールの同級生、ハッフルパフの先輩、レイブンクローの後輩エトセトラと、俺にこうしてダンスパーティーの誘いを掛けてくる生徒が非常に多いのだ。
まだ同寮のスリザリンからはアプローチが無いというのが救いではある。
「……まぁ、皆きっと浮き足立ってるんだろうなぁ」
ダンスパーティーとなれば男女の仲を深める絶好の機会だ。この機会に意中の相手を誘って夢のような一時を過ごそうと考える人もいるはず。彼女達もそういう考えだったのだろう。俺の思い違いでなければ。
「さてと。また誰かに誘われる前に早いとこ彼女のところに──ん?」
改めて歩き出そうとした俺の視線の先から、一人の人物が俺目掛けて走ってくるのが見えた。
すわ、またもダンスの誘いかと身構えたが、その人影がハーマイオニーだと知ると体の力を抜いた。
「あぁ、なんだハーマイオニーか。一体どうし「ちょっと来てちょうだい」えぇー……」
有無を言わさず引っ張られる。グリフィンドールの猪突猛進さが出ているなと考えながら、抵抗することなく引っ張られていった。
「あ、ハーマイオニー」
「うわ、ホントにリオン連れてきてる……」
ハーマイオニーに引っ張られ辿り着いた先は図書館。そこでハーマイオニーを待っていたのだろうハリーとロンはハーマイオニーに引っ張られる俺を見て少し引いていた。
「……さて、ええと。先ずは無理矢理連れてきてごめんなさい」
「あぁ……いや何というか、もう慣れたなぁ」
ハーマイオニーの謝罪に曖昧に答える。この三人組の有無を言わせぬ猪突猛進さには慣れたものだ。
「……それで、一体何の用だ?」
「一先ず、これを見てほしいの」
そう言ってハーマイオニーが俺の目の前に一枚の羊皮紙を差し出す。
「“しもべ妖精福祉復興協会”……? え、何これ?」
「その名の通り、屋敷しもべ妖精の地位を改善させる為の組織よ」
ハーマイオニー曰く、しもべ妖精は労働に対する賃金も支払われず、まるで奴隷のように不当に扱われている。そんなこと許せないからどうにかして彼らを助けたい──ということらしい。
後、長期的な目標として他の魔法生物の地位改善も目指しているらしい。
「と、いうわけで貴方にも協力をお願いしたいの。2シックルで良いわ」
そう言ってハーマイオニーは貯金箱らしき瓶を目の前に置く。さぁ困った。こうなったハーマイオニーは梃子でも意見を変えない。
ちらり、とハリーとロンを見ると二人ともゲンナリした表情だった。
一度息を吐き出し、ハーマイオニーを見つめる。何とかして彼女を説得しなければしもべ妖精達による暴動になりかねない。
「あー、悪いハーマイオニー。俺はこれに参加しない」
「どうして!? リオンは屋敷しもべ妖精達が可哀想だと思わないの!?」
「可哀想、可哀想じゃないの話じゃないんだ。そもそも彼らは地位の改善なんて望まないんだよ」
「あ、それハグリッドも言ってた」
俺の話にロンが言葉を返す。なるほど、ハグリッドにも言ったのか。それで諦めていないのなら相当決意が固いようだ。
「良いか? そもそも“しもべ”とある通り彼らは俺達の従者のような存在だ。誰かに仕え、世話をすることこそが彼らの存在意義とも言える」
「でも、それならその働きに見合う報酬を支払うべきだわ!! そうやってなんの報酬も無しに働いているなんて奴隷と同じよ!!」
「それが彼らなんだ。彼らは基本的に見返りを求めない。お礼も、報酬も必要とせず、ただ誰かに仕えるために存在しているんだ」
「それは彼らがそれこそが幸せなことだと洗脳されているだけだわ!!」
こりゃダメだと頭を抱える。未だかつてここまでしもべ妖精の待遇改善を唱えてきた魔法使いが居ただろうか。
「ハァ~……」
「ごめんよリオン……ハーマイオニーってばいくらしもべ妖精の待遇改善は無理だって言っても聞き入れてくれなくて……」
「いや、いや……こうなったら本職に相手してもらうか……」
本職?とハリーとロンが首をかしげ、俺の言わんとする事に気付いたのかハーマイオニーが睨み付けてくる。
「リオン。貴方──」
「その前にハーマイオニー。お前はこの計画を始めるに当たってしもべ妖精に意見を求めたか?」
何か言おうとするハーマイオニーを制し、質問を投げ掛ける。案の定、ハーマイオニーは首を横に振った。
「聞いていないわ」
「だろうな。彼らに聞いていればこんなことをやろうなんて思わないはずだ───さて、それじゃ実際にしもべ妖精に意見を聞いてみるとしよう。フリッツ」
次の瞬間、“パシンッ!”という音と共に、イグネイシャス爺ちゃん達に仕えているフリッツが“姿あらわし”で机の上に現れた。
「お呼びでしょうかリオン坊っちゃま」
「やぁフリッツ。急に呼び出して悪いな」
「とんでもございません」と、祖父母のしもべ妖精は頭を垂れる。
いきなり現れたフリッツに一拍置いてハリーは目を見開き、ロンは感嘆の声を上げ、ハーマイオニーはワナワナと体を震わせていた。
「おったまげ~! これってリオンの家のしもべ妖精かい!?」
「いや、俺の祖父母に仕えてるしもべ妖精だ。フリッツ、この三人は俺の友達だ」
「リオン坊っちゃまのお友達!! 会えて光栄でございます! 私、イグネイシャス・プルウェット様とルクレティア・プルウェット様にお仕えしております、フリッツと申します」
「僕ロン・ウィーズリー!」
「僕はハリー・ポッター」
「……ハーマイオニー・グレンジャーよ」
ハリーの名前を聞いた途端、フリッツが感謝の言葉を述べる。しもべ妖精にとってハリーはまさしく英雄なのだと言ってたっけ。それならこのような反応になるのも頷ける。
一方、ハーマイオニーはどこか不服そうな顔をしている。大方、俺の祖父母がしもべ妖精を扱っていることに憤っているのだろう。
「さてフリッツ。今回お前を呼んだのは話してほしい相手がいるからなんだ」
「分かりました。それで、話してほしいお方というのは?」
「彼女だよ」
俺はハーマイオニーの方を向く。フリッツは机を伝ってハーマイオニーの下まで行くと「ご用件は何でしょう?」と問い掛けた。
「私は貴方達しもべ妖精の待遇改善について活動しているの。お話を聞いてもらっても良いかしら?」
そうして始まったハーマイオニーによる“しもべ妖精福祉復興協会”の説明。
最初は笑顔で話を聞いていたフリッツだったが、段々と顔を引きつらせていき、説明が終わる頃には何とか笑顔を保っている状態だった。
「お嬢様。貴女様の活動は大変素晴らしい試みです。しかし、私どもはそれを望みません」
最初こそ満足げに頷いていたハーマイオニーだったが、最後の一言でその表情を変える。
「どうして? この活動は貴方達にとって悪いものではないはずよ」
「いいえ。そうではないのですお嬢様。既に坊っちゃまや他のご学友の方からもお聞きになられたと思いますが私どもは自分達の働きに対して報酬を求めません。それがいかなる場合であっても。私どもは家に仕え、そこに住む方々のお世話をすることこそを最上の喜びとするのです」
淡々と子供に言い聞かせるような口調で語りかけるフリッツ。そんなフリッツの瞳が突如としてオレの方を向く。
「私と初めて会った坊っちゃまも私どもの待遇について良い顔をされませんでしたが、イグネイシャス様がご説明なされると納得しておいででした。その後、坊っちゃまは私を呼び出してこう言われたのです。『せめて自分と話すときは仕えるものとしてでなく、教えるものとして接してほしい』と」
「それのどこが違うの?」
「基本的にしもべ妖精は誰かに仕える存在です。仕えるご主人様に御子がお産まれになられたときにそのお世話を任されることがありますが、何かを教えるというのはあまりありませんでした。
それをお聞きになられた坊っちゃまはそうすることで自分といるときは私自らで考え、行動してほしいと言われたのです」
そう言ってどこか誇らしげに胸を張るフリッツに俺も恥ずかしくなる。
確かに転生して初めてフリッツを見たときにそんなことを言った。今にして思えばこれもしもべ妖精の存在意義を否定しているような提案だと思うが、当時はそこまで深刻に捉えてはいなかった。
結果として良い方向に転がってくれたが、一歩間違えば大惨事になるところだった。
「もし、まだご不明な点があるのでしたらホグワーツの調理場に足を運んでみるのも良いでしょう。あそこで働く他のしもべ妖精も私と似た事を話す筈です」
「……分かったわ」
フリッツの話を聞き終えたハーマイオニーは絞り出した声でそう言った。「ご検討、感謝します」とフリッツは頭を下げて俺の横に移動する。
「坊っちゃま。以上で宜しいでしょうか?」
「あぁ。ありが───いや待った。近々ホグワーツでダンスパーティーが開かれるんだが、そのためのドレスローブを用意してもらっていいか? 父さんは忙しいだろうし、かといって母さんも男物にはそう詳しくない筈だしな」
「かしこまりました。何着か、ご参考になりそうなものをお送り致します」
「頼む」
それだけ言うと、フリッツは俺達に頭を下げて“姿くらまし”でプルウェット邸へ帰っていった。
さて、とハリー達に向き直る。ハリーとロンはいつも通り、ハーマイオニーも最初の威勢こそ吹っ飛んだものの落ち着きを取り戻していた。
「ハーマイオニー。あぁは言ったが俺はその活動自体を止めろとは言わないよ。しもべ妖精の待遇はともかく、差別されている魔法生物の悪評改善ってのは良いと思う。狼男とか、巨人とかな。俺達の間じゃ闇の魔法生物とされていても良い奴だっているんだ。一くくりにすると余計な争いを生みかねない。その面で言うなら俺は活動を支援するよ」
それだけ言って俺も図書館を後にする。さてさて、急いで彼女の下に向かわねば。
しばらく校内を回っていると、ようやくお目当ての人物を見つけた。中庭で何かの本を読んでいる。
深く深呼吸し、一歩踏み出すとその背に声をかけた。
「ダフネ」
実際、ハーマイオニーが最初のような考え方でしもべ妖精に計画を話したらどんな反応が返ってくるんでしょうねぇ?