【本編完結】ハリー・ポッターと何も知らない転生者 作:シャケナベイベー
来る12月25日。生徒の殆どが待ちわびたクリスマスダンスパーティーの日がやって来た。
この日の生徒といえばどこか落ち着きがなく授業中もソワソワしている生徒が多くいた。
「今日のダンスパーティーだけどさ……二人は誰かと行くのか?」
時間もお昼を示した頃、丁度居合わせたマークとランスにそう質問してみる。
「僕はスーザンを誘ってOKを貰ったよ」
「マジか。誘えたんだな」
「リオンが僕を何だと思ってるかよく分かったよ」
「いや、だってなぁ……」
クィディッチワールドカップの時にボーンズが気になっていると暴いて以降、何の進展も聞かなかったものだからてっきり何かあったのかと思っていたのだ。
「それじゃあ、ランスはどうなんだい?」
「俺? 俺はあれだよ、レイブンクローの三年生と出るんだ……てかマークは知ってんだろうが」
そうなのか。まぁ、ランスもマークと同じく顔が良いし、何より人当たりが良い。引く手数多という奴だろう。
「で? お前はしっかりダフネを誘ったんだろ?」
「え? おう、そりゃな」
「なら良かった。ここで誘ってないってなったら僕らは君をボッコボコにしないといけなくなるからね」
「血の気多いな、おい」
なんだコイツら。叡知のレイブンクローの癖してやり方がまるでグリフィンドールだ。
「そういえばハリーはパートナーをどうするんだろうね?」
「代表選手は必ずパートナーを連れてこいって奴だろ?大変だねぇ」
「まぁハリーも代表選手だしパートナーになりたい女性は多いんじゃないか?」
俺としてはハリーを好いているジニーとか良いと思うんだが。
「ハリーからしてみれば緊張すること間違いなしかな?」
「と言ってもそんな注目するって訳でもないだろうし、気楽にやってけば良いんだよ」
そんな会話をしながらも、いよいよ夜が更け、ダンスパーティーの開催時刻が迫っていた。
俺はフリッツが選んだドレスローブに袖を通す。
黒に所々金の装飾が施されたそれは、十四歳の子供が着るには些か大人っぽすぎると思ったのだが、フリッツに『坊っちゃまはこれがお似合いなのです!』と押し切られてしまった。
鏡を見て変なところが無いか確認する。ネクタイピンの歪み、裾の解れ等々……うん、問題は無さそうだ。
クルリと後ろを向けば、ブレーズとセオドールも丁度ローブを着終わったところだったようだ。
「二人とも様になってるな」
「当然だ。ノット家として社交界に出たことも一度や二度じゃ無いからな。こういう場には慣れている」
「俺も似たようなもんだぜ」
それぞれのローブに身を包んだ二人がそう口にする。
「というか、二人は誰と行くんだ?」
「僕はミファー・アラベル先輩とだ」
俺の問いに真っ先にセオドールが答える。アラベル先輩と言えば一つ上のスリザリン生だったか。何度か話したが、気品溢れる実に貴族らしい振る舞いをする女性だった。
「で、ブレーズは?」
「俺はハッフルパフの子猫ちゃんな」
「……面食いめ」
ブレーズの言葉にセオドールが毒づく。かくいう俺もブレーズの態度から適当に見繕ってきたのだろうと察し、白けた目を向ける。
「お前ほんとそういうとこだぞ。いつか刺されるかもな」
「ハッハッハ。可愛い子を選んで悪いことあるか?」
「選り好みして飽きたら捨てるのを止めろって言ってんの。女性の恨みは怖いんだぞ。きっとな」
ブレーズのこういう顔の良さを生かして女性を物のように扱う所が好きになれなかった。とはいえコイツも誠実さはキチンと持ち合わせているので捨てるときも絶対に相手が不幸にならないような配慮はしている。
それをするくらいなら一人に決めろよとは思うが、こういうところはブレーズの母親の気質だろう──とダフネは言っていた。
「ま、良いや。俺は行くからな」
「はいよー」
「あぁ」
二人に手を振って部屋から出ると、一気に寮を飛び出してダフネとの待ち合わせ場所の玄関ホールまで到着する。
しばらくして俺と同じようにドレスローブを身に纏った生徒達が集まるのを眺めていると、奥の階段から二人の女性が降りてくるのが見えた。
「おっ……!」
思わず感嘆の声を漏らす。やって来たのは待ち人のダフネとその妹のアストリア。
二人ともこのパーティー用に着飾っており、いつもとはまた違った印象を与えてくる。
自身の目の色と同じ紫の鮮やかなドレスに身を包んだアストリアがダフネに何事かを話しかけると手を振ってその場から去っていった。去り際に俺にも手を振ったので手を振り返しておく。
「ごめんなさい。待たせたわね」
「いや、そんなに時間は経ってないよ」
「そう? なら良かった」
と、目の前にやって来たダフネがふわりと微笑みながら話し掛けてくる。それに返しつつ、ダフネのドレスに目を通した。
深い青色じみた藍色のドレスに身を包み、いつもは流されている白金の髪も今回のパーティーに限っては上の方で品良く纏められている。
顔には薄い化粧が施され、口元には薄くピンクの口紅が引かれていた。そんな彼女の胸元には群青色の宝石が一つ、存在を示すようにキラリと輝いていた。
いや俺の彼女可愛くないか?
「……綺麗だ。凄く」
「! フフッ、ありがとう。貴方もとても素敵よ」
「俺はそうでもないと思うけど……」
ほんのりと頬を染めたダフネが俺を称賛するが、彼女に比べれば俺はそこまで変わらないだろう。精々がドレスローブを纏っていることと、髪型を七三分けにしたくらいのはすだ。
と、そこまで考えたところでダフネがほんの少し目を見開いて俺の胸元に手を伸ばしてくる。
「ピンが少しズレてるわ」
「え? あ、あぁありがとう。確認したはずなんだけどな」
「ほんの少しズレてただけよ。それくらいなら気にしなくて良いわ。わざわざ直したのは私が貴方に触れたかったからだもの」
これだ。ダフネはこうして息をするように俺が身悶えするようなことを平然と良い放つ。こうやって想いを伝えてくれるのは大変喜ばしいことだが俺の理性が危うくなるのでどうか控えてほしい……と心の中で願う。
玄関ホールに続々と人が集まってくる。大広間への扉が開くまでまだ少し時間があるからか周りの人は近くの人たちの会話を始めていた。
そんな目眩がするような人混みの中で、ローブを纏ったハリーを見つけた。隣にいるのはハリーのパートナーだろう。グリフィンドールのパーバティ・パチルだ。
ハリーは俺を見つけると笑顔で手を振ってくる。俺もそれを返し、口パクで「頑張れよ」と言った。ハリーが力強く頷いたのを見て視線を外す。
他にもロンとレイブンクローのパドマ・パチルのペアやドラコとパーキンソンペア、マークとボーンズ、ランスと少女と見知った顔を見つけていく。
そして時間となり、大広間の扉が開いて生徒が一斉に雪崩れ込んでいく。
俺は流されないようダフネの手を握りながら歩いていく。
ダフネは少し驚いていたものの、やがて手を握り返してくれた。
開かれた扉の脇で、代表選手がそれぞれのパートナーと共に入場していく生徒達を見送っている。
ハリーとパーバティ、セドリックとレイブンクローで一学年上のチョウ・チャン、フラーとレイブンクローの監督生ロジャー・デイビース、クラムとハーマイオニー。
ハーマイオニーはこれまでとは見違えるほどに可愛らしくなっていた。何でもドラコに歯呪いを掛けられて前歯が尋常ではないほど伸び、マダム・ポンフリーが直していた時に気にしていた出っ歯を直してもらったと嬉しげに語っていた。
ちなみに歯呪いに関しては使ったドラコを絞めた。ハリーも同系統の呪いを使ったと言っていたが喧嘩両成敗ということで、どちらにもキレた。
後、歯呪いを受けたハーマイオニーを「いつもと変わらん」等とほざきやがったスネイプ教授をさらに軽蔑した。クソ野郎が。
と、俺がそんなハーマイオニーを見つめていたからかダフネに握られていた手がさらに強く握られた。
何だとダフネを見ると、その顔は見るからに不満そうだった。
「こんな時に私以外の女を見ないで」
「……悪い」
実に正論だ。パートナーが他の女性に目移りしていれば怒りの一つも湧くだろう。今後は気を付けようと強く誓った。
そんな感じに大広間へと入室すると、大広間もいつもとは違う豪華な内装へとチェンジしていた。
十人ほどが座れそうなテーブルにはこれまた豪華な料理がところ狭しと並べられている。
全生徒が席に着いたのを確認して、マクゴナガル先生の後に続いて代表選手とそのパートナーが入場してくるのを拍手で迎える。
クラム、フラー、セドリックは涼しい顔だったがハリーはガチガチに緊張していた。きっとパートナーのドレスを踏んでしまわないようにと気を付けるので精一杯なのだろう。
そして全員が用意された席に座る。だが、その中でクラウチ氏だけが姿を見せていなかった。バグマン氏、マダム・マクシーム、カルカロフ、ダンブルドア先生はいるのにだ。何か別件でもあったのだろうか。
クリスマスのディナーはいつも以上に格別だった。生徒が思い思いに食べて飲んで、一通り済んだところでダンブルドア先生がテーブルを下げてギターやドラムなどの楽器を用意する。
そしてイギリス魔法界で最も人気のバンド『妖女シスターズ』が入場してくると凄まじい拍手で迎えられる。
妖女シスターズと言えば魔法界でその名を知らぬものはいないほどに人気のバンドだ。ビー○ルズみたいなものだと思ってくれれば良いだろう。
ちなみに『妖女シスターズ』とあるが、メンバーは全員男性だ。
そんな彼らが曲を弾き始めると代表選手がそれぞれのパートナーと共にダンスを踊る。
皆が皆、思い思いのダンスを踊る中でハリーは何とか付いていくのに精一杯のようだった。
そして曲が終わると座っていた生徒達もダンスを踊るために立ち上がる。
“俺達も踊ろう”とダフネと揃って立ち上がると、ダフネが右手を差し出してくる。
「エスコートをお願いできますか? 私の王子様」
「───喜んで。俺の姫様」
膝を突き、笑顔でその手を取る。似つかわしくないセリフまで口走ったがそこはそれ。
ダフネと共に舞台まで歩いていき、曲に合わせてダンスを始める。
曲に合わせ、ダフネをリードするように踊る。
それに気付いたのか少し驚いた表情を浮かべながらダフネが耳元で囁いた。
「意外と手慣れてる?」
「母さんに教わったんだ。こうやって公の場で踊るのは初めてだけど」
というか外国語といい、今回のダンスといい母さんは俺をどうしたいのか。外国語はともかくダンスなどそうそう踊ることもないと思うのだが。
それから四曲立て続けに踊り、流石に体力を大幅に消費したので休憩を取ることにした。
「いや……四曲はやりすぎだったな……ごめんダフネ。大丈夫か?」
「……えぇ。大丈夫よ。疲れているけど苦では無いわ」
さすが。グリーングラス家の令嬢は気丈にも立ち振舞いに疲れを見せずにいる。しかし、さすがに喉が渇いたなと辺りを見回していると、ドリンクコーナーがあったのでそちらの方を見る。
「ダフネ。何か飲み物とかいる?」
「なら水をお願い」
頷き、ドリンクコーナーへと歩いていく。そこで水を二つ受け取ると、マークが歩いてくるのが見えた。
「やぁリオン。ダンス楽しんでるかい?」
「当然。マークはとうだ? ボーンズと踊ってたんだろ?」
「あぁ。けど今は少し休憩に入っていてね。そっちも同じだろ?」
頷き、マークの視線を追う。その先には燃えるような赤のドレスに身を包んだボーンズがいた。アボットと話しており、二人ともこちらに気付くと笑顔で手を振ってきた。
「お前らが踊ってると、さぞ絵になるんじゃないか?」
「ありがとう。君も、悲しませるなよ」
「勿論だ」
何のことか言われずとも、彼女を悲しませたりすることはしないだろう。
水の入ったコップを持ってダフネの元に戻ると、ダフネが見知らぬ男と話しているのが見えた。
男が何かを話すと、ダフネが顔をしかめる。知らず足早になる。
「あんな男、君に相応しくな───」
流石に不味いと止めに入ろうとして、それよりダフネが男の頬を叩く方が早かった。乾いた音が響き、周りの生徒の視線がそこに集まる。
「私の侮辱はまだ良いわ。けど私のリオンを侮辱するのなら、どれだけ後悔しようと赦されないと思いなさい」
ダフネの底冷えするような声が静まった大広間に響く。近くにいた男にコップを手渡し、二人の間に割り込んでダフネを後ろに下がらせた。
「こ、この──「おい」ひっ……!」
「俺の女だ。とっとと失せろ」
次はないぞ。
言い返そうとした男に告げる。男はその顔を青くしてさっさと俺達から離れていった。
「中庭に行こう」
それだけ言ってダフネの手を引いて足早に大広間を抜ける。多くの生徒の視線が刺さるが、そんなものを気にする余裕はなかった。
◆ ◆ ◆
「ごめん。助けに入るのが遅かった」
「……私は何もされてないわ。気にしなくて大丈夫よ」
燦々と輝く月が俺達を照らし、冬の風が頬を撫でる。
ダフネを連れてやって来た薔薇園だが、そこは悲しみを紛らわせてはくれなかった。
「……あの男に何を言われたんだ?」
「自分と踊ってほしいって。貴方がいるからと断ったのだけど、そうしたら“アレ”が怒ったのよ」
なるほど、そういう経緯かと納得する。と、同時に軽い自己嫌悪に苛まれる。
「ごめん。俺が誰かと踊っていても構わないって言うべきだったな……」
「貴方はドリンクを取りに行っただけよ。仕方の無いことだし、それに貴方がそんな提案をしても私が断ったわ」
思わず、ダフネの顔を注視する。そのアイスブルーの双眸は強い輝きを宿していた。
「そもそも貴方がいないダンスパーティーなんて興味が無いもの。“アレ”は随分と短気ね。たかだか一度断られたくらいで逆上するなんて。プライドを傷つけられたのか知らないけど女性を誘う上で実に愚かな選択だわ」
「お、おう……」
笑顔でとんでもない事を言うダフネに軽く恐怖する。名も知らぬ男、お前はダフネの地雷を踏み抜いたみたいだぞ。
「は~~あ。なんだか喉が渇いちゃったわね。ねぇリオン、水は?」
「……やっべ、途中で誰かに渡しちゃったよ」
「ふふ、可愛い人ね」
「仕方ないだろ急いでたんだから」
実際好きな人が危ない目に合ってれば誰だってそうするだろう。
「まぁそれなら良いわ。リオン、こっちに来て」
「へ? いや、水は「いいから」……はい」
逆らえず、ダフネに近寄る。さて何があるのかと身構えていると首に腕を回されキスをされた。
あまりに突然のことで固まっていると唇を離したダフネが数歩後ろに下がる。
「……いきなりなんだよ」
「したくなっただけよ。いけない?」
「いけなくはないけど……」
「なら良いじゃない。さ、戻りましょう」
「急展開!! ちょ、ちょっと待てって!」
さっさと行ってしまうダフネの後を追い、大広間に戻っていった。