【本編完結】ハリー・ポッターと何も知らない転生者   作:シャケナベイベー

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お待たせしました。いよいよ“彼”の本格登場です


復活

「出来た……!」

 

 第三の課題当日。まだ日が上って間もない時間の中で俺は言葉では表せない達成感で満ち溢れていた。

 俺の手の中に小さな宝石が埋め込まれたペンダントがある。

 

 端的に言えば、これはお守りだ。セドリックの死を視て以来、少しずつ作り上げてきた俺の傑作。

 以前、灰色のレディの下を訪ねた時に聞いたのだ。

 

『貴方のその潤沢な魔力と上等な魔法具があれば一度だけ死の運命から救い出す事が出来るかもしれない』

 

 それ以来、俺は図書館で調べに調べ、ついに辿り着いたのだ。

 『破魔の霊石』。理論上、一度きりとはいえ死の呪文さえ防ぐことが出来る守護の魔法具。

 膨大な魔力を無色透明な宝石に三ヶ月かけて注ぎ続け、不死鳥の涙を数滴垂らすことでそのお守りは完成するらしい。

 

 膨大な魔力に関しては俺、不死鳥の涙に関してはダンブルドア先生のフォークスにお願いして提供してもらった。

 これで少なくともセドリックが死ぬ未来を回避出来る可能性は高くなった。

 

 まぁ、効果が発揮されるのはそのお守りが完成して二十四時間以内なのだが。加えてこのお守りを作れるのは一人につき一度だけで、そのお守りは作成者が身に付けることは出来ないし半日経てば作成者も作り方を忘却するとかいうクソ仕様だったが背に腹は代えられなかった。

 

「今日……第三の課題の日に事が動く……」

 

 確信がある。気を張らなければならない。どこに敵が潜んでいるかも分からない状況で気を緩めるな。

 俺はお守りを持って立ち上がると、静かに部屋を出ていった。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「セドリック!」

 

 第三の課題が始まるとアナウンスが響き、生徒が移動する中で俺は何とかセドリックを見つけるとその背中に声を掛けた。

 振り向いたセドリックは声を掛けてきたのが俺だと分かると目を丸くした後に優しく微笑み近寄ってくる。

 

「やぁリオン。どうしたの?」

「これから第三の課題だろ? だからこれを渡しとこうと思って」

 

 疑問符を浮かべるセドリックに完成したお守りを手渡す。お守りを貰ったセドリックは目を丸くして俺を見つめた。

 

「これ、ペンダントか?」

「そう。お守りさ」

「どうして突然?」

「うーん……強いて言うなら未来が見えたから……かな?」

「なんだいそれ」

 

 ペンダントを受け取ったセドリックに少しおどけて返せば彼は笑みを浮かべてペンダントを首に掛ける。

 

「何であれ嬉しいよ。ありがとう」

「あぁ。頑張れよセドリック」

 

 セドリックの肩を叩いて彼が人混みに消えていくのを見送る。そして俺も観客席に行こうと踵を返したところで、ムーディ先生が人混みからジッとこちらを見つめているのが見えた。

 ムーディ先生はしっかりとした足取りで俺の下までやって来ると「話がある、付いてこい」とだけ言って俺の肩を叩く。

 

「話ですか? ここではダメなことで?」

「なるべく人の居ない場所が好ましい。付いてこい」

 

 そう言ってさっさと歩いていくムーディ先生の後を、俺も慌てて追った。

 

 

 

 

 

 

 ムーディ先生に連れられてやって来たのは彼の研究室だった。

 辺りには物がきっちりと仕舞われ、近くには何らかの空き瓶が散乱している。

 

「座るといい」

「失礼します……それで先生。俺に話というのは?」

 

 用意された椅子に腰掛け、ムーディ先生の顔を見る。彼はしばらくウロウロとしていたが、やがて俺の正面に立つとその傷だらけの顔に笑みを浮かべた。

 

「油断大敵だぞアーデル」

 

 ゾワリと全身に怖気が走る。急いで離れようとするが、それより早く目の前の男が杖を振るった。

 

「……な、んだ……力、が……」

「哀れだなぁ」

 

 力が抜け、前のめりに倒れ込んだ俺をソイツは嘲りの笑みを浮かべて見下ろす。

 

「お……前、は……」

「……さて。()()()()の為の贄となれアーデル」

 

 上手く口が動かせない、意識もボヤけている中でソイツが俺に()()()を押し当てて視界が光で埋め尽くされる。

 この光を、俺は見たことがある。

 

 

 

 

 ポート・キーの転移が行われる時の光だ。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 ズキンズキンと引っ切り無しに鳴り響く頭の痛みで目を覚ます。

 手足は鎖で繋がれ、何処かの柱にくくりつけられていた。

 

(オマケに沈黙呪文まで使って声も出せなくしてるし……あのクソ野郎、用意周到過ぎるだろ……)

 

 ムーディ先生に扮している何者かに心中で毒づく。それに、俺の杖も少し先の地面に捨てられていた。幸いにも爺ちゃんの杖は捨てられなかったようでホルスターに収まっている感覚がある。

 

(とりあえずこの拘束を解かないと……目的がなんであれヤバイことに変わりないし……)

 

 ガタガタと体を動かしながら、手掛かりになりそうな物がないか辺りを見回す。

 そして少し先の岩に何かのカップが転がっているのが見えた。

 

「此処、どこだろう?」

「分からない。けど用心しよう。まさか優勝杯がポート・キーだったなんて──」

 

 ふと、そんな聞き覚えのある二つの声が俺の耳に届いた。慌てて声のする方に目を向けるとハリーとセドリックの二人がカップ──二人が言うに優勝杯──の近くにやって来ていた。

 

 

 そしてその瞬間、俺の脳裏にセドリックの死が過った。

 

(そうだ……セドリックが死ぬのはこの場所だ!!)

 

 

 その事に気付いた俺は何とか声を出そうとするが、沈黙呪文を掛けられていることを思い出して、ならばと繋がれている鎖を利用し、動くときになる音を利用して俺の存在に気付いてもらおうと全身を揺らす。

 

 ジャラジャラと喧しいほどに音が鳴り、二人の視線がこちらを向く。

 

「リオン!?」

 

 二人が俺に向かって駆け寄ってくる。そうじゃない、逃げろと警告するために体を動かすが意味はなく、二人は俺のすぐそばまでやって来るとハリーが近くに落ちていた俺の杖を拾う。

 俺がここまで必死になるのは破魔の霊石を渡したとはいえ、セドリックが死ぬ未来が完全に回避出来たとは言えないからだ。

 そして俺が声を出せないことに気付いたセドリックが「終われ(フィニート)」と唱えると、俺の口から微かに声が漏れる。

 

「大丈夫か? 何があった?」

「セドリック、逃げろ!」

 

 鎖を外そうと奮闘するセドリックに告げたのと同時、ハリーが額の傷を押さえながら呻き声を上げて倒れる。

 ハリーは駆け寄ってきたセドリックに、痛みに呻きながら先程の俺と同じように逃げるように言った。

 

 

 

 少し離れた所から、ザリッと土を踏む音が響いた。

 その音を聞いたセドリックが濃い霧の向こうに杖を向ける。

 

「誰だ! そこで何してる!」

 

 セドリックの視線の先、霧の向こうから一人の人間が歩いてくる。

 そして、無慈悲な声が辺りに響いた。

 

「邪魔者は殺せ!」

息絶えよ(アバダ・ケダブラ)!」

 

 その声と共に放たれた緑の閃光がセドリックに直撃し、セドリックを吹き飛ばした。

 

「「セドリック!!」」

 

 俺とハリーの叫びが倒れたセドリックに向けられる。

 あまりに一瞬の出来事だった。呪文を放った奴を見れば、それはアズカバンから脱獄したペティグリューだった。

 腕には赤ん坊らしきナニカを抱えている。

 

 ペティグリューが杖を一振りし、ハリーを俺の横にある墓石に縛り付けた。

 そして、そこに大釜があった。グツグツと煮え立ち、まるで地獄の入り口を思わせるそれにペティグリューが抱えていたナニカを投げ入れた。

 

 

 

 

 

 

 始まるのだ、と直感した。理屈は分からないが奴は仮の肉体を持っていた。大釜の底に投げ込まれ、業火に包まれながらも奴が戻るのだ。

 

「時は来た。やれ」

 

 大釜の底にいるはずの奴の声が響く。ペティグリューが震えながら、儀式を始めた。

 

「父親の骨、知らぬ間に与えられん───父親は息子を蘇らせん」

 

 足許の墓が割れ、そこにあった白い粉が大釜に注がれる。

 次に、ペティグリューは自身の腕に杖を突き付ける。その顔が恐怖で歪んだ。

 

「しもべの肉、喜んで差し出されん───しもべは主を蘇らせん!」

 

 痛みに叫ぶ声がリオンの鼓膜を貫く。ペティグリューは倒れ伏し、痛みに転げ回りながらもヨロヨロと立ち上がり、滴る血をそのままに縛り付けられているハリーの下へ向かった。その片手には杖と杯が握られている。

 

「敵の血、力ずくで奪われん───汝は敵を蘇らせん!」

 

 ハリーが叫ぶ。滴る血を掲げられた杯が受け止めた。

 そしてペティグリューの恐怖と狂気に彩られた瞳がリオンを見る。

 

「かつての友の血、捧げられん───汝は帝王を蘇らせん!」

 

 腕を裂かれ、痛みに歯を食いしばる。

 二つの血が大釜に捧げられ、凄まじい魔力が辺りに広がった。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「上出来だな、ワームテール」

 

 そこに、影があった。骨を剥き出しにしたかのような体に髪と鼻が無く、蛇のように瞳孔が縦に割れた紅い双眸の男───ヴォルデモートはそう言って笑みを浮かべる。

 ペティグリューがヴォルデモートの足元に寄る。そして風が吹き、ヴォルデモートの周りを影の外套を纏った一団が取り囲み、皆一様にヴォルデモートに頭を垂れていた。

 

「お喜び申し上げます。我が君のご帰還、心よりお待ち申しておりました」

「よく回る口よなルシウス」

 

 抜け目の無い友よ、ヴォルデモートがせせら笑い、己を取り囲む影に目をやる。そしてその中の一人に杖を向け、ややあってその死喰い人が地面をのたうち回った。

 

「魔力も戻ったな」

 

 倒れ、痙攣する僕には目もくれず己の力に満足そうに頷いていた。

 

「しかし我が君、一体どのようにして……前人未到の偉業にございます」

「興味はそそられるか」

 

 そっと死喰い人──ルシウスが語り掛ければヴォルデモートは笑みを深めて語り出した。

 

 己だけの魔法薬、一角獣の血、蛇の毒を使い仮の肉体を得ていたこと。そして愚かな魔女の血を丸々手に入れ、復活するために行動を始めたこと。

 

「骨と肉と血……これらが我が肉体に必要だった。そして血はハリー・ポッターの物でなければならぬ。かつての俺様では触れることさえ叶わなかったがこうしてポッターの血を取り込んだことで触れることが出来る」

 

 ヴォルデモートの指先がハリーの額に触れ、ハリーが叫ぶ。

 それに愉悦の笑みを深めたヴォルデモートは手を離すと隣のリオンへと目を向けた。

 

「そこの男の顔───覚えがあろうノットよ?」

 

 ヴォルデモートが跪いていた死喰い人の一人──ノットシニアに声を掛けるとその顔が躊躇いがちに縦に揺れた。

 

「……エドワード。エドワード・アーデル……」

「そうだ。こやつはエドワードの孫でな。リオン・アーデルと言う。お前たちにはレックス・アーデルの息子と言った方が分かりやすいか」

 

 軽やかに語るヴォルデモートは拘束されているリオンを愉快げに眺め、口元に邪悪な笑みを浮かべた。

 

「こうして改まって話すのは初めてかリオン・アーデル?」

「……ヴォルデモート……」

「ほう、やはり俺様の名を口に出すか。全く、親子三代に渡って俺様の前に立つとはな───忌々しいものよ」

 

 クルーシオ。

 ヴォルデモートが杖先を向けると、リオンが枯れんばかりに絶叫を上げる。体をのけ反らせて痛みを紛らわそうにも鎖で繋がれているために出来ず、ジャラジャラと音を鳴らすだけだった。

 それを見てヴォルデモートはさらに笑みを強くし、先程と打って変わって優しげな声で囁く。

 

「苦しかろう? 苦痛を感じたくなければ俺様の下に付け。俺様は慈悲深い。我が友の孫をこれ以上いたぶるのは実に忍びないことだ」

 

 優しく、染み込ませるようにして帝王はリオンに囁く。その毒を前にリオンは顔を上げて、ゆっくりと口を開いた。

 

「……断る」

「ほう……?」

「誰が好き好んでお前みたいな奴に付くもんか。祖父母を殺して、今また破壊を撒き散らそうとしてるお前に」

 

 リオンはヴォルデモートを真っ直ぐに睨み返す。それを聞いたヴォルデモートはあっさりと引き下がると再度磔の呪文を掛けていたぶった後、リオンから視線を外した。

 

「さて。貴様には消えてもらわねばなハリー・ポッター。決闘する権利をやろう」

 

 その言葉と共にハリーの拘束が解かれ、帝王と生き残った男の子が相対する。

 

「決闘のやり方は学んでいよう? まず礼をせよ──するのだ!」

 

 動こうとしないハリーをヴォルデモートが無理やり頭を下げさせ、死喰い人達の間で笑いがさざ波のように広がる。

───助けなければ

 二度、磔の呪文を喰らったことで朦朧とする意識の中でリオンはそんなことを思う。しかし無意味、鎖で繋がれている体が動かせない今、そんな思いは意味がない。

 

 ヴォルデモートが杖を振るい、磔の呪文を使うとハリーは倒れ、転がり回る。何とか立ち上がり、足を痙攣させるハリーを見たヴォルデモートの顔に喜悦が浮かぶ。いつでも殺せるのだと言うように。

 ハリーが墓の影に飛び込み、そこにヴォルデモートの放った呪文が炸裂して石が砕ける。

 

「かくれんぼのつもりかポッター?」

 

 飛び込む、砕ける。飛び込む、砕ける。それを繰り返すこと三回。事態が動いた。

 

息絶えよ(アバダ・ケダブラ)!」

武器よ去れ(エクスペリアームス)!」

 

 互いの杖から緑と紅の閃光が走り、交わる。徐々に緑の閃光がハリーに迫る───すると、突如として黄金の光が溢れ辺りを包む。驚愕する声がいくつも漏れる中で杖と杖が交じり合い、使い手が宙に浮く。

 

 ハリーもヴォルデモートも、その場にいる誰もが声を発せなかった。

 光の中から現れたのはバーサ・ジョーキンスとこの墓の庭番。彼等はハリーに励ましの言葉を送ると動揺する死喰い人達の前に立つ。

 そこからさらに二人、ハリーによく似た男性とそれに寄り添う赤毛の女性が姿を見せた。

 

「優勝杯を掴んで帰るんだ」

「大丈夫よハリー。私達が付いているわ」

 

 強く頷いたハリーが杖を捻り、繋がりを断ち切る。それを追おうとしたヴォルデモートの前にハリーの両親───ジェームズとリリーが立ち塞がる。

 

「貴様ら……!!」

「これ以上お前の好きにさせるものか」

「あの子に手出しはさせないわ」

 

 ハリーが一目散にリオンの下へ走る───そして、そんなハリーの耳にあり得るはずの無い声が届いた。

 

「ハリー!!」

「えっ……!?」

 

 なんと、死の呪文を喰らった筈のセドリックが起き上がりリオンの下へと走っていた。ハリーだけでなく、死喰い人やヴォルデモートでさえも驚愕する。

 ハリーはなんとか動揺を抑え込みリオンの下に転がるようにして辿り着いた。

 

「リオン!!」

 

───代われ、リオン!

 

 やって来た二人に頷き、拘束を破ろうとするリオンの頭の中で声が響いた。それは祖父の声。帝王に食らい付くために希望を繋いだエドワードの声だった。

 

(頼む!)

 

 それを聞いて、詳しく聞くこともなくリオンは祖父に託す。意識が切り替わり、魔力が全身に漲る。

 

 エドワードは杖無し呪文でホルスターに収められていた自身の杖を呼び寄せると、右手で引っ掴み鎖に押し当てる。

 鎖が音を立てて砕け、体が地面に投げ出される。

 

 倒れ込む前に地に足をつけたエドワードが無造作に杖を振るうと、ハリーたちに迫ろうとしていた死喰い人達の足元が爆ぜ、纏めて吹き飛ぶ。

 

「エドかぁぁぁぁ!!!」

「跳べハリー!!」

 

 それを見たヴォルデモートが紅い双眸に激情を宿し吼える。

 それと同時に意識を戻したリオンが叫び、ハリーが呼び寄せ呪文で優勝杯を呼び寄せるとハリーの肩を掴んだリオンとセドリックと共に墓所から“跳んだ”。

 

 

 

 

 

 

 

 

 転移の光が大広間に溢れ、姿を見せたハリー達に歓声と拍手が送られる。

 しかし歓声はすぐに困惑へと変わった。何故なら本来居るはずの無いリオンがハリーとセドリックと共にやって来たからだ。

 状況を理解するべく三人の下に行こうとダンブルドアが立ち上がるのと同時、リオンがドサリと倒れた。

 

 意識を失う寸前にリオンが聞いたのは、倒れる自分を心配するハリーとセドリックの声だった。




セドリックの生存に関してかなりご都合主義となってしまいましたがどうか許して…
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