【本編完結】ハリー・ポッターと何も知らない転生者 作:シャケナベイベー
九月一日。新学期を迎えたホグワーツの雰囲気はそれに似つかわしくない張り詰めた物になっていた。
原因は一つ。今年度の闇の魔術に対する防衛術の教師に赴任した二人の先生の内の片方だった。
「エヘン、エヘン──ダンブルドア先生、胸を打つ素晴らしい演説ありがとうございました。ですのでここからは私がお話しさせて頂いても?」
「構いませんともミス・アンブリッジ」
全身をショッキングピンクの服装でコーデし、頭にでかいリボンを着けたガマガエルかと見紛うほどの顔をした女は、俺達に蛇が背中を這い回っているのかと勘違いさせるほどの悪寒をもたらした甘ったるい声でダンブルドアの話を遮ると壇上に上がる。
あぁ、ダンブルドアの話を遮ったからマクゴナガル先生が凄い顔で睨んでる……。
「ホグワーツ生徒の皆さん、初めまして。私はドローレス・ジェーン・アンブリッジ。今年度の闇の魔術に対する防衛術の座学を担当する人間であり、高等査問官としてホグワーツにやって参りました」
自己紹介を終えたアンブリッジに生徒の心の篭っていない拍手が送られる。
そんなことを気にしていないのか、はたまた気付いていないだけのお花畑なのかは知らないがアンブリッジは満足そうに頷くと席に戻った。
前の方で「なんだって魔法省はあんな奴を……」と呟くドラコの声が聞こえる。そして隣に座っていたダフネがそっと耳打ちしてきた。
「あの魔女、自分はセルウィン家の血筋だって魔法省で言い触らしているそうよ」
「……先祖にセルウィン家がいるのか?」
そう聞くとダフネは首を横に振り、アンブリッジに侮蔑を込めた視線を向けた後、忌々しいと言わんばかりに続けた。
「自称よ。セルウィン家にあのような者がいた記録は無いし、嫁いだ先にアンブリッジという家名も無かったと言っていたわ」
「虚偽かよ」
「相当腹に据えかねているみたいで、機会があれば魔法省から除きたいそうよ」
その時の光景が目に浮かぶようだ。あんな奴が我が家の名前を名乗って好きにしているなど許すことはできないだろう。
「さて。アンブリッジ先生の他にもう一人、今年度の闇の魔術に対する防衛術を担当してくださる先生がおる。アレフ・サロウ先生じゃ」
再び壇上に戻ったダンブルドアが告げると、一人の男性が壇上に上がりダンブルドアと握手を交わす。
「初めまして。魔法省より、今年度の闇の魔術に対する防衛術の教師を担当することになったアレフ・サロウです。スリザリン出身で現在は魔法省内閣府・魔法統括局に勤めています」
黒髪をオールバックにし、緑と銀の意匠が施された黒のローブを羽織った青年はその精悍な顔立ちで生徒たちを見回す。
そしてアンブリッジの時と違い、盛大な拍手がサロウ先生に送られた。
◆ ◆ ◆
新学期を迎えた次の日。九月二日の昼過ぎの最初の授業がスリザリンの五年生にとっての初めての防衛術だった。
少し急ぎ足で防衛術の教室へと向かうリオンは階段を駆け上がり、開いていた扉に体を滑り込ませる。
「珍しく遅かったな」
そんな授業開始の数分前にやって来たリオンをセオドールが物珍しげに見る。
息を整え、少し乱れた服を直しながらリオンは「まぁな」と遅れるに至った経緯を話し始めた。
「道に迷った一年生がいてね。近くにゴーストも居ないようだったから案内してたんだ」
「お人好しなことだ」
「自覚はしてるさ」
席に着き、先生を待っていたリオンは少しして二人の人物が教室に入ってくるのを見た。
「やぁスリザリンの諸君。待たせて悪いね」
ローブを翻し、生徒の前に立ったアレフ・サロウは笑顔でスリザリンの五年生を見渡す。
そして教室の隅に用意されていた椅子にドローレス・アンブリッジが座って、手に持っていたボードに羽根ペンで何かを記入し始めた。
「さて。今回は見ての通りアンブリッジ先生が査問官として動いているため俺が座学と実技、両方を受け持とう」
アンブリッジを目の端で見ていた生徒がアレフの方を向く。生徒全員が集中したことを確認して頷いたアレフは改めて今回の授業内容を説明することにした。
「突然だが五年生の諸君。皆が五年生の授業を受ける上で常に意識しておかなければならないことは何か、答えられる人は? ───お、早かったなミスター・ザビニ。どうぞ」
「“O.W.L.試験”だろ? 五年生の学年末に受ける普通魔法試験だ」
「百点満点の解答をありがとうザビニ。その通り、五年生にはO.W.L.試験というイベントがある」
ザビニの答えに満足したアレフは“O.W.L.試験 ”というワードを聞いた生徒の何人かが嫌そうな顔をしたのを見逃さなかった。
「今何人か嫌な顔をしたな? 分かるよ俺もどっちかと言えば実践派だからね。けど、これに合格しないと来年に受ける科目が減ってしまう。そうなれば将来にだって影響するから頑張らないとな」
「であれば、無駄話をせずにさっさと授業に移っては如何かしら? 座学だけを念入りに」
アレフの話を遮って割り込んできたアンブリッジにスリザリンの五年生は鬱陶しそうな顔をするが、そんなことを気にもしていないらしいアレフは穏やかな笑みを浮かべてアンブリッジに答えた。
「なるほどなるほど……確かにその通りですねミス・アンブリッジ。しかし座学だけを念入りにという考えには些か同意しかねますが」
「……何故です?」
自分の意見に反対されたことにアンブリッジは顔を歪めるがアレフは気にすることなく話を進めた。
「確かに防衛術において座学というのも大事な要素の一つです。しかし実践を疎かにしていては防衛術の意味が無い。防衛術は生徒に闇の魔術から身を守るために存在します。頭に詰め込むだけで呪文を扱えるなら苦労はしませんよ」
「座学を中心に覚えた方が将来に役立ちます。実践で覚えたことなど扱う場面はそう無いのではなくて?」
「それは闇祓い達に対する侮辱と捉えられかねませんよ? 彼等は貴女が軽視している実践に取り組み、成果を挙げてきたのだから。それに今は時期が時期です。不用意な発言は控えてください」
ぴしゃりと言ったアレフに表面上は取り繕ったアンブリッジは椅子に座り直す。その一連の流れを見ていたスリザリン生の内の何人かが吹き出したが二人とも気にする様子は無かった。
いや、アンブリッジだけは不機嫌そうな顔でボードに何かを記入しているので実は聞こえていたのかもしれない。そうだとしても罪悪感など微塵も湧かないが。
「さて、少し時間を取っちゃったけど始めようか。今日はこれまでに出たO.W.L.試験の過去問からいくつか引っ張って来たからそれらを解いてもらう。全部で三問。それら一つ一つを全員で解くんだ。一問でも間違えれば再提出」
アレフが懐から一枚の折り畳まれた羊皮紙を取り出して机に置くと、スリザリンの五年生はその羊皮紙の回りに輪となるような形で座る。
「ちなみにグリフィンドールの五年生がやった時は一度再提出になったぞ。スリザリン生の結束力を俺に見せてくれ」
その言葉に生徒の殆どが悪い笑みを浮かべる。そうしてより一層羊皮紙の問題に真剣に取り組むことにした。
「まず一つ目。『レダクト』、『ボンバーダ』、『エクスパルソ』の呪文の違いを答えよ……誰か分かる奴は?」
代表してセオドールが羽根ペンを持って質問を読み上げて周りを見回すと、一部を除いて首を傾げていた。
「『レダクト』は粉々呪文だったよな?」
「あぁ。んで、『エクスパルソ』は爆破呪文だから……この二つに関しては対象を粉々にするか爆発させるかの違いだと思う」
マルフォイとリオンが話し合うのを見て、セオドールがその事を羊皮紙に記入する。
「『ボンバーダ』って『エクスパルソ』と同じ爆破呪文じゃなかったかしら?」
「いや? 『ボンバーダ』は確かに爆発を起こすが対象を砕くのが本来の用途だ。爆発だけを起こす『エクスパルソ』とは明確に分けられる」
パーキンソンの疑問にザビニが答え、セオドールが羊皮紙に記入する。そして残す『レダクト』と『ボンバーダ』の違いについては結局『砕ける』のには変わらないのだから違いは無いのではないかと誰かが言い、それにはリオンが首を横に振った。
「いや、『レダクト』と『ボンバーダ』にも明確に違いがある」
「そうだ。『レダクト』は対象物を粉々にするが『ボンバーダ』は対象物を爆破させて砕くというプロセスがある。単純に粉々にするのと爆破させて砕くという手順の違いがある以上、それが明確な違いになる」
リオンの言葉を引き継ぐように伝えたセオドールに一部の生徒から感嘆の声が漏れる。そうして記入を終えたセオドールは二問目に目を通した。
「次──守護霊の呪文を使って呼び出す動物が変化するのにはどんな理由があるか答えよ──一問目と比べて難易度が高くないか?」
セオドールのぼやきに誰もが頷く。セオドールがぐるりと見回し「守護霊の呪文が分からない奴は?」と聞くと何人かが手を挙げる。
手を挙げていない者の中に知ったフリをしている奴がいるのもセオドールは見抜いていたが口には出さなかった。
「守護霊の呪文に関しては扱える奴に話を聞く方が早いだろう──そういう訳だリオン。説明しろ」
「来ると思ったけどさぁ……」
スリザリン五年生の中で唯一守護霊の呪文を完璧に扱えるリオンにセオドールが話を振ると、予想していた通りの展開になったことにリオンは溜め息を吐きながら全員の視線が己に向いたことを確認し、出来るだけ聞き取りやすい声量で話し出した。
「守護霊の呪文は、『自分の中にある幸福の記憶を媒介として守護霊を作り出す』魔法だ。自分が最も幸せだと思う記憶を呼び起こして唱えることで守護霊を作り出せる。
ただし完璧な有体の守護霊を作り出すのにはかなりの力量が必要になってくる。その前段階の白い靄のような物でなら扱える人は多いけど有体の守護霊となると僅かしかいないらしい。後、知っている奴も多いと思うけどこの呪文は唯一ディメンターを追い払える呪文でもある───こんな感じで良いか?」
振り向き確認してくるリオンに頷いてから、クラップとゴイルに噛み砕いて説明しているマルフォイを横目にセオドールは改めて話し出した。
「とまぁ、それが守護霊の呪文だ。──で、その守護霊が変化するのはどんな理由があるかと問われている訳だが」
そして再度全員が首を捻る。呪文でさえあやふやなのにそれが変化する理由を答えよとなると、分からないとなるのも無理はなかった。
「あー……どっかで聞いた記憶があるんだけどなぁ……」
唸り、考え込むリオンの横に座っていたダフネが「あっ!」と声を上げるとダフネの頬を突いたパーキンソンとミリセント・ブルストロートがビクッと肩を震わせる。
「何か分かったのかグリーングラス」
「えぇ。この前図書館で本を読んでいたときに見かけたのだけど『守護霊の呪文によって呼び出されるパトローナスはその人物が強い思いを抱いている相手がいる場合、稀にその人物のパトローナスと同じ動物に変わることがある』って書かれていたの」
パーキンソンとブルストロートの頬をつねり返したダフネが話した内容に誰もが納得したような声を出す。
「なるほどな、つまり……」
「強い思いを持っている奴がその人物の『最も幸せ』な記憶となったことで守護霊の変化が起きる訳か……」
リオンとセオドールはダフネの考えに納得が行くのか何度も頷きながら羊皮紙に答えを記入していく。
「さて、最後の問題だな。蜘蛛を撃退するのに有効な魔法を一つ答えよ───知ってる奴は?」
「『アラーニア・エグズメイ』だろう」
セオドールが聞くと間髪入れずにマルフォイが答える。最後の問題の簡単さに思わず全員が拍子抜けしたかのように息を吐いた。
「先生解き終わりました!」
パーキンソンが声を上げるとアンブリッジと話していたらしいアレフがやって来て答案を受け取る。
アンブリッジの顔が不機嫌そうに歪んでいるのを見たリオンは『いい年して全身ピンクコーデにでかいリボンとか恥ずかしくないのか……ないんだろうなぁ』とか『女の子は皆お姫様って言うけど、あれじゃお姫様はお姫様でもガマガエル界の悪役令嬢だよな』とか考えたりしたが口に出すことはしなかった。
「うん、全問正解! 凄いな。まさか一回目で解き終わるなんて思ってもなかったよ。二問目は特に難しくしたのになぁ」
「やっぱりあれ難しかったんだな……」
驚きだと語るアレフにやっぱり二問目は難しかったんだと全員が納得した。
「スリザリンに二十点。それに自ら率先して纏め役をしてくれたミスター・ノットと二問目の守護霊の呪文について詳しく説明したミスター・アーデルに十点ずつ。皆、よく頑張ったな」
アレフの称賛にスリザリン生は得意気な顔をする。セオドールが見えないように小さなガッツポーズで喜びを発散したのをリオンは視界に収めたが言及することはなかった。
そんな彼らを見たアンブリッジが体型に見合わぬ俊敏さで立ち上がると出口の方へ歩いていく。
「おや。お帰りですかミス・アンブリッジ?」
「───えぇ、審査は終わりましたので」
とぼけたように話し掛けるアレフにアンブリッジは嫌悪やら侮蔑やらを笑顔で隠して応対すると足早に教室を去っていった。
「まったく……態度の分かりやすいガマガエルめ……」
そんなアレフの小さな呟きを近くに座っていたブルストロートは聞き取ったが、それはスリザリン生全員が思っていることなので聞き咎めることはしなかった。
「想定していたよりずっと早く終わったな……まだ時間は半分も残ってるから、次は実技に移ろうか」
そう言ってアレフは生徒達に壁際に寄るよう促すと杖を振って机や椅子を脇に退かし、かなりの広いスペースを作り上げた。
左右に別れた生徒達の間に立ったアレフがとびきりの笑みを浮かべて話し始める。
「今日の実技だけど……初回ということもあってどこまで君達が呪い合いを行えるのか見ておきたい。まずは俺を相手に二人がかりで挑んでもらう。その後にそれぞれのペアでここに立ってどれ程呪い合えるかを確認するよ」
ぐるりと生徒達一人一人に聞かせるようにして話すアレフにスリザリン生が僅かに沸き立つ。
「そうだな……じゃあマルフォイとアーデル。二人とも俺のところに来てくれ」
アレフが指名すると、指名された二人が人混みを分けてアレフの元に歩いていく。
そして二人と向かい合う形になったアレフが再度話し始める。
「マルフォイは監督生だね? 関係無いかもしれないけど監督生になったらもしかして先生達が来るまでの間で暴れる生徒を大人しくさせる必要が出てくるかもしれない。そういうときに杖捌きが覚束ないんじゃかっこつかないだろ?」
「それはまぁ、そうだが……」
「そしてアーデル。君は復活したヴォ──例のあの人と対峙したね? 恐怖で足がすくんだ? だとしても生きるためには抗うしかない。彼と敵対するのならね」
この先生はとこまで知っているのだろうとリオンはほんの僅かだが驚愕した。もしかしたら開心術でも使ったのかもしれないと思い直し、アレフの目を見つめ返す。
「そしてこれは“闇の魔術に対する防衛術”だ。危険な魔法、悪辣な魔法使いから身を守る術を学ぶための授業。だから実技っていうのはどうしても必要になってくる。どっかの誰かみたいに座学だけやってれば良いなんて授業じゃないからな」
その言葉に全員がアンブリッジを思い浮かべてクスクスと嗤う。彼らの中でアレフに対する好感度は鰻登りだった。
「さてと。それじゃ呪い合おうか。これは決闘なんて格式張ったものじゃない。実際の戦闘では相手は待ってくれない。一瞬の油断が死に繋がる。だから「
話を遮って武装解除呪文を飛ばしたリオンに誰もが驚愕する中でアレフだけは分かっていたかのように盾の呪文で防いだ。
「お、おいリオン。いきなり何を……」
「先生が言ったろ? これは決闘じゃないって。つまりは不意打ちしてこいってことだよ」
「その通り! さっきも言ったけど実際の戦闘でお辞儀するなんてただの死にたがりにしか見えないからな。だからこうして不意打ちをすることは決して卑怯なことじゃないよ。まぁグリフィンドールでやった時は不意打ちは無かったな」
そりゃグリフィンドールは不意打ちなんてしないだろうなとリオンは苦笑した。マルフォイも言われて杖を構え直す。不意打ちに対処できるようにした二人にアレフは笑顔で頷くと早速呪詛を飛ばす。
「プロテゴ!」
「ステューピファイ!」
飛んできた呪詛をリオンが防ぎ、その隙間を縫うようにマルフォイが失神呪文を飛ばすが同じように盾の呪文で防がれる。
それを合図にしたかのように三人の呪い合いが始まった。
「
「
リオンが衝撃呪文を飛ばしマルフォイは蛇を出現させてアレフにけしかける。
しかし衝撃呪文は盾の呪文で防がれ、蛇は消失呪文で消されてしまった。
「あぁクソ、これも駄目か!」
「簡単に対処されてるなぁ……」
二人はそう愚痴りながらも杖を振る手は止めない。そんな二人の口元に笑みが浮かんでいるのを本人達以外は気付いていた。
「
「うわぁっ!?」
そしてアレフが飛ばした呪文がマルフォイに直撃し、マルフォイの足が不規則なステップを刻む。
それを見たリオンはマルフォイに
「ぬぐっ……!」
「詰めが甘いぞアーデル。フリペンド!」
動きを止められた隙に衝撃呪文を撃ち込まれ、リオンの体が床を転がる。
しかし、それによって動くようになった体を起き上がらせると飛んできた呪詛を盾の呪文で防ぎ、空いていた左手にエドワードの杖を握りしめてその杖でマルフォイに掛けられていた呪文を解除する。
「二本目の杖を持っていたか!」
「念のためにってね!」
リオンが二本目の杖を持っていた事に驚愕したアレフはしかし、飛んできた二つの呪詛を的確に捌くと即座に失神呪文を飛ばしてマルフォイを失神させた。
「はやっ……!?」
「意外とやるね。気を抜いてられなくなったよ」
アレフは心の中で己の慢心を恥じた。学生だからと侮っていたが様々な奇跡に助けられたと言えどあのヴォルデモートから逃げ延び、父に凄腕の闇祓いを持つ少年とマルフォイ家の跡取り息子。予想していた以上に高い実力を持っていた二人にアレフは高揚していた。
即座に失神呪文を飛ばしたのも時間を掛けるとこちらが不味いと判断したからだ。
「悪いが短期決戦で行かせてもらう」
「そう簡単にやられませんよ……!」
アレフから漏れ出る魔力がピリピリと肌を焼き、リオンは杖を握る手に力を込める。
失神したマルフォイを生徒達の下に運び、改めて二人は呪い合いを始めた。
「
「
アレフが炎を飛ばすとリオンは杖から水を出してインセンディオを掻き消す。
呪詛を飛ばされては相殺され、防がれ、妨害されを何度か繰り返した後、アレフがリオンに話し掛ける。
「アーデル、これは決闘じゃないって話したろ? つまりはこういうのだって出てくるんだ」
そう言ってアレフが取り出した物に全員が目を見開く。リオンの顔に焦りが浮かんだ。
『“噛み噛み白菜”だ!!』
声を揃えて全員がそれの名前を呼ぶ。ガチガチと牙を鳴らして襲い掛かってくる白菜──リオンにはどちらかと言えばキャベツに見えたそれ──にリオンは慌てて失神呪文を飛ばして失神させたがアレフが新たに二つの噛み噛み白菜を投げてきたことで余裕が失われた。
「なんでっ……こんな、もの……持ってるんですか!!」
「俺の師匠というか先生みたいな人が噛み噛み白菜を栽培してるんだ」
「辞めちまえその農家!!」
襲い来る白菜という植物の定義ぶっ壊しなそれになんとか対処しながらアレフを問い詰めると、そんな返答が返されたのでリオンはキレた。
そしてなんとか全ての白菜を失神させたリオンにアレフの失神呪文が直撃して、リオンは白菜を全て失神させたという満足げな顔のまま意識を失うことになった。
◆ ◆ ◆
「俺しばらくは白菜見たくないよ……」
その後、あれよあれよと時間が進みリオンのそんな一言と共に防衛術の授業は終わりを迎えた。
スリザリンの生徒が全員退出したのを確認したアレフが一息付くと同時に、背後で突如炎が燃え上がったかと思うとそこから一人の青年が不死鳥と共に姿を現した。
「やぁアレフ。元気にしてたかい?」
「先生、お久しぶりです」
突如現れたグリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクロー、スリザリンの意匠が施された黒いローブを羽織り、ヘンテコなメガネを掛けた青年───アレフが“先生”と呼んだ彼は「もっと驚いてくれたっていいじゃん……」と不貞腐れていた。
そんな青年にアレフは苦笑しながら肩に乗ってきた不死鳥を撫でる。
「それでいきなりどうしたんですか? この前頂いた手紙で近々戻ってくるとはお訊きしましたけど……」
「いやぁなんとなく? 久しぶりに戻ってきたからアルバスに挨拶に行こうと思ってホグワーツに来たんだけどそしたらアレフがホグワーツの教師になったって言うじゃん! だったら会わないわけにはいかないよねって!」
「曾祖父が聞けば呆れそうな理由ですね……」
相変わらずの目の前の青年の行動──こう見えて百歳は超えている──にアレフは溜め息を吐く。
だがこの人が居なければ曾祖父はきっとアズカバン送りとなって自分は生まれていないし、曾祖父の妹も長生きすることは出来なかっただろうと思うとなんだか複雑な気分だった。
「それで、またホグズミードに?」
「そうだね。また店を構えるつもりだよ。良かったら今度奥さんと子供と一緒に遊びにおいでよ」
「息子はともかく妻はどうでしょうね。色々あって忙しい人ですから」
「……そっか。そういえば君の奥さんはクラウチ家の子だっけ」
少し配慮が足りなかったかな……と青年は考えるが自身の不死鳥の鳴き声で考えを中断した。
「お、そうだね。それじゃ僕は行くよ。またねアレフ! 教師頑張ってねー!」
その言葉を残して青年は不死鳥による空間転移で炎に包まれて姿を消す。
あまりの展開の早さに唖然としながらも「戻って紅茶飲むか……」と意識を切り替えて自身も防衛術の教室を後にした。
アレフ・サロウ
三十六歳で元スリザリン生。『ホグワーツ・レガシー』に登場するセバスチャン・サロウの曾孫。
魔法省内閣府・魔法統括局というなんか凄そうな場所に勤務している。同い年のクラウチ家出身の妻と八歳の息子がいる。
それにしても最後に出てきた青年は誰なんだろうなぁ……いやぁ誰なんだろうなぁ……