【本編完結】ハリー・ポッターと何も知らない転生者   作:シャケナベイベー

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ダンブルドア軍団

「俺としては君をこんな場所に連れてくるのは気が引けるんだが」

「あら。私は貴方と一緒なら構わないわ」

 

 ホグズミード休暇の今日。俺はダフネを伴って会合が開かれる店にやって来た。

 場所はホグズミードにある小さな酒場で、いかにもと言った雰囲気がダフネには似つかわしくないだろうと思ったのだが、さらりと返されて胸を押さえた。

 

 実に素晴らしい返しだ。的確に胸を撃ち抜いてくる。付き合って二年が経とうというのに、いつまで経っても俺はダフネのストレートな表現に慣れないでいた。悔しい。

 

「……まぁ、スリザリンもそれなりに居るし、疎外感は無いだろうよ」

 

 辿り着いた酒場の汚らしい扉を大きく開くと、ダフネを先に通す。

 笑顔で俺の隣を通り過ぎていったダフネを見送ると、盗聴防止、防音その他様々な術式を酒場に施してから扉を閉めた。

 

 

 

 

「予想していた以上に数が多いな……」

 

 酒場の中には大勢の人物が居た。

 

 ざっと見ただけでもグリフィンドールからネビルとジニー、パーバティにフレッドとジョージ、ハッフルパフからセドリックとアーニー、ジャスティンにザカリアス、アボットとボーンズ、レイブンクローからマークとランス、チョウ・チャン、ロジャー、パドマ、スリザリンからダフネとアストリア、その他俺が信頼できると判断した数名のスリザリン生。

 

 ちなみにセオドールとブレーズも誘ったのだが断られてしまった。だが応援はしてるし誰にも漏らさないと言ってくれたので一先ずは安心だろう。

 

 ふと、セドリックとチョウ、マークとボーンズというカップル組に挟まれるランスの姿が目に入った。

 ランスは両隣の静かに流れる甘い空気に今にも吐きそうな顔をしていたが、そんな自分を見つめる俺に気付いたのか助けを求めるような視線を向けてきたが無視してやった。

 状況が面白いし、何よりお前にラブコールの視線を送ってるレイブンクローの女の子に気付いてやれというのもあった。

 

「それでは、今から会合を始めたいと思います」

 

 ダフネが着席したのを見届けて俺もハリーの横に座るとハーマイオニーが切り出した。

 ハーマイオニーがこの会合について説明するのを聞きながら、俺は頭の中であることを考えていた。

 

(アンブリッジの奴に近付いて分かったが……アイツは思っていた以上に選民思想が強い)

 

 相手が名門の出ならば露骨に贔屓し、そうでない者やマグル生まれなどは無視するか侮蔑の視線を向ける……実に反吐が出るような考えだ。とっととくたばってほしい。

 

 だが、今の段階で奴を蹴落とすのは得策ではない。ここで怪しい動きを見せればあの女に疑われて遠ざけられる可能性が高い。そうなっては俺がわざわざあんな奴に媚びへつらった意味が失くなってしまう。

 

 そもそも俺がアンブリッジに取り入ったのは、アンブリッジに気に入られることで奴に意見し、その動きを抑制するのが目的だった。

 奴のやり方に反対して正面から意見しては真面な効果は望めない。ならば奴の懐に潜り込んで裏から動きを操れば思うように動かせる筈だ。

 

(幸いにも俺はアーデル家という名門の出だからアンブリッジも簡単に絆されてくれたし……実に好都合だ)

 

 しばらくは奴にとっての可愛い小間使いを演じるが、その時になれば喉元を喰いちぎるまでだ。

 

「適切な自己防衛術を学ぶことが大切です。何故なら───」

 

 ヴォルデモートが戻ってきたからです。

 

 ハーマイオニーの言葉にその場のハリーと俺を除いた全員が息を呑んだ。どうやら俺が考え事をしている間に説明は終わっていたらしい。

 

「……そうだ。僕は確かに、例のあの人を見た。周りには死喰い人も居た。父さんから特徴を聞いていたから間違いない」

 

 全員がセドリックの方を見る。彼は強い眼差しで辺りを見渡すとハリーの顔を見て強く頷いた。

 ハリーの顔が明るくなり、ロンとハーマイオニーも笑顔になる。

 

「で、君はどうなんだいリオン。君も闇の帝王が復活したって言うのか?」

 

 マークが微笑みと共に俺に問い掛けてくる。分かりきった問いだろうに、わざわざ聞いてくるとは意地の悪い奴だ。

 

「勿論俺も認めるさ。何せこの目で見たんだしな。それにダンブルドアも言ってただろ? 例のあの人が戻ってきたと」

 

 ざわざわと部屋が喧騒に包まれる。やはり心の底では信じていなかったのだろう。しかし、ハーマイオニーが手を叩いて自身に注目を向けさせるとその喧騒も収まった。

 

「だからこそ、私達は防衛術をより詳しく学ぶ必要があります。アンブリッジの邪魔が入らないように」

「何か当てはあるのか?」

 

 スリザリン生の一人が呟く。その目にはマグル生まれのハーマイオニーに対する偏見はなく、この会合に真剣に臨んでいることが窺えた。

 

「まだです。そんな場所がホグワーツにあるのかさえ、分かりません。ですがそれでもやらなければなりません。今のままでは私達は抗うことさえ出来ないのだから」

 

 ハーマイオニーの言葉に納得したのか、それとも別の理由か、スリザリン生は大人しく座り直した。

 それと入れ替わるようにしてボーンズが口を開いた。

 

「守護霊を創り出せるって本当? 有体の守護霊を?」

「あ───君はマダム・ボーンズの知り合い?」

「私、スーザン・ボーンズよ。アメリア・ボーンズの姪。それで、本当に牡鹿の守護霊を創り出せるの?」

「あぁ」

 

 ボーンズの問いにハリーが少し口ごもりながら肯定すると、ハリーへの賛辞で騒がしくなる。

 当のハリーはその賛辞が気恥ずかしかったのか「でもリオンだって……」と矛先を俺に向けてきた。

 

「だったらリオンの方が凄いよ。三年生の時に守護霊の呪文を習って数回で完璧な有体の守護霊を創り出したんだから。……僕なんて結構掛かったのに」

「おい矛先を俺に向けるなよ。いや、お前だって十分凄いだろう。あの墓場での一件だってお前は立ち向かったじゃないか」

 

 君の方が、お前の方がなんて言い合いをしていると周りが温かい視線を向けていることに気付き、咳払いして座り直した。

 

「じゃあ皆、ハリーとリオンに呪文を教わりたいということで良いのね?」

 

 全員が頷く。そしてハーマイオニーが一枚の羊皮紙を取り出す。

 

「では、ここにそれぞれサインをしてください。くれぐれもこの事を他の人に漏らさないように。破ればとても後悔します」

 

 そんな脅しに近いハーマイオニーの言葉も構わず、フレッドとジョージの双子がいの一番にサインし、続いてジニーが署名する。さすがはウィーズリー家。

 その後も続々と署名が施されていき、ついに最後。俺の番となった。

 

「……乗り掛かった船だしな……」

 

 降りることなんてしないさ。

 

 そう言って、一番下の欄に署名を施した。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「“あらゆる集まりを解散とする”……これ、大丈夫なんですか?」

「あら。何か問題でも?」

 

 問題しかねぇよクソババア。

 喉を通りかかった言葉を殺し、アンブリッジの顔を見る。

 そこにはもう嬉しくてたまらないと言わんばかりの喜びの顔をしたガマガエルが居た。思わず吐きそうになる。

 

(これがダフネなら愛しさでも感じるだろうに……)

 

 こんな女がやるとここまで違うとは驚きだ。今のコイツの顔と来たらトロールにさえ劣るだろう。いつもか。

 

「クィディッチ、ゴブストーン、勉強会等々……ホントに全部廃止にするんですか?」

「えぇ。ホグワーツとは学ぶための場所。娯楽など必要ないでしょう?」

 

 クィディッチを廃止しようもんなら四寮のクィディッチチームだけでなくマクゴナガル先生も激怒しそうだ。

 というかコイツのやってることは最早校長みたいな物だ。明らかに自身の扱える範囲を越えた行いだろう。

 

「確かに勉強を学ぶための場ですが……生徒達にとっての癒しのようなものです。それを取り上げると暴動が起きかねませんよ?」

「そこは貴方の出番ですわ」

 

 人任せかよ。

 肝心なところで他人に任せるところに悪辣な性格が良く現れている。これが他人を駒のように扱い、自分は手を汚さずに目的を成し遂げるならば凄まじいほどにスリザリンらしいと言えるのだろうが、コイツの場合はある程度は自分で進めて切りの良いところで他人任せにするのだ。

 もう自分が関わっていると他人に周知させたタイミングで、だ。実に馬鹿だ。

 

「高々学生の俺に出来ることなんてありませんよ。それに、集まりを解散させるより重要な事があるんですが……」

「まぁ。何かしら」

 

 声を潜めれば喜色満面の顔でアンブリッジが近寄ってくる。吐きそうだ。

 だが、上手いこと集まりの解散からは話を逸らすことが出来た。後は俺の方で手を回せば何とかなるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で。肝心のハリーはどうしたんだ?」

「最近眠れないんだ……」

 

 練習場所が見つかったとハーマイオニーから聞かされ、話を聞きにグリフィンドール寮を訪ねてみればいつもの三人組に出迎えられたのだが、何故かハリーは船を漕いでいた。

 

「で、どこでやるんだ?」

「“必要の部屋”よ」

 

 曰く、その人が必要だと思ったものが現れる部屋。普段は目に見えないらしい。

 

「良くそんな場所見つけたな」

 

 俺が聞けば、その部屋は偶然に見つけたらしい。そしてハーマイオニーが懐から数枚の金貨を取り出す。

 

「レプラコーンの金貨じゃないよね?」

「違うわよ」

 

 ロンが嫌そうに聞くとハーマイオニーが切って捨てた。ロンはどうやらレプラコーンの金貨に嫌な思い出があるらしい。

 

「ここに番号が彫られているでしょう? これをこうして変えると……」

「……他の金貨の番号も連動して変わる、と……なるほど。これなら小鬼でもない限りは見破れないな」

 

 偽のガリオン金貨を手に取ってクルクルと回す。金貨なら持ち歩いていても不自然ではないし、アンブリッジのクソ野郎に見破れるわけがない。

 

 と、ハリーも金貨を手に取ったのだがその手つきは危なげだった。

 

「……仮眠を取るか?」

「いいよ……とうせ眠れないし……」

 

 廊下をずーっと進むんだ……。ハリーが呟く。その奇妙さに、眉根を寄せた。墓場の夢ならまだしも、何処とも知らない廊下の夢───“繋がり”が影響しているのだろうか。

 

 ───リオン、少しの間代わってくれ。

 

(爺ちゃん?)

 

 ふと、頭の中にエドワード爺ちゃんの声が響く。あの墓場での一件以降、こうして脳内で会話することが出来るようになっていた。魂の欠片でしか無い筈の爺ちゃんにここまでの芸当が出来たことに最初は驚いたが、今ではすっかり慣れてしまった。

 

 ───蛇の気配が濃い。対処しておくべきだろう。

 

(……分かった)

 

 目を閉じ、意識を集中させる。すると、俺の体かひとりでに動き出す。

 意識がある状態で交代というのは初めてだったが、こういう感じなのか。自分の体なのに自分のものではないような奇妙な感覚だ。

 

 そして、俺の体を動かしている爺ちゃんがハリーの正面に膝を突いて目線を合わせる。

 

「俺の目を見るんだ、ハリー」

 

 唄うような囁きが口から漏れる。そしてハリーの体がビクリと震え、目が段々と虚ろになっていった。

 

「お前は誰だ」

「僕は──俺様は──」

 

 ロンとハーマイオニーから短い悲鳴が上がる。爺ちゃんはそれに構わず、ハリーの目を見据えた。

 

「お前はハリーではない。お前は誰だ?」

「俺様は──ハリー──いや、僕……は──」

「とっとと去れ」

 

 爺ちゃんがそう言い放つと、辺りに充満していた重苦しい空気が消え、同時に体の主導権も戻った。

 

(爺ちゃん、今のは……)

 

 ───一種の開心術のようなものだろう。恐らく奴は気付いていないだろうがな。奴がやるにしてはあまりに脆い。

 

(……そう、か……)

 

 その言葉に安堵と焦りが浮かぶ。奴が、ヴォルデモートが繋がりに気付いていないのは良かった。だが、気付いていない状態でこれほどの影響なら実に危うい。

 ダンブルドアに報告すべきだろうな、とハリーを眺めながら思った。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 あの後、ハリーのことは二人に様子を見るよう告げて俺はダンブルドアにそれとなく報告した。

 アンブリッジの目を掻い潜って手紙のやり取りをするのも面倒だったので、したためた手紙を出現呪文の応用で直にダンブルドアのところに飛ばした。

 

 そして返ってきた手紙には『様子見するように。それとハリーとの接触をいつも通りに戻して構わない』と書かれていた。ハリーの中にいるヴォルデモートがこちらに害を及ぼす可能性は限りなく低いだろうから、と。

 恐らくハリーに影響を与えることは出来ても、周りの人間に影響を及ぼせるほどの域にはいないのだろう。

 

 

 ま、そんなこんなで俺もハリーと接するのをいつも通りに戻した訳だが……

 

「ステューピファイ!」

「おっと危ね」

 

 飛んできた呪文を盾の呪文で防ぐと、立て続けに呪詛が飛んできたので妨害呪文やら反対呪文やら避けるやらして無効化した。

 

「全部防ぐとかズルじゃない?」

「出来るからやっただけだが?」

 

 そう言って目の前のハリーに挑発的な笑みを向ける。それにムッとした表情をしたハリーが、今度は武装解除呪文を飛ばしてきたのでこれも盾の呪文で防いだ。

 

「インセンディオ!」

「アグアメンティ」

 

 飛んできた炎を流水で相殺する。

 

 なぜこんなことをしているのかと言えば、ダンブルドア軍団──ハーマイオニーが提案した集まりの名前だ──が呪文の練習を行うに当たって、どれだけの呪文を扱えるようになるべきなのかというのを示すために俺とハリーが決闘することになったのだ。

 

 つまるところ、使っていいのはこの集会で教えるべき呪文だけだ。そんなこと知ったこっちゃないとばかりにハリーがインセンディオを使ってきたが。

 

「こっちからいくぞ……エクスペリアームス!」

「プロテゴ!」

「ステューピファイ!」

「インペディメンタ!」

 

 俺が撃った失神呪文と武装解除呪文は盾の呪文と妨害呪文によって防がれる。

 それに思わず舌を巻く。ハリーのセンスが思っていた以上に高い。三校対抗試合でさらに磨かれたのだろうか。

 

(でも、まだまだだな)

 

 無言呪文で武装解除呪文を使い、ハリーの杖を奪取して突き付ける。それに呆気に取られたハリーは両手を上げて「降参だ」と告げた。

 

 ふぅ、と息を吐く。ハリーが全員に先程の決闘の解説をするのを横目に、俺はハリーのセンスの高さとそれに追い付けるだけの人間がこの場にどれだけいるかに思いを馳せた。

 

 相手にするのは死喰い人。つまりは大人だ。未だ学生の自分達では敵わない奴らの方が多いだろう。

 うかうかしてられないなと、改めて気を引き締めた。

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