【本編完結】ハリー・ポッターと何も知らない転生者 作:シャケナベイベー
「……駄目か。上手く視えん」
天文台の塔、傍らに灰色のレディを伴って俺は深く溜め息を吐いた。
「未来視といえど、毎回望む事象を視認できる訳ではないわ」
貴方は巧く扱えている方よ。慰めの言葉を掛けられ、半透明の手が添えられる。
それに僅かに礼を返し、再度未来を探ろうとして──前のめりに倒れ込んだ。
「これ以上は無理かぁ……」
「無理は禁物よアーデルの子。時を垣間見て操るのは只人に許されてはいないのだから」
袖で口を覆い、鈴の声で笑うレディに相も変わらず雅な言葉遣いだなぁと苦笑する。
そもそも俺がこんなことをしている理由は、未来視をより上手く扱えるように練習している他に、ハリーが見たという謎の廊下について何か情報を得られないかと考えたことも原因だった。
とはいえ結果はこの通り。未来視の扱いには慣れたものの、ハリーの夢については全く分からず仕舞いに終わった。
「さぁ戻りなさい。そろそろあの大柄な子の授業があるのでしょう?」
「飼育学ですね……それではレディ、俺はこれで失礼します」
「えぇ。またいらっしゃいレオダンデの
微笑を浮かべ、手を振るレディに騎士の礼を取ってから天文台の塔を抜け、禁じられた森に向けて歩を進めた。
◆ ◆ ◆
「……俺は見えないと思ってたんだけどなぁ……」
雪が降り積もる禁じられた森。横で満面の笑みを浮かべるハグリッドを尻目に、俺は眼前の生物を眺めていた。
漆黒の馬のような体躯に巨大な翼を広げた生物──不吉な死を運ぶ天馬『セストラル』は、ゆっくりと俺に近付き目と鼻の先に迫ってきた。
「多少不気味かもしれんが、大人しいしええ子だぞ」
「いや、そりゃあ今までのと比べりゃマシかもしれないけども」
「エヘン」
太陽のような笑みを浮かべるハグリッドにジト目を向けると、少し後ろでそんな気色悪い咳払いが聞こえたが俺もハグリッドも無視した。
「ハグリッドのことだから知ってるだろうけどさ。セストラルって『死を見て、受け入れた者にしか見えない』んだよ。そんな奴を連れてきたって授業になるか?」
「それでも乗ったり餌をやったりは出来るぞ?」
「あー……うん、そうかも……」
子供に言い聞かせるようにして話したが、ハグリッドには心底不思議そうな顔で返されたのでもう何も言わないでおこう。
ちなみに、ちらりと他の生徒の方を確認したがセストラルが見えてそうなのは俺以外だと、セオドールに加えてハリーとネビルくらいのようだ。
そして何故俺にセストラルが見えているのかといえば、これは仮説だが『前世の俺』が死んだ事が原因ではないかと考えていた。
前世の俺が死んで、リオン・アーデルという人間として生まれ変わった。つまりは一度死んだということを受け入れ、そしてその死んだはずの人間が新しい肉体を得て活動しているという良く分からない状態になったことで例外的にセストラルが見えているのではないか──というのが俺の説だ。
実際に合っているのかは分からないが、あながち間違いでもないだろう。
そんなことを考えていると、俺がいつまで経っても自分に触れないことに焦れたのかセストラルが頭をグリグリと押し付けてくる。
「おぉ。コイツがここまで誰かに甘えるなんて初めてだ」
「そ、そうなのか──わぷっ。ちょ、くすぐったいって……!」
ハグリッドの声と共にセストラルがさらに強く頭を押し付けてくる。その際にたてがみが肌に当たってくすぐったさを感じた。
「いいかしら。そもそもこんな普通の人には見えない動物を使うだなんてどんな神経を──乗馬など──」
と、そんな俺達に業を煮やしたらしいアンブリッジがハグリッドに詰め寄って喚くが、当のハグリッドはどこ吹く風だ。
「そりゃお前さん、コイツのことを侮りすぎとる」
加減は出来るんだぞ。そう言ってハグリッドはセストラルを撫でるが、恐らくアンブリッジが言いたいのはそういうことではないだろう。教えてやる義理などないが。それに──
「……馬鹿にされるのは勘に障るだろ?」
セストラルを一撫ですれば、彼は足と翼を折り畳み地面に伏せた。乗れと言うことだろう。
ちらりとハグリッドを見ると、満面の笑みで頷いたので早速セストラルの背に付けられた鞍に飛び乗る。
「おぉっ……とと。ははは、準備万端ってことか?」
立ち上がり、その翼を広げて嘶いたセストラルを撫でる。どうも俺を乗せて早く飛びたいらしい。そして足で軽く腹を叩けば、重力を感じさせない動きで天馬は空に昇った。
「うぅぅぅわぁぁ!! おぉ速い速い!! あはははは!!」
飛び上がったセストラルに道を譲るように木々が拓かれ、キラキラと光る朝日が俺とセストラルを照らした。
俺はそんな光景の美しさや、セストラルの速さに驚いたやらで笑うことしか出来なかった。
そうしてしばらく森の上空を飛んだ後、アンブリッジの横に雪と木の葉を巻き上げながら着地した。
「あぁすみませんアンブリッジ先生! 大丈夫でしたか!?」
慌ててセストラルから降り、泥はねと落ち葉まみれになったアンブリッジを心配する──風を装う。
実際は俺の思いを汲み取ったセストラルがやってくれたのだ。実に賢い子だ。沢山撫でてやろう。
そしてアンブリッジはそんな俺の心配を本心と受け取ったのか無理矢理な笑顔を作っていた。まぁ内心はキレ散らかしているのだろうが。
「君なんでグリフィンドールじゃないんだい?」
「貴方、ひょっとして詐欺師の才能があるんじゃないかしら?」
ロンとハーマイオニーがそんな風に呟いたが、どこを見て俺をグリフィンドールだと思うのだろうか。それに詐欺師とは失礼な。素晴らしい狡猾さだと称えてほしいもんである。
すると先程のセストラルが俺に近付いてきてたてがみを擦り寄せる。よほどの甘えたがりなのか随分と懐かれてしまったようだ。
「流石だなぁリオン。お前さんがここまでセストラルに懐かれるのはちと予想しとらんかった」
「俺もさハグリッド───と、どうしたどうした。撫でてほしいのか? おーよしよし。可愛い奴め」
寄ってきたハグリッドとの会話中にもセストラルが甘えてくるのでついそちらに掛かりきりになる。
ふと、掌にセストラルの綺麗な長い毛が一本、収まっているのが分かった。
「……あげるってことか?」
聞けば、彼は鼻を鳴らした。肯定らしい。
礼を告げ、保存魔法を掛けた上でパックに詰めた。何故そんなことをしたのかと問われれば、いつか必要になる日が来るかもしれないという、そんな漠然とした予感からだった。
◆ ◆ ◆
ダンブルドア軍団──略称DA──の会合は今のところ順調だった。皆思っていた以上に飲み込みが良く、想定していた何倍も早い段階で進められていた。
「──と、いうわけで。クリスマス休暇も近くなってきていることだしこれまでのおさらいといこう」
必要の部屋に集まるメンバー達の前で俺はそう宣言した。新しい呪文を覚えるのではなく、これまでやったことの復習ということに何人かが不満の声を上げたが俺はそれに首を横に振った。
「復習だって身に付けるための立派な一歩だ。これまでの生活で一度出来たから完璧に出来るようになるなんてことは無かっただろ?」
「……うん。そうだね。僕は良いと思うよ」
ぐるりと見回し、諭すように話すとネビルが同調するように頷き、それに釣られて他の生徒も納得したようだ。
「ありがとうネビル───さてと。そんな訳でこれまでの練習の成果を発揮しようか。武装解除、失神、妨害、石化───他にもこの集会で学んだことは多いはずだ。だろ、ハリー?」
「うん。皆、ホントに頑張った。だからこそ、ここで練習を疎かにして今までの成果を無駄にしてほしくないんだ。僕らは沢山頑張ってきた。これまでの努力は決して裏切らない」
ハリーが力強い眼差しで告げると他の生徒も頷いて各々の練習に取り掛かった。
「……最初はどうなるかと思ったけど、案外何とかなったな」
「うん。でも僕だけじゃここまで皆を教えられなかった。リオンのお陰だよ」
「誉め言葉は受け取っとくよ。けど、積極的に皆を教えたのはお前だ。お前こそ胸を張れよ」
隣に立つハリーに話を振ればコイツは他人を誉めてきたので軽く小突いて自分自身を第一に誉めるように言った。
何よりも頑張った自分を誉めてやらないでどうするのか。
「リオン。手合わせ願えるかい?」
「好き者だなお前も。ま、俺も構わないけどさ」
ハリーが決闘の申し込みをしてくるのは何も初めてではない。
初めてダンブルドア軍団の会合で決闘して以降、こうして会合の時に決闘するのが俺達の間では当たり前になりつつあった。
「それしゃいくぞ……エクスペリアームス!」
「インペディメンタ! ステューピファイ!」
先手必勝と武装解除呪文を放てば、妨害呪文で打ち消され、そこから流れるようにして失神呪文が飛んでくる。
それを盾の呪文で防ぐと失神呪文を返したが、これは盾の呪文で防がれた。
「上達スピードが速くないかお前」
「でも、まだ君の方が強いじゃないか!」
お互いに軽口を叩きながらも杖を振る手は止めない。気付けば先程まで練習をしていたメンバーも全員が手を止めて俺とハリーの戦闘を目に焼き付けていた。
「ペトリフィカス・トタルス!」
「プロテゴ! インカーセラス!」
ハリーが石化呪文を撃ち込み、それを盾の呪文で防いでからハリーの体を縛る──がこれも対処される。
そんな風に呪い合いを初めて暫く。今回は何時にもましてハリーが粘るので、そろそろ本気でいこうと無言呪文を行使しようとして──
ハリーの新緑の目に、赤色が混じった。
「───ッ!!」
それを見た瞬間、全力で盾の呪文を張る。ハリーの杖が薙ぎ、激しい爆発と共に閃光が盾の呪文を食い破り、衝撃で俺の体が吹き飛んだ。
「づっ……!!」
「えっ……?」
固い床に打ち付けられ、苦悶の声を漏らす。急いで顔を上げればハリーは困惑の表情を浮かべていた。
「え、あ……ご、ごめんリオン!大丈夫だった!?」
「……あぁ。何てことないさ。見違えたなハリー」
状況を理解して慌てて駆け寄ってくるハリーを手で制し、しっかりと立ち上がると笑顔を浮かべる。
酷く申し訳なさそうな顔をするハリーの肩を叩いて「皆のところに行こう」と促した。
(一瞬見えたあの目──あれは……)
心に一抹の不安を抱えたまま、集会の時間は過ぎていった。
「ねぇリオン。今度のクリスマス休暇はホグワーツで過ごすの?」
会合が終わり、寮へと戻る道でダフネにそんなことを聞かれた。
「いや、なんか父さんから帰ってこいって手紙があったから帰るつもりだけど───なんかあったのか?」
「そうなの? うーん、それなら言わない方がいいかしら」
「その言い方は逆に気になる奴だろ」
俺の返答にダフネが困ったように眉根を寄せ、その言い方に俺の興味が持っていかれた。
「まぁ言うだけならタダよね───実は今度の休暇で、グリーングラスの本家分家の双方が揃ってパーティーをするのだけど、分家の当主様が貴方のことを聞いて会ってみたいって仰ったらしいの。私も一度は貴方を我が家に招待したいと思っていたし丁度良いかと思って」
「成る程なぁ……」
ダフネの話に納得すると同時に、その話の答えを口にした。
「一度父さんに確認してみるよ。それでもしOKなら是非招待を受けるさ」
「あら、予定があるんでしょう?」
「いつやるのかは聞いてないし、もしかしたらズラせるのかもしれないしな。そこのところは聞いてみないと分からないけど」
「そう。それならお願いするわ。出来れば貴方とクリスマス休暇を過ごしたいもの」
そう言って、ダフネはたおやかに笑った。
ちなみに、セドリックが生きているのにハリーにセストラルが見えた理由は『リリーが死んだ瞬間を赤ん坊の時に目撃したから』ということにしています。