【本編完結】ハリー・ポッターと何も知らない転生者   作:シャケナベイベー

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拭えぬ罪

 ───アーサー・ウィーズリーが襲撃された。

 

 クリスマス休暇が間近に迫ったある日の夜。スネイプ先生に叩き起こされて伝えられたその言葉に寝ぼけた頭が完全に覚醒した。

 

「死喰い人にですか」

「そこまでは我輩も分からん。校長がお前も連れてこいと言ったので連れてきているだけだ」

 

 校長室に向かう途中で下手人を聞いてみるが、スネイプ先生は聞かされていないようでそう返されてしまった。

 

 校長室に入れば、そこには青い顔をしたハリーとロン、フレッドとジョージの双子にジニーも居た。

 

「ウィーズリー家のメンバーは兎も角として何故ハリーまで?」

「……僕、アーサーおじさんが襲われるところを見たんだ」

 

 口をついて出た疑問にポツリとハリーが溢した。曰く、夢で蛇がアーサーおじさんを襲っている場面を見たと。

 

「今、肖像画を魔法省に向かわせて確認を取っておる。それにフィニアスをシリウスの家に向かわせて受け入れ体制を整えさせるようにと」

 

 座っていたダンブルドアが立ち上がって俺に視線を投げる。俺はそれを見つめ返し、気になっていたことを聞いた。

 

「ダンブルドア先生、どうして俺も呼んだんですか?」

「君も今回の件について知っておくべきだと判断した。酷だと思うが付いてあげてほしい」

「分かりました。俺自身アーサーさんの事が心配ですから」

 

 ダンブルドアの提案を快諾し、ハリー達の方に向き直ると、丁度肖像画達が戻ってきたところだった。

 

「アイツは『喜んで』と言っておりましたぞ。私の玄孫は我らが清廉なるブラック家に招く者達の選別が上手くないようですな」

「守衛に伝えておいた。アーサーは聖マンゴに運び込まれ一命を取り留めたと」

 

 その朗報にその場にいた者達の緊張の糸が切れるのが分かった。ハリーも微かに笑顔を浮かべている。

 

「何よりじゃ。さて、それでは君達をグリモールド・プレイスまで送らねばな」

「何で行くんですか? フルーパウダー?」

「煙突飛行も手じゃが万が一があってはいかん。ポートキーを使おう」

 

 ジョージの疑問に答えたダンブルドアは机の上に古びたヤカンを置いた。これがポートキーなのだろう。

 ダンブルドアがヤカンの周りに集まるよう言い、俺達はヤカンを囲むようにして立つとポートキーに触れた。

 

「準備は良いかの? では三つ数えたら転移を行う」

 

 集まった俺達を見回してダンブルドアが告げる。そうしてカウントが始まり、俺はチラリとハリーを盗み見た。

 

 ハリーがダンブルドアを見上げ、ダンブルドアもまたハリーに目線を合わせる。

 すると、ハリーの顔が苦痛と苦悶を滲ませた。ダンブルドアはそれを分かっていたかのように表情を動かさない。

 

「……三」

 

 最後のカウントが終わり転移が始まる。その中でダンブルドアの青い瞳が俺を見ていることに気が付いた。なんだろうと聞く暇もなく、ポートキーはグリモールド・プレイスに向けて跳んだ。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 グリモールド・プレイスのブラック邸を訪れた面々は、皆落ち着きが無かった。ウィーズリー兄妹はアーサーおじさんの容体が心配でソワソワしているし、ハリーもどこか暗い表情で、シリウスもそんな彼らにどう接したものか分からない様子だった。

 

 そうして張り詰めた雰囲気が流れ、早朝の五時を迎えた頃になってモリーおばさんが姿を見せた。傍らには父さんと母さんもいる。

 

「皆、おはよう。お父さんのことだけど心配しないで。聖マンゴで治療を受けているし、今はビルが看てくれているわ」

 

 その言葉でウィーズリー兄妹の間にあった不安感が瞬く間に消え去っていくのが分かった。

 緊張感が解け、ホッと一息ついた頃になってようやく皆の腹の虫が鳴り出した。

 

「まずはお腹を満たそう。アーサーに余計な心配は掛けられないからな!」

 

 シリウスが笑顔で台所へと向かう。クリーチャーが姿を見せていないからか、その足取りは軽やかだった。

 ウィーズリー兄妹はアーサーおじさんのお見舞いに何を持っていくかで話し合いを始め、モリーと母さんは揃ってお見舞いに行くために必要なものを取りに行った。

 

 ハリーも何か思い詰めた表情でシリウスの下へと向かい、手持ち無沙汰になった俺はどうするかと頭を捻ったが、そんな俺の下に父さんが歩いてくる。

 

「少し話せるか?」

「ここじゃ駄目なのか?」

「出来れば人目につかない方が話しやすい」

「分かった」

 

 父さんの誘いに乗り、リビングを出て今は使われていない一室に二人で入る。

 

「それで話って?」

 

 父さんが盗聴防止その他の結界を張り終わるのを待ってから切り出すと、父さんは真剣な表情で俺を見てくる。

 

「ここ最近のハリーの様子について気になってな。あの子があそこまで挙動不審だと職業柄気にせずにはいられないんだ」

「あぁ。そういう──伝えたいんだけど、どうしたもんかな。ダンブルドア先生からあんまり言い触らすなって言われてるんだよなぁ……」

「ダンブルドアが……? いや、そうか。ならあまり聞かないでおこう。あの老人が口止めしたのなら余程知られたくはないのだろうさ」

「そう言ってくれると助かる……」

 

 別に俺としては話して対抗策を練っても良いと思うのだが、ダンブルドアとしては無闇に混乱を招きたくないのだろう。

 俺の話に納得したらしい父さんは少し申し訳なさそうな顔をしたあと、腕を組んで何かを考え出した。そんな父さんを見て俺は聞きたいことがあったのだと思い出す。

 

「あ、そうだ父さん。ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ」

「ん?」

「実は今度のクリスマス休暇、ダフネからグリーングラスのパーティーに来ないかって誘いがあってさ。けど父さんが俺になんか用事があるから帰ってこいって言ってたからちょっと保留にしてて……」

「グリーングラスのパーティー……? あぁ。そういえば手紙が来ていたな。日時に関しても問題はないし行ってきていいぞ。その前に俺達の用事があるがパーティーには出席できる」

「ホントか? それなら助かるよ」

 

 ダフネを悲しませずに済んだ……と安堵の溜め息を溢すと、父さんがニヤついた笑みを浮かべて俺を見ていることに気付いた。

 

「とても愛されているなお前は」

「お陰様でね」

「良いことだ。その繋がりを大事にしろよ。俺は──」

 

 父さんはそこまで言って口を閉ざす。苦々しい顔を見るに過去の出来事を思い返しているのだろう。

 それがなんだかあまりにも痛々しくて、俺は思わず訊ねていた。

 

「父さんも、過去に似たようなことがあったのか?」

「あぁ、いや……マッキノン家でな」

 

 俺は少し前の自分を殴りたくなった。ズカズカと他人の心に入り込んで傷を抉ってしまった恥ずべき行いだと思ったからだ。

 しかし、頭の上に父さんの掌が乗せられてワシャワシャと撫でられたことでそんな思考が飛んでいった。

 

「そう思い詰めるな。確かに彼らはもういない……けどな、それでも皆と過ごした日々を思い出したくない訳じゃ無いんだ」

 

 だって幸せだったから。そう言って笑う父さんは何というか、少年のような笑みだった。

 

「───アーデル家とマッキノン家は盟友でな」

 

 どこか遠くを眺めながら、父さんが語り出す。俺はそれに口を挟まず聞き役に徹することにした。

 

「五百年ほど昔、とある闇の魔法使いを当時のアーデルとマッキノンの当主が協力して倒して以降、この二つの家に強い結び付きが出来た。それから互いの家に何かあれば助け合う……そんな関係になった。だからこそ、なんだろうな。父さんと母さんが殺されて、それを発見したのはアーデル家の異常を感知したマッキノンの魔法使いだった。

 二人の死体と天井に浮かぶ闇の印を見て犯人が誰か悟ったマッキノンの魔法使い達はそれはもう激怒したそうだ。『我らが盟友、アーデルに手を出したのならそれを死によって償わせる』とな」

 

 そんなことがあったのかと、父さんから語られる秘話に耳を傾ける。

 

「彼らは闇の勢力と激しく争い──本家と分家、両者ともヴォルデモートによって根絶やしにされた。その後、マーリンも家族もろとも殺された」

 

 父さんが歯を食いしばり、強く握りすぎている拳から血が流れていた。

 マーリン・マッキノンさんのことは話に聞いただけだがとても優秀な魔女だったらしい。不死鳥の騎士団創立メンバーで、死喰い人を何人も倒してきた歴戦の魔女だと母さんから聞かされていた。あと、学生時代に父さんを巡って争ったとも。

 

 父さんは長く息を吐くと、ポツリと溢した。

 

「俺はいつも間に合わない。マーリンも、エドガーも……父さんと母さんも……皆、俺の手から溢れていく。助けたかったのに、助けられる筈だったのに……」

「父さん……」

 

 ここまで沈み込む父さんを俺は見たことがなかった。その初めての出来事に、どうすればいいのかなんて思い付かなかった。

 

「……湿っぽい話になったな。すまん、忘れてくれ」

 

 俯いていた顔を上げて父さんは俺にそう言った。どこか影のある笑顔で、言葉に出来ない痛々しさを感じさせた。

 

「あの、さ。父さ「レックス、リオン? そろそろ出発するから出てきてね」」

「分かった。すぐに行こう」

 

 俺が声を掛けようとした瞬間、扉の向こうから母さんの声が響く。どうやら準備を終えたようでそろそろ聖マンゴに向かうようだった。

 父さんが返事を返し、「また後でな」と言って部屋を出ていくのを俺は釈然としないまま見送った。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 聖マンゴに行くのにここまでの護衛なんてなぁ。軽く息を吐いて、周りを囲む大人たちを見やる。

 前方に並んでリーマスとトンクス、後方に父さんと母さん。殿はマッドアイと並大抵の死喰い人なら蹴散らせる面子だ。

 そんな彼らに囲まれる形で俺とハリー、ウィーズリー一家は聖マンゴへと向かっていた。

 

 車を用意するか、公共交通機関を使うかで騎士団の間で議論が交わされ、結果的に地下鉄と徒歩での移動と相成った。

 生粋の魔法族であるウィーズリー一家からすれば地下鉄などはとても珍しいのでビルとモリーおばさんを除いた面々ははしゃいでいた。

 

地下鉄や徒歩を乗り継いで、ようやく聖マンゴに到着した。一階は様々な魔法で負傷した患者で溢れ返っており、この中ならマッドアイの傷だらけの顔など可愛いものだろうと思わせた。

 アーサーおじさんの病室は二階なので揃って二階に上がりアーサーおじさんの病室を訪ねた。

 

 中に入ると、そこには病院服を着たアーサーおじさんがベッドで横たわっており、その傍らにウィーズリー家の長男のビルが佇んでいた。

 

「やぁモリー。それに皆も。わざわざ申し訳ないね」

 

 思っていた以上に元気な父親の様子を見て安心したのか、ウィーズリー家が一斉にアーサーおじさんへと寄っていく。

 そんな弟妹達を見て、ビルが苦笑した。

 

「長男ってのは苦労するな……」

「まぁね。でも、悪いものじゃないさ」

 

 隣に立つビルに耳打ちすると笑顔で返された。外見も性格も完璧な男はセドリック含めて二人目だなとそんなどうでも良いことを考えた。

 ビルの耳に付けられた牙のイヤリングがキラリと輝き、僅かにそちらに目線が行く。

 それに気付いたビルがイヤリングに触れて「良いだろ?」と悪戯っ子のように笑った。

 

「二年前の誕生日の時にチャーリーからプレゼントされたんだ。似合ってるかい?」

「そりゃ勿論。ビルに似合わないファッションなんて見つける方が難しいんじゃないか?」

「ありがとう。でもリオンだって何でも似合うと思うよ?」

 

 そんな会話を繰り広げながら、俺はとりあえずアーサーおじさんが一命を取り留めたことに安堵の息を漏らした。

 アーサーおじさんはハリーを見つけるとその手を取ってあらん限りの感謝を伝えた。

 

「君がいてくれなかったら私は今頃どうなっていたか……」

「アーサーおじさん、僕は───」

 

 笑顔を浮かべるアーサーおじさんとは反対に、ハリーの目はどんよりと沈んでいた。

 ハリーが見たというアーサーおじさんの襲撃の場面も、恐らくヴォルデモートとの繋がりが影響していることは明白だった。

 

「……なんだか重苦しい空気だ。分かってたけどさ……」

 

 ヴォルデモート関連で頭を悩ませる事に霹靂しながらも、俺は聖マンゴを去るまでハリーとヴォルデモートとの繋がりの影響力に付いて考えを巡らせていた。




ちなみにレックスが『みぞの鏡』を見ると、エレインとバルツ、フランクとアリスにキンクズリーに加えてエドワードとユスティア、エドガーとマーリンといった『レックスの中で大事な人達が笑顔で幸せに暮らしている』姿が写し出されます。まぁ、そんな光景は二度と訪れなくなった訳ですが。
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