【本編完結】ハリー・ポッターと何も知らない転生者   作:シャケナベイベー

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アメリカのアーデル

 ホグワーツに来て五度目のクリスマス休暇がやってくると、リオンはホグワーツに残る友人達に別れを告げて特急に乗り込み我が家へと向かっていた。

 

「なんだかんだ休暇中に帰ってくるのは初めてだったか?」

 

 九と四分の三番線を出て、アーデル邸に帰ってきたリオンは荷物をカートで引き摺りながら呟く。

 周りを森に囲まれ、その中で鎮座する屋敷はさながら隠れ家のようで昔はそんな屋敷を不思議に思ったものだ。

 ゆっくりと門を開き、玄関に向かって歩いていく。やがて玄関前に辿り着いたリオンが扉を杖で二回叩くとガチャリという音と共に玄関が開いた。

 

「まぁ、魔法使いらしいっちゃらしいやり方だよな……」

 

 玄関をくぐり、久し振りの我が家に足を踏み入れた。夏休みは殆どをグリモールド・プレイスのブラック邸で過ごしていたので何気に帰ってくるのは五ヶ月振りくらいだろうかと考えながら、ズンズンと屋敷の中を進んでいく。

 

「父さん、母さん。帰ったぞー」

「あら。お帰りなさいリオン。早かったわね」

 

 リオンが声を上げると、キッチンの方からエレインの声が響いた。漏れ聞こえる音からして料理でもしているのだろう。

 

「荷物を置いたら降りてらっしゃい。父さんが用事について話すから」

「あいよー」

 

 エレインの話に返事を返したリオンは荷物を持って階段を上り、自身の部屋に入っていった。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「それで用事って一体何のことだよ?」

 

 荷物を置き、着替えを終えたリオンは一階にあるソファで魔法省から戻ってきたレックスと向き合っていた。

 リオンの眼前に腰を落ち着けたレックスは顎に手をやり、「どこから話したものか……」と決めあぐねている様子だった。

 

「あー、そうだな……内容を簡単に言えば、今日アーデル邸に人がやってくる」

「人」

 

 頭を掻き、少し言い辛そうにしつつも伝えられた言葉を、リオンは考えるより早く音として反芻した。

 

「そうだ──といっても、魔法大臣が来るとかそういった畏まった物じゃない。いや、ある意味で衝撃ではあるか……」

「……誰が来るんだ?」

 

 魔法大臣でないにせよ、それなりの人物だろうことはレックスの反応から察することができた。

 しかし父がこんな反応をする相手など居ただろうか……と考えていると、ややあってレックスが口を開いた。

 

「来るのはアーデル家(うち)の分家の子だよ。当主が代替わりしたらしくてな」

「へぇ、分家の───分家?」

 

 レックスから放たれた『分家』というワードにリオンは目を丸くする。それを見たレックスは「驚いただろう? 俺もそうだった」と楽しそうに笑った。

 

「え、アーデルに分家なんてあったの!?」

「そりゃ廃れたとはいえ家は純血の名門だからな。分家の一つや二つあるだろ」

「聞いたことないが!?」

「言ってないからな」

 

 困惑するリオンを余所に、レックスは「まぁそんな分家の子が来るわけだ」と何でもないように言い放った。

 

「なぁ。俺を置いてけぼりにしないでくれるか?」

「何か分からないところがあったか?」

「色々あるわ! ……そもそもなんで分家があるって説明してくれなかったんだよ」

「聞かれなかったし、まだ知るには早い時期かと思ってな。俺も伝えられたのは十六歳の頃だし」

「えぇ……」

 

 肝心なところで杜撰な父親に呆れを含んだ視線を向けるが、当のレックスはどこ吹く風だ。小憎たらしい。

 

「ていうか、相手が分家なら家が本家ってことか?」

「そうだな。分家の方も昔は多くあったそうだが色々あって今はアメリカにある一つだけだ」

「アメリカに?」

「あぁ。アメリカに旅行しにいったアーデルの一人がそのまま居着いて、そこで分家を興したんだと」

「フットワーク軽いなおい」

 

 リオンは『俺の家系ってひょっとしてかなりアクティブ……?』と頭を抱えた。何があったらアメリカに旅行に行ってそこで分家を興すことになるのか。当事者に確認したい気持ちで一杯である。

 

「本来なら本家と分家の関わりは深いものなんだろうが、こっちも色々忙しかったし向こうも向こうで本家と深く接触する気も無さそうだから、ここ二十年近くは交流してないな」

「それでいいのか?」

「非常時には協力するがね。今回もそれが理由だし」

「は? え、それってどういう……」

 

 気になる発言をしたレックスを問い詰めようとしたリオンの耳に、玄関の扉がノックされる音が聞こえた。

 そちらに視線を向けるとレックスも気付いたのか「お出ましになったな」とソファから立ち上がって玄関へ向かった。

 

「やぁ、いらっしゃい。よく来たね」

 

 扉を大きく開け放ち、レックスが来訪者を招き入れる。そして、レックスの後をついてきたリオンも来訪者の姿を見ることとなる。

 

 

 

 扉の前にいたのは一人の女性だった。

 腰ほどまである銀の長髪に繊細な造りの髪飾りを付け、濃紺のローブを羽織った美しい女性。唯一、目の色だけが先祖代々受け継がれるアーデル家の至高の群青色であった。

 

「こんにちは。クロード・リディス・アーデルと申します。この度アーデル分家の当主の座を継ぐことと相成りました」

「初めまして……というわけでもないかな。君が生まれたばかりの頃に会っているしね。私はレックス・エドワード・アーデル。この子は私の息子の───」

「リオン・エドガー・アーデルです。初めまして」

 

 三人が互いに自己紹介を交わすと、レックスはクロードを家の中へと招いた。

 廊下を渡り、居間へと辿り着いたクロードはソファに座り、その対面にレックスとリオンが腰掛ける。

 

「突然の訪問、ご容赦ください。近頃のイギリス魔法界については耳にしていますが、当主の代替わりとなれば挨拶に出向かないわけにも行かず……」

「いやいや。問題ないよ。最近物騒なことは認めるが今は静かな方だ。むしろ大変なのはこれから先さ」

「そう言っていただけると幸いです」

 

 エレインが淹れた紅茶を飲み、クロードは開口一番に頭を下げる。レックスはそれを手で制すると穏やかな笑みを浮かべた。

 

「現在、イギリス魔法界は例のあの人──ヴォルデモートが復活したことで少なくない混乱状態となっている」

「えぇ。そちらの魔法大臣が我が国も含めた諸外国にその事を通達して協力を要請していると聞きました」

「本来ならイギリス魔法界(われわれ)だけでやり通すべきなのだけどそうも言っていられなくなった。恥ずかしいことにね」

 

 レックスが苦々しい顔をする。ヴォルデモートはイギリス魔法界にしか手を出してはいないため、本来なら外国の魔法界を巻き込むことは避けたいところであった。

 しかし、ヴォルデモートのあまりの強大さにそうも言っていられなくなった。かつての戦争でそれを痛いほど痛感したイギリス魔法省は恥も何もかもを投げ捨てて海の外へと協力を要請したのだった。

 

「こちらの魔法議長にしても、かつて魔法の存在がノーマジ──そちら風に言えばマグルですが──の間に明るみになろうとした際、ニュート・スキャマンダー氏によって防がれた時に出来た借りを返す良い機会だと考えているそうですよ」

「つまりアメリカ合衆国魔法議会(マクーザ)の協力は約束できると?」

「そう考えて良いと思います」

 

 それを聞いたレックスは深く安堵の息を吐き出した。未だ公的な物ではないが、そう遠くない内にファッジの方にも連絡がいくだろう。加えて彼らの協力を得られるとなればいずれ起こるだろう二度目の戦争でも優位を保てる可能性が高くなる。

 

 本来なら無関係な彼らを巻き込むことにレックスの中で罪悪感が生まれるが、それでも平和のためにとその罪悪感を仕舞い込んだ。

 

 あの戦いで我々はあまりに多くのものを失ったのだから。

 

「そうか。それは安心だな───ところでクロード。話は変わるけど君は誰かを教えるのは得意か?」

「? えぇ。それなりには出来ると思いますけど」

「それは良かった。実はリオンに色々と教えてあげてほしくてな」

 

 レックスとクロード。二人の視線がリオンに突き刺さる。

 前者は何かを企んでいるような、後者は単純に疑問そうな目をそれぞれ向けていた。

 

「けど、一体何を教えれば?」

「当主になった時の心構えとか、色々? 私は最近忙しい身だし、折角来てくれた君に我が子と接してほしいというお節介さ」

「もうちょっと具体的に言ってやれば良いんじゃないか?」

 

 簡潔に話すレックスにリオンが呆れ顔で突っ込んだ。具体的な内容を話してやれば理解しやすいだろうにと心の中で溜め息を吐く。

 

「まぁ、要は交流さ。この子が二十歳になったら当主の座を渡すつもりでいるし、その為にも色々覚えておいて損はないだろ?」

「待ってくれ初めて聞いたんだが?」

「とにかく、頼んで良いか?」

「聞けよ!!」

 

 衝撃の事実にリオンが目を剥くが、レックスは穏やかな顔のままその場を立ち去ろうとする。リオンが急いで止めようとするも、それより早くレックスは居間から出ていった。

 

 さて、これに困ったのはリオンである。分家の当主とはいえ初対面の女性。良い話題など浮かぶ筈もなく。

 

「えっと───紅茶のおかわりとかいります?」

 

 出てきたのはそんな無難で取り留めもない言葉だった。泣きそう。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「───とまぁ、これが今までのアメリカ魔法界の主な歴史かしら」

「……まさかアメリカ魔法界の歴史を殆ど丸々聞かされるとは思わなかったなぁ……」

 

 場所を居間から使われていない広々とした部屋へと移したリオンとクロードの二人。

 リオンは知恵熱を発症しそうだなと心の中で項垂れた。礼儀作法でも教えられるのかと思っていたらまさかのアメリカ魔法界の歴史勉強とは。

 

「アメリカの初代闇祓いの一人、エイブラハム・ポッターは貴方の同級生のハリー・ポッターの遠い親戚に当たるわ」

「ポッター家もアーデル家みたいにアメリカに分家があったんだな。イギリスだけかと思ってた」

「有力な純血の旧家なら海外に分家があるのもそう珍しい話ではないもの」

 

 クロードの説明に「そういうものか」とリオンは無理やり納得させた。そうでもしなければ、また歴史の授業が再開される予感がしたからだ。

 

「はい。歴史の授業はこんなところよ。礼儀作法については問題いらないでしょう? その年齢でそこまで身に付いているのなら充分すぎるほどよ」

「それは良かった。唯でさえ頭がパンクしそうなのに、そこに礼儀作法のマナーについてもやろうものなら俺は暴れてたね」

 

 クロードの称賛にリオンは疲れた笑みで答える。肉体的疲労はそこまでではないが、精神的疲労が多かった。

 

「頑張ってるわねリオン」

「んー」

 

 部屋に入ってきたエレインが労いの言葉と共に出現魔法でお菓子を机の上に文字通り出現させた。

 

「二人とも疲れているでしょう。少し休憩したら?」

「お言葉に甘えさせていただきます」

 

 エレインの提案にこれ幸いと二人して飛び付く。教える方も教わる方も疲れが溜まっていたのだ。とはいえ決して無駄ではないが。

 

 

 

「そういやさ。クロードってアメリカのイルヴァーモーニーに通ってたんだろ?」

「えぇそうよ。それがどうかしたかしら?」

 

 お菓子を食べ、一息ついたリオンは五つ年上の親戚の魔女を見やる。

 クロードはそんなリオンに首を傾げながら紅茶を飲んでいた。

 

「いや、イルヴァーモーニーってどんなとこなのかなって。ちょっと気になったんだ」

「そうねぇ……イルヴァーモーニーはホグワーツと似たところが沢山あるわ。と言ってもイルヴァーモーニーの創立者がホグワーツを参考にして作ったから似ていて当然だけど」

「そうなのか?」

「えぇ。実際、イルヴァーモーニーもホグワーツのように四つの寮があるの。『サンダーバード』、『ホーンド・サーペント』、『ワンプス』、『パクワジ』。入学した生徒はこの四つの寮のどれかに組分けされることになるわね」

「クロードはどこだったんだ?」

「私はホーンド・サーペントよ。サンダーバードとどちらにするかってなって、結果的にホーンド・サーペントを選んだの」

 

 クロードの話すイルヴァーモーニーの内容にリオンは聞き入っていた。ここまで熱心に聞き入るとはリオン自身も思っていなかったが、他の学校の話を聞くのは去年のボーバトンとダームストラング以来なので心なしかウキウキとしていた。

 

 

 結果、休憩時間ということも忘れてリオンとクロードの二人は晩御飯の用意が出来たとエレインが呼びに来るまでホグワーツとイルヴァーモーニーについて語り合っていた。




クロード・リディス・アーデル
 アメリカにあるアーデル家の分家当主。二十歳で当主となった。最近はイルヴァーモーニーで呪文学の教師をやらないかと請われているため日々勉強中。ちなみに結婚を約束した人がいる。
 何気にイギリス魔法界とアメリカ魔法界の橋渡し役になった。
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