【本編完結】ハリー・ポッターと何も知らない転生者 作:シャケナベイベー
『ドローレス・ジェーン・アンブリッジを高等尋問官に任命する』
クリスマス休暇が明けたその日、ホグワーツの玄関ホールにある掲示板に張り出された内容を見て多くの生徒が困惑することになった。
あのアンブリッジを、訳の分からないつまらない授業しかしない無能を高等尋問官とかいう役職にするだって?いよいよ魔法省は終わりだ。
「新年早々にこれか。あれにどんな事をさせるつもりなのか」
「これはファッジの命令じゃないな。見ろ、理事会のマークがある」
「うわマジだ。あのドブカスいよいよ理事会の奴らに股でも開いたか?」
「なんて下世話な事を言うんだこの馬鹿ブレーズ」
掲示板を見たリオンとセオドール、ブレーズのスリザリン三人組は口々に呆れと共に言葉を吐き出す。
「何とかなんないか中立派筆頭カリアン家」
「少なくともホグワーツの物事に深く介入出来るわけでもないからね家は」
「つったってどうするよ? 見た感じ、あのガマガエルが今まで以上に面倒になるぜ?」
「……とりあえず気にしない方向でいこう」
人混みを掻き分けて寄ってきたマークとランスも張り紙を見て眉をひそめた。
そうしてリオンはそっと息を吐き出す。また一波乱ありそうだと肩を落とした。
「と、我らが親愛なるアンブリッジ女史は浮き足立っている訳だが」
俺たちにとっちゃそんなのは関係無い。『必要の部屋』に集まったダンブルドア軍団を前にしてそう口にする。
クリスマス休暇が終わってから最初のDAの会合でリオンはハリーと共に視線を集めつつ告げた。
「さて、クリスマス休暇も終わって充分に休息を得ただろう諸君に学んでいただくのは『守護霊の呪文』だ」
「……いきなりハードル高くね?」
口答えしたランスに鋭い視線を投げる。聞き分けの良い我が親友はそれだけでスゴスゴと引き下がってくれた。
「守護霊の呪文は確かにとても難易度が高い。有体の守護霊を作り出せる魔法使いなんて早々いない訳だ───だが。幸いなことに、このDAには有体の守護霊を作り出せる学生が俺含めて三人もいる。俺、ハリー、そしてセドリックだ」
「はー、アンタ達ってすっごいんだねぇ」
メンバーを見渡して話す俺に一人のレイブンクロー生が感嘆の声を漏らした。
「君は……確かレイブンクローのラブグッドだったかな? もし間違ってならすまない」
「合ってるよ。私、ルーナ・ラブグッド」
「それは良かった───と、話が逸れたな。とにかく今日の内容としては今までの呪文のおさらい、尚且つ守護霊の呪文の練習だ。張り切ってこう!」
そうして始まった呪文の練習は和やかな空気で進んでいった。リオンは近くの生徒に杖の握り方、呪文を打ち出す際の杖の振り方などを教えながら歩いていた。
途中、こちらに歩いてくるのが見えたダフネがリオンにしか分からない程度に微笑んだのを目撃したり、ランスに必死にラブコールの視線を送っていた少女がランスに教えを乞う姿を見て、あまりの甘ったるさに吐きそうになったりしたが全員ある程度は形になってきていた。
(やっぱり今のところ一番成長してるのはネビルだな)
ダンブルドア軍団結成以降、メキメキと腕を伸ばしているネビルはこのクリスマス休暇で父さんと母さんに色々教えてもらったと嬉しそうに話していた。家族円満で何よりである。
そうしてある程度見回ったところでいよいよ守護霊の呪文の練習を開始することにした。
「まず知っておいてほしいのは、守護霊の呪文を扱う上で必要なのは“その人が一番幸福だと思う記憶”だ。作り出される守護霊は幸福という正の感情を元に形成されるから、パトローナスを作り出す上で絶対に欠かせない要素になる」
「とても難しい呪文だ。でも、一度でも使いこなせれば凄く便利だよ。ディメンターだって追い払える」
軽く守護霊の呪文の概要を説明したリオンとハリーは各々杖を取り出して「エクスペクト・パトローナム」と唱える。
二人の杖先から光が溢れ、やがて光は二匹の動物となって必要の部屋を駆け回る。牡鹿と八咫烏がぐるりと部屋を駆け、それぞれの主人の頭上で空気に溶けるようにして消えていった。
「今のがパトローナスだ。人によって生み出される動物は異なるし、稀に動物が変化することもある。さぁ、そんな訳で守護霊の呪文の練習といこうか!」
高らかに宣言したリオンに推され、DAのメンバーも守護霊の呪文を唱えていく。
口々に唱えても何も出なかったり、靄だけ出たりと様々ながら皆は守護霊の呪文の練習に打ち込んでいった。
◆ ◆ ◆
アズカバンから集団脱獄があったらしい。
クリスマス休暇が明けて二日目の朝。日刊予言者新聞の見出しを飾った一面に俺は渋い顔を隠さなかった。
「凶悪な十名の犯罪者がアズカバンから脱獄……今頃魔法省はてんてこ舞いだな」
脱獄したのはベラトリックス・レストレンジやアントニン・ドロホフなど極めてヴォルデモートのクソ野郎に忠誠心が高く、そして残忍な死喰い人達だった。
現在ファッジ魔法大臣の号令の下で闇祓い達が必死に捜索しているらしい。最悪、騎士団も駆り出されているだろうなと考えながらパンを千切って飲み込んだ。
粗方朝食を採り終えたところで立ち上がり、大広間を出る。
「……ハリー?」
そんな中、廊下で足元の覚束ないハリーを見かけた。ハリーは少し疲れた顔で俺の方を向くと「やぁリオン」と片手を上げた。
その如何にも体調が優れませんというような顔を見てハリーに駆け寄った。
「お前、何があった? まだ夢に魘されてるのか?」
「あー……いや、それも関係してるかも」
ポツポツとハリーが語ったところによれば、悪夢の件でダンブルドアが『閉心術』の訓練をハリーに課したらしい。それだけなら何の問題もないのだが、よりによってその講師として選ばれたのがハリーと犬猿の仲であるスネイプ教授だったということだ。
「スネイプだよスネイプ。ルーピン先生じゃなくて」
「あー、お前の疲労の原因はそれか。納得したよ」
そりゃ大嫌いな奴との個人授業なんて嫌だし、それがよりにもよって『閉心術』の訓練とは……いよいよハリーに苦難は付き物らしい。
うんざりしているハリーの肩を叩き、少しでも元気付ける。それにハリーは小さく笑みを浮かべて「ありがとう」と言った。
「閉心術は習得すれば確かに強い武器になる。けど無理しすぎるのも駄目だ───とはいえこれから閉心術の訓練があるならDAの会合は不定期になるか」
「え? リオンがいるしいつも通りにしてくれれば───」
「そういう訳にもいかないんだな、これが」
頭の上に疑問符を浮かべるハリーに、俺は重苦しくため息をついた。何故って? 高等尋問官とかいう馬鹿が考えたような役職にアンブリッジガエルが就任したせいで色々と苦労しているのだ。
勘弁してほしい、『ふくろう』だって近いというのに。
(こんなことならアンブリッジに近づくんじゃ───いや、そうなると被害が広がってただろうしどっちみちか……)
「えっと……お互い大変だね?」
「分かってくれるか相棒」
ハリーに慰めの言葉を掛けられ、なんだが自分の行いが虚しくなってくる。
もういっそのことアンブリッジから離れようかなんて、そんなことを澄み渡る青空を眺めながら考えていた。
この日のホグズミードは男女の組み合わせが多いな。
二月十四日。幸せ満載のバレンタインデーだ。前世では友人と共に呪詛を呟いていたイベントも、こと今世に至っては充実した一日と言えるだろう。
「やたらと人が多いなぁ」
「バレンタインデーだもの。こういった日に男女が連れ立って歩くのは不自然じゃないわ」
ぼやく俺をダフネが咎めた。腕を組み、積もる雪を踏み締めながらホグズミードを回る。
しばらくしてダフネの導きで一つの店に入る。
「うわぁ……」
「マダム・パディフットの店。一度来てみたかったのよね」
その内装はあまりにも女の子向けだった。客は男女──多分カップル──で埋め尽くされ、小さなテーブルで向かい合って紅茶を飲んでいた。
周りが全員カップルなど前世の友人が血の涙を流しそうだ。
「この金色の天使は何だよ」
「バレンタインデーになると飾られるって言ってたわ」
店員に案内され、それぞれ頼んだ紅茶が届くまでの間、机の上に堂々と鎮座するこのふてぶてしい天使擬きを見つめる。
周りを見渡せば何処もかしこもカップルだらけ。ふとレイブンクローの先輩のロジャー・デイビースが銀髪の女生徒と熱烈なキスを交わしている現場を目撃し、サッと目を逸らす。
どうやらダフネも見ていたようで僅かに顔が赤くなっていた。
「……ロジャーの奴、流石というかなんと言うか……」
「フラー・デラクールに未練たらたらのようだけど?」
「男ってのはそういうもんさ。好きな女のことは早々忘れられないんだよ」
公衆の面前で堂々とキスを交わす二人に頭を抱えた。俺とダフネもキスはしているが少なくとも空き教室とかでやっているのであそこまで堂々としていると一種の尊敬さえ覚える。
やがて注文した紅茶が届き、運んできた妙齢の魔女の店員さんが「あらあらお二人はカップルかしら? 若いって良いわねぇ」と微笑ましそうに言ってきた。
あの人は男女間の出来事をニヤニヤしながら眺め、冷やかすのが好きな人間だろう。
気を取り直して紅茶を飲もうとした瞬間、テーブルの天使擬きが花吹雪を舞わせ、その花びらが紅茶に大量に沈み込んだ。
「なぁ、これやっぱ壊そうぜ」
「落ち着きなさい。物品を壊せば弁償するのは貴方よ」
杖を抜き、目の前のクソ天使を粉砕呪文でぶっ壊そうと考えたが寸前でダフネに止められた。
命拾いしたなクソがと睨み付けてやれば、天使擬きはクルクルと踊り始めた。
「煽ってる? 煽ってるよなコイツ?」
「だから駄目だったら。落ち着いて、良い子だから」
立ち上がろうとした俺をダフネが必死に止める。
しかし天使擬きは踊るのを止めない。なんて不愉快な奴なのか。アンブリッジとセットで出てきたら粉々にしてやろうと考えながら俺はパディフットの店で過ごした。
「暴露記事を掲載」
「えぇ」
「ザ・クィブラーに?」
「そうよ」
「何考えてんだ馬鹿じゃねぇの」
ホグズミードから帰還した俺を待っていたのはハーマイオニーとハリーによる空き教室への連行だった。
一緒にいたダフネは驚いた顔をしたものの、俺を連れ去るのがハリー達と分かったからか「あまり長く拘束はしないでねポッターとグレンジャー」と早々にスリザリン寮へと戻っていった。ダフネがハリー達を信頼してくれていることを喜べばいいのか、引き止めずあっさりと立ち去ったことを嘆けばいいのか分からなくなった。
そうして空き教室に連れてこられた俺にハーマイオニーが告げたのが先程の言葉だ。
三本の箒にて、ハリーとハーマイオニーはザ・クィブラー編集長の娘のルーナを巻き込み、さらにはカリアン家の次期当主候補であるマークにお願いしてカリアン家の伝手を使って信用できる新聞記者を用意させ、その記者にハリーへのインタビューを受けさせてその記事をザ・クィブラーに掲載するつもりらしかった。
「相変わらず大胆というか無謀というか……」
「あら。無謀なんかじゃないわ」
「ん?」
「ちゃんと考えてるわ。楽しみにしてて、きっと凄いことになるから」
悪戯っ子のように笑うハーマイオニーを見て、俺は頷くしかなかった。
そして、俺はハーマイオニーの言葉の意味を知ることになる。
◆ ◆ ◆
バレンタインからしばらく経ったある日。朝食を摂っていた大広間に大量のフクロウが押し寄せてきた。
そのフクロウ達は全員が我先にとハリーの下へ殺到し、その中の一匹が茶色の包みを落としていった。
一体なんだと興味を引かれ、立ち上がってグリフィンドールのテーブルに歩いていく。ハリーが手に持っていたのは一冊の雑誌『ザ・クィブラー』だった。恐らく昨日発売された最新号だろう。
そしてそれと比例するようにテーブルを埋め尽くすほどの手紙が落ちてきた。
「やったわハリー! 貴方、皆の信用を得たのよ!」
手紙を開封し中身を読んだハーマイオニーがハリーに飛び付く。
俺も気になって数枚の手紙を読むと、それは全てがザ・クィブラーの暴露記事に関することであり、聖マンゴでの治療を勧める人や、ハリーを変人扱いする内容こそあったものの、多くがハリーの記事を信じるという内容であった。
文字通り、ハリーが人々を動かしたのである。
「やったな、ハリー」
ノッシノッシと太い図体を揺らしてグリフィンドールのテーブルへと歩いていくアンブリッジを視界に収めながら、俺はハリーの行動が実を結んだことに喜ばしい気持ちになった。
そしてその日、ザ・クィブラー三月号は爆発的な売り上げを記録し、ラブグッド父娘は嬉しい悲鳴を上げることとなった。
ちなみに金色の天使擬きが踊ったのはリオンとダフネを祝福してのことです。しかし多分に冷やかしとからかいの意味も含めていたので悪意がなかったとは言い切れませんが。