【本編完結】ハリー・ポッターと何も知らない転生者   作:シャケナベイベー

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動く者達

 イギリス魔法省・闇祓い局。英国の闇の魔法使いによるテロ行為などに対処するために立ち上げられたこの局は現在、今までにないほど慌ただしかった。

 

「ケイン、紙飛行機で執行部の方に連絡をしておいてくれ。ドーリッシュもすまないが他の部に頼む。ウィリアムソン、君は新人の教育を任せておきたい」

 

 闇祓いの栄誉たる局長の椅子に座るのは、つい先日から局長に就任したガウェイン・ロバーズだった。彼は四角レンズのメガネを光らせながらも他の闇祓いに指示を出し終え、一息ついてから手元のコーヒーをグイッと飲み干した。

 

「お疲れだな局長殿?」

「レックスか……お前かキングズリーが椅子に座ってくれれば私とて楽を出来た物を……」

「私は無理だな。マッドアイやスクリムジョールの仕事ぶりを見てれば遠慮するさ」

 

 それに騎士団の方でも忙しいしな!と笑う同期を一発殴ってやろうかと立場抜きに考えたガウェインは、しかし目の前のバカアホ間抜けクソボケ男が背負い込む立場だと思い返し自制した。

 

「それで何の用だ。お前のことだ、世間話をしに来たわけでもあるまい」

「いや、世間話は割と本気……待て待て待て!! こんなところで杖を抜く奴があるか!!」

「このクソ忙しいときに仕事の邪魔をした。それだけで充分だろう?」

「血気盛んなグリフィンドールが!!」

「お前に言われたくはないな。考えすぎて湖に落ちたレイブンクロー」

 

 お互いに軽く睨みあった後、改めてレックスが一枚の書類を取り出した。

 

「……なんだこれは」

「内閣府との連携プログラムだ。帝王が復活し、ファッジ大臣とボーンズ部長を失った魔法省に奴らの間者が紛れ込んでいる可能性もある。無論内閣府の方に間者が紛れ込んでいる可能性も否定できないが、あそこは奴らの思想とはかけ離れているようなところだ。態々潜り込むメリットもあるまいよ」

 

 前魔法大臣と執行部長の名前を出したレックスの目にほんの僅か悲しみの色が宿ったのを、ガウェインは見て見ぬ振りをした。

 

「内閣府の……というか今現在は省全体が混乱に陥っている。そこで何とか立て直そうとする彼らの存在はありがたいことこの上ないが、闇祓いと連携とはどういうことだ?」

「スクリムジョールが大臣に就任して、新局長が君になった。この暗黒期に局長交代は闇祓いにとってこれまでの指揮と異なるということを意味する。そうすればその隙を突かれて死喰い人共に一網打尽──なんてことになりかねない。それを防ぐために──」

「内閣府との連携と言うわけか。連携して事に当たり、体勢を整える時間を僅かでも引き延ばすと」

「そういうこと」

 

 まぁ理屈は通っているか、とガウェインは書類をデスクの上に置き、改めて目の前の男を見た。

 

「ところで、お前の息子はどうしている?」

「リオンか? そりゃ元気にしてるさ」

「いやそうではなくな……聞いた話によれば随分とマッドアイに気に入られているそうじゃないか。将来は闇祓いか?」

「それを第一志望に考えてると言ってたな。ただマクゴナガル先生に教師にならないか誘われたと言っていたが」

「ほう。それはまた……確か入学前の時点で失神呪文を覚えたんだったか? 手塩に掛けているじゃないか。まるで身を守らせるための措置にも見えるな」

「……何が言いたい?」

 

 ほんの少しだけ、レックスの群青の瞳に剣呑な色が宿る。目の前の男の事だ。悪意あっての言ではないと分かっている。だが、息子の事となればレックスも普段の冷静さをかなぐり捨てざるを得なかった。

 

「止せ止せ。そんなに危ない雰囲気を出すな。若手が怯えるだろう」

「チッ……で、何だってお前がそんなこと気にするんだよ」

「昔のお前が出てるぞ……いや何、“あの”マッドアイが気に入っていると聞いて気になっただけだ。トンクスもそうだが、若手の才能が恐ろしくなるな」

 

 思わずかつての口調に戻ったレックスを窘めつつガウェインはおどけてみせた。

 周りの闇祓い達が二人の空気に怯える中で、そんな彼らに近付く恐れ知らずが二人いた。

 

「二人とも。皆が怯えてるよ」

「今のトップは貴方達なんだから空気を悪くしちゃ駄目でしょう?」

「む。それはすまないな」

「悪いフランク、アリス」

 

 ふんわりと笑うフランクとアリスのロングボトム夫妻に窘められた二人は冷静さを取り戻す。

 このふんわりと笑う二人があのヴォルデモートから三度逃げおおせた傑物達だとは初めて見た人は思うまい。

 

「取り敢えずだ……ハリー・ポッターの護衛はどうする?」

「トンクスが就くと聞いたよ」

「期待の新人だものね」

「まぁ俺達は騎士団の任務で忙しくしてるし、闇祓いの方は任せるぞ。ガウェイン」

「無論だ」

 

 局に突っ込んでくる無数の紙飛行機の下で、彼等は今一度闇との戦いの準備を押し進めた。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 ダイアゴン横丁。常ならば多くの人で賑わう筈の場所は、しかし閑古鳥が鳴きかねないほどガランとしていた。

 

「どこもかしこも店仕舞いか……」

「仕方無いかもしれないわ。オリバンダーだけじゃなくて、フローリアン・フォーテスキューアイスクリームバーラーの店主も行方不明になったそうよ……奴らの考えていることなんて分かりたくもないけれど」

 

 隣を歩いていた母さんが顔をしかめるのに、俺は曇天の空を眺めてため息を吐いた。

 彼の作るアイスクリームはとても美味しく、また今度食べに行こうと思っていた矢先の出来事だった。無事でいてほしいと思うばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 教科書類を買い揃え、マダム・マルキンの店で服の採寸も終えた頃、この情勢では珍しい光景を目にした。

 

「マークじゃんか。何やってんだこんなところで」

「え? あぁリオン。まぁ色々とね?」

「ほー? 栄えあるカリアン家のご子息が一人で、護衛もつけず闇の露店が跋扈する今のダイアゴン横丁に一人とは無謀なのか蛮勇なのか……」

「う……」

 

 ニヤニヤしながら聞けば、我が親友は顔を逸らした。この感じからするに、コイツの両親はここにいないと見える。

 

「あら。貴方がマーク君? バルツの子供の」

「あ、はい。えっと、もしかしてリオンの……?」

「えぇ。母親のエレイン・アーデルよ。息子と仲良くしてくれてありがとう」

「いえいえ。息子さんにはいつも助けられてたりと……」

「ママ友の会話かな?」

 

 この二人、波長が合うのか速攻で仲良くなった。何てことだ、ボーンズの為にもマークを引き戻さなくては。

 

「で。お前ほんとに何でいるんだよ。知ってるだろ今のダイアゴン横丁のこと」

「……そりゃあね。だからこそカリアン家の僕がいるんだよ。個人的に探っておきたい事があってね」

「だからと言って一人は危ないわ。バルツ……は癒者の仕事で忙しいか……でもサラなら貴方についてこれたでしょう? 無理に一人で来ることも無いでしょうに」

「いやこれは……その、僕個人の問題でして……」

 

 コイツ何か隠してるな。そう判断した俺はマークの腕を掴むと強引に歩き出す。

 

「ごめん母さん先に帰ってて。ちゃんと後で帰るから」

「え、ちょ……ま、待ってってリオン!」

「分かったわ。けど、危ないことはしちゃダメよ。何かあったら逃げなさい。いいわね?」

「イエス、マム」

 

 母さんからの了承も得た俺は近くの路地裏にマークを連れ込み、壁際に追いやった。

 

「で? ホントは何が理由だ?」

「何がって……さっき言った通り──」

「闇市を探るのが理由なら、それはカリアン家全体での問題だろ。お前個人の問題にするには規模が大き過ぎる。いつものお前と違って随分と杜撰な言い訳だな?」

「……まぁその自覚はあったけどね。でも、君なら見逃すものだと思ってたよ」

「六年の付き合いだぞ、俺達は。俺がホントに見逃すと思ったんなら俺の理解度はまだまだだな」

 

 そこまで言ってようやく折れたのか、マークは降参のポーズを取った。

 

「そうだね。君の考えを読みきれなかった僕の敗けだ……叡知のレイブンクローが恥ずかしいよ」

「世辞は良いって……とっとと話せ」

「なら付いてきてくれ」

 

 辺りに視線をやってさっさと歩いていくマークの後をついていく。取り敢えず説明くらいはしろと思うが、余程切羽詰まっていそうなマークの表情を見ればそんな気は失せた。

 

「居た……あの馬鹿何やってるんだよ……」

「あれは……ドラコか?」

 

 同寮たるドラコ・マルフォイが必要以上に周りを警戒しながらある建物に入っていくのを見届けたマークの顔に苦々しいものが浮かぶ。それを見た俺も、何故コイツが隠したがったのか分かった気がした。

 

「ドラコの後を付けてたのか?」

「うん……僕の勘違いなら良いんだけど、アイツは今良からぬ状況に置かれている。だから話を聞いて可能なら助けてあげたいって思ってたんだけど……」

「あまりに怪しいから下手に声を掛けずに尾行した?」

 

 マークが頷く。そういやコイツら幼馴染みだったっけな。なんて考えながら、コソコソとドラコが入っていった建物を確認した。

 

「『ボージン・アンド・バークス』……おいおい、とんでもない場所に行ったなあの馬鹿」

「あんな場所に出入りするなんてアイツらしくもない……何かあるね」

「しゃーない。もう少し近くに行って中の様子を確認できないか……んん?」

「どうしたのさ?」

 

 動き出そうとした俺の視界に意外なものが映り込む。そんな俺に疑問を感じたマークも俺の見ている方に目を向け、顔を手で覆った。

 

「……あれ、ハリー達だよね?」

「見間違いじゃなけりゃあな。アイツら何やってるんだよ……」

 

 視線の先にいるのはハリー、ロン、ハーマイオニーのいつもの三人組だった。

 こっそりと近付き背後から声を掛ける。

 

「何やってんだお前ら」

「わあっ!? ……って、何だリオンか~。ビックリさせないでよ……」

「それはこっちの台詞だ。お前らこんな路地裏で何やってるんだよ?」

「リオン、それは僕らもだよ」

 

 マークが突っ込んでくるが、それを無視して三人に詰め寄る。すると観念したハリーが手に持っていた『伸び耳』を見せてきた。

 

「マルフォイがあの店に入っていったから探ろうと思って……」

「それでコソコソしてたわけか……なら俺達と目的は一緒な訳だ」

「あら、貴方達も?」

「うん。僕らもドラコの後を追けてたんだ」

「なら良いじゃん。早速探ろう!」

 

 ハリーが『伸び耳』を飛ばし、繋がった紐に五人で耳を近付けた。

 

『……直し方を知っているのか?』

『かもしれません。拝見いたしませんと何とも。店の方にお持ちいただけませんか?』

『出来ない……動かすわけにはいかない。どうやるのかを教えて欲しいだけだ』

 

 そのドラコの声が明らかな虚勢であると、俺とマークは見抜いた。

 

『さぁ、拝見しませんと。なにしろ大変難しい仕事でして、もしかしたら不可能かと。何もお約束は出来ない次第で』

『そうかな? もしかしたらこれでもう少し自信が持てるようになるだろう』

「『ボージン・アンド・バークス』で難しい仕事を頼むってどういうことだ……?」

 

 小声でそんな疑問を吐き出すが、それに答えられる人間はこの中には居なかった。そして『伸び耳』がまたもドラコの声を拾う。

 

『誰かに話してみろ。痛い目に遭うぞ。フェンリール・グレイバックを知っているな? 僕の家族と親しい。時々ここに寄って、お前がこの問題に十分に取り組んでいるかどうかを確かめるぞ』

『そんな必要は……』

『それは僕が決める。さぁ、もう行かなければ。それで、こっちを安全に保管するのを忘れるな。あれは僕が必要になる』

『今お持ちになってはいかがです?』

『そんなことはしないに決まっているだろう馬鹿め。そんなものを持って通りを歩いたら、どういう目で見られると思うんだ? とにかく売るな』

『勿論ですとも……若様』

『誰にも言うなよ、ボージン。母上も含めてだ。分かったか?』

『勿論です。勿論です』

 

 ドアの鈴が音を立てる。ドラコが店を出たらしい。そしてそれを見計らったかのようにハーマイオニーが立ち上がり、「ここにいて」とだけ言い残すと止める間もなく店に入っていった。

 

「さっすがハーマイオニー……」

「行動力のバケモンかよ」

 

 ロンと口々に呟き、再び『伸び耳』に近付いた。

 

『こんにちは。嫌な天気ですね?』

「……終わった……」

 

 思わず手で顔を覆った。ハーマイオニーは行動力はあっても演技力はないらしい。明らかな棒読みにマークも苦笑していた。

 

『あのネックレス、売り物ですか?』

『千五百ガリオン持っていればね』

『ああ――ううん。それほどは持っていないわ。それで……この綺麗な、えぇっと、髑髏は?』

『十六ガリオン』

『それじゃ、売り物なのね? 別に……誰かのために取り置きとかでは?』

 

 ハーマイオニーの問いかけに店主は答えない。これは下手を打ったと理解したらしいハーマイオニーが今度は直球で聞いた。

 

『実は、あの――今ここにいた男の子、ドラコ・マルフォイだけど、あの、友達で、誕生日のプレゼントをあげたいの。でも、もう何かを予約してるなら、当然、同じ物はあげたくないので、それで……』

「おっどろきー。ハーマイオニーには演技の才能は無いみたい」

 

 ロンがしみじみと囁くのとハーマイオニーが店を追い出されるのはほぼ同時だった。

 ハーマイオニーが憤慨した様子で戻ってきたのを見てため息をつきながら透明マントの中に迎え入れた。

 

「ま、やるだけやったけどさ。君、どうにも演技が下手で……」

「あーら。なら次は貴方がやってみると良いわ秘術名人様!」

 

 ロンとハーマイオニーのいつもの痴話喧嘩を流し、店の方に目を向ける。扉には既に『閉店』の二文字。

 これ以上張っても無駄だろうと、全員急いでその場を離れた。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 来る九月一日。ガタンゴトンと揺れる特急の振動に身を任せながら、俺は意識して窓の外を眺めることに注力していた。

 

「リオン、そんなに目を逸らさなくても良いでしょう?」

「そうだよ。ただパンジーがマルフォイに膝枕してるだけじゃない」

「いや……まぁそうかもしれないけどさ……」

 

 見てるこっちとしては小っ恥ずかしいんだよ。と隣に座るダフネと斜め向かい側に座るデイビスにぼやく。

 

「お前も分かるよなセオドール?」

「知らん」

「バッサリですね……」

 

 正面に腰掛け、本を読んでいるセオドールに問えば冷たく返され、ダフネの向こうに座るアストリアも曖昧な笑みを浮かべる始末。

 そんな俺達の通路を挟んだ隣にあるコンパートメントではパーキンソンがドラコに膝枕をし、クラップとゴイルはいつも通り気にせずお菓子を貪り、ブレーズは愉快そうに笑っていた。

 

「仕方無いわね……ほら」

「ぐえっ」

「お……!」

「わぁっ!」

 

 突然ダフネが俺の頭を掴んで自分の方向に倒す。あまりに突然の事だったので抵抗することも出来ずに倒され、それを見たデイビスとアストリアが黄色い悲鳴を上げた。

 

「……ダフネ」

「こうすれば恥ずかしくなくなるでしょう? 可愛い私の騎士様?」

「逆効果じゃ……いや、何でもない」

 

 俺の非難を込めた視線も何のその。心底嬉しそうな笑みで俺の髪を撫で始めたダフネにセオドールが言葉を発しようとして止めてしまった。ノット家のご子息様は実に狡猾に立ち回るらしい。争い事を事前に回避しやがった。

 

「ねぇ。そういえば貴方の『ふくろう』の結果はどうだったの? 聞いていなかったから」

「8ふくろうだってさ。頑張った方だ」

「私は7ふくろうだったわ。ダフネは?」

「私はリオンと同じよ。8ふくろう」

「お似合いね姉さん」

 

 俺、デイビス、ダフネが口々に『ふくろう』の結果を発表する。そして、このコンパートメントで唯一自分の成績を伝えていないセオドールに視線が集中した。

 セオドールはそんな視線に少し鬱陶しそうにしながら、「10ふくろうだ」とだけ答えて本に視線を戻した。

 

「さっすが。お前はそれくらい取るだろうなとは思ってたが」

「買い被りは止せ。好きじゃない」

 

 悪戯っぽく笑えば手短に返される。揺れる汽車のコンパートメントにあって、スリザリンとは思えぬほど穏やかに時が流れていった。

 

 

 

 

 

「……で。お前が最後に降りてくるかドラコ」

 

 殆どの生徒は汽車から降り、ゾロゾロとホグワーツに向かっているだろう今。ダフネ達を先に行かせ、俺は汽車の扉の前でドラコを捕まえた。

 声を掛けられたドラコはギョッとした顔をしたものの、すぐに平静を装うと不敵な笑みで俺に話し掛けてきた。

 

「なんだ、まだ残っていたのか。グリーングラスが悲しむぞ」

「言われるまでもない。……で、ハリーを石にでもしたか?」

「なっ……!」

 

 今度こそドラコの澄まし顔が崩れ、驚愕を露にする。ニヤリと口元を吊り上げ一歩踏み込めば、逆にドラコは一歩後退した。

 

「ハリーのやつ、透明マントを使ってたみたいだが、ぶつかったときの音までは隠せないからな。お前も似た理由で気付いたんだろう?」

「だったら何だって言うんだ。アイツは、アイツは父上を……!」

「そりゃあ大好きな父上がアズカバンに放り込まれたならお前の怒りも分かるさ。けどな、お前の父親は死喰い人だ。世間にとって裁かれるべき悪人だ」

 

「~~ッ!! 分かったようなことを、言うなっ!! お前には、お前には分からないだろう!! 僕は自分の両親が大事だ!! たとえ悪人だったとしてもたった二人の家族なんだ!! お前のように日向の道を歩けなくても、それでも僕の───ッ」

 

 そこで、ドラコは言葉を止めた。詰まったのか、別の理由かは分からないがチャンスだ。たとえ親が悪人だったとしても、コイツはまだ──。

 

「そうだな……そうだよな。お前にとって両親が絶対で、沢山の愛を注がれてきたんだろう。親を大切に思うのは当然だ。だからこそ、だからこそだドラコ。アイツが──ヴォルデモートがお前の両親を殺さない保証があると言えるか? お前の安全を釣り餌にして二人を害さないと思うのか?」

「そ、れは……」

「ドラコ、お前に何があった? 何を恐れてる? 教えてくれ。俺が──いや、俺だけじゃない。寮の皆やマークもお前を助けてくれる。

 俺の手を取れドラコ。お前はまだ引き返せる」

 

 右手をドラコに差し伸べる。コイツはただ囚われているだけだ、ヴォルデモートという深い雁字搦めの鎖に。まだ引き戻せる。まだ、日向の道を歩ける。

 

 そう思って差し出した手を前にドラコは逡巡した後、ゆっくりと右手を持ち上げ───

 

 

 パチン!と甲高い音を響かせて俺の手を振り払った。

 

「………」

「お前の、お前達の助けなんて借りるものか……僕は、ぼく、は……それでも……」

 

 それだけ言って、ドラコは足早にホグワーツの方向へと走り去っていった。

 ため息を吐き、汽車の方を見る。さっきトンクスが乗り込むのを見かけたから、じきにハリーも助け出されるだろう。

 なら、もう用は無いなと歩き出そうとして、夜の帳が落ちる空を眺めた。

 

「なぁドラコ。お前は愛されてるんだぜ……」

 

 そんな言葉が、夜の闇に融けていった。

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