【本編完結】ハリー・ポッターと何も知らない転生者   作:シャケナベイベー

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フェリックス・フェリシス

 イギリス、ウィルトシャーにある屋敷──マルフォイ家の邸宅は今、ヴォルデモートや他の死喰い人の集会所として使われていた。

 

 自分たちの家がそのように使われるのにルシウス・マルフォイとその妻のナルシッサは良い顔をしなかったがそれを表に出すことはしなかった。

 もしそんな態度を闇の帝王に知られれば即刻命を失うことになると理解していたからだ。

 

「それにしたってルシウス達もぬけぬけと捕まるなんて馬鹿だねぇ?」

「貴女だって危うかったと聞いたわよベラ」

「あの老いぼれが私より遅いのがざまあないね」

 

 その言葉にナルシッサは己の姉たるベラトリックス・レストレンジを呆れと共に見つめながら、時折不安そうに窓の外を眺めていた。

 

「ドラコが心配なのかい? 我が君直々の命令だ、断ることは許されない……それにスネイプの奴と『破れぬ誓い』まで結んだんだ。ドラコは安全だろうさ」

「えぇ分かってる。分かってるわ……」

 

 目の前の姉が自分の今の気持ちを真に理解することは永遠に無いのだろうと察したナルシッサは夫の帰還をいつも以上に心待ちにすることにした。

 

「……何やら面白そうな話をしているな?」

 

 と、二人しか居ないはずの部屋に不気味な声が響く。慌てて振り返り、そこに立つ影を認めた二人は急いで跪いた。

 

「あぁ我が君……あなた様の気配に気付かぬなどなんと申し開きをすればよろしいか……」

「よいベラ。お前の忠誠、俺様に褒美をもたらすことで報いるがよい」

「有り難きお言葉……」

 

 恍惚とした表情で深く頭を垂れるベラトリックスに倣い、ナルシッサも深々と頭を下げた。

 

「喜べナルシッサ。ルシウス達をアズカバンより抜け出させる目処がついたぞ」

「……! 深く感謝申し上げます我が君。このご恩、より一層の忠義としてお返しを──」

「そうだ。俺様に忠誠を誓い、俺様達に歯向かうものを殺し尽くすがよい。そうすることこそお前達の本懐であろう?」

 

 クツクツと愉快げに声を漏らす主人に二人はさらに頭を垂れた。

 

「アントニンにルシウス、それ以外にも多くの僕がアズカバンに送られたが、ディメンターは我が配下となり、邪魔者であった魔法大臣と魔法法執行部長も消し去ったことで魔法省の柱を崩すことに成功した。代替えを立てようともそう簡単に足並みが揃うとは思わぬからな」

「流石のご慧眼に御座います……」

「ナルシッサ。ドラコの事が心配か?」

 

 ふとヴォルデモートの目が細まりナルシッサを射抜く。ナルシッサは震えだそうとする体と声を必死に圧し殺しながら「いいえ。あの子は優秀な子です。きっとお役に立ちましょう」と答えるのが精一杯だった。

 

「そうか、ならば期待していよう──なぜ俺様がドラコにこの任を与えたか、分かっていような?」

「勿論です、勿論で御座います……」

 

 ドラコに与えた任務は達成不可能に近い。なぜそんなものをヴォルデモートが息子に与えたのか。それは一重に夫の度重なる失態ゆえだとナルシッサは理解していた。

 

「わ、我が君、恐れながら発言をお許しください……」

「貴様! 我が君に対して口を開くなど……!」

「良い。申してみよワームテール」

 

 ヴォルデモートの側に控えていたペティグリューが恐々とした様子で話しかけたのをベラトリックスが咎めるが、それを遮ってヴォルデモートは発言を許した。

 

「わ、我が君の目の傷です……完全に治されないのですか?」

「俺様を疑うかワームテール?」

「ひっ……! め、滅相もございません!」

 

 竦み上がったワームテールを見て愉快げに嗤ったヴォルデモートは修復した片目に走る縦の斬り傷をそっと撫でた。

 魔法省でのエドワードとの戦いの折につけられたこの傷をヴォルデモートは完全に治すことはしなかった。

 

「なに、単に俺様にその気が起きんだけよ。この傷はあやつがつけたもの……いわばエドが俺様に残した呪いとも言える。ならば次は俺様も呪いをつけねば失礼に当たるというものだ」

 

 心底愉快でたまらないと言うように呟いたヴォルデモートは自身の足元を這っていた蛇のナギニを撫でる。

 その瞬間、扉が勢い良く開け放たれ一人の死喰い人が駆け込んできた。

 

「ベラトリックス様! ご報告、が……」

「俺様に目もくれぬ程に切羽詰まった事態なのだろうな?」

「わ、我が君……もう、申し訳ございません!」

 

 やって来た死喰い人に冷ややかな眼差しを向けるヴォルデモートに慌てて跪くその死喰い人の様子を咎めようとベラトリックスが口を開くより早く、ヴォルデモートが続けて言った。

 

「今の俺様は気分が良い、手短に言うがいい。内容によっては罰は下さん」

「ご、ご配慮に感謝いたします……先程、魔法省の動向を監視する任務についていた二人の死喰い人が帰還したのですが、どうにも尋常ではない様子で……」

「ほう?」

 

 その内容にヴォルデモートの興味が引かれた。魔法省の監視に当たっていた死喰い人と言えばそれなりに腕の立つ二人のはず。そんな二人が尋常ではない様子で帰ってきたとなれば、僅かながらに興味がある。

 

「俺様をそやつらの下に案内しろ」

「は、はっ!」

 

 こちらですと先導する死喰い人に案内され、ヴォルデモート達は件の二人を目にする。

 

「なんだい? 錯乱の呪文でも掛けられたってのかい?」

「いえ、それともまた違うわ……一体、これは……」

 

 ヴォルデモートに追随してきたベラトリックスとナルシッサの二人が疑問を溢す中で、ヴォルデモートだけはその二人を静かに見つめていた。

 

「なるほど。()()()()()()()()()()

「感情を……?」

「そうとも。そして俺様はこの芸当が出来る者を一人だけ知っている」

「ご、ご主人様ではないのですか……?」

「いや、俺様ではない……しかしそうか。あの男も動いているのか!」

 

 二人をこの状態にした人物に心当たりがあるのか、ヴォルデモートはひとしきり哄笑を響かせた後に二人を死の呪文で殺した。

 

「感情を抜かれれば死人も同然よ。生かしておく意味があるまい」

「我が君、恐れながらその者の名をお聞かせください。そうすればこの私めが始末して御覧にいれましょう」

「クックック……いや、あれはお前の手には負えまいよベラ。力こそ俺様に及ばぬだろうが中々に小賢しい奴ゆえな」

「そこまでなのですか?」

 

 あの闇の帝王が他人を高く評価するということに周りの誰もが目を丸くする。そして、ベラトリックスは愛する主人にそこまで認められる名も知らぬ男への嫉妬心を爆発させていた。

 

「聞いたことはないか? かつてホグワーツに存在したとされる『ダンブルドアの先輩』の話を」

「そのような話は……いえ、確か一度耳にした覚えがあります」

「であろうな。ホグワーツに通うものであればいずれ耳にすることになるだろうその名。そやつこそ感情を抜き取ることのできる魔法使いよ」

 

 ナルシッサが思い出した横でヴォルデモートはさも懐かしむように語った。

 

「その話が真であるなら一刻も早く我らの側に……もし拒むようであれば始末できずとも妨害を……」

「ベラ、俺様はあの者に時間を割くべきではないと考える。奴にとってお前が二人いようが変わらぬ。様々な策を弄して辱しめを受けるだろうよ」

 

 存外にお前では相手にされないと告げられて、ベラトリックスの顔が羞恥と怒りで赤く染まる。

 ヴォルデモートは足元を這うナギニに目をやり、シューシューと口から蛇語を繰り出した。

 

『そこの二つを喰らうといいナギニ。豪勢な夕食だ』

 

 主から許可を得たナギニが口を大きく開いて転がる死体の片方を丸呑みにする。

 骨と肉が砕ける音がナギニの中で響き、そのあまりの不快さにナルシッサとペティグリューと案内人の死喰い人が顔を青ざめさせた。

 

「まだ我らの因縁は続いている……俺様か貴様か。勝つのはどちらであろうなエド?」

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 六年目に突入したホグワーツの新学期は、やはり驚きで包まれていた。

 スネイプが防衛術の教師となり、その代わりに魔法薬学の授業をスラグホーンが受け持つことになったからだ。

 

 ───まぁ、スラグホーン先生は薬学だろうな。

 

(知ってたのか爺ちゃん? ……あー、そういや爺ちゃんが学生の頃から先生やってたんだっけスラグホーン先生って)

 

 ───そうだな。あの人が防衛術の授業を受け持つことは想像がつかない。しかし薬学となれば話は別だ。先生の授業を期待して待っているといい。

 

(そんなにか)

 

 祖父が言うのなら期待していようと、スリザリン寮に戻る道すがらリオンは期待に胸を弾ませた。

 

 

 

 

 

「これが何か、分かる者はいるかね?」

 

 始まった魔法薬学の授業で、新たに教鞭を執ったスラグホーンが何らかの液体が入った瓶を摘まむ。

 それを見たハーマイオニーがいの一番に手を上げ、スラグホーンに指名されて立ち上がった。

 

「君の名前を聞いても良いかね?」

「ハーマイオニー・グレンジャーです」

「なんと……ひょっとして超一流魔法薬師協会設立者のヘクター・ダグワース・グレンジャーと関係ないかね?」

「いえ。私はマグル生まれなので関係ないと思います」

 

 スラグホーンが目を輝かせてハーマイオニーに訊くとそんなスラグホーンの様子に困惑しながらハーマイオニーはその問いを否定した。

 そしてそれを聞いたスラグホーンの目がハリーに向く。

 

「前回会った時に言っていた学年で一番のマグル生まれの友達とは彼女のことだね?」

「そうです先生」

 

 ハリーは友人が褒められて嬉しそうだ。スラグホーンはそうかそうかと相槌を打つとしっかり答えたハーマイオニーを褒め、グリフィンドールに二十点をもたらした。

 これに驚いたのは一部のスリザリン生だ。かつてスリザリンの寮監だったスラグホーンがグリフィンドールに嫌み一つ言わないことが衝撃だったのだろう。ドラコは近くに座っていた他のスリザリン生に耳打ちし、スラグホーンを嘲った。

 

「さて……今日は私の復職して最初の授業だ。だから、今日の調合が一番上手く出来た者にはこれを与えよう!」

 

 そう言ってスラグホーンがポケットから一つの瓶を取り出す。中には透明の液体が閉じ込められており、しっかりとコルク栓で塞がれている。

 

「これが何か分かる者はいるかね?」

「幸運の液体です! 人に幸運をもたらします!」

 

 興奮ぎみにハーマイオニーが語った内容にその場の生徒全員が姿勢を正した。スリザリン生でさえ、マグル生まれの奴が言った言葉なんて信じないと言う嘲りは捨てていた。

 

「その通りだよミス・グレンジャー……幸運の液体(フェリックス・フェリシス)。恐ろしいほどに調合が難しい薬で間違えれば悲惨なことになる。しかし正しく煎じることさえ出来れば、薬効が切れるまでは全ての企てが怖いほどに成功に傾くのが分かるだろう」

 

 生徒達はスラグホーンの言葉に耳を傾けながらも視線はフェリックス・フェリシスに吸い寄せられていた。

 

「私が持っているこれは飲めば十二時間分の幸運を得るのに十分な量だ……では教科書の十ページを開いて。ここに書かれているのは『生ける屍の水薬』だ。これまで君達が煎じてきたどの薬より調合が難しいことは承知しているし完璧に出来るなんて思ってもいない。

 しかし完璧に出来ずとも、一番上手く調合出来た者がこの愛すべき幸運の液体を手にする!」

 

 それでは始め!とスラグホーンが号令を掛けるのと同時、生徒は一斉に調合を開始した。

 

「しかしフェリックス・フェリシスなんて先生も思い切った物を景品にするよなぁ」

「スネイプ先生の頃とは比べ物にならないね。スネイプ先生だったらこんなことは絶対にしなかった筈さ」

「でもよ、手にいれる以前に『生ける屍の水薬』の調合が課題だぜ? 難しいったらないだろ」

 

 リオンは大鍋の前にひとしきり材料を揃え、教科書に書かれた内容に従って煎じていく。

 

「えー……ニガヨモギを大鍋に入れて、そこにアスフォデルの球根の根を加える。で、二度時計回りにかき回す……」

 

 二度、平たい棒でかき回した後、再び教科書に視線を戻した。そして書かれた通りにナマケモノの脳味噌を鍋にぶち込む。

 

「次に催眠豆の汁を加える……あー、てことは潰す必要があるのか」

 

 とっとと済ませようと小刀で催眠豆を潰していくが、これが中々に厄介だった。汁が出てこないのだ。

 

「……マーク、ランス。そっちどうだ?」

「今催眠豆のところだね。汁が出てこないんだよ」

「俺もおんなじだ。リオンもか?」

「あぁ……なんだこれ、詐欺か?」

 

 調合が難しいと聞いてはいたがここまでとは。なんとか十二粒の催眠豆から汁を抽出して鍋に加える。

 

「で、最後に半時計回りに水が澄んでくるまで回すと……」

 

 そして無心で回すこと数分。「紛れもない勝利者だ!」とスラグホーンの声が聞こえ、一度作業を中断してそちらに目を向けた。

 スラグホーンがいたのはハリーとハーマイオニーのところで、リオンはハーマイオニーが成功させたのかと考えたがハーマイオニーの顔を見るにどうやら成功させたのはハリーのようだった。

 スラグホーンがハリーを褒め称える中で、ハーマイオニーはどこか釈然としない顔で二人を見ていた。

 

 

 

 

 

 こうして、ハリーはフェリックス・フェリシスを手にしたのだった。

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