【本編完結】ハリー・ポッターと何も知らない転生者   作:シャケナベイベー

81 / 118
お待たせしました!!


リドル・ヒストリー

 ケイティが聖マンゴに送られたという噂は瞬く間に学校中に広まった。一体誰の仕業なのかと話し合うのを、リオンは何度か耳にしている。

 

「死喰い人って言うのに襲われたんですか?」

「それが本当ならその死喰い人は愚かすぎるなエリオ」

 

 大広間で隣に座ってきたエリオット・ラフォードと彼の幼馴染であるイリス・ローレライに料理を取り分けてやりながらリオンは尾鰭のついた噂に苦笑した。

 

「そんな回りくどい手を使うより、奴らは直接害する手を使うほうが余程性に合うだろうさ」

「も、もし出会っちゃったらどうしよう……」

「そんな事は起こさせないさ。無理に戦おうとする必要もない」

 

 不安げに瞳を揺らすイリスの頭を撫でていたリオンの下に一枚の紙切れが音も無く『出現』した。

 

『今日の夜に校長室に来るように』

 

 簡潔ながらも要点だけを伝えた内容に僅かに眉を顰めながらも手紙を懐に仕舞うとサッと立ち上がる。リオンはこの可愛い後輩二人をそれぞれの寮に帰してから、自分もスリザリン寮へと戻った。

 尚、二年生二人を引率するリオンを見たマークとランスがクスクスと愉快げに笑っていたことにリオンは見ない振りをした。

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「わしの留守中、忙しかったようじゃのう。ケイティの事件を目撃したと聞いた」

 

 顎髭を撫でながらダンブルドアが言う。真横にいるハリーが「先生。ケイティの様子は?」と苦い顔を隠さずに聞いた。

 

「まだ思わしくない。じゃがケイティは幸運だったと言える。あのネックレスを首に掛けたり、手袋を外して掴んでおったのならケイティは死んでおったじゃろう。たぶん即死じゃ。幸いスネイプ先生の処置のお陰で呪いが広がるのを食い止められた───」

「どうして? どうしてマダム・ポンフリーに診せないのですか?」

 

 ダンブルドアの言葉を遮りハリーが聞く。やはりスネイプ教授の事となるとハリーは口を挟まずにはいられないようだとリオンは頭を抱える。

 そして校長室の壁にある歴代校長の肖像画の一つが『生意気な!』とハリーに対して憤慨した。誰であろうフィニアス・ナイジェラス・ブラック校長その人である。狸寝入りを決め込んでいた筈の彼は顔を上げてハリーを睨む。

 

『わしの時代だったら、校長のやり方に生徒が口を挟むなど許さないものを』

「時代は変わりましたよブラック元校長。今の貴方は生前の影法師に等しい──深く口を挟むことは謹んでは?」

 

 フィニアスの言葉を遮りリオンが話す。有無を言わさぬ物言いにフィニアスは舌打ちを溢しながら数秒リオンを睨むと、またもや狸寝入りに入った。

 ダンブルドアがフィニアスとリオンのそれぞれに礼を言って再度ハリーに向き直る。

 

「スネイプ先生はマダム・ポンフリーよりずっと闇の魔術について心得ておられるのじゃよハリー。いずれにせよ、聖マンゴのスタッフが一時間おきにわしに報告を寄越してくれておる。ケイティはやがて完全に回復するとわしは思っておるよ」

 

 やがて、ダンブルドアは机の上に置かれていた憂いの篩に新たな『記憶』を注ぎ込み、両手で石の水盆を挟み、渦を巻かせ始めた。

 

「ふたりとも覚えているじゃろうが、ヴォルデモート卿の生い立ちはハンサムなマグルのトム・リドルが妻であったメローピーを捨ててリトル・ハングルトンにある屋敷に戻ったところで終わった。メローピーは一人ロンドンに取り残され、後にヴォルデモート卿となる赤ん坊が生まれるのを待っておった」

「先生、どうしてメローピーがロンドンにいると分かったのですか?」

「カラクタカス・バークという者の証言があるからじゃ」

 

 ダンブルドアの目が水盆からハリーとリオンに移る。

 

「奇妙な偶然じゃが、かの者が我々がたった今話しておったネックレスの出所である店の創立に関わっておる」

 

 そう言ってダンブルドアは水盆をゆっくりと揺らす。以前にもそうしたのをハリーとリオンは思い出した。そして渦の中から銀色の物体が人の形となって立ち上がり渦の中を回転する。ゴーストのように銀色だがしっかりとした実体があり、両目はボサボサの前髪に隠れている。カラクタカス・バークだと、リオンは瞬時に理解した。

 

 

 

『随分とみすぼらしい格好で来ましてね。腹が膨れてたから赤ん坊が生まれるのだろうと予想はつきましたよ。その費用を稼ぐために売りに来たのだともね。その女は一つのロケットを買ってくれと言うんですよ。スリザリンのロケットだと言ってねぇ?

 その手の話は私どもからすればしょっちゅうでした。やれ、これはマーリンのだ、これはそのお気に入りのティーポットだとか。しかしそのロケットにはスリザリンの印がちゃんとある。簡単な呪文を一つ二つ掛けただけで真実を知るには十分でした。そうなるとロケットには値がつけられません。

 しかしその女はロケットの価値を良く分かっていないようでしてね、十ガリオンくれてやったら大喜びしたんですよ。いやぁこれほど美味い話もありませんでしたな!』

 

 

 

 ダンブルドアはもう一度水盆を強く揺する。するとバークの影は現れた時と同じように渦の中へ消えていった。

 

「たった十ガリオンしかやらなかった?」

「スリザリンの遺産をたかが十ガリオンで……しかもそれで良しとするのは……子供を育てるのにそれだけで足りると?」

 

 ハリーはバークの卑劣さに、リオンはメローピーの無知さにそれぞれ憤慨していた。そんな二人を水盆から顔を上げたダンブルドアが宥める。

 

「カラクタカス・バークは気前の良さで有名な訳では無かった。しかし、これでメローピーはたった一人ロンドンに残り、金に窮する状態であることが分かった訳じゃ。困窮のあまり、唯一の価値ある持ち物であったゴーント家の遺産を売り払わねばならぬ程追い込まれておった」

「でも、彼女は魔法を使えた筈だ! 魔法で食べ物や色々なものをどうにかすることだって出来た筈でしょう?」

 

 ダンブルドアの説明に納得がいかないのかハリーが吼えるように叫ぶ。そして、そんなハリーに横槍を入れたのはリオンだった。

 

「確かに魔法ならどうにかする事だって出来るだろう。だが魔法は、それを扱う大元の魔力は精神状態に大きく左右される。愛する者と添い遂げられなかった絶望、日銭を稼ぐことさえ難しい苦しみ……そういったものが重なった結果憐れなメローピーは魔法を扱えない状態だったんじゃないか? そもそもあの父親がホグワーツに行かせるとも思えないけどな」

 

 淡々と自分の意見を述べたリオンの目にはやはり軽蔑の色が浮かんでいて、メローピーの事を理解したくもないと今にも口にしてしまいそうな程だった。

 

「リオンの言う通り、メローピーは夫に捨てられた時に魔法を使うことを止めた。魔女であることを放棄したのじゃ」

「子供のために生きようとしなかったんですか?」

 

 自分の母がそうだったように。声に出さなかったが、そういう気持ちなのだろうことはダンブルドアとリオンにはよく理解できた。

 その上でダンブルドアは首を横に振って悲しげな目をする。

 

「世の誰もが君の母親のように勇気を持てるわけではない。確かに母親という人達は少なかれ子供のことを思うじゃろう。あのメローピーにもその道を選ぶことも出来た。しかしメローピーは長きに渡る絶望と苦痛でそのように選ぶことさえ出来なんだ───リオンよ、君にとっては理解出来ぬ事じゃろうがメローピーはそのような女性だったのじゃ」

 

 ダンブルドアがハリーからリオンへと視線を向ける。リオンは苦虫を噛み潰したような顔でダンブルドアを見ると小さく息を吐いた。

 

「二人とも、ここに立つのじゃ」

「どこへ行くのですか?」

 

 ダンブルドアに指示された通り憂いの篩の前に立った二人はまた記憶の中に飛び込むのかと怪訝な顔をする。

 

「今回はわしの記憶を見てもらう。細部に渡って緻密であり、しかも正確さに抜きん出ているものであることが分かるじゃろう。ハリー、リオン。先に行きなさい……」

 

 促され、二人は記憶が渦巻く水面へと顔を突っ込み、暗がりへと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を開けると、二人はダンブルドアと共に賑やかな古めかしいロンドンの街角に立っていた。

 

「わしじゃ」

 

 朗らかな声でダンブルドアが前方を指差す。背の高い一人の男が馬車の前を横切ってやってくる。

 今より随分と若いダンブルドアは鳶色の髪と顎髭、濃紫のビロードの派手なカットの背広を着こなしてリオン達の側まで来ると悠々と歩道を歩く。

 そんな下手な不審者より不審者らしい男の姿を周囲の人々は奇異の目で見つめていた。

 

「なんとも珍妙な……ハロウィンの仮装かなにかで?」

「手厳しいのうリオン」

「The・変人って感じですよ。あんなの着てマグルの人達に怪しまれないとでも?」

「当時のわしとしてはマグルの流行の最先端を押さえたつもりだったんじゃが……」

「あまりに未来に生きてますね」

 

 せめて黒とか灰とか無難な色合いに出来なかったのかとリオンはやるせない気持ちになる。

 一方のハリーは「先生、素敵な背広だ」と口にする。この隣のズバッと言えない少年の目を覚まさせるべきかリオンは歩きながら真剣に考え込んだ。ダンブルドアを持ち上げたって何もないんだぞ。

 

 やがて若ダンブルドアとその後ろを行く三人は一つの建物に到着する。殺風景な中庭に高い鉄柵に囲まれた四角い建物。どうやら一軒家というわけではない、孤児院か何かだろうなとリオンは当たりをつける。

 

 そしてこの孤児院の院長らしい古ぼけたエプロンを着けたミセス・コールという人物に案内され、若ダンブルドアと三人は孤児院へと足を踏み入れた。

 場面が飛び、若ダンブルドアは対面に座るミセス・コールに数枚の紙を渡した。

 

「聞いたことのない学校ですが──そこにあの子を?」

「えぇ」

 

 それに目を通したミセス・コールが疑わしげにダンブルドアを見るが当の本人は至って冷静な顔を崩さない。

 ミセス・コールは眼の前に置かれたジンの瓶に手を伸ばし、グラスに並々と注ぐ。

 

「ジンはいかがです?」

「いただきます」

 

 頷いたミセス・コールはダンブルドアのグラスにもジンを注ぎ、自分の分を一気に飲み干した。それにより気分が高揚したのかミセス・コールが初めて笑顔を見せる。

 

「トム・リドルの生い立ちについて何かご存知でしょうか? この孤児院で産まれたのだと思いますが……」

「そうですよ」

 

 そこを見逃さずダンブルドアが訊ねるとミセス・コールはたちまち神妙な顔で頷いた。

 

「あの事は良く覚えていますよ。なにせ私が此処で働き始めて少し経った頃のことでしたから。大晦日の酷く冷える夜でしたよ貴方、一人の身重の女が訪ねてきたのですから。当時の私とあまり変わらない年頃で石段をよろめきながら上がってきたんです。

 外は冷えるだろうと中に入れてやって、その一時間後に赤ん坊が生まれて、さらに一時間後に亡くなったんです」

「亡くなる前にその方は何か言っていませんでしたか? 例えば父親のことなど」

 

 二杯目のジンを一気に飲み干し、グラスを片手に持ったミセス・コールは「言いましたとも」と頷いた。

 

「私にこう言いましたよ。『どうか父親に似ますように』と。はっきり言ってその願いは正解だったと思いますよ……まぁお世辞にもその女性は美人とは言えませんでしたから。それから、その子の名前は父親のトムと、祖父のマールヴォロを取って付けてくれと言ったんです───おかしな名前でしょう? それからその子の姓はリドルだとだけ言って、それ以外は一言も話すことなく息を引き取ったんです」

 

 話を聞いていたリオンは胃の辺りがムカムカするのを如実に感じ取った。己を縛る父と兄から───ゴーントの呪いから離れておいて、名前にはその呪いを課すなど。結局、メローピーという憐れな女は最期の最期まで呪いに縛られたのだと冷たい笑いが込み上げた。

 そんなリオンの肩を隣に立っていたダンブルドアが優しく叩いている間にも、若ダンブルドアとミセス・コールの話し合いは続いていた。

 

「あの子は赤ん坊の頃から普通じゃなかったんです、ほとんど泣かないんですから。そして少し大きくなると、あの子は……変でしてねぇ」

「変というと?」

「あの子は───」

 

 しかし、ミセス・コールはそこで一度言葉を切り、ダンブルドアを詮索するようにチラリと見つめる。

 

「あの子を間違いなく入学させてくれると約束できますか?」

「えぇ。神に誓って必ず」

 

 神様なんざ碌に信じちゃいないくせにダンブルドアは堂々と言い切った。

 しかしその言葉に安心したのか、もう一杯ジンを呷ったミセス・コールはほんの僅かに震える声で呟いた。

 

「あの子は他の子を怯えさせます」

「いじめっ子だと?」

「そうでしょうね……しかし現場をとらえるのが非常に難しい。事件が色々あって……気味の悪い事が色々……」

 

 そこからミセス・コールが語った内容はいくら孤児とはいえ常軌を逸したものだった。ウサギを天井の垂木から吊るす、他の子の気を触れさせる。あまりに残酷な仕打ちの数々だった。

 そしてまた場面が飛び、若ダンブルドアと一人の子供が向かい合っている。十一歳にしては背が高く、黒髪と端正な顔立ちの少年。まさしく母親がそうであれと願った姿そのものだった。

 

「僕は自分が特別だって知っていた。何かあるってずっと知っていたんだ」

 

 トム・マールヴォロ・リドル。かつて秘密の部屋事件の時に見た、成長した彼の片鱗は既に覗いていた。自分以外のものを見下し、相手に応じてどのような態度を取ればいいのか心得ている。

 あまりに子供らしくなく、しかしその根底にあるのは『自分が特別である』という証明がほしいという子供らしい願い。

 

 

 

 記憶が終わっても、リオンは未だ水盆を睨みつけていた。隔絶した頭脳と才能を持っておきながら結局は子供らしい願いを捨てきれていないのだとリオンには察せてしまった。

 

「……殺しておくべきだった」

「あの時点では見抜けなかった事じゃ」

「アイツは……アイツは自分の力がどのように作用するか知っていた。その力を隠すことが賢明だと分かっていながら、アイツは気に食わない者に制裁を与えるために使った!」

 

 吐き捨てるようにリオンは叫ぶ。無知なメローピーは己の為に赤子を産み落とし、育てることなく死んだ。その子供は己を特別だと思い込み、くだらない自尊心を満たすために力を振るった。

 

「結局は己の為に動いた奴らだ、メローピーもトムも。現にあのクソ野郎は多くの人を殺めた!!」

「そうじゃのう、そこは否定せん。確かにメローピーがトムを育てていれば大きく変わったじゃろう。しかし、当時のメローピーには出来なかったことも君は知ったはずじゃ」

 

 奥歯を噛み締める。そうだ、分かっている。夫に逃げられたのは自業自得とはいえ、家族から虐げられたのは間違いなくゴーント家の悪しき風習故だった。それさえ無ければメローピーもまた違う道があったのだということも。

 だがそれでも。リオンにとってメローピーとトムの行動は理解できなかった。現代日本に生き、そして今のイギリス魔法界で家族の愛を知っているリオンにとってはどうしても分からなかったのだ。

 

「リオンよ、無理に理解してほしいとは思っておらぬ。じゃが知っておいてほしいのじゃ。トムの過去を。知らねば奴を殺すことは出来ない───君の祖父でさえ、ヤツの本性に気付くのが遅れたのだから」




リオンはメローピーが嫌いです。
家族からの仕打ちに思うことはあれ、結局自分の望みを押し付けて、あまつさえ親の責任を果たすことを初めから放棄したメローピーに対して理解出来ないという感情しかありません。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。