【本編完結】ハリー・ポッターと何も知らない転生者   作:シャケナベイベー

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証を残しましょう。離れていかぬように

「驚くほど上手くいったな」

 

 

 まったく以て上出来だ、小躍りでもしたいくらいに。

 フェリックス・フェリシスを数滴だけ摂取し臨んだスラグホーンとの話し合いは恐ろしいほど上手くいき、スラグホーンの記憶とついでにアクロマンチュラの毒も手に入れる事ができた。

 

 なるほど、これは幸運薬と呼ばれる訳だとその効果の程を身を以て知ることが出来た。

 

 意気揚々とダンブルドアに守護霊による伝達を飛ばし、二人揃って校長室に赴けば、そこには瞳を輝かせたダンブルドアが佇んでいた。

 

 

「君達なら成し遂げられると信じておったよハリー、リオン。良くやったの」

 

 

 そうっと宝物が渡されたかのように記憶が詰められた瓶を受け取ったダンブルドアは慎重に蓋を開け、『憂いの篩』に記憶を流し込むと軽くかき混ぜる。

 

 

「では参るとしようかの。ホラスが長年隠し続けた真実に」

 

 

 

 

「これほどホラスの記憶を求めたのは、奴が一体幾つの分霊箱を作り出したのか知りたかったからじゃ」

 

 

 記憶の閲覧を終え、現実に戻ってきた三人はソファに座り直して話を始める。

 

 

「魂を裂き、器となる物を用意するとなればあやつは慎重に選ぶじゃろう。そしてそれがいくつあるのかがわしには分からなかった」

「そして出てきたのが七個。何かと神聖な数字として語られる数ですか」

「そうじゃ」

 

 

 ハリーが一層顔を青くする。分霊箱の製造方法と、そんな物を七つも作ったということについて血の気が引いているのだろう。

 

 

「わしが分霊箱の存在に気付くより早く、エドワードはそれの対処法を探しておったようじゃ」

「祖父が?」

「トムと親しかったエドワードの事じゃ。何かしらに勘付いて独自に調べておったのじゃろう。しかしそれをわしに伝える事なく彼は───」

「死んだ」

 

 

 恐らく祖父は責任を感じていたのだろう。全てを自分の手で終わらせようと試行錯誤し、そして分霊箱の存在をダンブルドアに伝えるより先に妻共々ヴォルデモートの手で殺された。

 

 

「奴が分霊箱にしそうな物と言ったらそれこそ創設者の品でしょう。スミス夫人から強奪したハッフルパフのカップとスリザリンのロケット。この二つは思い付くが……そういえばダンブルドア。分霊箱は本体のヴォルデモートを除いて七個ですか?」

「いや。恐らくは本体も含めて七個じゃろう。そしてその一つはハリー、リオン。君達も良く知っている品じゃよ」

「良く知ってる品?」

「日記じゃ」

 

 

 「あっ」と二人して声を上げる。二年生の頃に散々手古摺らされたトム・リドルの日記。あれが分霊箱だったのかと得心がいった。

 

 

「そしてもう一つはわしの指に嵌まっておる」

「……マールヴォロの指輪」

「壊す時に教えてくれれば良かったのに!!」

 

 

 黒く萎びた腕をヒラヒラさせるダンブルドアにリオンは頭が痛そうにし、ハリーは目を見開いて叫ぶ。そんな二人に「すまんのお」と特に悪びれる様子もないダンブルドアが片目を瞑る。

 

 

「はぁ……まぁ貴方のそういうところは今に始まったことじゃありませんし別に構いませんが……カップ、ロケット、日記、指輪。あと二つ。順当に行けばレイブンクローとグリフィンドールの品ということになるんでしょうが……」

 

 

 レイブンクローの遺した品、髪飾りは失われたと聞く。ロウェナ・レイブンクローが死の間際に自らの手で壊したのだとか。

 『叡智を誇っておきながら結局親友たちの仲違いを止められなかった』と嘆いて。

 

 

「グリフィンドールの品は無かろう。あやつにとっては忌々しい物じゃろうし、そもそも帽子と剣は保管され続けておる」

「グリフィンドールの剣は真のグリフィンドール生にしか引き抜けませんしね。分霊箱とするには適さない。帽子もまた同じ」

「じゃああと一つは一体?」

「恐らく蛇のナギニがそうでないかと思っている」

 

 

 指折り数えていたハリーにダンブルドアが答える。「生き物に魂を?」と首を傾げたリオンに頷いてから続きを話し出した。

 

 

「生き物を自身の魂の器とするなど愚かの極みじゃが、蛇はスリザリンの象徴。分霊箱にしようと考えてもおかしくあるまい」

「気持ち悪い執着心だ」

 

 

 顔を顰め、吐き捨てる。まかり間違って弱体化してくれたりしてないだろうか。

 

 

「本体を滅ぼしてから分霊箱を探すというのは?」

「いや。分霊箱を全て壊してから本体じゃ。先に本体を滅ぼしては分霊箱を利用して復活される恐れがある」

「日記と指輪は破壊済みだから、壊すべきは後四つか」

「そのうちの一つは既に居場所を突き止めておる。壊す時は君達にも同行を頼みたい」

「良いんですか?」

 

 

 思わぬ提案に二人は目を見開いてダンブルドアを見る。彼はパチリとウィンクをして朗らかに笑んだ。

 

 

「君達にとっても見過ごせぬことじゃろうしの。後学のためにも必要じゃろうて」

 

 

 

 

 

 スラグホーンの記憶入手という難関を終えたことでリオンは重荷が一つ消えたことを実感していた。とはいえ相方のハリーは近々最後のクィディッチの試合が迫っており、相手はレイブンクローだ。

 チョウ・チャンがシーカーを務め、キャプテン兼チェイサーのロジャー・デイビースやリオンの知らぬ間にレイブンクロークィディッチチームに所属しビーターを務めていたらしいマークとランス等強豪揃いだ。レイブンクローは今が黄金期と言っても過言ではないだろう。

 

 

「まぁ今回は友人同士の対決だしどこを応援するか……ッ!!」

 

 

 そんな風にクィディッチに思いを馳せていたリオンが目元を押さえて膝を突く。未来視だ。

 

 どこかのトイレでハリーとドラコが互いに呪文をぶつけ合っている。互いに一進一退の攻防を繰り返し、やがてハリーの放った呪いがドラコに直撃し、彼は赤い血溜まりを作って倒れ伏す──。

 

 

「マジかよ……!」

 

 

 よろしくない未来を視たリオンは慌てて駆け出す。鮮明さからして直ぐに起こり得る未来だ。近くの肖像画にハリーが何処にいるかを訊ねると「七階にいるよ」と教えられる。

 

 階段を駆け上がり、七階にあるトイレに向かう。やがて男子トイレの方から「人殺し! トイレで人殺し!」と叫ぶ女の声が聞こえた。嘆きのマートルだ。思いっ切り扉を蹴破って中に飛び込む。

 そこには視た通りの光景が広がっていた。血溜まりに沈むドラコとそんな彼を呆然と眺めるハリーの姿。

 

 

「ドラコ!」

 

 

 すぐさま駆け寄り、いくつか癒しの魔法を掛けるがどれも効果が無い。それならばと五年生で習った最上級の癒しを唱える。

 

 

「ヴァルネラ・サネントゥール」

 

 

 傷口に杖を向け、歌うように唱える。すると少しずつではあるが傷が塞がっていく。だが、あまりこの呪文を使ったことがないリオンでは完治には至らない。

 

 

「そんな……僕は……」

 

 

 誰か。懇願するようなハリーの呟きに苛立ちを覚える。顔についた血を拭い、もう一度唱えようとしたところで誰かに押し退けられた。

 

 

「後は吾輩がやる」

 

 

 スネイプだ。彼はリオンと同じく呪文を唱えるが、リオンと違いみるみる内に傷が塞がっていく。そして三度唱えた頃には傷口は完璧に塞がっていた。

 

 

「吾輩はマルフォイを医務室に連れて行く。ポッター、此処にいろ。アーデルはポッターを見張っておけ」

 

 

ドラコを担いだスネイプは簡潔に告げるとトイレから出ていき、中にはハリーとリオン、そして未だすすり泣くマートルだけが残った。

 

 

「おいマートル。面白がるならとっとと消えろ。邪魔だ」

 

 

 リオンの冷め切った声と眼光にマートルは体をビクッと跳ねさせると脱兎の如くトイレから去る。

 それを見届けたリオンはツカツカとハリーに歩み寄り、彼の手から杖をもぎ取ると直前呪文を掛ける。

 

 

「よりによってセクタムセンプラとはな。武装解除をお得意とするくせにこんな呪文を使うとは」

「それは……マルフォイが磔の呪文を使おうとして……」

「だとしてもだ。それこそ武装解除を使えば良かっただろう。セクタムセンプラの危険性はお前もよく知っていると思っていたが?」

 

 

 なにせ俺が喰らったのをお前は見ていたしなと告げればハリーは体を軽く震わせる。軽くため息を吐き、告げる。

 

 

「少なくとも退学にはならないだろう。ダンブルドアはお前を必要としているし、お前を欠けば魔法界は終わる。ただクィディッチには出られないと思っておくんだな」

 

 

 

 その後はてんやわんやだった。ハリーは毎週土曜日に罰則を言い渡されてクィディッチには出られなくなり、しかし結果としてグリフィンドールVSレイブンクローのクィディッチはグリフィンドールの勝利で幕を下ろした。

 しかしドラコを害されたことに怒り狂ったパーキンソンがハリーの悪評を言い触らしたりした影響かハリーへの風当たりが強くなっていた。

 

 

 

 

 

 

 そんな日々が過ぎていったとある日の夜。リオンは一人、星と月明かりがよく見える部屋に一人佇んでいた。

 

 やがて扉の向こうからコツコツという足音が響き、この部屋の扉が開くと一人の生徒が中に入ってくる。

 

 

「こんな夜更けに呼び出すなんて酷い人ね私の騎士様?」

 

 

 やって来たのは恋人のダフネだった。皮肉めいた言い回しをするダフネだが、その顔には嬉しそうな笑みが浮かんでいる。

 それに対し、リオンは小さく笑みを浮かべたものの何かを返すことはなかった。それを見たダフネが訝しげな顔でリオンに近付く。

 

 

「どうしたのよ」

「あー、いやその……」

 

 

 アイスブルーの瞳に覗き込まれ、思わず顔を逸らす。何と切り出すべきか、ウンウン悩んだ末にリオンはダフネの顔を見た。

 

 

「ダフネ」

「何かしら」

「お前のことが……」

 

 

 言い出そうとして喉がつっかえる。言わなければいけないと思いながらも、決定的なそれを言い出すことが出来ない。

 

 

「───俺と別れてくれ」

 

 

 そのたった一言を蚊の鳴くような声で絞り出した。ダフネがほんの僅かに目を見開く。

 

 

「他に好きな人でも出来た?」

「いやそれはない」

 

 

 予想以上に落ち着いた声で訊いてきたダフネにリオンは考えるより先に口が動いた。そして顔をしかめる。

 なんてことだ。お前より胸のデカい子がどうこうと言えばすんなり振られただろうに。

 

 それを聞いたダフネは満面の笑みを浮かべる。いや、顔は笑っているが目は笑っていない。どうにもリオンは愛すべき片割れの魔女の怒りを買ったらしい。

 

 

「なんで急にそんな馬鹿のことを考えたのか、全部吐きなさい」

「え、いや「二度は言わないわよ」……はい」

 

 

 胸倉を掴まれすぐさま降参する。わずか数秒、虚しい抵抗だった。

 

 そしてリオンはポツリポツリと語り出す。自身の予言のこと、ヴォルデモートに命を狙われていること、祖父の計画。その全てを。

 

 

「もっと早くに伝えるべきだった。そうすればまだ傷が浅くて済んだかもしれない。ごめんなダフネ、俺の我儘に付き合わせて───」

「いい加減になさい」

 

 

 グイッと肩を掴まれ、床に押し倒される。そして馬乗りになったダフネに唇を奪われた。時間にして一分ほどそうしていたダフネがようやく離れる。垂れる銀の糸を掬い舐め取る妖麗なその姿に一瞬だけ見惚れた。

 

 

「そんな巫山戯た理由で別れましょう? あまり私を見くびらないで頂戴」

「いや、でもどのみち俺はヴォルデモートの手に掛かって──」

「それがどうしたと言うの。それなら私だって血の呪いで死ぬ可能性だってあるわ。父様から聞いたの、貴方がたとえ私が血の呪いに掛かっても最期まで私の隣にいると言っていたと。

 それがどれだけ嬉しかったか、貴方に分かる?」

「それ、は……」

 

 

 両頬をダフネの柔らかな手が包む。そして何でもないように告げられ、リオンは思わず口籠った。

 

 

「決めたわ。貴方が逃げられないように証を刻んでおきましょう。そうすればそんな馬鹿な考えも無くなるでしょうし」

「……俺でいいのか?」

「貴方が良いの、貴方でなきゃ駄目なの。それ以外なんて目にも映したくない。だからねリオン」

 

 

 逃さないんだから。そう言って、ダフネの体がゆっくりと近付いてくる。そして互いにキスを交わし、服に手を掛け、リオンが無言呪文で人避けと防音の結界を複数に重ね掛けする。

 

 そして、月と星灯りに照らされた2つの影が一つになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ケダモノ。やめてって言ったのに」

「いやお互い様だろ。見えるか見えないかのギリギリのところに痕なんか残しやがって」

 

 

 互いに乱れた服を整え、リオンが櫛でダフネの白金の髪を整えていると、耳まで赤く染めたダフネが唇を尖らせながら呟く。

 これに対してリオンはギリギリ制服の襟で隠された首元の痕を撫でさする。恐らく数日は消えないだろう。

 

 

「どこかの誰かさんがお馬鹿な事を言うものだからついやってしまったわ」

「……悪かったよ」

 

 

 顔を逸らす。確かにネガティブに考えすぎていた気もするがそれにしたって強硬手段過ぎやしないだろうか。

 髪を整え終え、櫛を置いてダフネを後ろから抱きしめる。

 

 

「きっと俺は死ぬだろう。お前や皆に迷惑をかけるかもしれない。それでも───」

 

 

 それでも俺は皆に会えて幸せだよ。そう言ってより強くダフネを抱く腕に力を込める。幸せなひと時なのだと、いずれ崩れ去る物だとしても、さっきまでのように諦めることはないとリオンは固く誓った。




恐らく次でプリンス編終了です
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