【本編完結】ハリー・ポッターと何も知らない転生者   作:シャケナベイベー

89 / 118
消えた光

蔓延る闇

あらゆる思惑が絡み合い やがて終わりの時が訪れる

その終わりを貴方は運命として受け入れるだろう

やがて一筋の光が導となり その光は 彼が帰るべき場所を指し示す


死の秘宝
時は来たれり


「マーリン勲章一等、ドラゴンの血に関する十二の活用法、ホグワーツ名誉校長、ニコラス・フラメルと錬金術の共同研究、魔法戦士隊長、最上級独立魔法使い、国際魔法使い連盟議長、ウィゼンガモット最高裁主席魔法戦士、そしてかのグリンデルバルドを倒した英雄──そんな人の遺品を押収すると?」

 

 

 指折り数え、つらつらとダンブルドアの功績を述べた青年の目は鋭い。

 

 ホグワーツ校長室。座すべき主を亡くした部屋のソファにその青年はどかりと遠慮無く座っていた。

 

 

 ───やれやれ、血だな

 

 

 そんな青年を見て、その対面に座る壮年の魔法使い──現魔法大臣ルーファス・スクリムジョールは苦笑と共に息を吐き出す。

 

 この物怖じしない態度ときたら青年の祖父と父にソックリだ。ともすればアーデル家の人間は皆こうなのかもしれない。

 

 

「なにか誤解しているようだ。私はダンブルドアの遺品を回収しに来たわけではない。むしろそれにかまけている暇が今の魔法省にあると思うかね?」

「無いでしょうね。間違いなく」

 

 

 青年は肩を竦めて小さく笑う。ヴォルデモートや死喰い人の対応に追われている彼らがわざわざ一校長の遺品程度で時間を使うとは考えられない。

 

 

「今の貴方は魔法界に必要でしょう。指導者としてやるべきことがある筈だ」

「そうしたいのは山々だがな。今の魔法省はどこに闇の帝王の手下が紛れ込んでいるか分からん。迂闊に動けば奴らに更に付け入る隙を与えかねない」

「難儀なもので」

「全くだ」

 

 

 二人揃ってため息を吐く。どの時代も上に立つ人間は苦労ばかりだ。

 

 

「私とて嘗てはダンブルドアの護るホグワーツで教えを受けた身。恩師に花を手向けたいという気持ちもあるのさ」

「それは理解出来ますがね。あの秘密主義の老人は色々秘密を溜め込んでるでしょうし」

「口の悪いことだ」

「そりゃ悪態の一つも溢しますよ。ねぇ先生?」

 

 

 青年の目が新しく出来た肖像画に向く。そこに描かれた人物は先程まで開いていた目を閉じ、グーグーと狸寝入りを決め込んだ。

 

 

「……我々の時代で終わらせられれば良かったのだがな」

「あのクソ野郎がゴキブリ並みに生き汚いってだけです。ハリーを殺そうとしたときに大人しく死んでいればよかったものを」

 

 

 青年が吐き捨てる。世界広しと言えどもヴォルデモートをここまで口汚く罵るのは彼くらいだろうなとスクリムジョールは感嘆した。

 

 

「ではそろそろお暇するとしよう。君もハリーも、充分に気をつけたまえ」

「ご武運を。魔法大臣閣下」

「そちらもな。年若い魔法騎士」

 

 

 魔法騎士の礼をする青年にスクリムジョールはヒラヒラと手を振って校長室から去る。

 

 光はまだ確かにその芽を色づけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は進んで六月。夏休み真っ只中のこの日、リオンは実家の自室で一人ダンブルドアから渡された本の解読に勤しんでいた。

 

 

「題名は『終の書』。内容は様々な時代のゴーント家の人達の手記というか、他に闇の魔術の見解とかも含まれてるのか。もう少し解読する必要があるな……」

 

 

 本のページをパラパラと捲りながらリオンはブツブツと呟く。この本は分厚さが参考書並みであるにも関わらず、中身は何らかの魔法によってそれ以上に膨大なページ数となっていた。年代もてんでバラバラだが、恐らくそれぞれの時代のゴーント家の誰かが書き残していった結果これほどの量になっていたのだろう。

 

 その時、バシンっという音と共に一人の屋敷しもべが『姿あらわし』でリオンの隣に現れた。

 

 

「坊ちゃま、旦那様がお呼びでございます。客間に来るようにと」

「分かった。ご苦労だったなフリッツ」

 

 

 現れたのはプルウェット家に仕えていたフリッツだ。何故彼がここにいるのかといえば、つい先日リオンの母方の祖父母であったイグネイシャスとルクレティアが亡くなったからだ。

 

 葬儀は身内でしめやかに行われた。リオンの母であり、二人の実娘でもあったエレインは喪主を務めながらも泣き腫らし、イグネイシャスの姪に当たるモリー・ウィーズリーも泣いていた。そしてイグネイシャスの遺書に従い、彼らの資産としもべ妖精はアーデル家が引き取ることになったのだ。

 

 リオンが客間に向かうと、そこには両親以外にも見知った顔が二人、椅子に腰掛けていた。

 

 

「やぁリオン。元気そうだね」

「キングズリーにマッドアイ? 何か用事が?」

「これで揃ったな」

 

 

 椅子に腰掛け、リオンは訪れた二人の魔法使いを見る。マッドアイは左目の義眼をギョロギョロと動かしながら対面の三人に話し掛けた。

 

 

「今回わしがやって来たのは他でもない、ポッターに施された護りが十七歳を機に消える。それ故にポッターを安全な場所まで送り届ける必要がある」

「ウィーズリー家の『隠れ穴』までの護送になる。ホグワーツはもはや安全とは言い難いし、そうなれば友人もいるウィーズリー家に預けた方が良いだろう」

「なるほどな……となると付き添い姿くらましも無駄か。死喰い人共もそれを読んでいるだろうしな」

「恐らく、煙突飛行ネットワークや移動キーも駄目だろう。魔法省のどこに帝王の間者が紛れているか把握できない以上、これらを使うのは得策ではない」

 

 

 レックスの呟きにキングズリーは頭を被る。腕を組み、苦い顔をするリオンにマッドアイがニヤリと笑って話し掛けた。

 

 

「そういうわけでポッターを直接護送する必要が出てきた訳だ。無論奴らもわしらが護衛することを想定して動くだろう。となれば、単純だが古典的な手を取るしかあるまい」

「『七人のポッター作戦』だ。危険が伴うがハリーを安全に送り届けるためにはこの作戦が有効だろう」

「我々はどうすれば?」

「レックスとリオンには待ち伏せしているだろう死喰い人達を出来るだけ引き付けてもらいたい。勿論全員を足止めなど出来ないだろうが可能な限りね」

 

 

 

 

 

 

 

 そして六月二十七日。予定日より四日早いこの日に彼らはダーズリー家に訪れた。

 

 

「偽ハリーが六人に本物が一人……七人はこういうことか」

 

 

 リオンがダーズリー家のキッチンの前に並ぶ六人のハリーを見て呟く。

 ポリジュース薬を使ってハリーに変身したのはロンとハーマイオニー、フレッドとジョージ、フラー・デラクールとマンダンガス・フレッチャーだ。

 

 レックスはマンダンガスを疑わしそうに見ているが、特に何かを言うことはなかった。

 

 

「あの、マッドアイ、リオン達は?」

 

 

 本物のハリーがリオンとレックスを見て首を傾げる。確かに偽物になるわけでもなく、護衛としてでもないのなら疑問に思うのも当然だろう。

 

 

「私達は待ち伏せているだろう死喰い人達を引き付ける役目さハリー。君達は気にせず進めばいい」

「俺達は魔法騎士だ。なら闇に加担する奴らを相手取ることこそ本業だろうよ」

「話はそこまでだ、各自配置につけ!」

 

 

 マッドアイが鋭く言い、ハリー達がいそいそとダーズリー家を出る。そして箒を手に持ち、ハグリッドと共にバイクに乗るハリーの横についたリオンは彼の肩を激励するように叩く。

 

 

「死ぬなよ、ハリー」

「君こそ」

 

 

 軽く笑い合い、マッドアイの「用意はいいな?」という声で前を向く。

 

 

「この作戦は非常に危険だ。だが誰もが無事に終えられるよう祈っとる。では合図したら同時に飛び立つぞ……いち、に……」

 

 

 ハグリッドがバイクをふかし、2頭のセストラルが鳴くと数人が箒にそれぞれ跨る。

 

 

「……さん!」

 

 

 マッドアイが杖で地面を叩くのと同時に全員が一斉に空に向かって飛び立つ。

 

 リオンも彼らに続く形で飛び立った。

 

 

 

 

 

 上空を飛び立って暫くは安全だったが、やはりマッドアイ達の想像した通り、死喰い人が待ち伏せていた。

 

 レックスとリオンはすぐさま杖を抜き、予定通り数人の死喰い人を失神させる。そして去っていく箒とセストラル、バイクを追わせまいと呪文を繰り出し続けるが、やはり幾人かの死喰い人には抜けられてしまった。

 

 

「父さん、抜けられた!」

「構わない! 俺達は俺達で足止めだ!」

「分かった!」

 

 

 迫りくる緑の閃光を躱しながら、二人はそれぞれ二手に分かれ左右から死喰い人達を攻撃していく。

 

 

 

 その日、マグルのニュースでは季節外れの流星群が観測されることになる。とはいえそれは本物ではなく、幾人かの魔法使いたちが放った呪文の閃光であった。

 

 

 

「くそ、おいアーデルだ!」

「息子の方は殺すな! 生かして捕えろとの命令だ!」

「無理だ! 速くて捉えられな……うわぁぁぁぁ!?!」

 

 

 死喰い人達が悲鳴ともつかない声を上げたが、そこをレックスとリオンの呪文が容赦無く突き刺さる。

 

 

(……いけるな)

 

 

 死喰い人達は数こそ膨大だが実力はそこまででもない。予定通りハリーがトンクス家を経由して『隠れ穴』に到着したら姿くらましで退散すれば良い。

 死喰い人の一人を失神呪文で落とし、ふぅ…と息を吐いたリオンは背筋を伝う冷たい殺気に当てられ、本能で真後ろに盾の呪文を展開する。

 

 

「この程度は防ぐか。忌々しい奴め」

 

 

 障壁が砕け、リオンはすぐさま距離を取る。

 月光の下で箒に乗らず、かといってセストラルにも乗馬していないくせに空に浮かんでいる姿はまるで死神のよう。

 

 何度も魂を裂いた果てに得た顔に溢れんばかりの喜悦を覗かせながら『それ』はそこに居た。

 

 

「クククッ……久しいなリオンよ」

「お前に親しげに呼ばれると虫酸が走るなヴォルデモートさんよ」

 

 

 何が可笑しいのか笑みを溢すヴォルデモートにリオンは真っ直ぐ杖を向ける。チラリとレックスのいる方向に目を向けると、そこではレックスが残っていた死喰い人を全て蹴散らし、いつの間にかこちらに来ていたベラトリックスと決闘していた。

 

 

「お前がこんなところで油を売ってるってことはハリーに逃げられたか?」

「口の減らぬ奴よ」

「図星か」

 

 

 ヴォルデモートの紅い目がギラリと光る。咄嗟に身体を急旋回させればリオンの真横を緑の閃光が通り過ぎた。

 

 

「あぁ、まずはその口を塞がねばなるまい。お前は俺様の軍門に下るのだから」

「お断りだ」

 

 

 言い終わるや否や失神呪文を繰り出すが、ヴォルデモートは容易くこれを弾くとお返しとばかりに死の呪文を放つ。

 これを再度箒を駆使して躱したリオンはすぐさまヴォルデモートと距離を取る。そしてそれを見たレックスも同じくベラトリックスから離れ、二人が横に並ぶとこの場から離脱するために『姿くらまし』を行おうとする。

 

 

「待てぇぇぇぇ!!!」

 

 

 それを見たヴォルデモートが雄叫びを上げ、逃がすまいと二人に迫る。その刹那、リオンのホルスターに納められていたはずのスネークウッドの杖が一人手に浮かび上がり、黄金の炎を噴射した。ヴォルデモートは咄嗟に障壁を張って黄金の炎を防ぐも二人には逃げられてしまった。

 

 

「アーデルゥゥゥゥゥ!!!!」

 

 

 

 

 

 

「ぐぅっ…!」

 

 

 姿くらましでヴォルデモート達から逃れた二人は地面に倒れ込む。

 二人の身体の至る所に切り傷があり、戦闘の疲労もあってかかなり疲弊していた。

 

 

「無事か、リオン……」

「父さんこそ……」

 

 

 レックスに支えられ、何とか立ち上がったリオンは目的通り『隠れ穴』に到着したのだと安堵の息を吐く。

 

 その時、『隠れ穴』の扉が開き中から先んじて『隠れ穴』にやって来ていたエレインが顔を覗かせる。

 

 

「……エレイン」

 

 

 エレインの顔を見たレックスは表情を和らげるがすぐさま顔を険しくして杖を取り出すとエレインに向ける。それはエレインも同様で彼女も険しい顔つきで二人に杖を向けていた。

 

 

「……私達が出会ったのはいつで、何がきっかけ?」

「一年生の呪文学の時、浮遊呪文に苦戦していたマグル生まれの子に同時に声を掛けたのがきっかけだったな」

 

 

 それを聞いたエレインはすぐさま二人に駆け寄って抱き着く。二人もエレインを抱きしめ返し、再会を喜んだ。

 

 

「無事で良かった……っ!」

「……心配掛けたな」

「ただいま母さん」

 

 

 しばらく抱き合っていた三人だが、やがて抱擁を解くと『隠れ穴』に向かって歩いていく。

 

 そして『隠れ穴』に到着すると、そこには既に他の面々が揃っていた。

 

 

「二人とも無事だったか」

「遅れてすまないなリーマス。皆も無事に……とは、言い難いか」

 

 

 安堵の表情を見せるリーマスにレックスが笑顔を見せるがすぐさま表情を曇らせる。一方でリオンはベッドに横たわるジョージに駆け寄った。

 

 

「……何があった?」

「……耳を削がれたんだ。エレインの治療で傷は癒えたが流石に耳までは……」

 

 

 リオンの愕然とした表情を見たアーサーが沈んだ声で話す。それにリオンは拳を握り締め、ジョージの横に膝をついた。

 

 

「気分はどうだジョージ?」

「……いい気分さ。君こそ怪我はないか?」

「大した怪我じゃないよ」

「……なら良かった」

 

 

 短くジョージと会話を交わしたリオンはそっとしておいたほうがいいだろうと立ち上がり、ハリーたちの下に行く。すると後ろから頭をワシャワシャと撫でられ、驚いて振り返ればそこには笑顔のフレッドが立っていた。

 

 

「そう落ち込むなよリオン。君だけが責任を感じる必要なんてないし、生きてるだけで儲けものさ!」

「フレッド……」

「良いことならもう一つあるぜ。これで俺とフレッドの見分けがつきやすくなった!」

「そうともジョージ。俺達はいたずら仕掛け人だからな、この程度でへこたれたりしないのさ!」

 

 

 そう言って陽気に笑う双子にリオンも笑顔になる。そして辺りを見回していたレックスが足りないメンバーがいることに気付いた。

 

 

「リーマス。マッドアイとマンダンガスはどうした?」

「……ビルからの報告ではヴォルデモートを見て逃亡したマンダンガスを捕まえようとしたマッドアイに死の呪文が直撃したと……」

「何だと?」

 

 

 レックスの気配が剣呑なものに変わる。そして今にも飛び出していきそうな夫の手をエレインの暖かな両手が包み込む。

 それによって少し冷静になったレックスは深呼吸を繰り返し、無理やり気持ちを落ち着かせる。

 

 

「……それが本当ならせめて遺体だけでも回収に行くべきだ。リーマス、ビル。すまないが探すのを手伝ってくれ」

 

 

 レックスの話に頷いた二人は直ぐ様行動に移る。

 

 

 

 

 しかし、彼らの捜索も虚しくマッドアイの遺体が見つかることはなかった。




お待たせしました。ついに最終章『死の秘宝』編スタートです!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。