【本編完結】ハリー・ポッターと何も知らない転生者   作:シャケナベイベー

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マジでお久しぶりです(一ヶ月振り)


光焦がすものよ、目を覚ませ

「本当に…シリウスなの…?」

 

 

 ハリーは目の前の存在が信じられないとばかりに目を見開き、ヨロヨロと力無く歩いていく。その足取りに危うさを感じたリオンが咄嗟に肩を掴んで下がらせると目の前のシリウスに杖を向けながら呪文を唱えた。

 

 

「レベリオ」

 

 

 杖から発した柔らかな光がシリウスを包み、やがて収まる。しかし特にシリウスの姿に変化は無く、目の前の彼が本物だと知らしめるだけになった。

 

 

「うん、偽物じゃないな」

「いや何やってるのさリオン」

「リオンの判断は当然さロン。他の人達でもリオンと同じようにしただろう」

 

 

 リオンをジト目で睨むロンをシリウスが宥める。

 

 

「シリウス…貴方、一体いつ目覚めたの?」

「そうだよ。目が覚めたなら僕らに連絡くらい……」

「私もそうしたいのは山々だったんだがやらなければならないことがあったからね」

 

 

 詰め寄ってくるハリーとハーマイオニーを落ち着かせながら、シリウスはどこか遠くを見る。

 するとシリウスは杖を振って人数分の椅子を出現させると、全員に座るよう促した。

 

 

「訊きたいこともあるだろうが、まずは私の話を聞いてほしい。何故目覚めた私が真っ先に愛すべきこの生家に戻ってきたのかを」

 

 

 シリウスは話し出す。何故目を覚ますことができたのか。何故ブラック邸に戻ってきたのかを。

 

 

 

 

 

 

 落ちる、落ちていく。真っ暗闇の中を──底なんてない虚ろの中を彼は真っ逆さまに落ちていく。

 

 

 ──俺、は……

 

 

 落ちていくだけの中で彼は思考する。何故自分はこんな状況になっているのだろうと。

 

 不死鳥の騎士団として再び杖を取り、闇を倒すために立ち上がった。そして何よりも大切な親友の忘れ形見を守るために神秘部に仲間と共に突撃し、そして──

 

 

 ──そうか。俺はあの時に……

 

 

 彼は──シリウスは思い出した。あの時、ベラトリックスの呪文が直撃し、そのまま後ろにあった『門』の中に吸い込まれるようにして倒れたのだと。

 

 しかし不思議とシリウスの心は満たされていた。元より、自分の時間はあの忌まわしいハロウィンの夜で止まったままだ。十二年も無実の罪でアズカバンに放り込まれ、そして無実が証明されてようやく彼は日の当たる道を歩けるようになった。

 当初予定していたハリーと共に暮らすという夢は叶わずじまいであったけれど、心のどこかでシリウスは出所後の人生を余生のように捉えていた。

 

 (ジェームズとリリー)を救えず、(リーマス)を信じることも出来ず、(ピーター)の裏切りも気付けなかった自分に生きる意味は無いのだと言い聞かせるように生きてきた。

 

 

 ──死に場所を求めていたんだろうな、俺は。

 

 

 愚か者の自分には相応しい末路だろうと納得した。まだ闇との戦いは終わっておらず、ハリーのことが心残りではあるがきっと大丈夫だ。あの子はかつてのジェームズのように沢山の友達に恵まれているし、リリーの優しさもしっかり受け継いでいる。

 

 思えば自分はハリーにジェームズの影を見続けてきた。どこかジェームズに似ている部分はないかと、あまりにも酷な事をしたと思う。

 

 両親を知らずに生きてきた子供にその親の影を求めるなど、どこまで馬鹿なことか。それはモリーが怒るのも当然かとシリウスは納得した。

 

 

 ───あぁ、これで俺はやっとお前らのところに行けるよジェームズ、リリー……

 

 

 意識がより深くに落ちていく。果てのない暗闇へ──その刹那、蒼い星が瞬いた事に気づかずに。

 

 

 

 

 

 

 

「………さい。…て…ださい。起きてください!!」

「うるせぇ!!……って、は?」

 

 

 耳元で叫ばれたシリウスは抗議の声を上げながら飛び起きる。そして自分を眠りから覚ましたその顔を見て、シリウスは数秒言葉を無くした。

 

 

 

 

 黒髪に灰色の目は自分と同じで、ブラック家の特徴。そして顔立ちも自分程とはいかないまでも整っている。

 

 

「お久しぶりです愚兄。お元気でしたか?」

「……レギュ、ラス……?」

 

 

 死んだはずの弟、レギュラス・ブラックがそこに居た。

 

 

「まったく……何勝手に死のうとしてるんですか。そんなの許しませんよ」

「お前には言われたかねぇよ……ってか、なんでお前がここにいんだよ!?」

「疑問が多いですねぇ……」

「そりゃそうだろ!」

 

 

 ギャーギャーと喚くシリウスにレギュラスは耳を押さえて鬱陶しそうな顔をする。

 

 

「ていうか、俺は死んだはずだろうが!!」

「そんなわけないでしょう。アズカバン暮らしが長すぎていよいよ脳味噌も腐ったんですか?」

「馬鹿言うな──って、なんでお前がそれを知ってる?」

 

 

 レギュラスの言に疑問を感じたシリウスは訝しげに弟の顔を凝視する。それに咳払いを一つ溢したレギュラスは改めて口を開いた。

 

 

「死後の世界から見てたんですよ──まったく、ポッター先輩やエバンズ先輩の仇討ちに行くのは結構ですがそのまま嵌められるなんて貴方らしくないですね」

「頭に血が上ってたんだよ……てか、お前も同じ状況になったら同じ選択をするだろ」

「……まぁ、そうですね」

 

 

 ジロリとシリウスがレギュラスを睨み、レギュラスは気まずげに顔を逸らす──ブラック家特有の激昂しやすい面をこの二人も持ち合わせていた。

 

 

「いや、そんな話はどうでも良くてですね! 僕がここにいるのも貴方を送り返すためなんですよ!」

「はぁ?」

 

 

 レギュラスが発した驚愕の発言にシリウスが素っ頓狂な声を出す。

 

 

「端的に言えば貴方は生死の境を彷徨ってるんです。身体はレックス先輩のお子さんによって無事ですからね。だから後は魂が身体に戻れば貴方は目を覚ますんです」

「俺は……死んでいないのか?」

「はい」

 

 

 その事実をどう表現したらいいのかシリウス自身も良く分かっていなかった。

 

 理解したことと言えば『自分はもう一度ハリーに会える』という一点のみだ。

 

 

「レギュラス、俺は──」

「迷ってないでさっさと決めてくださいよ……迷う貴方なんて気色悪くて見ていられませんから」

「うっせぇ!! ………ありがとな」

「はいはい、お礼なんて良いですからとっとと帰ってくださいよ」

 

 

 シッシッと追い払うような仕草をするレギュラスに、やはり複雑な顔をしたままのシリウスはある一つの事を思い出すと、レギュラスの頭をワシャワシャと乱雑に撫で回した。

 

 

「うわっ…ぇ、な、なんですか!?」

「兄貴からの愛だ、受け取っとけ」

「嫌ですよ気持ち悪い!! なんですかいきなり!!」

 

 

 未だに頭を撫でるその手を払い除け、レギュラスは数歩後ろに下がる。それを見てニヤニヤと笑っていたシリウスはその灰色の目にどこか懐かしいものを含ませながら死んでしまった弟を眺めた。

 

 

「……頑張ったなレギュ」

「っ!! ……いきなりそう呼ぶのはやめてくださいよ……」

 

 

 それが、遠い昔に自分を褒める時に呼ぶ愛称だと知っていたレギュラスは恥ずかしげに目を逸らす。

 

 

「……じゃ、俺はそろそろ行く」

「はぁ……何なんですかホント……ま、今度こっちに来るならもっとシワシワになってから来てくださいよ」

「悪いな、俺は爺になってもイケメンのままだ」

「………貴方のそういう自信家なところ、結構ウザいです」

 

 

 毒を吐きながらも笑みを浮かべるレギュラスは背を向けて去っていく兄を見送る。そしてシリウスもそんな弟の姿を想像しながら穏やかに微笑んだ。

 

 

「──クリーチャーのこと、よろしくお願いしますね」

 

 

 最後にそんな願いを耳にしながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を開ける。どうにも永い夢を見ていたような気がして思考が纏まらない。辺りを見回してここが聖マンゴの病室だと気付く。

 ふと花の香りがして隣に視線を移す。白い花弁と黄色の蕾が綺麗な花だ。

 

 

「……エーデルワイス」

 

 

 花の名前を口にして、自分の声が想像以上に枯れていることに気が付いた。しばらく発声練習をして、ある程度マシになったと確信した頃にドタドタと廊下を走る音がする。

 

 ゆっくりとそちらを向くと扉が勢い良く開いて一人の男性が飛び込んできた。

 

 

「……あれ? カリアン先輩?」

 

 

 白衣にかつて彼が所属していたレイブンクローを思わせる青いネクタイ。そして太陽の色を思わせる金髪と碧眼はまさしく目の前のバルツ・カリアンの特徴だった。

 

 

「……まさか、二度も奇跡を目にするとは……」

 

 

 彼は目を大きく見開き、直ぐ様シリウスに駆け寄る。そしていくつかの検査を行い、彼が完全に復活したと判断すると近くの椅子に崩れ落ちた。

 

 

「やれやれ……四十にもなってここまで狼狽えるなんてな……」

「あー、大丈夫かカリアン先輩?」

「問題ないさ。だが、やはり君は筋力が落ちているな……一年寝たきりだったから当然か」

 

 

 

 

 

 

 

「……それでリハビリを始めて、今朝ようやく退院したんだ」

「そんな事になってたのね……」

 

 

 シリウスが話し終わり、感嘆したようにハーマイオニーが口にした。

 

 

「そして、必要な物を取りに行くためにここに戻ってきたというわけさ」

「必要なもの?」

「そうだ……クリーチャー」

 

 

 シリウスが廊下に向かって呼びかけると重たい足取りでクリーチャーが現れる。その目は以前と変わらず、シリウスが自分を呼び出したことに対して不快そうに顔を歪めていた。

 

 

「何でしょう旦那様? いえ、まずは目を覚まされましたこと喜ばしい限りでございます」

 

 

 それが本心からではなく、嘲りを多分に含んだものであることを悟ったハリーとロンは苦い顔をし、リオンは軽くため息を溢し、反対にハーマイオニーはシリウスが言い返して険悪にならないかと視線を二人の間で行ったり来たりさせていた。

 

 シリウスがクリーチャーに歩み寄る。そして目の前まで来たところで暫く立ち尽くしていたが、やがてシリウスが膝を折り、クリーチャーと目線を合わせた。

 

 

「───は」

「え!?」

「マジか!?」

「まぁ!!」

 

 

 その行動にクリーチャーは不意を突かれたような顔になり、ハリーとロン、ハーマイオニーの三人はそれぞれ声を出しながら三者三様の表現で驚いていた。

 

 

「クリーチャー。お前の主はレギュラスだな?」

「えぇ、えぇ……私の主は今もレギュラス坊ちゃまでございます……貴方ではない」

 

 

 クリーチャーから、その身体からは想像もつかない程に強い感情が溢れる。しかしそれを知ったシリウスは不快そうにするでも、ましてやクリーチャーの態度を面白がるでもなく、ただ微笑むだけだった。

 その様子を四人は固唾を呑んで見守る。

 

 十秒か一分か、正確には分からないが大体それくらいの時間が経った時シリウスがおもむろにその手をクリーチャーに差し出した。

 

 

「……なんの真似でございましょう?」

「クリーチャー。お前も知っているように私はこの家が嫌い()()()。純血である者とそうでない者とで格差をつけてそれが当然かのように振る舞っているこの家が、私の両親が……だが、それはあまりに狭い視野だったのだと思い知らされた。アイツが──レギュラスが父の命で死喰い人となり、間諜として潜り込んでいた。私はそれをとても誇りに思う」

 

 

 クリーチャーのくぼんだ目が眼球が飛び出るのではないかと思うほどに大きく見開かれる。

 

 あのブラック家に相応しい振る舞いなんてクソ喰らえと唾を吐き、代々のブラック家に反抗するかのようにグリフィンドールに組み分けされた一等星の銀狼が、弟とはいえ忌々しい血の者を褒めるなど。

 

 

「そして、私はこの家の在り方を良く理解しないままに嫌っていた──子供の癇癪だな。だから私は戻ってきた、己の在り方をもう一度見極めるために」

「なぜ、それを私に?」

「レギュラスからお前のことを頼まれたからな……伝えなければならないと思った」

 

 

 クリーチャーは、どこか迷ったように視線をあちこちに彷徨わせる。シリウスの態度に驚愕し、彼をどうすべきか判断しかねているのだろう。

 

 

『良い、クリーチャー……下がれ』

「だ、旦那様……」

 

 

 その時、壁に掛けられていたブラック家先祖の肖像画の内の、最も新しいそれに描かれた人物が声を掛ける。その声によってクリーチャーは数歩後ろに退き、代わりにその人物の目がシリウスを捉える。

 

 

『……己の役割を理解したと? 随分と大きく出たものだな』

「そうだ。けどな、俺はシリウス・ブラックだ。アンタ達から産まれた息子だ」

『はて。タペストリーでは我らの息子はレギュラスただ一人だが?』

 

 

 自分の父、オリオンの冷ややかな声と視線を前にしてもシリウスは一つも動じていなかった。

 

 

『お前は堕ちた星に他ならない。今更気持ちを変えたところで何になる? 亡くなった者が戻るのか?』

「そんな事を思ってるわけじゃない。けど、俺も前に進まなきゃならねぇんだ」

『戯言を──』

 

 

 

 

「そこまでだ、オリオン」

 

 

 激化しそうになった親子の言い合いに一つの声が差し込まれる。それにシリウスは驚いたように目を開き、オリオンは苦々しげに顔を顰めた。

 

 

『………アーデル先輩』

「お前らしくないなオリオン。いや、ブラック家の人間は少なからず沸点の低い人間が多かったがお前は抑えていられる方だっただろうに」

『これは私と愚息の話し合い。部外者の貴方が踏み入って良い話ではない』

「頭が固いなお前は全く──少しはアルファードを見習ったらどうだ?」

『私は既に絵画の身ですので』

 

 

 割って入った人物──エドワードのからかいを多分に含んだ言葉にオリオンの顔が歪む。

 エドワードは隣に立つシリウスの肩に手を置くと優しく微笑んだ。

 

 

「リオン? いや、アンタは──」

「それはまたいつかだシリウス三世。今は俺より話す相手がいるだろ?」

 

 

 その言葉にハッとしたようにシリウスは肖像画の方を向き、そしてオリオンもまたシリウスに目を戻す。

 

 

 そして再開した語り合いは先程とは違って穏やかな空気が流れていた。




シリウス・ブラック:生死の境目で弟と話し合い、だいぶ気持ちが晴れた人。そしてリハビリの間に色々知って、とある先輩の助力でブラック家への印象が少しだけだが良い方向に転がった……かもしれない。少なくとも前のようにクリーチャーを毛嫌いすることは無くなった。

エドワード・アーデル:シリウスとオリオンの話し合いに割って入った人。珍しく感情のままに吐き出す後輩に「落ち着け」とクールダウンの意味も込めて出てきた。なんやかんやブラック家には恩があるからね
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