【本編完結】ハリー・ポッターと何も知らない転生者   作:シャケナベイベー

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とりあえずガマガエルを殴りに行こう

「魔法省が陥落した」

 

 

 八月未明。中立派の重鎮を集めたジェラルド・カリアンは招集したメンバー達の前でそう告げた。

 

 

「無論、この事は日刊予言者新聞を通じて知っていることだろうが」

「えぇ。ですので各々のやり方で状況を把握すべきと結論が出たはずですが……?」

 

 

 肯定しつつ、疑問を挟んだのは現ディゴリー家当主のエイモス。近々息子に当主の座を渡そうなんて考えていた矢先にこれだ、泣きそう。

 

 

「そして大臣のスクリムジョールが殺され、その後釜にシックネスが就任したとか」

「シックネスだと?」

「確か彼は服従の呪文で……いや、そういう事か」

 

 

 マクミラン、セルウィン、グリーングラスの当主たちが意見を交わす横でジェラルドの息子であるバルツは父に向き直った。

 

 

「父上。騎士団からの報告ではウィーズリー家が死喰い人の襲撃に遭ったと」

「どうなった?」

「幸いにも切り抜けられたようです。しかし、現在の魔法省は帝王の傀儡政権。巫山戯た政策も打ち出してきています」

 

 

 バルツが円卓の上に予言者新聞を放る。その内容を見た全員が不快そうに顔を歪めた。

 

 

「マグル生まれ登録ですって?なんて愚かしい……」

「この女、我が家の末裔などと名乗っている愚か者だ!!」

 

 

 今にも唾を吐き捨てんばかりに声を上げたのはバーテミウス・クラウチ亡き後、クラウチ家当主の座を継いだ現サロウ夫人だ。そして新聞に写った女の顔を見て怒り心頭の声を上げたのはセルウィン当主。

 

 そこには誰もが寸胴と見紛うばかりの身体を揺らし、にこやかに微笑むドローレス・アンブリッジの姿があった。

 

 

 

 

 

 

「巫山戯てるな……」

 

 

 リオンが吐き捨てる。彼の視線は今日の日刊予言者新聞に止まっていた。

 

 

「マグル生まれ登録法だと? 明らかにマグル生まれに対する差別だろうが」

「しかも、主導してるのが“あの”アンブリッジだって」

 

 

 うえー、と舌を出して気持ち悪そうにするロンに他の三人も同意した。

 

 リオンは皿に盛られていたウインナーをフォークで突き刺すと口元に運び飲み込む。そして苦い顔をしたまま口を開いた。

 

 

「お前たちからすれば許せない行いだろう──勿論俺もだが──少なくとも、動くのはクリーチャーが報告を持ち帰ってきてからだ」

「分かってるよ」

 

 

 腫れた頬が痛むのかハリーが顔をしかめる。クリーチャーの情報によれば、レギュラス・ブラックがクリーチャーに託した本物のスリザリンのロケットはマンダンガスに持っていかれたのだとか──リオンはあの小汚い盗人の腕の一本でも切り落としておけばよかったと激しく後悔した──そしてクリーチャーにその捜索を任せた後、ブラック邸を訪れたのがリーマス・ルーピンであった。

 

 彼は人狼である自分がトンクスと子をなしたことを──俗な言い方をすれば孕ませたことを──激しく後悔していた。

 それを聞いたリオンは心底呆れたようなため息を吐いた後、「それなら何故子など作ったのか」と心底軽蔑したように吐き捨て、その後にハリーがリーマスを「腰抜け」と罵った事でハリーはリーマスにぶん殴られた。

 

 

「リーマスがあんな事言うから」

「そもそもその可能性に思い当たっておきながらトンクスと結婚したのはアイツ自身だろう。結婚すべきじゃなかったなんて自分の都合でしかない、トンクスを蔑ろにした発言だ」

 

 

 リーマスが飛び出し、それを追ってケアを任せたシリウスが邸を出ていってからハリーとリオンは口々に呟いた、あまりにも容赦の無いその発言にロンとハーマイオニーは軽く引いた。

 特にリオンの怒りっぷりと来たら尋常ではない。腫れたハリーの頬を癒しながらどれだけトンクスの意志を無視しているかを懇々と呟いていた。

 普段の彼なら怒りこそすれ、ハリーを宥める立場に回っただろうが、リオン自身しばらくダフネやマークにランス、ノットやザビニに会えないという事実に参っているのだろう。どうも精神が年相応になってしまっているようだ。

 

 

「……と。来たみたいだ」

 

 

 リオンが最後のウインナーを胃に放り込むと同時にバシンッという音と共にクリーチャーとそれに攫われてきたマンダンガス・フレッチャーが床に転がった。

 

 

「連れてまいりました」

「お疲れクリーチャー」

「なんだなんだ! 俺ぁ何もしてねぇぞ!」

 

 

 リオンはクリーチャーの労を労い、他の三人はすぐさま喚くマンダンガスを取り囲む。流石の連携だ。

 

 

「こんにちはマンダンガス。息災で何よりだ」

「アーデルの坊っちゃんか……いきなりなんだってんだ、俺をこんなところに連れ出しやがって!」

「とりあえず黙ってくれ、貴方に聞きたい事がある」

 

 

 にこやかなリオンとは対照的にハリーは冷たく言い放つ。マンダンガスは近くの階段や玄関などに視線を動かして逃走の隙を伺っていたようだが、それぞれにロンとハーマイオニーが陣取って逃げ道を塞いだ。

 

 

「クリーチャーからの話ではアンタはこのブラック家の財産を持っていったとか」

「おう……持っていったぜ」

 

 

 その告白に後ろの肖像画達が非難を飛ばしたがリオンが一睨みすることで漏れなく全員が口を閉じた。

 

 

「その中にロケットはなかったか?」

「あったなぁ……エメラルドが散りばめられてる高そうな奴」

「どこに売った?」

「役人に賄賂として渡したよ……ダイアゴン横丁で商売してたら使用料だなんだと言ってきやがって……」

「それの特徴は?」

 

 

 その役人の髪や目の色、白人か黒人か、男か女か。聞き出せることはすべて聞き出す。

 

 

「その女はロケットについてる『S』の文字に興奮したみてぇでよ……『セルウィンの血筋の私に相応しい』とかなんとか言ってやがったぜ。あぁ身の毛がよだつ……」

「アイツかぁ……」

 

 

 誰がロケットを持っていったのか察したリオンは面倒くさそうにため息を吐くと未だ辺りをキョロキョロと見回すマンダンガスに杖を突きつけた。

 

 

「お、おい……一体何のマネ──「オブリビエイト」ぬぐっ……」

 

 

 問答無用でリオンは忘却呪文を使ってマンダンガスの『ブラック家に訪れた』記憶を消し、別の記憶を植え付けてからクリーチャーを呼んだ。

 

 

「適当な場所に転がしておけ」

「……分かりました」

 

 

 クリーチャーが『姿くらまし』でマンダンガスと共に消えるとリオンは小さく息を吐いて他の三人を呼び寄せた。

 

 

「リオン、貴方あんなに躊躇無く忘却呪文を使うだなんて──」

「必要な措置だ」

「まぁ良いじゃんハーマイオニー。僕らも必要な情報は手に入れたんだしさ」

 

 

 そんな風に話し合いながらもリオンはこのあとの動きをどうするかと頭を回した。

 

 

 

 

 

 早朝。ベッドから起き上がり一階の居間に向かう。リオンが居間に到着するとそこには大量の羊皮紙を眺めてあーだこーだと言っているグリフィンドール三人組の姿があった。

 

 

「とりあえず出発する準備は終えたみたいだな」

「何とかね」

 

 

 リオンの言葉にハリーが羊皮紙から顔を上げて答える。しばらく四人で交代しながら魔法省の様子を探った甲斐があったというものだ。今日は九月一日、新学期が始まる日だが生憎と四人はホグワーツに行くつもりもなかった。

 手頃な羊皮紙を手に取って見聞する。アンブリッジの独断がどうこう、吸魂鬼が省内に居て気が休まらないとか。大変そうだ。

 情報を提供してくれているのは主にカリアン家の魔法使いや魔女たちだ。中立筆頭としての家格を使って省内の情報集めに奔走しているらしい。

 

 カリアン家を筆頭に中立派に属する家柄が率先してこちらに情報を渡してくれるのであまり大胆に動かずに情報が手に入っている。

 

 

「アンブリッジの野郎はだいぶ好き勝手に動いてるみたいだな」

「えぇ。アズカバンに収監されていたけど一ヶ月前の混乱に乗じて釈放されたんですって」

「それで今は体の良い小間使いとして好き勝手やってるってさ」

「どうするのリオン」

「親愛なるガマガエルの処遇はセルウィン家の方々に任せるさ」

 

 

 そう言ってリオンは一枚の羊皮紙をヒラヒラとさせる。そこには『あの薄汚い魔女めの処遇については我々に任せてほしい』とセルウィン家一同からの手紙が書かれていた。

 

 

「全く関係のない、それこそスリザリンの矜持を忘れて好き勝手に振る舞う輩に自分たちの家名を名乗られて良い気になるわけないよな」

 

 

 その他の羊皮紙にも似たような事が書かれていた。現在、内閣府を中心に密かに対抗勢力が結成中。一暴れするならお声がけをとか、魔法省で働いているギャレス・グリーングラス氏からはリオン宛の手紙で『ルデアからダフネが君に会えなくて痩せ細っていると聞いたからもし全てが終わったら会ってあげてくれ』との内容をいただき、リオンは顔を青くした。

 

 

「とりあえずこんな感じだな……さぁ、そろそろ出掛けるとしようか」

 

 

その言葉で四人は魔法省に向かって歩き出す。待ってろガマガエル、二度と日の下を歩けなくしてやると心に刻みながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 計画は至って単純。変装、潜入、奪取、大暴れだ。緻密な計画ではないので不安があるが、その時は各々独自に対処する方針になっている。

 

 

「君のことだからもうちょっと慎重に動くかと思ってた……」

 

 

 アルバート・ランコーンに変装したハリーがグリーングラス家の魔法使いに変装するリオンに対して溢す。省内ではあちこちで紙飛行機が飛び、慌ただしさを物語っていた。

 

 

「とりあえずあのクソ野郎と副官サマは居ないみたいだし、どうとでもなる。それに別のプランとしてはあのカエルの女王様に取り入りつつ、隙を見てロケットを偽の物とすり替えれば良い」

「なんでそっちにしないの?」

「単純に時間が掛かるし、魔法省を奪還するのも狙いだからな。大っ嫌いなガマガエルも排除しつつ魔法省を死喰い人の手から解放する……一石二鳥さ」

 

 

 ロン扮するレッジ・カターモールはカターモール夫人の裁判で泣く泣く離脱している。善良な夫婦の未来が懸かっているともなれば見捨てるわけにもいかないだろう。

 

 

「とりあえずハーマイオニーが引き付けてくれてる間に終わらせよう」

「そうだね」

 

 

 足早に廊下を移動する。ハーマイオニーは魔法不正使用取り締まり局の次官、マファルダ・ホップカープに扮して今頃は大法廷にいるだろうか。兎にも角にもさっさと上級官区画の奥の部屋へと移動する。そこがアンブリッジの部屋だと事前調査で調べていた。

 ハリーがマントを被り、リオンも透明呪文を行使する。そして誰も見ていないことを確認してアンブリッジの部屋に侵入した。

 

 

「うっわ……」

「以前より酷くなってるな……」

 

 

 室内の壁はピンク一色に染められ猫の絵が描かれた皿が埋め尽くすようにかけられていた。室内は不気味な薔薇の香りが鼻に突き刺さり二人は揃って顔を顰めた。

 

 

「早く終わらせて出よう……」

「だな……」

 

 

 二人は一秒でも早くこの悍ましい部屋から出たいという衝動を抑え込み、ロケットを探す。引き出しを開け、念の為探知呪文も行使したがロケットのロの字も見当たらなかった。

 

 

「見つからないな」

「もしかしたらアンブリッジが身に着けてるのかも……」

「多分な。やれやれ、俺達も大法廷に向かう必要が出てきたな」

 

 

 二人は重いため息を吐きながら再び姿を隠してアンブリッジの部屋から出る。そして扉を閉めて大きく息を吸った。

 

 

「新鮮な空気って最高だな」

「ホントだよ」

 

 

 ここに長居するわけにもいかないと二人はさっさと歩く。その途中で開け放たれた扉の会議室の前でハリーの足が止まった。

 

 

「……チョウ?」

「そういや彼女も今年から魔法省に入ったんだっけか……気持ちはわかるが足を止めるなよハリー」

「うん」

 

 

 杖を振って紙を折り畳む作業をしていたチョウ・チャンの姿を見つけて足を止めたハリーに呆れつつも大法廷に向かうよう促しながらリオンはその場を立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 魔法省のとある部署。一般的には秘匿されごく少数の者しか存在を知らない『稀少・不透明・交絡事件局』の部屋でとある魔法使いと魔女たちが顔を合わせていた。

 

 

「そろそろ動こうかローワン、メルーラ」

「オッケー、合図が出たら動けば良いよね?」

「そうね……ま、私達なら問題無くやれるでしょ」

 

 

 穏やかに会話するこの三人が、かつてあまり仲良くなかったという事実を初めて見た人は認識出来ないだろう。そう思わせるほど三人には一言で言い表せないような関係だった。

 

 

「アルバートさんの読みだと例のハリー・ポッター君が色々動いてるんだっけ?」

「それと愉快な仲間たちが一緒になって場を引っ掻き回すからその援護をしつつ無事に逃がして魔法省を取り戻せって言ってたわよ……あの人だけでも成功させそうなんだけどねぇ」

「言ったってしょうがないさ……僕らにもやれることがあるんだからしっかりやらないとね」

 

 

 イライアスの言葉にローワン・カナは穏やかに笑い、メルーラ・スナイドは呆れながら肩を竦めた。

 

 

「だね! 僕らだってやれるんだってとこを見せなきゃ!」

「はぁ、アンタってばホントに……そんなんだからペニーを泣かせるんだよ」

 

 

 そんな会話を繰り広げながら三人は部屋を出る。少なくとも自分たちがやるのは希望を無事に帰し、ひとしきり暴れること。

 今まで『ダンブルドアの先輩』のアルバートから課せられた任務に比べたら圧倒的に良心的な内容だった。

 

 

「さぁ、準備するよ」

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