【本編完結】ハリー・ポッターと何も知らない転生者   作:シャケナベイベー

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魔法省奪還作戦

「……待て」

 

 石の階段を降りて大法廷に侵入しようとしていたハリーは突然歩みを止めたリオンの背にぶつかる。何事かと彼の見つめる先に視線を向けてその意味を理解した。

 

「吸魂鬼だ」

「省内を彷徨いてるって話本当だったんだ……」

 

 いい加減にしてほしい。誰が好き好んで大法廷に吸魂鬼を引っ張り出しているというのか…ヴォルデモートかアンブリッジだろうなと二人は面倒そうにため息を吐く。

 

「しまったな……さてどうするか」

「守護霊の呪文は?」

「今は駄目だ。暴れるなら後でたっぷり暴れられるぞ」

「ねぇ何するつもり!?」

 

 さらっと物騒な言葉を吐いたリオンの肩を掴みガクガクと揺さぶる。ハリーとしてはこの頼もしい友人が───スリザリンのように身内思いではあるがあまり狡猾でなく、グリフィンドールのように勇敢で自己犠牲上等のお馬鹿が───暴れると言うときは何かしら大きな事を起こそうとしているのだとこの七年でよく理解できていた。

 

「暴れると言ってもとりあえずはアンブリッジからロケットを奪取するのが先だ……でもってあの顔面は一発殴る」

「もはや考え方がスリザリンじゃなくてグリフィンドールになってない!?」

「気にしたら負けだぞハリー」

 

 とにかく目下の問題はハリーをどうやって吸魂鬼にバレないように大法廷に侵入させるかだ。動物もどきになれれば吸魂鬼も騙せるのだろうが俺もハリーも習得していない。

 どうするかと頭を捻っていると、法廷内を一匹の守護霊が駆け回っているのが見えた。銀の猫だ。一体誰の守護霊なのかと辺りを見回したリオンはその術者に気付き驚きの声を上げた。

 

「……アンブリッジの奴守護霊の呪文使えたのか」

 

 純粋に驚いてる。とりあえずそれは好都合だと、リオンはハリーを促して大法廷に侵入する。

 

「待ってくれ! 父はアルダートン家の魔法使いだ、私は半純血だ!」

 

 一人の魔法使いが引きずられていく。罪人とは名ばかりのくだらない私刑によって不当に地下の牢獄へと。

 リオンとハリーは素早く辺りを見回し、アンブリッジが一番高い席にいることを確認した。隣にはマファルダことハーマイオニーがいて、死喰い人のヤックスリーもいる。下段にもちらほら人がいるようだ。

 

「さぁカターモール夫人? その杖は誰から奪ったものかしら?」

 

 中央のくり抜かれたような場所で着座させられている魔女に向かってアンブリッジは甘く囁いた。馬鹿馬鹿しい理由でまた牢獄にでも送ろうと言うのだろう。飛び出そうとしたハリーを押さえながらリオンは素早く背後に回り、形だけの裁判記録を作成していたハーマイオニーに裁判記録を弄くって合図を出す。

 

『始めるぞ』

 

 リオンは素早く杖を振ってアンブリッジに幻覚を見せた。

 

『穢らわしいヒトの女め!』

『我らが森に踏み入る愚か者!』

 

「あああぁぁぁああ!!」

 

 ケンタウロスの幻覚を見たアンブリッジは耳を押さえ発狂する。それに何事かと周りの目が集まっていく。

 

「ああ、いけないわ!」

 

 ハリーが発狂するアンブリッジを失神させ、ハーマイオニーは心配するふりをしてロケットを掠め取った。

 リオンは直ぐ様八咫烏の守護霊を飛ばしてアンブリッジが失神したことで効力を失った守護霊の代わりを補う。

 

「誰だ!」

「何をしている!」

 

 やはりこの中で最も早く杖を抜いたヤックスリーを、リオンは全力でその頬を殴り飛ばして失神呪文を食らわせた。

 それにマグル生まれの私刑を笑って見ていた馬鹿どもが立ち上がるが次々に倒れていった。

 

「結構大胆に動くね君たち」

「貴方は……」

「反乱者ってとこさ」

 

 短く言葉を返したイライアス・ラドウィックと名乗ったその魔法使いは、横にいた二人の魔法使いと魔女と共に職員たちを沈めていく。

 

「さぁ、とりあえず君達はマグル生まれの人達と一緒に逃げるんだ」

「僕らが援護するよ」

「ほら、行った行った!」

 

 そうして飛び込んでいく三人の魔法使いたちに目礼し、リオンとハリーはハーマイオニーとカターモール夫人を伴って法廷を駆ける。

 

「よくも我らの名を騙り、好きにしたな。愚か者め」

 

 失神したアンブリッジを数人の魔法使いと魔女が取り囲む。セルウィン家の者達だろう。

 

「殺さない程度でお願いしますね」

 

 一言告げれば彼らはこちらを見ずに頷いた。それを見たリオンたちは地下室に閉じ込められていたマグル生まれの魔法使い達も解放して廊下に飛び出す。

 そこは酷い混戦状態だった。服従の呪文に掛けられた役人や死喰い人と、潜伏して反撃の機会を狙っていた内閣府を始めとする魔法使い達による抗争だ。

 その中にアレフ・サロウが居るのをリオンは目撃した。彼は近くの死喰い人を拘束した後、視線に気付いたのかウインクをして目線で『行け』と促した。

 

 そうしてホールに飛び出したとき、そこは廊下と違って静寂だけがあった。二人の魔法使いと魔女……セドリックとチョウがせっせと死喰い人を縛り上げて拘束し、リオンにとって懐かしい顔……ジェマ・ファーレイが服従の呪文を食らった職員達を捕らえて一人一人解呪していた。

 

「セドリック! チョウ!」

 

 変装が解けたハリーが駆けていく。リオンもかつての先輩の元へと歩み寄った。

 

「お久しぶりですファーレイ先輩」

「久しぶりねアーデル。それにしてもまさか魔法省に乗り込んでくるなんて……スリザリン生らしくないのではないかしら?」

「ご尤も」

 

 頬を掻く。まったく以てその通りだ。スリザリンならば危険を察知し蛇のようにすり抜けて回避するだろうが、生憎とこの身は魔法騎士。

 

「グリフィンドールの方が性に合ってるんじゃない貴方?」

「かもしれないですね」

 

「やれやれ。まったくあちこちの騒ぎときたら……」

 

 その時一つの声がホールに響く。目を向ければ三人の老練の魔法使いと魔女がこちらにやってくるところだった。

 三人の内の二人をリオンは知っていた。彼らなら確かに動くのも当然か。

 

「ジェラルドさん、バグノールド大臣」

「久しぶりだなリオン君。孫が心配していたよ」

「“元”大臣さアーデル……だから言ったろ? アンタが隠れようったってそうはいかないってね」

 

 ジェラルド・カリアンはその皺が目立つ顔にニヒルな笑みを浮かべ、ミリセント・バグノールドはニヤニヤと拘束された死喰い人を蹴りつけながらリオンと会話する。そして最後の三人目が納得したように声を上げてリオンを見た。

 

「なるほど。エドワードの孫息子か」

「ええっと……貴方は?」

「おや、自己紹介が遅れた。私はランドルフ・ローガン。魔法省内閣府議長だ」

「ッ! こ、これは失礼を!」

 

 素性を明かされたリオンは慌てて礼をしようとするがそれをランドルフは宥めた。

 

「私に礼をする必要は無いとも。とはいえ君達がここに留まるのは良くないな」

「なら僕らが届けましょう」

 

 ランドルフの声に返したのは法廷でドンパチしていたはずのイライアスだ。彼とその横にいるローワン・カナとメルーラ・スナイドがハリーたちが魔法省を抜け出す手助けを行うと口にしたのだ。

 さらにそこにロンも駆けつけてくる。彼は自力で変身を継続させていたのかところどころがロンでところどころがカターモール氏だった。

 

「夫婦関係って難しいんだね……」

 

 疲弊した様子のロンは変身を解くとその後ろで縮こまっていた本物のカターモール氏をカターモール夫人と引き合わせて暖炉に押し込む。そしてそれに続くのは職務怠惰(アンブリッジなんぞに従う気になれなかった)な闇祓いや職員達であった。

 

「じゃあ後はジェマとセドリックにチョウ、ジェラルドさん達ですね」

「ありがとうございますイライアス先輩……それじゃあ気を付けてハリー、皆も」

「では後は任せるぞ」

 

 そう言って彼らも暖炉に飛び込むと、ホールに残ったのは変身を解いたハリー、ロン、ハーマイオニー、リオンとイライアス、ローワン、メルーラであった。

 

「じゃあ僕らも行こうか。ここから中継地点の場所を経由して君達を外に逃がす。多分まだ暴れてる死喰い人とかがいるだろうから用心して」

「あ、ありがとうございます……」

 

 イライアスの言葉にハーマイオニーが頭を下げる。そして七人は暖炉に飛び込んだ。

 

 

 

 

 

「ツイてないな俺たちは……!」

 

 吐き捨てて後ろに呪文を飛ばすと追いかけてきていた職員の一人が倒れた。暖炉に飛び込み、中継地点のトイレの個室に出たことで、さぁ姿くらましで脱走するかとなった時に運悪く職員に見つかって追い立てられたのだ。

 ある程度はイライアス達が引き付けてくれたおかげで人数はマシになったがそれでも多いことに変わりはない。

 

 走りながら四人で後方に呪文を飛ばす。杖を横一文字に薙いで追っ手の進路を塞いだ。

 

「飛ぶぞ!!」

 

 鋭く叫べば三人がリオンに手を伸ばす。そして三人の手が自分の体を掴んだことを確認して姿くらましを行使した───が、そこに当てずっぽうで飛んできた呪文が迫る。

 

(まず……!)

 

 避ける暇はない。姿くらましによって逆さになっていく視界の端で、迫りくる呪文を防ごうとしたリオンの意識はそこで途絶えた。

 

 

 

 

 

 

『分霊箱を破壊する方法は驚くほどに少ない』

『ええ。過去の文献を漁ってもあまり出てこないわ』

 

 声が聞こえる。若い男女の声だ。

 

『俺達の代では為せないかもしれない』

『それでもやるのでしょう?』

『勿論──これは俺の罪だ』

 

 そう言った男の手を女の磁器のように白い両手が包みこんだ。

 

『貴方だけに背負わせない。それは私の罪でもあるの』

『……ユスティア』

『大丈夫よ。最期まで一緒にいるから……ね?』

『……ありがとう』

 

 その言葉を最後に視界が白く塗りつぶされていく。だが、その瞬間に女の──自身の祖母ユスティア・グリンデルバルドの目がこちらを見た気がした。

 

 

『思い出しなさい。貴方はもう答えを手にしているわ』

 

 

 

 

 リオン、と呼ぶ声がした。

 

「リオン! ダフネが呼んでるわよ!!」

「……ッ、ダフネ……?」

 

 目を開ける。まず目に入ったのはブラウンの瞳と髪。ハーマイオニーが顔を覗き見ていたのだ。

 そして、薬の匂いが鼻をついたことでリオンは直前に何があったのかを思い出す。

 

「ハナハッカ……あぁ、『バラけ』が起きたのか。治療してくれたのかハーマイオニー?」

「……えぇ。怖かったわ、地面に投げ出されたと思ったら貴方の腕と足が千切れかけていたんだもの」

 

 その恐怖を味わいながらも的確に処置してくれたのには感謝せざるを得まい。リオンは礼を言ってから自分の腕と足に目を向けた。

 

「後は何回か治癒呪文をかければ問題無くなるな……助かったハーマイオニー。ハリーとロンは?」

 

 リオンは辺りを見回してここがテントの中で自分はそこに寝かされていたのだと把握した。それと同時に二人の男子の姿が見えないことをハーマイオニーに聞いた。

 

「二人は外にいるわ。死喰い人たちに見つからないように防護の呪文を掛けに行ってるの」

 

 ハーマイオニーが言い終えるのと同時にテントの扉が叩かれて開く。そこからハリーとロンが入ってきて目を覚ましたリオンに笑みを見せた。

 

「良かった、目が覚めたんだねリオン」

「血みどろの殺人現場みたいで怖かったんだぜ」

 

 なんとか後処理はしたよとロンが胸を張る。その気遣いにリオンも笑みを浮かべてそれぞれが椅子に座るのを眺めた。

 

「それでどうする? ロンドンに戻る?」

「流石にこれ以上危険を冒す必要もない……魔法省は奪還したし分霊箱も手に入れたしな」

 

 リオンはそう言ってハリーが首から下げている分霊箱を見た。

 

 

 

「インセンディオ」

 

 地面に置いたロケットに向けて炎を放つが、びくともしない。

 ロケットを奪取した四人は早速壊そうと幾つか呪文を放ったがどれも効果は得られなかった。

 

「……駄目か。とりあえず『愛護の指輪』が熱いくらい熱を帯びてるから本物の分霊箱なんだろうが……」

「でも破壊できないんじゃどうしようもないよ……」

 

 リオンとハリーは揃ってため息を吐く。まさかここに来て梃子摺るとは……ふと、リオンは心の内に居る祖父に聞いてみることにした。

 

『なぁ爺ちゃん。爺ちゃんって分霊箱について調べてたんだろ?何か破壊方法とか知らないか?』

 

 ───………

 

『……爺ちゃん?』

 

 ───ん、あぁ。どうした?

 

『いや、分霊箱の破壊方法とかについて何か知らないかと思って聞いたんだけど……』

 

 リオンは反応が遅れた祖父に些か疑問を抱いたが、とりあえず分霊箱の破壊方法について聞くのが先かと頭から追いやった。

 

 ───それについては俺も知らないんだ。すまないな

 

『そっか。ならしょうがないな』

 

 ───それなら『終の書』を解読したらどうだ?あれはゴーント家の日記兼闇の魔法記録書のようなものだから分霊箱についても色々載っているだろう。

 

『それが手っ取り早いか……分かった。そうするよ』

 

 会話を終えたリオンは三人にとりあえず一度分霊箱の破壊を中断して飯にしようと持ち掛け、ロケットを守護呪文を施したハンカチに包んで小袋に入れるとテントに戻っていく。

 

 

 

 

『……既に道は定まっている。俺も、俺の為すべきことを為そう』

 

 心の中の世界でエドワードがそう呟いた事にリオンは気付かなかった。




次はホグワーツ側のお話です
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