【本編完結】ハリー・ポッターと何も知らない転生者 作:シャケナベイベー
九月二日。リオンたちが魔法省で大暴れしている頃。
「さぁやってみろ! 呪文は教えたぞ!」
闇の魔術に対する防衛術の教室でずんぐりとした体型のお世辞にも顔が良いとは言えない男が生徒たちに唾を吐きながら叫ぶ。杖を構えて立つスリザリンの七年生はその男──アミカス・カローの粗暴な態度に苛立ちを露わにするものの声を出すことはなかった。
「とっとと唱えろガキ共が!!」
中々呪文を声に出さない生徒に苛立ったのかカローが椅子を蹴り飛ばす。それでようやく生徒たちは呪文を唱えた。
『
彼らが一斉に杖を振るうと杖先から僅かに炎が出る者、勢いのある炎が出る者とマチマチだった。
「なんだそのヘナチョコな火は! 舐めてんじゃねぇぞ馬鹿共が!! あ゛ぁ゛!?」
激昂したカローが野次を飛ばす。それに一部のスリザリン生は辟易としたような態度を取るがカローは気付かない。
「もう一回だ! 今度は成功させろよ愚図共!!」
「……はぁ」
ため息が溢れる。七年目……ダンブルドアが死んだ次の年はまさに悪夢の年になるのだろう。杖を振りながらダフネ・グリーングラスはそんなことを考えた。
六年生の終わり頃、死喰い人が突如としてホグワーツに現れあちこちを襲った。あまりに唐突で誰もが恐怖と混乱の中に陥れられた。まだその時はダンブルドアが外出していて丁度ホグワーツにいない時で、まるでそれを見計らったかのように彼らは現れた。後のリオンの言葉では死喰い人を招いたのはドラコなのだそうだ。
ほとんどの生徒──勿論ダフネも含めて──は必死になって寮へと逃げ帰ったが、ダンブルドアが予め派遣していた数名の大人と教師陣、そして一部の生徒によって死喰い人は撃退されたそうだ。戦場にはあのベラトリックス・レストレンジもいたがリオンが撃退したのだとか。
そこで終わっていれば一件落着となったのだろう。だがそうはならなかった。
──ダンブルドアの死。
それはとても深刻な事態である。
現魔法界で最も偉大な魔法使いとされるアルバス・ダンブルドアが殺害されたのだ。そしてその犯人はスリザリン寮監であるセブルス・スネイプ。
いくらダンブルドアは快く思っていない人間が多いスリザリンと言えどこの事態には大きく動揺した。しかし他寮の人間はドラコ・マルフォイが死喰い人をホグワーツに連れ込んだ元凶という事もあってかスリザリンを責めた。
(リオンやカリアンがそれとなく庇ってくれていたけど……)
それでも収まらなかった。四つの寮はかつてのように溝を生み出した。実行犯が実行犯だ、こうなるのも仕方ないことだと受け入れてはいる。
だがそれでもダフネにとって大事なのはリオンの想いだ。彼がスリザリンの他寮からの印象を良くしようとそれとなく動いているのは知っていた。本人自身他の寮とはあまり接しなかったけど、接する機会があれば少しでも好印象を与えられるようにと動いていたように思う。
しかし、その肝心のリオンはホグワーツに来ていない。他にもグリフィンドールのポッターとウィーズリーとグレンジャー、そして『マグル生まれ登録委員会』なる魔法省に新設されたらしい巫山戯た部署の影響を逃れるためかマグル生まれの魔法使いも姿を見ていない。
マグル生まれや男たちはともかく、あのグレンジャーまでもが来ていないということは少なからずダフネに衝撃を与えた──が、父やカリアン家からの報告で彼らが死喰い人に襲われたことは耳にした。最初のうちは心配のあまり眠れぬ日もあったが最近は普段通りに過ごせている。
「浮かない顔をしているなグリーングラス」
ふと、隣から声が掛かる。思わず肩を跳ねさせ振り向けば、いつも通りの上手く感情が読めない瞳にほんの少しの同情の色を宿したセオドール・ノットがその翡翠色の目でダフネを見ていた。
「アイツの事が心配か?」
「別にそういうわけじゃ……いえ、あなたの言う通りだわ」
軽くため息を吐く。どうにも私の恋人は最愛を放ったらかして世のため人の為に動くのが好きなようだ。
「アイツの事だ、そう簡単にくたばりはしないだろう」
「……意外ね。貴方が誰かを気遣って、尚且つ断言するだなんて」
存外に死喰い人の父を裏切るような発言ではないかと滲ませたが孤高にして天才のスリザリン生はそれを正確に汲み取ったようだ。僅かに顔をしかめつつもその目は真っ直ぐダフネに向けられている。
「確かに僕の父は死喰い人だ……それは決して変えようのない事実だし否定もしない。だが、だからこそ僕は僕の思うように生きる。父と同じ道を行くのではなくセオドール・ノットという一人の魔法使いとして選択していくつもりだ」
「そう、貴方も変わったわね。昔の、それこそ一年生の頃の貴方が今の貴方を見たなら信じられないと驚愕したでしょうね」
「それならどこかの馬鹿に責任を取らせるさ」
そう言って笑うセオドールを、ダフネは親が子を見るような目で見つめた後、そのアイスブルーの目をジト目に変え、さらにほんの僅かに頬を膨らませながらセオドールに言い放った。
「──言っておくけど 私 の リオンよ。渡さないから」
「要らん。僕は男色家じゃないんだぞ」
『私の』を強調して言ったダフネに些か呆れたような声で返したセオドールはやれやれとでも言いたそうにしながらも杖を振り続けた。
◆
「少し良いかいネビル?」
その日の午後、マーク・カリアンは廊下でネビル・ロングボトムを呼び止めた。
「マーク? どうしたの?」
「ここじゃ話し辛いな……ちょっと来てくれ」
「う、うん。分かった」
マークはネビルを連れて近くの空き教室に入ると杖を振って無言でアロホモラ(これは鍵を開ける魔法)を使い、さらに盗聴防止と防音の結界を張ってネビルと向かい合う。
「これで良しと……さて、ごめんねわざわざ呼び止めて」
「大丈夫だよ。でもここまでするってことは何か大切な話なんでしょ?」
申し訳無さそうな顔をするマークにネビルは気にしていないようで、首を横に振ると神妙な面持ちでそう尋ねる。それに微笑んだマークは口を開く。
「察しが良いね……実はダンブルドア軍団を再結成しようと考えてるんだ」
「え!? あ……!」
マークの提案にネビルは思わずと言ったように大声を出し直ぐ様口を手で覆う。そんなネビルに「声は外に漏れないから安心して良いよ」と語りかけたマークはネビルが口から手を離すのを見届けてからその内容を語った。
「驚くのも無理ないさ。でも必要だと思う」
「それは分かるけど……どうして突然?」
「僕の家はどんなところか知ってるだろ?」
「中立派筆頭、中立不可侵のカリアン家……だよね」
「そう。それとは別に
マークはそう言いながら教室のあちこちを歩き回る。その顔にはどこか現実味が無いようにネビルには見えた。
「今の魔法界は闇の帝王の支配下だ。魔法省は陥落しこのホグワーツにも死喰い人が堂々と歩き回っている──実に度し難いくらいにね」
「……だからダンブルドア軍団を再開したいの? 例のあの人と闘うために」
「うん。そうなるね。でも嫌なら無理強いはしない……決めるのは君だよネビル」
その言葉に思わずネビルは息を詰まらせた。言いようのない気迫というものを今のマークから感じ取ったからだ。だが、今更それに怯えるネビルではない。かつて両親が生きているのか死んでいるのか分からない状態で祖母の期待に押しつぶされそうになっていた頃の自分は、もういない。
「僕戦うよ。きっとハリーもロンもハーマイオニーも、リオンだってそうしている筈だから」
言い切ったネビルの顔を見たマークは満面の笑みで頷く。その勇敢さは紛れもなくグリフィンドール生の気質であり、誇りある戦士の顔をしていた。
「ありがとう。それじゃネビルはグリフィンドールから何人か候補になりそうな人員を集めてくれるかい? 僕はハッフルパフとレイブンクローを当たってみるから」
「スリザリンは良いの?」
「今のスリザリンは状況が良くない。心配しなくても、彼らも彼らでやるべきことをしている筈だ……だってリオンが信じた子達なんだぜ?」
「……うん。そうだね」
やはりマーク・カリアンという少年の中でリオンの存在は大きいものなのだと思い知らされる。同時にマークと同じくらいにリオンを理解している人間は七年生の中だとランス・パーシヴァル、ノットとブレーズ・ザビニ、ハリー、そしてダフネくらいだろうなとぼんやり考えた。
「できる事ならランスも誘いたかったけど……マグル登録なんちゃらとか言うふざけた条例のせいでホグワーツに来ていないし……」
怒りを滲ませながらマークが吐き捨てる。どうやら相当お冠のようだ。もしそんな部署を立てた人物を見つけたら八つ裂きにでもしてしまいそうだと思わせるほどに今のマークは凄まじい迫力を持っていた。
「──と言うわけで、良ければ君達にも協力して欲しいんだ」
ネビルとの会合を終えてレイブンクロー寮へ戻ってきたマークは早速二人の生徒を勧誘していた。
「うん。私は良いと思うな…エミリーは?」
「私も賛成です」
「ありがとうルーナ、エミリー」
マークはそう言って目の前の少女達……一年後輩のルーナ・ラブグッドとその友人にしてランスの事が好きだというエミリー・フォーリーに頭を下げた。
そんな彼を見た二人は快く承諾してくれた。それにマークも頭を上げて感謝を述べる。とはいえいきなり派手に動くことは出来ない。下手に動いて死喰い人の不況を買いたくないし、なるべく慎重に行きたいところだ──と、そんなことを考えていたマークの側にメアリーが近付いた。
「どうしたんだいエミリー?」
「マーク、その……ランスの事なのだけど……」
思わず笑みを浮かべる。相変わらず彼は愛されているようだ──当の本人は自分が好意を持たれていることに一切気づいていなかったが。リオンがもしこの場面を見たら拍手しながらせっせとランスとエミリーを見守る位置につくのだろう。
リオンとてダフネとの恋事情は奥手であったのだが、そこはそれというやつだ。
「心配要らないよ。カリアン家の者を護衛として幾人かマグル生まれの子達の下に派遣したし、他の中立派の家系も協力してくれている……なによりランスも、それにリオンだって死喰い人なんかに負けはしないさ」
それからマークは数人の信頼できると判断したレイブンクロー生に声を掛けていき寮を出る。
気分転換に天文台にでも行こうかと足を運ぶ。そして扉を開くとそこには意外な人物がいた。
「……ダフネ? なんでここに」
「ッ! ……あ、カ、カリアンだったのね……ごめんなさい」
ダフネ・グリーングラスがアイスブルーの瞳に涙を溜めて天文台の壁にもたれて座り込んでいた。
その様子を見て何故、何があった等とは問わない。そうなる原因をマークは良く知っていた。
「……星でも見に来たのかしら?」
「いや、気分転換さ。ダフネこそ──いや、何でもない」
「何も言わないのね……なんで泣いていたのか聞かれると思っていたのだけど」
「泣く理由なんて一つしかないのだろうにそれを聞くほど無粋じゃないつもりだよ」
「……相変わらず変な人ね」
目元を拭ったダフネが薄く笑って立ち上がる。その横にマークが並んで二人で塔の外を眺めた。
「数ヶ月前……まだ六年生の頃に彼とここで話をしたの。あの人に呼び出されて抱えているものを打ち明けられた」
「そうなんだ」
誰が呼び出したかは聞かない。ただ耳を傾けることにだけ集中する。
「……彼は一人では抱えきれないだろうものを背負っていた。辛いはずなのに、逃げ出したいはずなのにそれをおくびにも出さないで、一人歩いていた」
「アーデル家の性……それだけで片付けてしまえば楽なのだろうけどね。そうもいかない──いや、認めたくないんだろ君は?」
横に立つ白金の髪の少女を見る。恋をして愛を知った少女は幼い頃と比べると劇的に変わっていた。
ダフネはため息を吐いてチラリとマークを見た後また塔の外に目を向けた。
「貴方は強いわね。私は……彼が危険にさらされていないかいつも心配」
「それは普通のことだよ」
「分かってるわ。でも、私はリオンを信じきれていないんじゃないかと思ってしまうの」
沈んだ声でダフネは俯く。それを弱さだと言える人間がどれだけ世の中にいるだろう。ダフネのそれは人間として当たり前のことだ、死地に赴く愛する人の事が心配でない人間などいない。
だからこそマークは彼女に語る。
「ダフネ。それは君がアイツを信じていないからじゃない。君がリオンを愛しているから出てくる思いなんだ」
「……でも、私は……」
「リオンだって人間だ、怪我だってするしピンチにもなる。でもそんな時に傍にいてくれる人間がどれだけ心強いか……君が何もできてないなんて事はない。なんなら戻ってきたリオンに聞いてみれば良いよ、一発ぶん殴ってからね。『また危ないことして!』ってさ」
その言葉にダフネは思わず吹き出す。
そうだ、そうなのだ。元来冷静そうに見えて中々に大胆なのがマーク・カリアンという人間だった。そしてそんな性格だからこそリオンと馬が合ったのだろうとダフネは常々思っていた。
「そうね、帰ってきたら色々文句を言ってやるわ」
「そうそうその意気だ……もう大丈夫かい?」
「えぇ。迷惑をかけてごめんなさいカリアン」
「気にしてないよ。僕も君もどっかの馬鹿な男に付き合った結果ってことで」
そう言って笑うマークをダフネは晴れやかな笑みで眺めていた。
ダフネ・グリーングラス
実は天文台で泣いてたりした人。リオンの事が心配で堪らないがそれを人前では隠していた。(尚彼女と近しい人間には普通にバレてる)リオンが帰ってきたら散々心配させたことについて怒ってから精一杯抱きしめようとか思ってる。
なおこの話を聞いたアストリアは姉の代わりにビンタすることを決意したとかなんとか。
マーク・カリアン
色々動き回ってた。リオンやハリー達なら帰ってくるだろうと信じて疑っていないのでその為の土台作りを頑張ってる。数日後に魔法省奪還、及びアンブリッジ捕縛を知った時には大歓喜した。
ランス・パーシヴァル
マグル生まれなのでホグワーツには行かず逃亡中。なお家族への被害を避けるために両親から自分に関する記憶はオブリビエイトしてから逃げ出した。現在はアメリカからの救援である友人と同じ姓の魔女と共に行動している。
エミリー・フォーリー
ダンブルドア軍団の初会合の時にチラッと登場したランスに好意を寄せてる女子生徒。ルーナの同級生で友人。聖二十八一族のフォーリー家出身だが分家の出で、ハッフルパフに4つ年下のグレアムという弟がいる。
因みにいつぞやのダフネをパーティー会場でナンパしてリオンを乏した男とそいつを吹っ飛ばした男の兄は本家の出。
因みにだがスリザリン生のヴォルデモート支持派と否定派の割合は六:四で支持派の方が多い。
だが支持派や否定派の中には友人がそっちにいるからと流れのままついてしまった者もいる。