【本編完結】ハリー・ポッターと何も知らない転生者   作:シャケナベイベー

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ゴドリックの谷

 ロンが去ってから、ハーマイオニーはよく隠れて一人で泣くようになった。ハリーはテントの中で『忍びの地図』を眺めてはジニーの行動を眺めている。

 旅に暗雲が立ち込め始めた。

 

 

 

「……『ゴドリックの谷』に寄ってみないか?」

 

 日が昇っては暮れて。そんな日々を過ごしていたある日のこと。暦が十二月を過ぎてしばらくしたその日にリオンはそう提案した。

 

「ゴドリックの谷って……」

「かつてのハリー……産まれたばかりのお前と両親が暮らしていた魔法族の集落だ。その谷にはあのバチルダ・バグショットも暮らしているから、もしかしたらグリフィンドールの剣の手掛かりを得られるかもしれない」

 

 リオンの提案にハリーとハーマイオニーは顔を見合わせる。そしてハリーだけは頷いた。

 

「僕はいいと思う」

「ハーマイオニーは?」

「危険よ。だってもし死喰い人が待ち伏せていたら……」

 

 ハーマイオニーの懸念にリオンは頷く。しかし、それを差し引いても『谷』に寄るべきだと考えていた。

 

「確かに待ち伏せは危うい。けど透明マントで隠れながら行動すれば最低限奴らの目は掻い潜れる。それにもしかしたらお前が気になっていた『ビードルの物語』に描かれているそのマークの謎も分かるかもしれないぞ」

 

 ハーマイオニーは手に持って開いていた『吟遊詩人ビードルの物語』のページに目を落とす。そこには三角形の中に円が描かれ、その円を貫くように一本の線が引かれたマークが描かれていた。

 

「リオン、貴方はこのマークを知っているの?」

「……さぁな」

 

 ハーマイオニーからの問いにリオンは目を逸らす。そんな彼の態度に訝しげな顔をしたハーマイオニーだが、やがて本を閉じると立ち上がった。

 

「分かったわ。でも出発するのは一週間ずらしましょう。待ち伏せを防ぎたいわ」

「了解。言う通りにしよう……ハリーもそれで良いな?」

「うん」

 

 

 

 そして一週間が経ち、三人は行動を開始した。途中でクリスマスの買い物をしていた家族の頭髪を拝借してポリジュース薬を使って姿を変えて透明マントを使った『姿くらまし』を行い、ついに三人はゴドリックの谷へと到着した。

 

「雪が凄いや……」

「集落だからな。街とかと比べれば雪も積もりやすくなるさ」

 

 そんなことを話しながら三人は雪の積もる集落を歩く。目的としてはハリーの両親の墓を訪れること、そしてグリフィンドールの剣の手がかりを探すことだ。

 

 

 

 服に積もっていく雪を手で払いながら三人は黙々と進む。やがてとある記念碑を見つけた。

 

「記念碑かしら?」

「いや。これは多分……」

 

 その記念碑を見てみれば、そこにはまだ幼いハリーを抱き抱えるジェームズ・ポッターとリリー・ポッターの肖像が掛けられていた。

 

「父さんと母さんだ……」

「住民の人達が遺したんだろうな」

 

 三人が写る肖像をハリーが愛おしげに撫でる。そしてその場を後にした三人はついに『聖ジェローム教会』の墓地に辿り着いた。

 

「父さんと母さんの墓だ……それに」

「ペベレル、アボット、ダンブルドア、アーデル……沢山の魔法使いの家系がここに住んでいたんだろう」

 

 三人はそれぞれの墓をつぶさに見ていき、中でもリオンはダンブルドア家の墓に着目した。

 

「『ケンドラとアリアナ・ダンブルドア、ここに眠る』──爺ちゃん、この人たちって……」

 

 ───祖母から聞いたことがある。ダンブルドア先生の母君と妹だそうだ。

 

「そっか……なら、このアリアナさんが……」

 

 曽祖父の……ゲラート・グリンデルバルドの後悔の一つなのか。そこまで考えてリオンは頭を振る。何れにせよそれは俺が介入して良い問題では無いのだと、一つの花の輪を添えた。

 

「貴方がたに死後の平穏がありますように」

 

 そしてリオンは次にアーデル家の墓にも花の輪を添える。そして偉大なる祖先達に誓いを立てた。

 

 

 必ずヴォルデモートを滅ぼすと。預言で死ぬとしても奴に致命的な傷を残すのだと。

 

 

「ねぇリオン。少し良い?」

「どうした?」

「このお墓なんだけど……」

 

 アーデル家のお墓の前で立ち尽くしていたリオンにハーマイオニーが声を掛ける。ハーマイオニーが指差す先にはペベレル家の墓があった。

 

「このマーク、『ビードルの物語』に描かれていた物だわ。どうしてこのお墓にもあるのかしら?」

「それは……」

「二人とも、終わったよ」

 

 訝しむハーマイオニーに語ろうとしたリオンは、ハリーが声をかけてきた事でそれを中断した。

 

「二人に挨拶したのか?」

「うん。メリークリスマスって言ってきた。折角だから二人も花を添えていってよ」

「もちろんよ」

 

 ハリーに案内され、ジェームズとリリーの墓の前に立った二人は『オーキデウス』で花を作り出し墓に添えた。

 

「これで彼らも寂しくは感じないかな……ハリー、どうする?」

「家に行こうと思うんだ。僕の生まれた場所に」

 

 その答えにリオンは満足そうに頷いた。

 

 

 

 

 かつてのポッター家は、ヴォルデモートの蛮行の色をそのまま残していた。家は崩れ、もはや原形を留めていない。何をすればこうなるのか──そんな意味の無い問いを投げたくなるほど無惨だった。

 

「酷いわ……」

「あの野郎の魔力ならこれくらいは出来るだろうよ。尤も、それだけとは思えないけどな」

 

 その悲惨さがあまりにも鮮明に『眼』に焼き付くものだから、リオンは顔をしかめてハリーの方を向く。彼はこの惨状を前にしても微動だにせず、むしろ焼き付けているようだった。

 

(強いな……)

 

 それを見て僅かにリオンの心に羨ましさが生まれる。自分はここまで強くはないと。

 そして三人は家の外にある掲示板を見つけた。そこはここの住民達のハリーに対する応援メッセージで溢れ、誰もが皆ハリー達の勝利を願っていた。

 

「ねぇハリー、リオン……あそこに誰かいるわ」

 

 掲示板に目を通していたハリーとリオンにハーマイオニーが囁く。二人がそっと目を向ければ確かに通りの奥の方に一人の老婆が立っているのが見えた。

 やがて老婆は見られていることに気付いたのか踵を返して歩いていく。だが時折こちらを振り返っているのを見るにどうやら彼女は付いてきてほしいようだ。

 

「行こう」

「マジかお前」

「でも何か手がかりがあるかもしれない」

 

 ハリーの確信めいた物言いに二人はそっとため息を吐くが、やがて決心したように老婆の後をついて行った。

 

 

 

 

 

 老婆───バチルダ・バグショットの家は腐った肉の匂いが充満していてとてもじゃないが人が住めるような環境とは思えなかった。ハリーは道中しきりにバグショットに質問していたが老婆はだんまりを決め込んでいた。

 

 そんな二人は二階へ上がっていき、リオンとハーマイオニーはしばらくすればハリーも諦めて降りてくるだろうと辺りを見て回ることにした。

 

「流石はあのバチルダ・バグショット。著名な人物のサインやら本やらが並んでるな」

「本当ね。もしこんな状況じゃなければ是非ともお話を聞いてみたかったわ……あら?」

 

 笑顔で辺りを見ていたハーマイオニーはやがて一枚の写真を手に取る。そこには金髪碧眼のハンサムな若者が映っており、ハーマイオニーを気にして寄ってきたリオンもそれを見た──瞬間、リオンの顔が歪んだ。

 

(爺ちゃん、彼ってまさか……)

 

 ───若い頃のグリンデルバルドだ。俺も一度バチルダ氏の下を訪ねたときに見せられたことがある。バチルダ氏はグリンデルバルドの大叔母だったそうだからな、持っていてもおかしくはないだろう。

 

(そうなのか)

 

 意外な繋がりでもない、やっぱり魔法界というのは血の繋がりが狭いものだ。

 

 そんなことを内側の祖父と話していたリオンは二階からの物音で意識を現実へと戻した。音の響きからして何かが暴れている。恐らく戦闘音──そこまで考えたところでハーマイオニーも気付いたのかハリーの名前を呼びながら階段を駆け上がっていく。

 リオンも舌打ちを溢してハーマイオニーの後を追った。

 

「ハリー!」

「無事か!」

 

 二人が扉を開け放つと、ハリーがちょうど大蛇に襲われているところだった。ハーマイオニーが杖を振って大蛇──ナギニを吹き飛ばしてハリーを引っ掴む。

 それに続こうとリオンも駆け寄ったが、再びナギニが飛び出してリオンの身体を締め上げた。

 

「リオン!」

「気にするな、行け!」

 

 巻き付かれたリオンを助け出そうとハリーとハーマイオニーが杖を構えたがリオン自身がそれを制止した。

 

「アイツが来る! お前達だけでも逃げろ!」

「ッ! 絶対に助けるから!」

 

 リオンの警告に悔しげな表情を浮かべたハーマイオニーがハリーと共に『姿くらまし』をするのを見届けた瞬間、リオンは凄まじい爆発音と共に身体に凄まじい衝撃が加わるのを感じた。

 

「がはっ…!」

 

 うめき声と共に地面に投げ出されたリオンは何とか体勢を立て直す。そして見上げた先に映ったものを見て忌々しげに舌打ちを溢した。

 

「クククッ……ポッターめは逃がしたか。相変わらずの自己犠牲精神だなアーデル家の人間と言うのは」

「自己犠牲なんてお前からは最も遠い言葉だからな。縁がないだろうヴォルデモート?」

 

 目の前に立つ宿敵──顔の右半分が少し爛れ、右目に縦に裂かれた傷を残したヴォルデモートの姿を認めたリオンは即座に杖を抜く。

 

「だが良い。貴様だけでも捕らえる価値はあるというものよ」

「殺さず捕らえると?」

「勿論。貴様には殺す以外にも利用価値がある」

「趣味の悪いことだな」

 

 リオンが言葉を切って失神呪文を飛ばす。それをヴォルデモートは容易く杖で弾き、逆に死の呪文を返した。

 

「あの頃より成長しているようだ……そうだそれでこそだリオンよ!!」

「親しげに呼ぶなクソ野郎!!」

 

 互いに杖を振るう。呪文が煌めき、ぶつかり火花を散らす。かつての神秘部の戦いより遥かに成長しているリオンだがそれでもヴォルデモートには及ばない。

 

「ちっ…!」

「来るか!」

 

 リオンの杖捌きが一層速くなる。それの原因を察知したヴォルデモートが笑みをさらに強めた。

 

「やはりお前とはこうでなくてはなエド!!」

「楽しそうで何よりだなトム!」

 

 凄惨な笑みを浮かべながら何でもないように死の呪文を連発するヴォルデモートに顔を歪めながらリオンと切り替わったエドワードは経験を駆使してそれを捌いていく。

 

「そうら踊れ!」

「悪いが俺が誰かと踊るのはユスティアただ一人と決めてるんでな!!」

 

 

 

 

「ならアタシとは踊ってくれないのかい?」

 

 

 

 

 ゾクリと産毛が逆立った次の瞬間、エドワードは右肩に激しい痛みを感じた。その身体が倒れ込み、それによって意識がエドワードからリオンへと引き戻される。

 

「ぐっ……!」

 

 倒れたリオンは右肩に深々と突き刺さったそれ──ナイフを抜いて溢れ出る血を止めようとしたが、それより早くヴォルデモートの磔の呪文によってさらなる苦痛を味合わされることになった。

 

「あああああっっっ!?!??!」

「良くやったぞベラ。だが俺様と此奴の戦いの邪魔をするとはな」

「も、申し訳ありません我が君……」

「だが許そう。俺様の目的は此奴を殺すのではなく捕らえること。それを加味すればお前の働きは十二分に良いものであった」

 

 絶叫するリオンを尻目にヴォルデモートは割り込んだ己が副官に目を向ける。それに対してベラトリックスは深く頭を下げるがリオンの苦痛に喘ぐ声を聞けたのが余程嬉しいのかヴォルデモートはあっさりとその行動を許した。

 

「苦しかろう痛かろうリオン? それもこれも貴様の一族が俺様に歯向かうからこうなったのだ……ベラ、此奴をマルフォイ家の屋敷に連れて行く」

「承知しました我が君」

 

 歓喜に震える声でベラトリックスが返事をし、苦痛に喘ぎ体力を削られたリオンを拘束して『姿くらまし』した。

 そしてヴォルデモートは傍らを這いずる今回の功労者であるナギニを撫でた。

 

「良くやったぞナギニ。今回は哀れにも俺様に歯向かった魔法使いを丸々二人夕食にだすとしよう」

 

 ナギニが這いずってヴォルデモートに寄り添い、彼の『姿くらまし』でマルフォイ家の屋敷に赴く。そして横たわる二人の魔法使いの死体を見てその口を大きく開いた。

 

 

 

「ベラ、彼は……」

「我が君が地下牢で鎖に繋げよと命じられた。そして世話をお前とドラコ、それからお前の乳母に任せるとな」

「そう、分かったわ……」

 

 マルフォイ邸の一室。そこでベラトリックスと妹であるナルシッサ・マルフォイが言葉を交わしていた。そしてベラトリックスが去り、ナルシッサは地下へと降りて未だ眠り、鎖に繋がれたリオンを塀の外から眺めた。

 

「馬鹿な子……貴方もエレインもシリウスも……こちら側についていればこんなことにはならなかったでしょうに……」

 

 ナルシッサが蚊の鳴くような声で囁く。それはあり得ないと分かっていても、ナルシッサはそう呟かずにはいられなかった。

 

 

 

 そしてこれから暫くの間、リオンの地獄すら生温い日々が幕を開けることになる。

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