【本編完結】ハリー・ポッターと何も知らない転生者   作:シャケナベイベー

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一時の休息

 目を開く。ボンヤリと天井を眺め、ここがマルフォイ邸の地下牢でない事に気付いた。

 俺の体はベッドに横たえられていてご丁寧に毛布まで敷かれている。前後の記憶を思い出そうとウンウン唸り、やがて一つの記憶に思い至った。

 

「そうだ……クロードに助けられて、それで皆で脱出したんだったか」

 

 なんともまぁ奇跡に近い事が起きたものだ。だが、それならこの部屋はなんだろう。少なくとも自分が知るどの家のものとも一致しない。

 

 その時、ガチャリと扉が開いてそこから俺のよく知る顔が現れた。

 

「………起きたのかリオン」

「父さん?」

 

 父さんがホッとしたような顔でそこに立っていた。その手にはお椀が抱えられており、どうやら中身は薬のようだ。

 

「調子はどうだ?」

「ん、痛みはないかな……というかさ。ここどこなんだ?」

「……あぁ、そうだな。ここは旧ゴーント邸だよ」

「───マジ?」

 

 予想していなかった……と言えば嘘になるが……そんな場所を告げられて目を見開く。そんな俺を見て薄く笑った父さんはベッドの横に椅子を取り出して座るとお椀を差し出してきた。

 

「飲んでおきなさい……マルフォイ邸から脱出する時に無理に体を動かしたから少しでも良くしておくんだ」

「お、おう……てかそうだ! なぁ父さん、ハリーたちは?」

 

 姿くらましをする直前まで共にいた友人たちのことを思い出し、父に訊ねた。俺の問いに父さんはどこか苦々しい顔をしてからゆっくりと口を開いた。

 

「……良い知らせと悪い知らせがある。どちらから訊きたい?」

「えぇ………じゃあ、良い知らせから」

「分霊箱になっていたスリザリンのロケットの破壊にハリーたちが成功した。グリフィンドールの剣でな……それにあの子達は無事だ」

「そうか」

 

 ホッと息を吐く。これで一つあのハゲ頭の保険を破壊することができたわけだ。

 そして父さんは次に悪い知らせだが…とだけ言って口ごもる。よほど言いにくいことなのかたっぷり数十秒使ってから簡潔に告げた。

 

 

 

「───ドビーが死んだ」

 

 

 

 それはあまりにも衝撃的な答えだった。目を見開き、叫び出そうとする己を抑えて何とか冷静に質問する。

 

「………原因は?」

「姿くらましする直前にベラトリックスの投擲したナイフが身体に突き刺さっていた。近くに墓を立ててそこに埋葬した」

「……そうか」

 

 束の間、ドビーに黙祷を捧げる。そしてお椀に注がれた薬を飲み干し、父さんの顔を見た。

 

「他の皆は?」

「下にいる。動くのか?」

「勿論」

 

 俺の発言にジッと俺の目を見た父さんはやがてため息を吐いてしょうがない子だと言って立ち上がる。そして俺もベッドからフラつきつつも立ち上がり、下の階に降りていった。

 

 

 

 

「皆おはよう………ん?」

 

 下の巨大な居間に行けばそこにはハリー達グリフィンドール三人組とクロード以外にも、母さんとルーナにディーン、それにランスまでいた。

 

「リオン! もう大丈夫なの?」

「あ、あぁ。心配かけたなハーマイオニー。皆も」

「もう動けるのは流石というべきなのかしら……私としてはもう少し休むべきだと思うけど」

「気遣いどうも母さん」

 

 声をかけてきたハーマイオニーと母さんにそう返し、俺も用意された椅子に座る。すると俺の横にやって来たランスが突然肩を組んできた。

 

「うおっと───ランス、お前なんでここに?」

「ほら、マグル生まれ登録委員会とかいうのあったろ? そんでホグワーツに行けねぇから家にいたんだが、死喰い人のあれこれがあったから家から出てきたんだよ」

 

 そこでクロードと会って同行してたんだ。

 そう言ってランスがクロードを見ると彼女は静かに頷いた。

 

「途中死喰い人に襲われたりもしたけど何とかなったぜ」

「危ないなオイ」

 

 いや俺も人のことは言えないのだが……そして次に俺はロンに目を向けた。

 

「戻ってきてたのかロン」

「あぁ。実は君たちと別れてすぐに戻ろうとしたんだ。リオンの守護霊が来てくれたってのもあったし……でも道に迷っちゃって……そしたらダンブルドアが僕に遺してくれた灯消しライターのお陰でハリーとハーマイオニーと合流できたんだ」

 

 まぁハーマイオニーには怒られたけど、と笑うロンをハーマイオニーが凄い目で見ていた。まぁそりゃそうだ。そしてハリーも顛末を話す。

 

「それでロンと一緒に湖に沈められてたグリフィンドールの剣を引き上げて分霊箱を壊したんだ」

「何処のどいつだ剣を湖に沈めやがった馬鹿は」

 

 なんてことをしているのか。単純な価値で測れない代物だと言うのに。ソイツの悪意が透けて見えるようだ。

 

「で。ディーンも例のクソ委員会のせいで逃げてたってのは分かるが……ルーナはなんでここに?」

「家に帰る途中で攫われたんだ。そこからはずっと捕まってた」

「僕らそれを聞いて助けに行こうとしたんだ。それでルーナの家を訪ねたら死喰い人を呼ばれて大変な目に遭って……」

「あの人の名前を呼んだら感知されるみたいなの」

「クソ仕様かよ」

 

 あのハゲ頭、こういう事に無駄な労力を使わないで欲しい。

 まぁこれで彼らのこれまでの経緯を聞いた訳だが……もう一人肝心な奴を忘れていた。

 

「で、クロードはなんでマルフォイ邸にいたんだ?」

「貴方がマルフォイ邸に囚われる未来を視たから、慌てて乳母に変装して潜入してたのよ」

「え、クロードって未来視使えたのか?」

「貴方の異能と比べるとかなり劣るのだけどね」

 

 意外……というわけでもないか。クロードもアーデル家の血を引いているなら異能が開花していても何らおかしくはない。

 それで今後の動きをどうするのかとここに居る全員に聞こうとして、父さんが突然片手を上げた。

 

「その前にだ……ランス、ルーナ、ディーンは少し席を外していてくれないか? 君達に聞かせるべきではない話をしておきたい」

「え、えっと……分かりました」

「父さん?」

 

 困惑しながらもランスたちが部屋から出ていく。一体何の話をするのかと父さんの方を向いたら、とある一枚の紙がテーブルの上に出現した。

 

 

「つい先程ドイツ魔法省から私宛に届いた物でな。とある人物が殺害されたそうだ、名前は───」

 

 

 ──ゲラート・グリンデルバルド。

 

 

 父さんがその名前を口にした瞬間、俺は思わず椅子から立ち上がった。

 

「父さん、それは本当か?」

「あぁ。ヌルメンガードに足を踏み入れた省員が確かにその遺体を確認している。そして天井には闇の印も確認された」

 

 それにハリーたちも息を呑んだ。下手人が誰なのか見当が付いたのだろう。すると訝しげな顔をした母さんが父さんに聞く。

 

「今更始末したの?」

「そのようだ。だが奴がグリンデルバルドをわざわざ始末したなら相応の理由があったはずだ」

 

 そして二人の視線がハリーに集中する。その本人は少し顔を強張らせて何かを考え込んでいた。

 

「ハリー、君と奴にはまだ繋がりがあるか?」

「はい……それで、レックスおじさん達が言っていた場面も僕見ました」

「何を話していたか分かるか?」

「その、アイツは何かを探してたみたいです……それでグリンデルバルドならそれを持っていると思って彼のいる場所に向かったんだ……でも彼は持っていなかった。それどころか『お前は勝てない』って馬鹿にされた。それで怒ったアイツに殺されたんだ」

 

 なんともまぁ想像しやすい場面だ。グリンデルバルドならそりゃあの野郎のことは小馬鹿にするだろう。

 

「あれが何を求めていたのか分かる?」

「う〜ん……」

 

 母さんの言葉にハリーは腕を組んで呻る。どうやら何を探し求めていたのかまでは分からなかったらしい。手詰まりか……と思われたその時、扉が開いて第三者の声が聞こえた。

 

「そりゃ、彼が求めるならニワトコの杖だと思うよ」

 

 突然聞こえてきたその声に全員が一斉に振り返る。扉の前に立っていたのは一人の青年だった。

 ドラゴン革のトレンチコートを金色のブローチで留め、短く切られた黒髪と緩やかな銀色の目が特徴的なその人物を俺は知っていた。

 

「アルバートさん!?」

「久しぶりリオン。突然ごめんね」

「誰?」

「アルバート・クラウンさん。元イルヴァーモーニーの生徒で五年生からはホグワーツに通っていた……ダンブルドアの先輩としても知られている人よ」

 

 ロンが首を傾げると簡潔にクロードが説明する。そしてその内容に三人組が目を見開き、両親は当然のように彼の存在を受け入れていた。

 

「はぁ……来てるなら手紙の一つくらい寄越しても良かったのでは?」

「まったくよ、心臓に悪いです」

「ごめんって二人とも」

 

 苦言を呈する両親にヒラヒラと手を振ったアルバートさんは椅子を一つ出現させてそれに腰掛けると俺たち全員を見渡す。

 

「それでさっきの話に戻るけど……彼が求めているのはニワトコの杖で間違いない」

「ニワトコの杖……死の秘宝の一つの?」

「正解だよハーマイオニー・グレンジャー。僕が教師だったらグリフィンドールに五点あげてた」

 

 そう言って笑いながら、アルバートさんは杖で三角形の中に円が収まり、それを貫くように一本の縦線を描いた紋様──『死の秘宝』のマークを作り出した。

 

「このマーク、見覚えないかな?」

「あ、ペベレル家の……?」

「流石だねハーマイオニー。そう、これはペベレル家のマークであり、かの死の秘宝を象徴するマークだ」

 

 ゼノフィリウス・ラブグッドも持っていたんじゃないかな?そう問われた三人は困惑しながらも頷いていた。

 

「透明マント、蘇りの石……そしてニワトコの杖。この三つを揃えて死の秘宝と呼ぶ者が多い」

「でもそれはお伽噺で──」

「……だから僕は死の秘宝があるんじゃないかってルーナの家で言ったんだ」

 

 ボソリと呟いたハリーをハーマイオニーが睨む。ロンは珍しく我関せずといった顔をしていた……どうしたお前。

 

「そしてその中の一つ……透明マントはポッター家に継承されている」

「これが……? 確かに効果が切れない品ですけど……」

「君の曽祖父……ヘンリー・ポッターは僕の後輩でね。彼から教えてもらってたんだ」

 

 曰くポッター家の持つ透明マントは摩訶不思議で、劣化せず、さらにはどのような材料を使って作られたのかも不明なのだと。

 

「そしてバチルダ・バグショットの殺害……彼女はグリンデルバルドの大叔母だった。彼はグリンデルバルドの情報が欲しかったんだろうね」

「胸糞悪い話だ」

 

 言ったところで今更だが。アイツにとって殺しなど日常の一コマと同じなのだろう、さっさとくたばれば良いのに。

 

「少なくとも彼は相変わらず力を求めているというわけさ。君たちに勝つためにね、ハリー、リオン」

 

 アルバートさんの目が俺とハリーに向く。俺たちは互いに顔を見合わせ、そして深く息を吐いた。

 

 いい加減あの野郎に執着されるのもコリゴリなのだ。

 

 

 

 

 

 

 そしてアルバートさんとの会話が終わり、一先ずの休息の時間になった俺は館から出てとある場所に立ち寄っていた。

 そこには一つの小さなこじんまりとした墓が建てられ、そこに小さく文字が書かれている。

 

 

 ──自由なしもべ妖精 ドビー ここに眠る

 

 

「俺はお前の死を美化なんてしてやらないぞ。だってお前はあそこに来なくて良かったはずなんだからな……それでも、助けてくれてありがとうドビー」

 

 墓石を撫で静かに立ち上がる。そして墓の下で安らかに眠っているだろう小さな友人に目礼して立ち去ろうと踵を返したとき、その目に時が映り込んだ。

 

 

 

 どこかの洞窟。傷ついたドラゴン。ハリー、ロン、ハーマイオニーの三人に加えて一人の小鬼がいる。そして彼らは小さな黄金のカップを手に取り──

 

 

 

 そこで朧気な視界が消え去り、元の風景が帰ってくる。軽く目を瞑り、先ほどの光景を思い返す。

 

「小鬼にドラゴン……グリンゴッツか? そしてあのカップは……」

 

 早急にハリーたちに伝えなければならない。歩くスピードをほんの少し早めて、俺は館への道を歩いていった。

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