【本編完結】ハリー・ポッターと何も知らない転生者   作:シャケナベイベー

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やるべきこと

「で。どうするよ御三方」

 

 ゴーント邸の一室。与えられた部屋のベッドに腰掛けたリオンが目の前のグリフィンドール三人組を見つめる。

 

 ドビーの墓参りを終えた直後に視えたグリンゴッツ侵入の未来。恐らく映ったカップはハッフルパフのカップに違いない……つまりはグリンゴッツのどこかに分霊箱があるということ。

 そこで何やらオリバンダーと話していたらしい三人を引っ張って自分の部屋に連れ込み視た光景を話した。

 

「本当なの? グリンゴッツに分霊箱があるって」

「未来に間違いがなければな」

「ならすぐにでも出発しようよ!」

 

 ロンが声を上げる。それにハーマイオニーは同調したがハリーは難しい顔をしていた。

 

「確かに出発したいけど……でもどうやって?」

「小鬼に交渉を吹っ掛けるか? あまりオススメはしないけどな」

 

 疑問符を浮かべながらリオンを見つめる三人にこれは父さんから聞いた話だが…と前置きして話を進める。

 

「小鬼は自分達の所有するものに対する執着心が凄まじい。たとえ契約を交わして品を貰ったとしても小鬼からすれば『貸しただけ』っていう認識らしい」

 

 うえー、とロンが舌を出す。小鬼の欲深さを察したのだろう。ハーマイオニーとハリーも顔をしかめていた。

 

「それでも一回話してみるよ」

「そうか……まぁそれもいいだろうよ」

 

 顔を上げたハリーの目には強い意志が宿っており、こうなるとコイツの意見を曲げさせるのは不可能に近い。なるようになるだろうと、俺は手元の紅茶を飲み干した。

 

 

 

 

 その後、ハリーたちは小鬼───グリップフックとの交渉を成功させたらしい。とはいえ相手はあの貪欲な小鬼だ。用心するに越したことはないだろう。

 

「とりあえずグリンゴッツには俺も行くとして……これが妙に反応してるんだよなぁ」

 

 そう言って懐から取り出したのは、終の書と同じくこの旧ゴーント邸から持ち出した『紅玉の瞳』だった。それは柔く光を放っており、見る者を魅了するかのように存在を示していた。

 

「何かあるのか……それとも単なる偶然か」

 

 紅玉の瞳を持ち、まるで導かれるように邸の廊下を歩く。階段を降り、父達が客間の方にいることを確認してからリビングの床の凹みを押して隠し階段を開いた。

 

 これを使うのは六年生が始まる前にダンブルドアとハリーと来て以来だなと考えながら下へ下へと降りていく。やがて辿り着いたのは以前終の書と紅玉の瞳を手に入れたあの場所だった。

 かつて書と瞳が仕舞われていた水盆はなく、そこにはただリイン・スリザリンの肖像画があるだけ───いや、その肖像画の下に以前はなかった不自然な凹みがある。

 

「これ、前来たときは無かったよな……」

 

 不思議に思いながらもその凹みをよく観察する。球体型の凹み───ちょうど紅玉の瞳が収まるくらいのサイズだ。

 直感的に紅玉の瞳を嵌め込んでみる。

 

 そこで両目に熱が宿った。過去視が発動したのだと直感する。目の前にボンヤリとした人影が一つ浮かび、それは徐々に鮮明になりやがて一人の美しい女性の姿になった。透き通る白髪と紅く燃える虹彩───リイン・スリザリンだ。

 

『ここにあるのはただの導……時を視た貴方への贈り物。真実に近付きたいのならこれを手にし、己が集うべき場所へと向かいなさい───擬似的な預言だけれど伝えましょう。■■■■■の■には既に無いわ。だけれどこれを使えばその在処が分かるはず』

 

 彼女が手に持っていた物が解けて消えていく。やがてその手に残ったのは彼女の瞳と同じ色をした宝玉だけ。

 

『信じるの、己の力と人の意志を。そうしなければ呪いは解けず愚か者もまた死ぬことはない。預言は力など与えないのだから……ただ示すだけ。そしてそれはその通りに進むとは限らない』

 

 リイン・スリザリンの影が消えていく。そして嵌め込んだ紅玉の瞳が解け、その凹みがあった壁が扉のように崩れていく。

 そこにあったのはとてつもない魔力を感じさせる相当な品物だと分かる手鏡と一本の杖。

 

 手鏡を手に取り、脇に挟んで杖を手に取る。この杖もまた相当なものだろう。オリバンダー老に聞いてみるかと踵を返そうとしてまたもや両目に熱が宿る。今度は未来視だ、時を見る異能は絶好調らしい。

 

 

 

 

 そこに立っているのは一人の女の子だ。背は低く体型も華奢。年齢的に13歳くらいだろうか。烏のような濡れ羽色の長髪にアーデルのものとは反対に命の色とも称された紅の双眸を携えた少女はリイン・スリザリンの肖像画に向けて膝を折っていた。

 

『時が逆転しようとしています』

 

 少女がその薄ピンクの唇を開く。鈴の音のような声色だった。

 

『血を継ぐものが、愛のために凶事を成そうとしている。それは決して許されないこと……未来であるならばともかく過去を変えるなんて……私は止めなければ、彼女の行いを。なんとしても』

 

 だからこそ──と少女が腰から杖を引き抜く。今俺が持っている杖そのものだ。いずれこの少女に渡るのだろうか。

 

『私は同じ血の末裔として彼女を……■■■■■■を止めなければ』

 

 そこで未来視が終わる。頭を振り、なんとか気を持ち直して息を長く吐いた。

 かなり久しぶりにここまで大規模に過去と未来視を使ったからか疲労感がとんでもない。とりあえず上に戻ってオリバンダーに聞いてみるっきゃないよなと俺は今度こそ踵を返した。

 

 

 

 

 

 

「ふむ…ふむ…なるほどなるほど……とても強力な杖ですな。それこそかの『宿命の杖』に勝るとも劣らない一品です」

「そこまでですか」

 

 リビングに戻り、オリバンダーのいる部屋に赴いて杖の検分を頼んだ俺はその返答に目を丸くした。心做しかオリバンダーの顔も生き生きとしており素晴らしい杖に出会えたことに感激しているようだった。

 

「そうですとも。芯材はバジリスクの牙、木材はニワトコ……いやはや、なんとも心躍る杖だ」

 

 ギョッとした。とんでもない組み合わせだ、よりにもよってニワトコとは。しかしオリバンダーは熱心に杖を持ってウンウンと満足そうに頷いている。

 そんな子供みたいに無邪気に笑われるとこちらとしても何か言いづらい。そんなわけで俺はオリバンダーに提案することにした。

 

「オリバンダー老、もしよろしければなんですが……その杖をオリバンダー杖店で預かってもらうことは可能ですか? 無論、売りに出すという意味で」

「構いませんが……よろしいのですかな?」

「俺には今杖が三本もありますしね」

 

 腰に下げている三本の杖を叩く。とはいえそのうちの一本、リンゴに不死鳥の尾羽根の杖は祖父しか使わないが。

 その話を聞いたオリバンダーは快く頷き、「お任せください」と了承してくれた。

 

 かくして杖は丁寧に細長い箱に仕舞われ、いずれ来る主を待つことになる。

 

 

 

 

 

 そして夜。ゴーント邸の広間は浮かれた空気に染まっていた。その発生源となっているのは一人の中年の男……リーマス・ルーピンだ。

 つい一時間前にビルとフラー夫妻、そしてシリウスを引き連れてやってきた彼は通された玄関で一刻も早く伝えたいとばかりに大声で叫んだのだ。

 

『子供が、子供が産まれたんだ! 私とドーラの子!! こんなに嬉しいことはない!!』

 

 それを聞いたレックスとエレインはリーマスの苦悩を知る故に飛び上がらんばかりに喜んでからビルとフラーと共にパーティーの準備を始め、ハリーたちもシリウスやリーマスとの再会を喜びながらリーマスと共に喜んだ。

 

「テッド・リーマス・ルーピンか……いい名前じゃないか」

 

 浮かれ、奨められるままにワインを呷っているリーマスを眺めながら一人呟く。テッドとはトンクスの父親の名前だ。ディーンと小鬼達を死喰い人から庇い、ダーク諸共殺されてしまったのだとか。

 そんな父親の名前とリーマスの名前をミドルネームにその赤子は生を受けた。ハリーを後見人に指名したリーマスは薄っすらと涙を浮かべ、シリウスにバンバンと肩を叩かれていた。

 

「一人黄昏てどうしたのさリオン」

「アルバートさん……いえ、俺も浮かれてますよ」

 

 隣にやってきた肩に不死鳥を乗せた青年にリオンは微笑みを返す。嘘偽りのない本音だった。

 

「そういえば高祖母からアルバートさんあてに伝言があるんですけど」

「ん? ステラから?」

「はい。『元気でいてね』と」

 

 アルバートの瞳が驚愕で見開かれたあと、ほんの僅かに顔がクシャッとなった。そしてその目がここではないどこか遠くを見つめ始めたことに気付く。

 

「まったくステラってば……そういうのは僕が言うべきだったんだけどなぁ」

「高祖母とは同級生だったとか」

「そうだよ。君の高祖父ともそうだし……僕の奥さんともそうかな」

 

 

 

「…………………え?」

 

 

 

 奥さん、奥さん……妻?嫁?ワイフ?Whats?

 そのあまりに衝撃的すぎる一言に完全に思考停止したリオンを見て吹き出したアルバートは「心外だなぁ」と笑った。

 

「僕は妻子を持たないって思ってた?」

「……まぁその、失礼じゃなければそう思ってました。なんか、アルバートさんって自由人って感じしましたから」

「だよねぇ。ま、僕も最初は古代魔法の影響で年を取るスピードが凄く遅くなったから結婚せず独り身でいようとか思ってたんだけど……押しかけられてね」

「押しかけられたんですか?」

「そ。マルフォイ家の娘にね」

 

 またも愕然としたリオンを見てアルバートが笑う。いつの間にかハリーやルーピン達も二人の会話に耳を傾けていた。

 

「マルフォイ家と言っても、分家当主夫妻に子供ができなかったから他所から養子にした子なんだけどね。それでその夫妻に実子が出来て、そうしたら彼女を冷遇しだしたものだから彼女が僕のところに転がり込んできたんだよ。

 当時の僕はホグワーツを卒業したばかりでね。ダイアゴン横丁のとある宿に下宿してたんだけど、そこに彼女が……エストレアがやってきたものだから大騒ぎだったよ。なにせあのマルフォイ家の息女がこんな寂れた宿にってさ。で、エストレアから事情を聞いてその場にいたセバスチャン……僕の親友ね……や君の高祖父、ライアン・マッキノンやもちろんステラと一緒にその分家当主夫妻のところに乗り込んでボッコボコにしたよ。そりゃもう完膚なきまでにね。

 そもそもその二人はマルフォイ本家からも評判が悪かったらしくて一応本家の方に確認を取ったら快く頷いてくれたんだ。それでその件があって僕はエストレアと結婚したってわけだ。どう、納得したかな?」

「え、あ。はい……」

 

 そんな返事を返すしかできなかった。だってアルバートさんの顔ときたらとんでもなく嬉しそうで愛しそうな顔してるんだもんよ、口を挟むなんて野暮なことできなかったのだ。

 

 

 

 

 そうして夜は更けていき、ついに出発する日となった。

 

「三人とも、準備良いか?」

「うん」

「もちろん!」

「いつでも行けるわ」

 

 リオンの言葉にハリー、ロン、ハーマイオニーが返す。作戦としては酷く単純でハーマイオニーの腕に絡まっていたベラトリックスの髪を使ってポリジュース薬でハーマイオニーがベラトリックスに変装しベラトリックスの金庫に向かいハッフルパフのカップを奪取する。ほら、実に簡単。

 リオンは足元のグリップフックに目をやり小さく頷くと見送りに来たレックス達と目線をかちあわせた。

 

「それじゃ、行ってくるよ」

「気をつけていくんだぞ」

「危なくなったら自分の命を最優先に考えなさいな」

「時が来たら、ホグワーツでね」

 

 アルバートさんの言葉に頷く。奴が決戦の地に選ぶならホグワーツだろうと言うのが共通認識だ。カップを破壊次第、残りの分霊箱の手がかりも求めてホグワーツに帰る予定である。

 ふと、エレインがリオンに歩み寄り、その細腕でリオンを優しく抱きしめた。

 

「っと……母さん? どうした?」

「何でもないわ。ただ、そうね………こんなに、大きくなったのね………」

 

 確かに、リオンとエレインではリオンの方が頭一つ分デカい。だがエレインにしてみればリオンはいつまで経っても我が子であることに変わりないのだ。

 やがてエレインが離れ、レックスの横に戻っていく。その目には薄く涙の膜が張られていたがリオンは見ないふりをした。

 

 そして四人と小鬼一匹がゴーント邸を去りグリンゴッツへ向けてその足を進めていった。

 

 

 

 

 やがて見えなくなったリオン達の方向を見つめていたレックスとエレインは互いに頷き、最後の決戦前の準備を始める。そしてその場に一人佇んでいたアルバートは遠い過去を思い返していた。

 

 

 息子が生まれ、それを契機にアメリカ魔法界へと戻り、そこで孫が生まれて。そうして生きた年数が90といくらか過ぎた夜。エストレアが死へ旅立つ前日の夜にアルバートは妻の元を訪ねていた。その頃はめっきり妻は老け込んで余命幾ばくもなかった。そして未だ若々しい外見の自分を見つめて悲しそうな、申し訳無さそうな目をしたエストレアはこう言ったのだ。

 

『ごめんなさい……貴方をまた、孤独にしてしまう……不甲斐ない私を許してちょうだい……』

 

 そんなことはないと己は微笑んだ。だって自分にはまだ息子夫婦がいて孫もいる。それなのになぜ孤独に感じるんだと。

 そう返せばエストレアは安心したように微笑んで、『そうね』と言った。

 

 ──そしてそれが、夫婦最後の会話だった。

 

 

「今は大変な時期だ。でも希望がないわけじゃない……僕はまだそっちに行けそうにないよ──」

 

 

 ───なぁエスト。

 

 

 そう言ってアルバートは美しい晴天を眩しそうに目を細めて眺めていた。




エストレア・マルフォイ
アルバート・クラウンの妻。マルフォイ家の分家夫妻によって養子に迎えられた。元はブラック家の子。五年生の頃に転入してきたアルバートと出会い、それなりに付き合いのある人物となる。
当主夫妻に実子が生まれたことで冷遇されたがそこからアルバートに助けを求めたことで関係が進展し結婚し子供を設けた。
ブラック家らしい黒の長髪に灰色の目。
夫が時間に取り残されることを酷く嘆き悲しんだ愛に生きた人。
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