ロックな姪と食べさせたい叔父さん   作:氷英

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ひとりちゃんの大一番の前日でも叔父さんは相も変わらずご飯を作るよ。


理由を考える姪と手羽元の煮物と鯖の味醂焼き

STARRYでのオーディションを前日に控えた今日、スタジオ練習から帰って来たひとりちゃんはどこか神妙な面持ちで明日の意気込みがこちらにも伝わってくるようだった。きっとどれだけ練習しても緊張や不安は拭えないのだろう。その表情からはかなりの疲れも見えた。

 

「おかえり、お疲れ様。大丈夫かい?大分疲れてるみたいだけどご飯はすぐ食べられそう?」

 

「あっ…はい」

 

力なく答えたひとりちゃんは一旦自室に入っていく。こればっかりはひとりちゃんが頑張るしかない。私にできることはいつだって決まってる。叔父さん頑張る。

 

大根を厚めの銀杏切りにして面取りする。米の研ぎ汁で大根を下茹でする。手羽元を深めの鍋で表面を焼き、焼き目が付いたら水、粉末だし、酒、味醂、砂糖、生姜、醤油で味を付け、下茹でした大根を入れる。ゆで玉子も投入しゆっくりじっくりコトコト煮る。2時間経ったものがこちらです。「完成」

 

さらにもう一品。下処理した鯖を酒、味醂、薄口醤油を合わせたタレに30分漬け込む。魚焼き器で焼いていく。途中で何度か皮にタレを塗る。中まで火が通り皮に焼き目が付いたら最後にゴマを振りかけ一炙りして…「完成」

 

「さっひとりちゃん、ご飯にしようか」

 

「あっはい」

 

本日の晩御飯

炊きたてご飯(ヒノヒカリ)

手羽元と大根と玉子の煮物

鯖の味醂焼き

もずく酢

お味噌汁(なす、油揚げ、葱)

 

「では手を合わせてください」

 

「あっはい」

 

「「いただきます」」

 

とは言ったものの、ひとりちゃんは心ここにあらずといった様子。料理を口に運ぶ動作はするが、いつものような愛らしいリアクションはない。静かなご飯の時間が続く。この静けさ…ひとりちゃんがここに来たばかりの頃を思い出すな。あの時のひとりちゃんはまだ親しくない人との沈黙の時間が苦手なのか、やたらソワソワしながら食べてたっけ…。味の感想を聞いたら応えてくれたけど。でも今の

ひとりちゃんは、どちらかと言えば落ち着いた雰囲気を

醸し出している。何か深く考え込んでいるみたい。私は

我慢できずに聞いてしまった。

 

「明日のオーディション、緊張してる?」

 

「あっ…すっすいませんなっ何でしたか?」

 

ふむ、別のことに集中してて聞こえなかったみたい。

 

「いや、随分真剣な顔してたからどうしたのかなって」

 

「あっそれは…」

 

ひとりちゃんは少し躊躇った後、拙いながら話してくれた

 

「きっ今日、練習の後帰りに虹夏ちゃんに呼び止められて…いっ色々話しまして…にっ虹夏ちゃんの夢とか、わっ私がバンドしてる理由とか…」

 

「うん」

 

「虹夏ちゃんはほっ本当の夢があるって言ってました。まだ秘密で教えてもらえなかったけど、にっ虹夏ちゃんの中ではちゃんとした目標があって、そっそれがバンドをやってる理由で…でもわっ私の理由を聞かれた時にすっ直ぐに答えられなくて…」

 

「うんうん」

 

「さっ最初はバッバンド組んで人気になって自分がちやほやされたいっていう低俗な理由だったんですけど、いや今でもちやほやされたいって部分はかっ変わらないんですけど…すっ少し変わってきてるっていうか…うーん…」

 

「うん、つまり今はその変わってきてるっていう新たな思いが自分の中でまだまとまってないんだね」

 

「あっはい、そっそんな感じです…うっうまく言えなくてすいません」

 

「いいんだよ。たくさん考えて、たくさん悩んで、ひとりちゃんなりの答えを見つけていくといいんじゃないかな」

 

「私なりの…はい。みっ見つけてみます」

 

さっきまでとはうって変わって憑き物が落ちたような顔をしている。何か吹っ切れたみたいだね。

 

「あっご飯いただきます。はむ…ん…あっ鶏肉ホロホロで柔らかいですね。美味しいです」

 

「そう?じっくり煮たから軟骨まで食べられるよ」

 

「あっふぁい、コリコリでおいひいでふ」

 

そうそうこれこれ。その表情豊かに口いっぱいにしてモグモグする姿こそひとりちゃんの魅力だね。かわいい。

 

「たっ食べたらなんだか元気出てきました。考え…まとまりそうです」

 

「そうかい?それは何よりだね」

 

 

ごちそうさまでした

 

 

「おっ叔父さん」

 

「ん?なんだい?」

 

「おっ叔父さんが料理をする理由って何ですか?」

 

私が料理をする理由…か。

「うーん、叔父さん社会に貢献できることが料理くらいしかなかったんだよね。生きるためにはお金を稼がないといけない。私が人様からお金をいただける技術が料理しかない。だったらその料理を一生懸命やろうって思ったんだ」

 

「わっわわわ私が社会に出ても…何も…何も…」

 

「フフッ、大丈夫だよ。働こうという意志がある以上は何かしらのお仕事はあるから。でもひとりちゃんはなんだかんだで(私を含めて)誰かに養ってもらえそうだけどね」

 

「えっ」

 

「まあ後はそうだな…ひとりちゃんと一緒かな。叔父さんもちやほやされたいんだよ。自分の作った料理を美味しいって言ってもらいたいし、たくさん食べて欲しいんだ。

仕事でも家でもね」

 

「おっ叔父さんも…承認欲求が?」

 

「そうそう、職場で誉められることはあんまりなかったんだけど、最近ではひとりちゃんや喜多さんや山田さんが

その欲求を満たしてくれるから、叔父さん毎日がすごく

楽しいんだ。だから叔父さんが料理をする理由は"生きるため"と"誉められるため"だね。叔父さんも低俗だね」

 

仲間だね。と続けたらひとりちゃんは安心した様子で

「そっか…そうなんだ」と呟いた。納得したようだね。

明日はいよいよオーディションだ。どんな結果になったとしても叔父さんは変わらずご飯を作って待ってるからね。

 




次回 ノルマ5枚の姪と◯◯
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