ロックな姪と食べさせたい叔父さん   作:氷英

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御覧になっていただきありがとうございます。

叔父さんは今日も今日とてご飯を作る。
(健全な意味で)愛しき姪のために。


話しかけられたい姪と鰤の照り焼き

ひとりちゃんとの平日限定の同居生活も1ヶ月が過ぎた。最初はひとりちゃんの辿々しい挨拶や目を合わせてくれないこと等に心配が募っていたが、最近では挨拶の時0.3秒くらいは目が合うようになった。たった1ヶ月でこの成長は素晴らしい。この調子でどんどんコミュニケーションが取れるようになったら嬉しい。

 

学校から帰ったひとりちゃんは、防音室に籠りギターを弾いている。聞いたところギターヒーローという名前でオーチューブに動画を投稿していて、かなりの再生数らしい。ひとりちゃんが防音室を使いたい理由がよくわかった。今日も動画作成に精を出しているようだ。

 

 

と思っていたら。突然ゴンゴンと何かを打ち付けるような音が響いた。防音室越しなので五月蝿いという程ではないが、ひとりちゃんが普段出さないような音なので少し心配だ…一応声をかけておこう。

 

「ひとりちゃん?大丈夫かい?なんか鈍い音がしたけど」

 

ドア越しにノックをして尋ねると

「あっだだ大丈夫ですちっちょっとフラッシュバックが」

と返事が返ってきた。…フラッシュバック?ふむ…何か思い出したくないことを思い出しちゃったかな?

 

「何か困ってることとか不便に感じることがあったら遠慮なく言ってくれていいからね?」

 

「あっはい」

 

誰しも思い出したくない黒歴史はあるよね。私もある…。

いやいや思い出すな私やめろやめろその回想は私に効く。

そんな時は美味しいご飯を作って食べさせるに限る。

今日の晩御飯は鰤が手に入ったから照り焼きにするかな。

 

鰤の切り身を軽く水で洗い、水気を拭き取った鰤に薄く塩をふってキッチンペーパーでくるんで15分。余分な水分が出て旨味が凝縮した身を酒、味醂、砂糖、生姜、醤油を合わせた照り焼き用の漬けダレに1時間浸す…。

 

 

 

「あっあの、叔父さん…」

 

おや珍しい、ひとりちゃんから話しかけてくれるなん…

 

え?

 

そこにいたのは、いつものピンクジャージ…の前が開いていて、厳ついデザインのTシャツを露にしたひとりちゃんだった。ギターを背負い、両腕にはいくつものバンドが巻かれていて、肩からさげたバッグには所狭しと多種多様なロゴの缶バッジが付けられていた…。何事!?

 

「エヘヘ…どっどうでしょうか?」

 

どうとは?

 

「バッバンド女子っぽく見えますか?」

 

どうしよう。私は『バンド女子』とやらの正解を知らない…あっ目が合った。すごい期待のこもった眼差しをしている。これは考えて返答をしないといけないやつだね。

 

「うっうーん、叔父さん今時の子達のオシャレってよくわからないけど、個人的にはカッコよく見えるかな」

 

「あっでっですよね。へへへ…」

 

この返答で正解だったのだろうか…。まあご機嫌なようだしヨシとしよう。しかし初めて食事の時以外で会話的なことが出来た気がする。それだけ心を開いてくれたということだろう。嬉しい。

 

 

「もうすぐご飯できるからね」

 

「あっはい」

 

漬け込んだ鰤の身に薄く片栗粉をまぶす。油を引きフライパンで焼く。焦げやすいので細心の注意を払って…ひっくり返したら水を投入、蓋をして蒸し焼きにする。水分がとんだら蓋を取り、残しておいた付けダレを入れて火を通しながら絡めていく…。「完成」

 

本日の晩御飯

 

炊きたてご飯(あきたこまち)

叔父さん特製鰤の照り焼き はじかみ

射込み豆腐の煮物

菜の花からし和え

お味噌汁(あさり、わかめ、油揚げ)

 

「では、手を合わせてください」

 

「あっはい」

 

「「いただきます」」

 

早速私特製鰤照りを一口食べて「んう~♪」っと声を発する。最近は正直この声を聴くために料理していると言っても過言ではない。私にとって至福の時間である。

かわいい。

 

「あっこの照り焼き…すごく味が染みてます。美味しいです」

 

「ありがとう、薄く衣が付いてるから照り焼きのタレがよく絡むでしょ?」

 

「あっはい、ご飯が進みます」

 

「たくさん食べてね」

 

味の感想の時はそこそこ流暢に話してくれる。照り焼きのタレが口元に付いたままなのも微笑ましい。おかわりのご飯を渡し、残りの鰤照りと共に掻き込む姿を静観する…。ふいに焚き火の動画を延々と眺めてられる人の話を思い出した。私はもぐもぐするひとりちゃんなら無限に見てられるなぁ…。至高の映像だ…。

 

 

ごちそうさまでした

 

 

「あっあの、叔父さん…」

 

「ん、なに?ひとりちゃん」

 

「あっ明日さっきの格好で登校しようと思うんですけど…」

 

ん?

 

「あっあれなら誰かに話しかけてもらえますよね?」

 

んん?これもまた返答が難しい。

「…うん、クラス中ざわっとなってビックリするかもね」

 

「でっですよね!…よし」

 

何かを決意したようだ。そういえばいつも学校終わったらまっすぐ帰ってきてるみたいだし、友達と遊んだりして帰りが遅くなったり晩御飯いらないって日もなかったからお友達を作るために頑張ろうとしてるのかも。すごいね。自分で現在の状況を打破しようと努力するのは良いことだ。ただ、その重装備って嵩張らないのかな?あとひとりちゃんの場合胸元は閉めておかないと男子は別の所に注目してしまうかもしれない…いや考えすぎか。最近の若者ならこれくらい普通か。それにこのことを指摘したらせっかくの決意を無駄にしそうだし、あまり踏み込んだ発言はセクハラになりかねない…。この歳で社会的な死はキツいなぁ…。よし、ひとりちゃんの自主性を尊重しよう。

 

「よくわからないけど、うまくいくといいね」

 

「あっはい。えへへへ…」

 

顔も名も知らぬひとりちゃんのクラスメイトよ…後生なので、どうかひとりちゃんに話しかけてやって下さい。

 




次回 バンドを組んだ姪と◯◯
(◯◯にはその日の献立が入ります)


↓補足という名の蛇足
原作の後藤家でのエピソードの幾つかは叔父さんの家で発生しますが、その後ひとりちゃんに起こるイベントは全て原作通りです。本作で描くのは、あくまで原作の話を終えて帰って来たひとりちゃんと晩御飯を食べる所です。過度な期待は以下略。
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