ロックな姪と食べさせたい叔父さん   作:氷英

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今回はあの14歳さんが登場。叔父さんと絡ませたら無駄に長めになってしまったよ。


バレた姪と“ガチ”唐揚げ

均等な厚さで大きめに切った鳥モモ肉に醤油、おろしにんにく、おろししょうが、塩コショウ、ケチャップを入れてよく揉み込んで冷蔵庫へ入れておく。

「これで仕込みはできた。よし、そろそろ支度して行こうかな」

 

晩御飯の準備を早めに済ませて家を出る。今日はひとりちゃんがギターを新調して初めてのライブの日。私ももちろん有給を取って馳せサンズる所存。STARRYに着き、受付を済ませて中へ入る。初めは入るのに少し緊張したけど、中にひとりちゃん達が居るのがわかってると自然と足取りも軽い。物販も新商品あるといいな。

 

「ひとりちゃん来たよー」

 

「あっ叔父さん…」

 

「あれ?長袖パーカーになってる。かわいいね。物販でもあるのかな?」

 

「あっありがとうございます。おっ叔父さんの分なら虹夏ちゃんから貰ってて…あっそんなことよりも」

「あー!あなたは!!パイタッチオジサン!!」

 

「え?」

突然ものすごく失礼な呼ばれ方をされたね。声のする方を向いてみると、STARRYでは見ないような出で立ちの小柄な女の子がこっちを指差していた。その子は私と目が合ったかと思うとズンズンとこちらに詰めよって来た。

 

「そうですよね?ダイブした呉さんの下敷きになったオジサン!呉さんと一緒に話題になった人ですよね!?」

 

「えっ…と、どちら様でしたっけ?あとあまり大声でそういうことは」

すごくグイグイ来る子だね。あっひとりちゃんが無無無の状態になってる。知らない人種に心を閉ざしてるね。

 

「申し遅れました~ばんらぼってバンド批評サイトで記事書いてるぽいずん♡やみです~。あっ14歳で~す☆」

 

あっどうしよう。あんまり関わりたくないタイプだ。

 

「あ!目を離した隙にまた!ぽいずんさん、話はライブの後って言ったじゃないですか!おじさん、相手にしなくていいですからね!ぼっちちゃんももう行くよ!」

 

「あっはい」

 

「あ~ん残念…」

 

「あー、ぽいずんさん?そういうわけなので私もライブを見ていたいので失礼します」

 

虹夏さんの助け船でこの中学生から距離を取ることができた。ありがとう虹夏さん。

 

 

 

「今日のライブよかったです~」

 

「あっありがとうございます…」

 

ライブが終わり、ひとりちゃん達がお客さんを見送るタイミングがきた。最初期からひとりちゃんのファンである1号さんと2号さんなんかは、ひとりちゃんに今日のライブの感想を言っていて和やかな雰囲気だ。ちなみに私は2人から3号さんと呼ばれていた。初耳だね。

 

「あのっ!!」

 

そのやり取りに割って入るように声を上げてきたのは先程のぽいずんさん。最初に見た時とは違い、とても真剣な顔でひとりちゃんを見つめている。

 

「その…まさかとは思ったんですけど…あなたギターヒーローさんですよね!?」

 

「えっ…」

 

その場にいた全員がぽいずんさんの方を見た。ギターヒーローとはオーチューブでのひとりちゃんのことで、それを知ってるのは兄さん一家と私。それと虹夏さんくらいなんだけど…。この人は今日のひとりちゃんの演奏で気づいたってこと?だとすればかなりすごいことだ。

 

「このギターヒーローさんはね、超凄腕ギタリストで学校中の人気者で友達も1000人越えてて彼氏はバスケ部のエースの超リア充女子なのよ!」

 

ぽいずんさんは私達に向かって得意気にギターヒーローの説明を語り出した。隣のひとりちゃんは白目をむいてるね。多分友達1000人辺りからは嘘なんだろうな。

 

「人違いじゃないですか?」

 

「そうだよ!その人とこのド陰キャ少女が同一人物に見えますか!?」

 

「うぐぁっ…!」グサッ

 

虹夏さん容赦ないね。

 

「カリスマは一般人とは違うんですよ!」

 

「あっあの、あっいや…」

 

ひとりちゃん、まだ皆に知られたくないんだね。虹夏さんも庇おうとしてるし私も何とか力に

「あっいやぁ…ちっ違いますよぉえへへへぇ…」

あっこれ隠す気がないね。

 

「ほら~やっぱりこの子ですよ~!」

 

「ちょっとぼっちちゃん!何答え合わせしてんの!?」

 

結局ひとりちゃんの失態(?)によりギターヒーローのことがバレてしまった。しかし喜多さんもリョウさんも思ってたより淡白なリアクションで、私が危惧していた事態にはならなそうで安心した。

 

「なんで!?もっと驚いてよ!」

 

「いえこの大量の虚言にはビックリしてますけど…」

 

「ぼっち様、動画のお金の管理は私めにお任せを」

 

うん、リョウさんはいつも通りだ。

 

「え~!ひとりちゃんってこんなに凄い子だったの!?」

 

「再生数すご!3号さんは知ってた?」

 

「えっ?あ~…初めて知りました。これは凄いですね」

 

側にいたファン1号2号さん(と私)は想定していた反応だったみたいで、ぽいずんさんはまた饒舌になる。

 

「喜びなさい!あんた達はギターヒーローさんの選ばれし古参ファンだからこれからデカイ面出来るわよ!」

 

どうしよう、全然嬉しくない。

 

「ウチの編集長にかけあって業界の人に紹介してもらえるように言っときますよ!」

 

ん?それってプロとしてデビューできるかもってこと?

 

「ひとりちゃん達すごーい!」

 

「一気に結束バンドが遠い存在に思えてきたよー」

 

「あっそっそんなうへへへ」

 

「もうひとりちゃん顔たるんでるわよ!うふふ」

 

「そういう喜多ちゃんもね!えへへ」

 

「虹夏もね…ふっ」

 

突然デビューの可能性が見えて皆気が緩みきってるなぁ。まあ無理もないか。業界に顔のきく人からこんなこと言われれば誰でも夢見ちゃうよね。私も結束バンドに人気が出て有名になるのは自分のことのように嬉しいし。

 

しかしそんな浮かれた雰囲気は、次に発したぽいずんさんの言葉で見事に打ち砕かれた。

 

「結束バンド?何の話?あたしが言ってるのはギターヒーローさんだけ。結束バンドは高校生にしたらレベル高い方だと思うけどぉ…よく居る下北のバンドって感じだしぃ」

 

さっきまでギターヒーローをべた褒めしてたぽいずんさんは、今度は結束バンドについて辛辣な意見をつらつらと並べ立ててきた。

 

「…っていうか“ガチ”じゃないですよね?」

 

ぽいずんさんのその一言で結束バンド全員が凍りついた。

私や1号さん2号さんも同じく動けない。

 

「客も常連だけ、宣伝もそんなにやってない、どう見ても本気でプロを目指してるバンドに見えないんだもん。あっギターヒーローさんは別ですよ!いや~『ダイブ女子とパイタッチオジサン』なんてゴミ記事取材になると思ったら予想外の収穫ですっ!今度単独記事書かせてください!」

 

ぽいずんさん1人で盛り上がり、空気は最悪だ。好き勝手言っているようだけど“ガチ”じゃないという発言が皆に刺さったのだろう。皆黙ってしまって誰も言い返せない。

 

 

「おい」

 

この場の空気を変えてくれたのは、何故かガスマスクを身に付けて現れた星歌さんだった。ぽいずんさんの親御さんに連絡すると強迫(説得)したら「こんなところでうだうだやってるとあなたの才能腐っちゃいますよ…なんてね!ごめんなさい!あばよ☆」と捨て台詞を吐いて逃げ出していった。星歌さんはすごいな…さすがはライブハウスの店長さんだ。私は何も出来なかったのに…。

 

「お前らあんな奴の言葉あまり真に受けるなよ?今日はもう全員上がっていいから」

 

星歌さんはぶっきらぼうな言い方だけど、結束バンド皆を気遣った言葉をかけてくれた。しかし気にするなと言われても難しい話だ…。結束バンドがお遊びのバンドだとは思わないけど、“ガチ”じゃないと言われて何も言い返せなかったのは、心のどこかに納得してしまう部分があったのかもしれない…。折角良いライブができたのにこんな空気で終わるのは嫌だな…。何かこの子達に私ができることはないだろうか?いや、考えるまでもない。私ができること、それは…

 

「皆ライブお疲れ様。この後よかったら家に来なさい」

 

「えっおっ叔父さん?」

 

「叔父様?」

 

「…おじさん」

 

「…」

 

「皆でご飯を食べよう」

 

 

 

 

 

夜、結束バンドと一緒に帰宅。勢いで強引に連れてきてしまった。これ、犯罪にならんよね?

 

「皆来てくれてありがとう。凄いの作るからたくさん食べていってね」

 

「あっうんありがとうおじさん…」

 

冷蔵庫で漬け込んでおいた鶏肉を取り出し、片栗粉をまぶす。深めのフライパンに油を注ぎ170℃まで温めて鶏肉を揚げる。一度鶏肉をフライパンから出して1分置く。油の温度を190℃に上げてもう一度鶏肉を揚げる。こんがりと揚げ色がついてカリッとしてきたら鶏肉を取り出して「完成」

 

本日の晩御飯

炊きたてご飯(一番星)

叔父さん特製“ガチ”唐揚げ

紫玉ねぎと小エビのカクテルサラダ

ブロッコリーとツナの塩昆布炒め

麻婆風ピリ辛春雨スープ

 

「今日のこの唐揚げは、叔父さんが作れる料理の中で一番美味しい自信がある得意料理です。言わば“ガチ”の唐揚げです。まあ料理すること自体いつもガチなんだけどね」

 

「こっこれが叔父さんの」

 

「ガチ…ですか」

 

「…ゴクッ」

 

「皆思うところはあるかもしれないけど、先ずはご飯を食べましょう。では手を合わせてください」

 

「「「「「いただきます」」」」」

 

4人は全員同時に唐揚げを頬張った。カリッ!ザクッ!

と小気味良い音が四方から鳴り響く。

 

「うっ…まっ!!」

 

「なにこれ美味しい…!!」

 

「あむっあつつっ…はむっ!何個でもいける!」

 

「かっ噛む程にカリサクジュワッ…てきて、おっおいしいです!」

 

どうやら4人の口に合ったようだ。

「よっよかったぁ…心底ホッとしたよ」

 

「えっそんなに?」

 

「皆を強引に誘った手前、しかも唐揚げっていう特別感の薄いメニューを出してガッカリしないかなって少し不安だったんだ」

 

「そっそんなことないです。こんなスゴい唐揚げはっ初めて食べました」

 

「おじさんが“ガチ”って言うだけはあるよね。正直感動したよ。普段のおじさんの料理も美味しいけど、これは群を抜いてるね!」

 

「ですね。プロってこういうことなんだなって実感しました。さすが叔父様です♪」

 

「うむっ…はむっ、ご飯にも合う!おかわり」

 

完全にではないけど、皆少し元気になったみたいだね。

私がしてあげられること、できたかな。いや…

 

「…私から1つ皆に言っておきたいことがあるんだ」

 

「えっ?おっ叔父さん?」

 

「急だねオジサン」

 

「…私は聞きたいです叔父様の話」

 

「…あたしも聞きたいな。おじさん、話って何?」

 

「ありがとう…皆今日のぽいずんさんの言葉がずっと引っ掛かってるよね?」

 

「あっ…それは…」

 

「まあ…ね…」

 

「お遊びでやってるつもりはなかったんですけどね」

 

「…」

 

「星歌さんとは逆のこと言っちゃうけど、ぽいずんさんが言った言葉はしっかり噛み締めていいと思うよ。もちろん良い意味でね」

 

「いっ良い意味で?」

 

「うん、好きなことにガチで取り組むのって相応の覚悟と勇気が要るけど、ガチでやってるからこそ見える景色もあると思うんだ」

 

「ガッガチだからこそ…」

 

「見える景色ですか?」

 

「うん、だから結束バンドがこれからどんな“ガチ”なバンド活動してくれるのか、そこから皆がどんな景色を見るのか叔父さんは凄く楽しみです。なんて言ったって私はファン3号だからね」

 

「おじさん…」

 

「叔父様…」

 

「おっ叔父さん…」

 

「オジサン…おかわり。あと台詞クサイね」

 

「あはは…だね。ちょっとクサかったね」

 

「おいリョウ、台無しだよ!」

 

 

ごちそうさまでした

 

 

「皆今日は来てくれてありがとう。あと改めてだけど

ライブお疲れ様」

 

「おじさんあたし頑張る!“ガチ”で結束バンド頑張るから!」

 

「叔父様!次のライブも応援よろしくお願いしますね!」

 

「オジサン、あの唐揚げ次の打ち上げでもヨロシク」

 

皆が帰り、ひとりちゃんと2人になった。ひとりちゃんはしきりに何か言いたそうにチラチラこちらを見ている。

かわいい。って違う違う

「ひとりちゃんもお疲れ様」

 

「叔父さん、わっ私“ガチ”になります。すっすぐにできるかわからないけど、みっ見ててください」

 

「うん、頑張ってね。応援してるよ」




次回 グランプリを狙う姪と◯◯

さあ未確認ライオットに入るぞぉ。でもメインは相変わらず晩御飯だぞぉ。
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