実際の注射のシーンはかなりあとですが、ライセンス更新の際、検疫もしてると考え、血液検査もしてると予想しました。
side 流星
「あの人の作ってくれるかりんとう、美味しいです」
「その人、元宮内庁の料理長だったらしいよ!」
東京から出てとある県の山に向かう電車に乗っている中、横のボックスシートに座っている千束とたきなが飴玉から始まった話に花を咲かせている。
寮の人が元宮内庁の料理人……絶対金がかかってるな。だが、味は保証されてる。
「オタコンなら、その料理人を雇いたいか?」
こっちはこっちで俺とオタコンはずっとPCをいじって会社の業務をしているだけなので、こっちもなにか話したいと、話を振る。
「僕なら……雇うというよりかはその人の店の方がいいかな?」
「……その心は?」
「だいたい同じお金を払うくらいなら、自分の今食べたいものを食べれるからね」
「なるほどな……」
(『そういえば、どのような理由でカズヒラ氏を連れてきたんだ?』)
それは今からたきなが聞くからそれが答えだ。
「カズヒラさんは、なんで本部に行くのですか?」
「僕かい? 僕は楠木司令から、ラジアータを見てほしいって言われてね」
(『また未来をみて……』)
たまにこっちも回してないといざという時困るだろ?
「ラジアータを……?」
「この前の通信障害の件だ。なんかまだ不具合あるかもしれんからな」
追加で説明を入れると微妙な表情になるたきな。前の事を思い出したな。
つーか、だいたいなんでピンポイントでハッキングされたんだ……? その後にラジアータがないと困る事態には、偶然的にしか起こってない。何がしたかった……いや、
「それならこの前来ていた、篠ノ之博士はどうなの?」
考えこんでいるとたきなに向かいあって座っている白のボブカットがトンデモ発言をする。
あのなぁ千束……
「確かに束はそっちにも強い。だが、束はここにいるだけで、大騒ぎになるだろ? 俺でさえギリギリなんだから察せ……」
本部に向かっているとはいえ、途中までは一般の市民も使う路線を乗っている。こんなところで表世界の大物がいたら、いろいろ勘づかれる。
俺はマスクをしているので、なんとか横を通る人が「男性操縦者にそっくりな子……?」と思われてるくらいだ。
「今更だが、大丈夫かオタコン?」
「女性しかいない場所だけど、僕は大丈夫だよ。スネ……流星も毎日女子高に行ってるしね」
「言い方考えてくれ……」
「オタコン?」
たきなが首を傾げる。……そういや知らないんだったな。
「ミラーのあだ名。日本のロボットアニメ好きだからな」
────―
「こんにちは、尾白流星さん、カズヒラ・ミラーさん。本日はDA本部にお越しいただき、ありがとうございます。私は楠木といいます。今日一日、よろしくおねがいします」
国有地と書かれた立札が立つ柵を通過し、エントランスに着いた。車を降りると、白衣を着た女性がこちらに挨拶をする。彼女が司令ね……頭が切れそうだ。
「うわっ、楠木さんのそれ初めて見た……」
仮にも上司に対して言うことか千束……?
「こちらこそ、よろしくおねがいします楠木さん。それでは早速、ミラーを現場まで案内してください」
「わかりました。ではカズヒラさん、ついてきてください。尾白さんは予定通り、千束と行動を」
「はい」
そう言ってオタコンは司令の後ろに付き、おれは千束の後ろにつく。そのまま建物に入ろうとするがたきなが待ったをかけた。
「楠木司令、話があります!」
「……後でな」
が、それを払いのける司令。
これ絶対返事ノーのやつじゃん……
エントランスで仲間殺しのリコリスだの左遷されただのとか言ってるベージュや紺の服を着たリコリスを一睨みするだけで蜘蛛の子をちらすようにそそくさと逃げていった。
(『流星、君のそれはいささか強すぎるから、よしたほうがいい……』)
ちょっと殺意こめただけだぞ……?
────―
「いいか? 息を吹いて、筋肉を緩めろ。そんなに固まってたらもっと痛くなる」
「そう言われてもぉ……」
医療棟という場所で採血検査の準備が進んでいる。診療室のような場所で、俺は注射する子を見守る親のような位置にいて、医者に出してない方の手はずっとこちらの手を握っている。
「いつもこんな感じなんですか?」
「えぇ……まぁいつもこんな感じですね。……それじゃあ始めます」
そう言ってめくられた腕の上部にバンドを巻き、遂にその白い腕に銀の管が刺さる。
「いっ!?」
刺さる瞬間、彼女の体が一瞬震え、こちらの手を握る力が強くなる。
「……はい、終わりです。お疲れ様でした」
直径1cmにも満たないような細い管に、血液がたまり千束にとっての地獄が終わった。
んで……
「さっさと手離してくれ。爪刺さって地味に痛いんだが……」
「だだだっ、大丈夫!?」
千束が手を離した後に自分の手を見ると、5つの爪の跡がくっきりと残っていた。
「抉れてないからすぐ治ると思う」
「……ごめん」
「問題ないさ……さ、次行くぞ」
次に千束は着替えて身体能力の検査を受ける準備をしてる。俺も身軽な服にトイレで着替えた。
「それじゃあ始めよっか!」
さっきまであんなプルプルしてたやつがなにおぅ……
訓練棟ではリコリスの身体能力の測定をし、十分な能力があるか調べる場所としても使うらしい。
ここでは、同年代の春川フキという別のファーストリコリスも更新のために検査をしていた。
俺もお試しということで3人で検査を始める……春川さんの身体能力や反応速度は、ここにいるリコリスの上の中といったところか。んで千束の方フキよりも成績が上でこの反応速度は……
「目が良いのか?」
「御名答! ……と言いたいところだけど、流星の成績を見たらね……」
「あなたは……本当に同じ人間か?」
「それはひどいなぁ……」
ランニングマシンを平均20Km/hで走破し、垂直跳びで3Mを超えて計測不能、反射神経を測る機械もほぼノータイムでタッチしただけじゃないか……千束のスコアちょっとより良いくらいだぞ?
(『ちょっと……? その時、目をそらしても打ってたじゃないか……普通光は肌で感じるものではない』)
その後、射撃場に向かうと、春川さんの部下というセカンドがやって来て、千束と口論になりどういうわけか模擬戦することになった。それを静観していたが、去り際に話しかける。
「春川さん。もうすこし、言葉を選んでやってくれ。確かにたきなの性格は
「……それはそうなんですけど、あいつの顔見てるとなんかいらつくんです」
「そうか? 俺は仲のいい同僚にしか見えなかったんだが……ああやってわざと怒らすような言い方したのも、たきなに未練を残さないためだったりするんだろ?」
そう話すとやはり図星だったのか、驚いた表情になる。
「まじっすか先輩、なんであいつを!?」
「サクラは一旦黙ってろ!」
そう言ってセカンドリコリスの頭上にげんこつが落とされた。
俺はその後司令と面談し先のラジアータについて話した。やはり何者かにハッキングされたようだが、後遺症は残ってないとのこと。次にたきなの処遇について意見したが、やはりここでもだめだった。まぁ、彼女はリコリコの店員として頑張ってもらうとしよう……
その後、2人を探すため歩いていると噴水広場の方が騒がしいことに気付く。リコリス達が何やら見ている……その場に近づいてみてみると、千束が井ノ上さんを抱えて「嬉しい、嬉しい!」と言いながらくるくる回っている。
「私はいつも、やりたいこと最・優・先~! まぁ、それで失敗することもあるんだけどぉ。今は! たきなにひどいこと言ったあいつらを、ぶぅちのめしたいちょっと行ってきますよー!」
そう言ってキルハウスブーズという模擬戦場に千束が向かい、たきなが一人残される。
千束がこちらを一瞬見た。俺からもなんか言ってほしいのか……?
たきなの横に腰掛けて話を切り出す。
「まだ暗い顔してるな」
「……流星さん。私は、これまで合理的に行動してきました……それがいけなかったのでしょうか」
それで悩んでるのか……第一、
「全然合理的じゃない行動が、多く見られてきたがな」
「……どういうことですか?」
まるで自分のことを否定されたかのような物言いにこちらをきっと睨む。
「確かに命令を聞くのは誰でもできる、幼稚園の子でもな。命令はたいてい合理的だ……だが、この前のあれは命令を無視してスタンドプレーしたな?」
「それは……はい」
「それがいい!」
たきなが突然の大声に目を丸くする。周囲でもこちらを見ていたリコリスもビクッと肩が上がる。
「その行動は合理的ではなかった。自分で考えて、動いたのだからな。これは簡単にできることじゃあない。
いい証拠に、それによって結果仲間のリコリスを救うことができたろ?」
「でもその結果、武器商人を殺害し、左遷されました」
「……それがどうした? 人生、完全な正解の選択肢なんてないぞ?」
「正解は、一つもないんですか……?」
つらそうな顔をして聞き返してくる。だが、それを否と答える。
「違う違う、後で正解にしたらいいんだ、今みたいにマイナスでも次への糧にしたり教訓にして、次自分で選択するときに前回のぶんをとりかえせばいい。
人生なんてもんは失敗して当然だ。失敗しないやつに限ってまともなやつはいないし、まともな人生を送ることはできない」
「その正解にする過程で失敗してしまったら?」
「失敗しても仲間がいるだろ? 千束にミカさん、ミズキさんにクルミ……俺も入れると今挙げただけで5人もいるじゃないか。一緒に悩んで、悩んで、悩みまくって、いい方向にもっていこうじゃないか。合理的なんて考えはもうやめだ」
「そうですね……!」
彼女の目に光が灯る。……モヤが全部取れるまで、もうひと押しだな。
「……いま千束がさっきのリコリスと模擬戦をしている。自分で考えて動けるが……どうする?」
たきなは立ち上がる。
「わかりました、ありがとうございます流星さん! 私、いってきます!」
「当たって砕けてこい!」
どこに行くのかと聞くのは野暮だな。
「……気をつけてな」
俺はそんな彼女を見送り、模擬戦の行く末を見届けるためキルハウスブースの様子を見に行く。
模擬戦は既に始まっており、千束が相手のセカンドリコリスを死亡判定にしたところだった。
春川さんが乱入してきたたきなに強烈な一撃を浴びせられ、そのままたきなが拾った銃から放たれたペイント弾は頭部に命中し、そのまま各急所がペイント弾の色で汚れる。
明らかな死亡判定だ。
「わあっ……!」
見下ろすガラスの横で声を上げたのはセカンドリコリス……
「ん……春先でビルにいた君か……」
「……あっ! あの時は、本当にありがとうございました!」
名を蛇の目エリカというらしい。そのままあのビルの状況の話になる。
「……本音を言うと、あの時俺が助けなくても君は助かってたな」
「本当ですか!?」
「彼女の機銃掃射、全部犯人の上部を狙ってた。その上、君に銃を当てていたやつは頭に集中して弾が吸い込まれていたな。あれ程なら、ファーストになって本部に帰り咲きもおかしくないと思うが……」
「なら……!」
「けど、命令違反と捕獲対象の殺害のダブルパンチで本部戻りは厳しいだろうな。だが、これから彼女はそんなことは気にしなくなる」
「というと……?」
「もっと強くなって逆スカウトされるくらいの大物になるだろう。彼女は強い」
「そうなんですね……それが聞けてよかったです! このあとはどうするんですか?」
確かにこれで千束のやることはないからかえる……前に、
「すこし、面白いことをする」
この時、蛇の目さんからとてもワルな顔をしていたと聞いた。
────―
side no one
「エキシビションマッチィ?」
千束の問に楠木指令は是と答える。
「そうだ。DA本部にいるファーストとセカンドでも優秀なリコリス対尾白氏で、模擬戦をしてもらう。インカムによる連携やその他の実践の武器も使ってもいいとのことだ」
「……え? 聞き間違いじゃなければ、ただのリンチっすよね?」
サクラの質問に誰もが否定をしない。
「リコリスの全力を見たいとのことだ。くれぐれも、手を抜かないように」
模擬戦が始まり、模擬戦場に20を超えるリコリスが解き放たれる。
リコリス側には最初、余裕の空気が流れていたが……
「ダンボール? ……うっ!?」
ある者はダンボールを素通りしたあとにダンボールの中からの銃弾で死亡判定となり、
「どこから……いたっ!?」
別の者は音もなしに背後から、インクのついた刃のないナイフで首に線を描かれ、死亡判定となった。
次々にどこからともなく倒されていくリコリス。数が半分を切った頃、団体行動に移ったファーストリコリスとセカンドリコリスは現れた流星を囲んで彼の四方八方からペイント弾を発射する。だが、
「なんで当たらないんだよっ、グワッ!?」
「フキ先輩!? ってかべ走ってる!?」
まるで後ろにも目が付いてるかのように8人の銃撃をとっさに身を屈めたり、壁を走ったりしながら避けてリコリスを各個死亡させていく。
たきなの銃の正確さも、千束の銃を避ける能力も彼の完成したCQC……近接格闘術の前には背中を地面に打つしかなかった。
模擬戦終了後ペイント弾まみれになったファーストリコリスが呟く。
「こんなのが、闇鍋にはうじゃうじゃいるのか……」
それは彼含めごく一部の人間? しかいなのだが、それを知る日は来るのだろうか……
電車内で撮られた写真、顔にペイントがまだ残っているリコリス二人と、それぞれ満足したという笑顔と苦笑いしている男性二人の写真が店でボドゲ大会をしている女性店員の携帯に映された。
「……何がどうしてこうなったの?」
これで学年別トーナメント編は終わりです……次回からは福音戦編をお届けします。そこでは一気にこの小説の謎が溶けるでしょう……アレックスとか。
日常回、募集します。
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敵として出るなら……どれ?
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よう、首輪突き。
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世に平穏のあらんことを
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