そろそろ夏休み編終わりそうです。
……現実はもうすぐ冬ですけどね。
side no one
『まだ完治していなかった流星を載せてドイツに来たな、ん?』
「……その節は、流星がどうしてもといったので……」
『もしその時に傷口が開いていたらどうしたんだ?』
「そんなことはない。ISの
『厄災のときには、その絶対防御を切って登場者の左肩を失くしたようだが?』
「…………スミマセン」
尾白流星のスマホを持って、何度もペコペコしているシャアを遠目に見ているその持ち主。
横には、今日のシャアへの講習が終わって寛ぐ千束と、こちらもレジ打ちを終えて、座布団に座ってまかないの団子を食べているたきながいる。
「……シャアさんは誰とはなしてるの?」
「
「……だぃとーりょぉ!?」
「そんなに驚くことですか千束?」
「その国のトップだよ!? 日本で言ったら楠木より偉い総理大臣ってこと!」
「なら、総理大臣に直接言えば私はDA本部に戻れましたね」
「それは言っちゃだめなやつ! 2つの意味で!!」
「……いまは、もう戻る気にはなりませんけどね」
────―
────
──―
──
―
「それじゃあ、明日のブリーフィングを始めようか!」
シャアを帰らしたその夜、千束の声が店内に響き渡る。
流石にまだあいつを危険な目にあわせる訳にはいかないからな。
(『本当に、大丈夫だったのか?』)
大丈夫だよ。それよりも、もうすぐ家に着くんだろ?
一夏をびっくりさせてやりな。
(『……もうすぐ家に着く。それまで、どうサプライズするか考えておくとしよう』)
……随分と、楽しそうな声だことで。
続きを話そうとしている千束に視線を戻す。
「依頼人は72歳男性、日本人。過去に妻子を何者かに殺害され、自分も命を狙われた為に、アメリカで長らく避難していた。現在は……きん……き、き、きん……?」
「……筋萎縮性側索硬化症、難病だ」
言葉に詰まる千束の横から口を出して助言する。
漢字に少し弱くないですかねぇ……
「……ALSのことか」
「クルミも、知ってるんですか?」
たきなが驚いた様に此方を見る。千束やミズキも同様に視線を寄越してきた。
「……指定難病の一つで、筋肉を動かす神経系……つまり、運動ニューロンが障害を受ける病気だ。こいつになったら脳から体を動かすのに必要な信号が伝わらなくなって筋肉が無くなっていく。発症率で言えば大体10万人に1人から2.5人。原因は十分解明されてない……だが、実はバグったタンパク質が細胞に溜まって神経炎症を引き起こす事で……「わ、分かった! 分かんないけど、分かった!」なんだ、まだ最後まで言ってないんだが……」
我に返って顔を上げると、錦木がヘンテコな顔をしている……多分此方の話の半分も理解してないだろう。
……俺も話し過ぎたか?
「……よく覚えてますね」
「なぜそこまでスラスラと言えるんだ……?」
「軍医やったりとか、病原菌だらけの密林に放り込まれたことあるからな……」
座敷でたきなが、二階でクルミがそれぞれふーんと言いながら関心していた。
喫茶リコリコのメンツは、
「しかし……流星さんの言い様だと、自分では動けないのでは?」
「そう! 去年余命宣告を受けた事で最後に故郷の日本、それも東京を見て回りたいって!」
「……観光、ですか」
「泣ける話でしょぉ〜? 要するに、まだ命を狙われている可能性がある為、Bodyguardします!」
「……発音合ってるそれ?」
急になんちゃってネイティブとは……仕事終わりだってのにやたらと元気だな。何故そんなに明るい……もしかしなくても報酬が良いな?
「その何者かってのが襲うかもしれないから、
「that's right クルミ!」
「何故狙われているのですか?」
続けざまにたきなが千束に聞く……が、答えたのは……
「それがサッパリ。大企業の重役で敵が多過ぎるのよぉ〜、その分報酬はタップリだから♡」
たきなの質問にゲスいとしか言いようのない恍惚とした表情を見せるミズキさん。
……やっぱ報酬良いんじゃねえか。ミズキさんのゲスな笑顔見る前から明らかだったわ。
その人も数ある場所からよくリコリコを選んだものだ、とまで考えてふと思った。
こっち系の仕事を知っているのは……いささか出来過ぎなんじゃないのか?
「千束、結構ハードな任務をこなせることを知っているのはなんでなんだ?」
リコリスって機密機関で一般には知られてない。なら、リコリコに依頼する人達ってどういう経路で此処を見付けてくるんだろうか。
「さあ~……? 重役だから、顔が広いんじゃないの?」
その違和感を無視するとしても、そもそも今回の依頼主はアメリカに避難していた。その時だって命を狙われている危険は伴っていたはずで、なら既にボディガードが存在しているはず。態々日本に来て錦木達とそれを差し替える理由が分からない。
それに加え、観光中はこちら側に一任だという。命を狙われている自覚があるなら……大した度胸をお持ちの方のようで、初対面の錦木やたきなに対しての警戒心が無さ過ぎる。
……ボディガードを依頼する人間性と矛盾するのだ。
「日本に来てすぐに狙われるとも思えないけどねー。行く場所はこっちに任せるらしくて、私がバッチリプラン考えるから!」
「…………今から?」
松下さんくるの明日だぞ?
「そう、今から!」
そのことを指摘すると、悪びれもなくどこに行こうかと考え出す千束。
今から彼女が考えたら日が変わるのが目に見えてるので……
「旅のしおりでも作ろうか?」
「それだ! ナイスクルミ、早速取り掛かろう! あー時間が無さ過ぎる! 流星コーヒー作ってよ!」
……俺、店員じゃないんだが。店員あんただろ?
ここの店長であるミカさんの方に向くと、どうぞと言ってキッチンを開けた。
まじで俺が作るのか……?
「……ほんとに徹夜する気か、おい? ……手伝うから、少なくとも5時間は寝ろよ?」
「分かってるって! 早速作業を始めよー!」
その後、作業をしている千束達に淹れたコーヒーを差し出したが……
悪くなかったそうだ。
それよりも……千束、この行き先は……自分の行きたいとこだよな?
────―
「お待ちしておりましたー! ……ぁ」
翌日。お出迎えをした千束の言葉尻が詰まる。
何故ならば……サングラスの黒服に守られながら、ゆっくりと店の中に入ってきた車椅子の客人は、やはりこの空間では一際異彩を放っていたからだった。
千束やたきなが依頼主のその姿を見た瞬間に固まって動けなかった中でも、ミカと俺だけは変わらずの態度で挨拶を交わしていた。
「松下さん、いらっしゃいませ」
「……遠いところ、ようこそきてくれましたね」
『少し早かったですかね。楽しみだったもので……尾白流星くん? き、君も今日依頼を手伝ってくれるのかい?』
「ええ……今日は飛び入りでね」
依頼主……松下というご老人から発せられたのは、やはり千束が先日伝えた通りの合成音声。
……にしては、流暢に話せるな。この世界の技術では脳波を言葉に変換する時は、もうちょっと片言になると思うんだが。
だが、その完全に納得できない感情は松下の状態を見ると、そのことは片隅においてしまう。
自動で動く車椅子に、視力を補助する目的であろう機械的なゴーグル。筋肉は衰え痩せこけており、人工呼吸器特有の空気の排出音が静かな部屋によく響く。無表情に見えるその顔も、筋肉が動かせないが故のもの。
余命宣告を受けているとの事だが……
……して、それとは別にほのかに臭うこの匂いは……?
「……あ、いえ、準備万端ですよ! 旅のしおりも完璧でぇす! 流星!」
千束の呼びかけでこちらに引き戻されて、カウンターに置いているパソコンに向き直す。
「PDFにしたやつ用意する。松下さん、アドレスだけお伺いしても?」
『ありがとうございます、助かります……後はこの方達にお願いするので下がって良いですよ』
俺にお礼を言った後、松下の自動車椅子の向きが黒服へと移動する。彼の言葉を聞くと、素直に黒服は表に停めていた車に乗って早々にそこから離れて行ってしまった。
俺はカウンターに腰掛けて、松下氏の為にPDFをしおりの順に並び替えてセッティングする……千束にそれを覗かれていてなんとなくやりにくいが。
その間、今回の依頼主である松下を中心になんとも言えない空気が漂っていた。特にたきな達は、松下という痛ましい姿をした存在の扱いに困るかの如く、何も言えずにただ彼を見つめる事しかできないでいる。
……すると松下当人もそれを感じたのか、俺と千束へとその車椅子の向きを傾けて呟いた。
『今や機械に生かされているのです。おかしく思うでしょう?』
「そんな事無いですよ。私も同じですから。ここに」
機械に生かされている事を恥じるような松下の発言を、千束は両手を胸元で振って否定する。そして、その胸の前でハートの形を作ってみせた。
……それは自分の胸にも、私を生かしてくれる機械があるのだと暗に伝えていた。
『ペースメーカーですか?』
「いえ、
「……え?」
たきなは思わず声を漏らし、クルミも視線が千束に向いた。彼女の言葉に困惑したその反応は、傍から見れば新顔である三人が何も聞かされていなかったであろう事が伺えた。
俺はミカさんから聞いていたから、特に驚くことはなかったがな。
『人工心臓ですか』
「アンタのは毛でも生えてんだろうね」
「機械に毛は生えねぇっての……!」
当然の如く、10年前からDAにいたミズキも知っている。
やはり驚きを隠せないたきなは、固まった表情のまま千束を見つめていて……
「ど、どういう……」
「流星、まだ送付終わんないのか?」
「……今終わった。松下さん、今送ります」
偶然たきなの言葉に重ねる様にクルミから急かされ、俺は息を吐く。完成したものをそのまま貰ったアドレスへと転送する。
……恐らく松下の身に付けた視力補助のゴーグルに、昨日夜なべして作った千束達の手掛けた旅のしおりが表示されている事だろう。それを閲覧したのか、松下からまた驚きの声があがる。
『おお……! これは素晴らしい』
……喜んで貰えた様で何より。
千束のしおりが無駄にならなくて良かったと、そう心の中で思っていると、いつの間にか千束がすぐ近くにまで寄って来ていた。
「……ありがとねっ流星!」
「……礼はいい」
嬉しそうに、楽しそうに笑う千束。
夜遅くまで準備した割には千束は元気そうだ……松下が此処に来るまでも、彼女は自作のしおりを何度も読み返しては、今日一日の予定を頭の中で楽しく復習していた事だろう。
その顔を見ただけで、提案して、手伝って、喜んで貰えて良かった。
頑張って良かったと、今はだた切に思った。
「では! 東京観光、出発しまーす! 行ってくるね!」
千束が松下の車椅子の取っ手を掴む。このまま運ぶつもりなのだろうが、松下もそれに対して特に何も言ってこない。行先は千束に任せるという話だったし、彼女がそのまま出口へと向かう事に対しても身を委ねていた。
だが……この中で唯一、たきなだけは完全に置き去り状態で立ち尽くしていた。原因は言わずがもがな、千束の人工心臓の話をまだ咀嚼できていないのか……突拍子も無い話である為、当然だろうが……
「あの、千束の今の話って」
「たきな行くよー! ミズキも車ー!」
「っ、あ、はい!」
千束に急かされ、慌てて駆け出すたきな。
ミズキと俺はその後を追う形で後ろを歩く。
千束は景色を見たいからと運転席の横に座っているが、「流星の横座りたかったー!!」と愚痴をこぼしているが今は走行中……もう席を変えることはできない。
つまり……乗り込んだ車の中で隣になったたきながいる。
何も話さないわけではなく……
「千束は、どうして今まで言わなかったんでしょうか……」
「たきな……人は、隠し事の1つや2つはあるもんだ」
「なら、流星さんも……」
「まぁな、逆に多すぎて忘れたものもあるかもしれん」
戦争だらけの空を飛んだ記憶とかは、まだ誰にも話さないでいたり……とかな。
「それ問題では?」
「…………言えてる」
────―
水上バスを乗ったり、浅草寺の雷門の下をくぐったりしていると、時計はもうそろそろ真上で長針と短針が重なろうとしている。
ショッピングモールをあれこれ歩き回っていると、ふいに千束が「今日行くのはここぉ!!」と、ある店を指さした。
ここは……
「@クルーズ……有名なのですか?」
「メイド(&執事)喫茶、その筋では有名らしいよ?」
「は、はあ……」
まさかのメイド喫茶……もうちょっとちゃんとしたとこで食べないか?
『ここは……?』
「いわゆるサブカルってとこですよ!」
ほんとに自分の行きたいとこ選んだだけじゃねえか……
……カラカランッ
「お客様、@クルーズへようこ、そ……」
「……え?」
思わず疑問の音が出る。
店に入ると、執事服姿のスタッフに声を掛けられた……それはいい。メイド喫茶はそういうものだからな。
……だが問題は、そこではない。
「シャル、何やってんだ……?」
「りりりり、流星っ!?」
なぜフランスの代表候補生であり、先日フランスから戻って来たと連絡していた……シャルロット・デュノアが、執事服姿で接客してるのかってことだ。
「……まぁ、その服は似合ってるがな」
「それは嬉しい……んだけど! その付いてきている人達は……?」
「何をしている、次のオーダーが来て……」
「「……」」
……本日2回目の絶句。今回は千束も顔が引きつっている。
千束も、ラウラのことは福音の一件で知ってるからか……
「ラウラ、お前もか……」
ドイツのIS部隊を指揮する現役軍人かつ一夏のお嫁さんが、なぜかフリフリのメイド服で現れたら絶句しないか、いやする。(反語)
「お、お兄ちゃんと錦木氏……み、みみ……!」
「まぁ……これがギャップ萌えってやつ?」
「見るなぁ!? 私をそんな目で見るなぁ!!」
ボーデヴィッヒが顔真っ赤にしてしゃがみ込んじまった。
「……とりあえず、席に案内してくれ」
このまま店先で立ってても邪魔なだけだし……松下さん待たせてるからな?
働いてる以上、仕事はしてくれ。
『尾白くん、あの店員とはなにか面識が?』
「……学校の知り合いです」
────
「お、お待たせしました。オムそばです……」
注文した料理を持ってきたデュノアだが……声が上擦っている。
「……にしても、困ってそうな人に声かけたらそのままバイトに誘われて執事服とはな……」
「デュノアちゃんも、ラウラに負けないくらい似合ってるねぇ〜……」
やめてやれ千束……シャルのライフはもう0だ。
「もう止めてってばぁ! どうぞごゆっくり!」
半泣きになりながらもマニュアル通りのセリフを言って、デュノアが逃げるように去る。
ほらな……死○撃ちはやめてやれ。
……IS学園は、基本バイトは禁止じゃなかったか?
以前織斑先生に、そう言われた記憶がある。
俺は……バイトじゃない。働いてるからな。
……黙っててあげよう、執事服とメイド服のことも含めて。それがせめてもの情けか……
「それよりも……」
ラウラのメイド服の写真をコッソリ撮って、一夏に送っといた。
結果、ものすごい喜んでいた。
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side no one
ところ変わり、尾白家……
「ラウラ……ってぇぇえええ!」
流星から送られたラウラの画像で悶ている一夏。
その画像を見て歩き、タンスの角に小指けて2つの意味で悶絶している。
「名無、敵ミリ! 詰めてくれ!」
「りょーかい! こんのっ! 早く倒れて!」
一夏の状態には目もくれず、流星の部屋からゲームを持ち出し、それを使って実況配信しているマドカと名無。
名無はシンギュラリティをしているAIとはいえ、行動が人そのものになっている。
「木綿季、そろそろ機嫌を……」
「シャアが、ショタじゃなかったなんて……!」
「……カハッ」
この世に絶望したかのように落ち込む木綿季と宥めるロニィ、そして見えてはいけないものが口から出かけているシャア。
ショタじゃないからという理由で傷つくシャアもおかしいが……
こっちはこっちで少しカオスな状態になっていた。
本来は一話で書き切る予定でしたが……想定よりも長くなりました。
感想、高評価をして頂くと、あなたの自宅にTSLをお贈りさせていただきます。
アンケは……今後に関係するのでぜひご回答を。
敵として出るなら……どれ?
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よう、首輪突き。
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世に平穏のあらんことを
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私こそが企業だ!