「……遅いな、流星。ほんとに何があったんだ……」
「っ千束ちゃんたちが……そう、わかった。桐ヶ谷くんにそう伝えとくわね」
「……いまのは、流星からですか?」
「緊急の用事ができたから、明日にしてほしいって……巻紙先生に送った資料を見て、大まかに決めてほしいって言ってたわ」
「……また、なにか抱え込もうとしてるのか?」
「今回は千……別の人の用事みたいだから、そんなことはないと思う……けど」
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side 千束
あれから、私はどうなったんだろう……ここがどこか、わからない。
ここに来た経緯を、私の記憶から辿ってみる……
まず、送りものをするためにたきなと店を出て……緑髪のやつと、つなぎを着たやつらに追いかけられて……
…………たきなが、撃たれて……
……たきな……たきなはどうなったのっ!
「たきなっ!」
「……あ! 束さん、千束の目が覚めたよ!」
飛び起きると、私がいたのは喫茶リコリコ。
そこにいるのは、水の張った桶を持ったロニィちゃんと、『CURE』と書かれた箱を持つ束さんに、テーブルでパソコンを見ているミズキとクルミとオタコンさん。そして入口を見張っているジンさん……と金髪の誰か。
そして……たきなと、ミカの姿が見えない。
「いやー……二人共、随分とやられちゃったね……」
「束さん、たきなは……!」
「まあまあこれでも飲んで落ち着いて……彼女は、店の裏で流星とミカさんが今頑張ってるから……彼らが付いてるし、大丈夫だよ」
「……そう、なんだ。よかった……」
束さんから渡されたコーヒーを一口飲もうとするけど……口の中が切れてて、飲めそうにない……
「貰ったのは嬉しいんですけど、今はちょっと……」
「あー……ごめんね、てっきり口の中は大丈夫だと思ってたよ……ロニィちゃん、これ飲む?」
「貰います……にがっ!?」
ここでたまにブラックを飲んでいるロニィちゃんが、見たことのない渋い顔をしながらそれを飲む。
……飲まなくて正解だったかな。
「あら……炒りすぎちゃったかな? 細胞レベルで天才とか言われてても、やったことのないことは先駆者に聞いてみるしかないね……」
じゃあ……なんでIS作れたんだろう?
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「あの……ジンがここにいるのは百歩譲ってわかるんだけど……」
彼は誰?
指を指した先にいる男性は、俺のことか? と首を傾げたので、首を縦に振る。
「……俺か。俺はただの雇われ……リキッド・スネークだ。兄弟の頼みで、ここの防衛に当たっている」
「そんなカッコつけけなくてもいいよ、イーライ」
「んなっ……まぁいい。とにかく、落ち着いたら勝手に去るから気にするな」
ロニィちゃんのツッコミにダメージを受けながらも、あくまでも自分の役目を通そうしているイーライさん。
「……ほんとに苦いな、これ。どうやって作ったんだ?」
「もう! いーくんまでそんな事言わなくていいじゃないっ!」
お返しと言わんばかりに、束さんをいじっているけど……
「……やっと終わった」
束さんとイーライがわちゃわちゃしているのを眺めていると青い手術をするためであろう服を着た先生が、汗を大量にかきながら裏からでてきた。なにか見覚えがあったのは……気の所為、かな。
「先生、たきなは!」
「弾は取り除けたし、銃創も塞いだ……あとは、目を覚ますのを待つだけだ…………苦いな。始めたての頃の味に似てる」
そう言いながら先生はイーライから差し出されたコーヒーを飲む。先生も最初はヘッタクソだったからね……
そんなことより、手術が無事に終わって……あれ、束さんの話だと流星もいるって聞いてたけど……
「彼なら私の後ろで、休んでいるよ。あまり動かさないでやってくれ……疲れているようだからな」
「よく耐えたよ、たきなはっ……っと」
ちょうど先生の影で椅子の脚にもたれている、いまにも崩れかけそうになっている流星もそこにいた。
「どうしたの、流星!?」
駆け寄ろうとするも、立ち上がってこちらにゆっくり歩いてきている彼の手で制される。
「俺から直接、輸血したんだ。血液型が同じだということは覚えていたから、足りない分は俺からな……」
「……何単位輸血したんだ?」
「7と少しだな。血が足りない時は、生で送るに限る……ちゃんと血液検査機には通してるから、問題はないはずだが……」
「1リットル超えているよな、それ……」
この答えにクルミの顔が引きつり、流星は苦笑いする。
身体からそんなに抜いたってことは……ちょっとした貧血状態ってこと、だよね?
「にしても……どうやってここに運んでくるまで、たきなを生かしてたのりゅーくん?」
「ISの登場者保護機能を、たきなが受けるように設定した……手術中もISをつけっぱなしにして、血は出ても頭に血が回るようにしてたんだ。これで後遺症のリスクを減らせる」
「……へえ。そういう使い方もあるんだ」
束さんは関心した声をあげながら、「宇宙とかで、その技術を応用できたら良さそうだね……」と何かを考え始める。この人の研究、どんなことをしてるんだろうか……今度そういうときに聞いてみるのも、ありかも……と思ったことはさておき。
「どれくらいで、元気になれるの?」
「そうだな……目が覚めて、一週間後には普通に動けるようになるか?」
「一週間……意外と早いね?」
撃たれて、銃創とかあるはずなんだけど……どうやってそんなに早く治せるんだろう……何がともあれ、本当にたきなが無事で……
「そりゃあ、うちの変態技術者謹製のナノマシンを投与しているからな……値段は気にしなくていい」
ナノマシンって初めて聞く単語だけど、とにかくたきなが治るのが早くなるなら……
「ほんとによかったよぉ、もぉ……後でちゃんと鉄分取っといてね、流星」
「……ああ…………あ、もう起きたのか、たきな。殆ど治りかけとはいえ、まだ無理はするなよ」
刹那流星の後ろで、まるで何もなかったかのようにキョトンとしている彼女に飛びついた。
「おいっ、また傷口開くかもしれないからやめろっ!?」
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side 流星
「……それが真島か?」
黙して結果を待っていた楠木司令が尋ねる。
すると、先日の傷がまるで嘘のように治った二人が良い笑顔で首肯した。
「「はい、これが真島です!」」
ばっ、と一斉に紙が出される……両者とも、俺の記憶とすら違う。記録と比べたら尚更だ。
千束とたきなは、お互いの絵を見合って大爆笑したり不満を垂れたりと忙しない。それを眺めていた楠木司令がちら、と俺を見てくる。
「流星氏も書いてみろ」
「……こっちのほうが早いでしょ」
ISのハイパーセンサーに記録していた真島の顔。それをここのプロジェクターに共有して投影した。
「緑の縮れ毛に、猫目……季節に反するコートが特徴だ。二人のそれとは大違いだな」
「ぬなぁにぉお! 流星の絵がヘッタクソだから、描きたくなかっただけでしょ!」
「……ずるいです」
「一応、自分でも書いてみたんだがな」
「「……」」
二人からの批判の声が止まらないので、昨日の晩に仕上げていたものを見せると、当事者は固まった。
……実は俺も今日の朝、束に電話で言われるまで録画機能を忘れていたのはココだけの話だ。
「へぇ……流石はIS学園の生徒。そっちの才もあるんっすね」
「……いや、この二人の画力が終わっているだけだ」
「「何をっ!!」」
……仲いいな、この4人。
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「もう一人の……消星と名乗ったやつは」
千束達の喧嘩を一瞥した楠木司令は、話を次の段階に持ち上げようとする。
「それはこっち……なんでかは知らないが、俺と千束を狙っているらしい発言をいくつかしていた。そのデータは後でそちらに送っとく」
次に投影されたのは、灰色の髪をもった中学生くらいの大きさの子供。
あどけない表情をしているが、その目の奥にはなにかの黒い感情が渦巻いているのが画像越しでも伝わってくる。
「……コヤツがたきなを」
「随分と小さなガキだな……サクラより若いんじゃないか?」
さっきの瞬間までぎゃーぎゃーしていた千束とフキも、スクリーンを認めると争いを一旦やめた。
「こちらでラジアータにデータを参照しておくとしよう……わかっていることだが確認だ。尾白氏と千束が行動したことのあるのは?」
「千束とともに行動したことは……ここ半年と、10年前の旧電波塔か。それ以外は週末に店に顔を覗いてるくらいだ」
「その中で、一度も見たことがないんだな?」
「……一応、これまでのISの記録を洗っておいとく。オタコン、なにか思いついたか?」
消星の写ったスクリーンをまじまじと見ているオタコンも、なにか言いたげにしている事に気づいて話を振ってみる。
「それほどの恨みを持っているなら、10年くらい拗らせていそうだけどね……突発的な感情のようには思えない。その消星とやらに、何かあったとするなら旧電波塔辺りのことを調べてみたらいいと思うな?」
「……その方向で間違いなさそうだな。オタコン氏、助言感謝する」
司令がオタコンに頭を軽く下げているのを見ていたサクラがオタコンに妙な目線を向けている事に気がついた……他に、気がついていたのはフキだが、あっちは何かを知っているようで、ため息を一つつくとサクラを突っついて現実に引き戻させた。
……まぁナオミは今の所見てないから、修羅場になる可能性は低いか。
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「現代技術を遥かに超えるものを使ったからな。IS使用費に弾薬費と、ナノマシン使用代と、薬代と、人件費は考えるのが面倒臭いから特別オマケするとして……今回はこれくらいか?」
今回のかかった費用を持っていたタブレットに映し出して、司令に見せると特に表情は変わらない代わりに秘書のような人物が驚きの声を上げた。
「……こんな法外な金額を、こちらに請求するのですか!?」
「別に法外ではない。彼らの技術を外に流したら、世界が混乱しかねないほどのものだ……むしろこれくらいが妥当どころか安い。本来なら、すぐに命を落としていてもおかしくない状況だった……
この普通にたきなの評価が上がりつつあることに、内心喜びを覚える。
「司令の口から、そんな言葉が聞こえるなんてねぇ……」
千束もポーカーフェイスをしているが、内心がニヤニヤなのはお見通しだ。
「この作戦は半分俺のエゴだったし、いろんな器具はまだ実証段階ということにして、今回はこっちの予算から削っている……次からは請求するがな」
……言い忘れかけていたことを、司令に補足しておく…………今ので気が良くなってこうしたわけじゃないぞ?
「……いや、この料金はDA……リコリスが持たせてもらう。そして、一つお願いがある……」
少し考える仕草をした後、楠木司令は妙な事を言ってきた。
これを支払うとは……俺達から何を買うつもりなんだ?
「……聞かせてもらっても?」
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side ザ・ボス
「かつて世界を敵に回したというのに……どういう風の吹き回しだろうな」
訓練所で山積みにしたリコリスを眺めながら一人つぶやく。
特にカズヒラというやつが何をしでかすか……スネークもこいつは一番気をつけてくれと言っていた。腕は一級品だが、素行が終わっている……既に未遂を3回くらい仕留めたな。
まぁ……かなりの額をもらっているから、不満なんて一切ないが。
「ボス! 次の訓練志望者がやってきました!」
何でもDAから直々に頼まれたそうだ……どこまでもお人好しなことだ。
先日襲われたという二人組には、リキッドとオセロットがみっちりしごいているというらしい。
全く……あいつは一体何人好きになるんだか……
「ああ……待ってろ。すぐ向かう」
そう思いながらも、私は彼女達を鍛える。
……ちいさな体で大きな銃を持つ少女達を死なせない為に。
次話でいよいよキリト達のIS登場……そしてキャノンボールファストへ……やっと原作が進みます。お待たせしました……
敵として出るなら……どれ?
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よう、首輪突き。
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世に平穏のあらんことを
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私こそが企業だ!