ゼルダの伝説 外伝 ~流浪の料理人~   作:クラウディ

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飯テロ小説初挑戦





キノコの串焼き

 

 

 

少し重い足取りで広大な世界――"ハイラル"の大地を巡り、終わりなど決めていない目的地に向かって歩を進める。

このような独白をしている自身のことを端的に表すとなれば……「放浪者」、という表現がしっくりくるだろう。

そんな自身は特別何かを成し遂げたいと思ってはおらず、ただこうすれば何とも言えぬ寂寥感を埋められるだろうと、ただ歩き続けているのだった。

 

だが、私は1つだけ言えることがあった。

この場所……いや、()()()()に気づいた時には既にその両足で立っていたということだ。

 

簡単に言えば、私はこの世界の人間ではないという自覚があるからだ。

いや、そう考えるのは早計かもしれない。

もしかすると、これは記憶にある世界の未来なのかもしれないから、という可能性も残っているからである。

だが、あまりにも自身の知る大地とは違いすぎてそう考えるのは違和感しかない……と思ったので、これは前の世界の流行りである「異世界」というものなのだろうと私は思っているというわけだ。

 

まるで小説のような出来事だが、世の中には「事実は小説より奇なり」という言葉もあるらしい。

「そういうことならそういうことなのだろう」と、私はこの状況を受け入れたのだ。

 

そんな世界――"ハイラル"は中世ヨーロッパのような場所であり、そこにゴブリン(現地の人曰く「ボコブリン」だそうな)やケンタウロスのような獣(こちらも現地の人曰く「ライネル」だそうな)も存在しているいかにもファンタジーな世界のようだ。

そしてこのハイラルの大地には様々な種族がおり、彼ら特有の文化や伝統もあるらしい。

 

まさにファンタジーそのものといった世界で、私は旅をしているのであった。

家族もいない、知り合いもいない、住み慣れた家もない、進化を続けているゲームもない、そんな状況でも、私のすることは変わりない。

 

 

その「すること」とは……

 

 

そこでふとどこからか音が聞こえた。

かと思えば全身の力が緩んでしまうのを感じる。

さらに腹の奥底が空っぽになる感覚に襲われた。

 

――このタイミングで来てしまうのか……。

 

そう思いながら周囲を見渡す。

この状態を解消するすべは今私の手元にはない。

だからこそ、現地で手に入るものでなんとかする必要があるのだ。

だからこそ何かを見つけられないかと周囲を見渡したのである。

 

周囲をぐるりと見渡せば、道の脇に小さい林があり、その林を構成する木の根元をよく見れば、それはそれは大きく成長した"キノコ"がある。

"それ"を見た瞬間、すぐさま駆け出しかぶりつきたい衝動に突き動かされそうになったが、すんでのところで動きを止め、荷袋から一冊の本を取り出す。

 

前の世界では見たこともない言葉で書かれたその本――『旅人必見!ハイラルサバイバルガイド!』をペラペラとめくり、ある項目を探し出す。

その項目に大きく写真が印刷されており、それに写っていたのは形に多少の差があれど木の根元に生えているキノコと同じだった。

 

すぐさまサバイバルガイドを荷袋に入れ直し、その林に踏み入れ、生えていたキノコ――"ハイラルダケ"を引っこ抜く。

大きさとしては私の拳以上に大きく、とても食べ応えがありそうなのを手に持つだけで知らせてくれた。

 

口の端から涎が垂れそうになるのを必死で抑え、私は他にもないかと探す。

 

見渡せばそこら中にハイラルダケがあり、ここがキノコの群生地だということを教えてくれる。

 

それらを手に入れるために足を速めながら、心の中でつぶやいた。

 

 

 

 

 

――……腹が減った。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

~~~~

 

~~~

 

~~

 

 

 

 

 

 

パチパチと燃える薪の前で、私はお手製の鉄串にハイラルダケを突きさし、揺らめく炎の上にキノコを持っていき、じっくりと焼いていく。

焼かれていくハイラルダケは大きさに見合った水分を含んでおり、焼かれていくにつれて引き締まっていく身から出汁があふれ出ており、それが薪の上に落ちていく。

 

――ジュワァ……。

 

……今すぐにでもかぶりつきたいが、まだ駄目だ。

本当なら、今滴り落ちている出汁すら飲みたいほど腹が減っている。

だが下手な焼き方でこのキノコ特有の肉厚さを悪くさせてしまってはいけない。

焼き方が甘いと出汁の詰まったキノコを食えるだろうが、それでは生焼け。

焼いたことでアツアツになったキノコを食べたいという今の舌のご希望には添えなくなってしまう。

 

逆に焼きすぎては出汁が抜けてしまい、カサカサとした食感になってしまう。

これだけ肉厚だと流石にそこまではいかないが、せっかくの出汁が失われるのはとてもまずい。いろんな意味で不味い。

 

だからこそ立ち上る火の先端でじっくりと焼き上げているのだ。

だが、火に近すぎて焦げ目を付けてはいけない。

いや、ほんの少しの苦みというアクセントのために付けてもいいのだが、正直今はいらない要素。焦げ目は余裕がある時にしよう。

 

それにしてもやはりこの地方は食材に恵まれている。

このキノコだけにあらず、熱帯のフィローネ地方の豊富な食材に、寒冷のへブラ地方に生息するサーモン、オルディン地方の香辛料、ゲルド地方の過酷な環境下で育まれた果実なども素晴らしい。

それ以外にも定期的に襲い掛かってくる魔物も食材としては癖があるが、その癖も良い。

 

ボコブリンの角は潰して煎餅に、ボコブリンよりも大きいモリブリンの肝はレバニラ。

キースというコウモリのような魔物の目玉の丸焼きや、リザルフォスというトカゲのような魔物の尻尾をジャーキーにして、ライネルの肝で出汁をとる。

 

これが存外美味い。

これぞまさしく"珍味"という感じだろう。

 

興味を持った現地人にふるまってみたのだが、美味しいとは言ってもらったのだが、魔物素材を使っているというところがあまり好感触ではないようだ。

確かに、食事は目で楽しむものでもある。

それをいかにもゲテモノというべき素材で作っているのだ。引いてしまうのも仕方ないだろう。これからも精進しなければ。

 

そんなことを考えていると、キノコの串焼きがいい感じに焼きあがっていた。

 

キノコのカサにたまった出汁をこぼさないように慎重に火から上げながら、焼き上がりを見る。

 

……完璧だ。焦げ目はない。焼けたあとはあるものの焦げ目ではない。かぶりつけば「ジュワッ」っという音すら鳴るだろう。

 

思わず喉も鳴った。

今すぐにでもかぶりつきたいが、食事の前にはやることがある。

 

即席で作った葉っぱの皿に置き、手を合わせ、食材への感謝を込め、

 

――いただきます。

 

そう言ってかぶりついた。

 

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………美味い。

 

美味い、ただただ美味い。

 

噛めば噛むほどジュワッと出汁が口の中であふれ出し、まるで固形のスープを食べているかのようだ。

食感に関しても肉厚だが硬すぎるわけではない。

風味は違うが食感は……そうだ、前の世界で食べていた分厚いステーキのようだ。

ハイラルではそこらに生えている普通のキノコでここまでの食感が出せるとは……流石魔物が存在するほどのファンタジーな世界だ。素晴らしい。

 

キノコだけでこれなのだ。

もし、獣の肉を使うことができたらキノコを添え物にしても……いや、キノコをバンズにしたハンバーガー……「キノコと肉の野生ハンバーガー」にしてもいいかもしれない。

良いレシピを思いついた。あとでメモしておこう。

 

おっと、今はレシピを考える時間ではない。今はキノコを食べるためだったのを忘れていた。

もう一本、焼いていたキノコ串を食べようとする。

 

しかし……

 

「はぐ……むぐっ……ん?」

 

――…………。

 

すぐそばにいた金髪の少女がキノコの串焼きを食べている姿に、伸ばしかけていた手が止まった。

ボロボロの衣服を着ているが、顔立ちは非常に整っており、串焼きをほおばっている姿は見た目相応の年齢に感じられた。

串焼きに手を伸ばしている俺の姿を不思議に思ったのか、少女は首を傾げながらも串焼きを食べ続ける。

 

「はぐはぐ……もぐ……ごくんっ……ふぅ……ん!」

 

やがて食べ終わった少女は満足げに大きく息を吐くと、こちらに食べ終わった串を渡してくる。

……焼けということか。

自身が焼いていたものを勝手に食べられてしまったが、食事というのは怒りをあらわにする場ではない。

 

それに、この少女は次を求めてくれている。

つまり美味かったということだ。

 

なら料理人として応えねばなるまい。

だが、一つ言いたいことがある。

 

――勝手に人のものを取るんじゃない。せめて一言聞きなさい。

 

「? ……ん!」

 

……本当に分かっているのか?

 

そんなこんなで私は次の串焼きを焼き始めるのであった。

 

 

 

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