遅ればせながら飯テロ4回目
――さて、チェックポイントにしていた馬宿までたどり着いたな。
「うん。結構長い道のりだったね」
あの後、台地から数日歩いた私達は、チェックポイントとしていた場所――「"双子山"」の麓にある『"双子馬宿"』に着くことができた。
日はもう暮れており、白い月が空にポツンと浮かぶような時間であるが、なんとか予定どおりには進んでいるようだ。
そして私達が着いたこの場所は、馬宿とある通りそれぞれの所有する馬を登録することができ、定期的な料金を払えれば登録した馬の飼育すらも担当してくれるありがたいところ……らしい。
他にも同じく料金を払えばベッドなどの宿泊施設を利用することもできる。
私としては馬に頼らずとも自身の足があるので、前者の利用経験はない。
いずれは馬を飼ってみるのも良いものだと思ってはいるが、その前に美食の道を極めなければ……!
「……なんか変なところにやる気を燃やしてそうだね料理人さん……」
――当たり前だろう。美食の道を極めるのが私の目標なのだ。もし他のことをやるにしてもまずはその道を極めなければならない。
「変なところで頑固だよね、料理人さんって」
――失敬な、私だって
「それでも『稀に』なんだ……」
呆れたような目で見てくるリンクから目をそらし、馬宿に向かって進んでいく。
まだ台地へとたどり着く前、しばらくの間この馬宿に滞在させてもらったが、あそこも食材で溢れていた。
畑で育つ野菜に加え、旅人が持ち寄る様々な美味に珍味。
あの時も心が踊ったものである。
――……むっ
「ん? どうしたの料理人さん?」
――この音は……
「音……? …………確かに、何か変な音が……」
そんなことを考えていると、なにやら馬宿とは違う方角から大勢の"何か"が大地を駆けているような音がし始めたのだ。
聞こえてくる音からして四足獣の群れ……音の間隔からおそらく馬だろう。
しかし、そんな馬の足音に紛れるようにして、ある鳴き声が聞こえたのである。
『ブヒャ! ブヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!』
『グギャアッ! グギィグギャア!』
――この鳴き声、『"ボコブリン"』か。
「ボコブリン……あの変な魔物のこと?」
――あぁ。馬に乗って群れているということは、おそらく相当な力をつけたボコブリン達だろう。進路からして、あの馬宿を襲うつもりのようだ。
「!?」
『"ボコブリン"』
このハイラルの大地に生息する「魔物」と呼ばれる生命体で、食性は雑食。
主に数体の群れをなして行動する生物で、街道を通る旅人や商人を襲うことで有名な魔物だ。
そもそも「魔物」とは、基本的に『穢れた魔力』の影響を受けて発生する生命体で、個体ごとの差はあれど、人々に悪意をもって攻撃してくる存在には変わりない。
といっても、今回のような数十体規模で馬宿を襲うという行動を起こすのはなかなか珍しいものだと聞いている。
もしや……例の厄災復活の前兆というやつか……?
しかし、そういうものは今考えても仕方ない。
今はその軍勢とも言えるボコブリンの群れをどうするかが問題だ。
「ど、どうするの料理人さん!? あの数じゃ馬宿の人が……!?」
――ふぅむ……
鞘から剣を抜き放ち、駆け出そうとしているリンクを引き留めながら私は考える。
リンクの行動はもっともだ。
人々を守るのは、騎士であった彼女にとって記憶を失っても咄嗟にとってしまう行動なのだろう。
しかし、彼女一人で行かせるのはかなり厳しい。
いくら彼女が少しずつ成長しているとはいえ、あれだけの群れを捌ききるのは難しいだろう。
まだ体が出来上がっていないのだから当然と言えば当然なのだが。
まぁ、私としては奴らの襲撃はちょうど良いものだったと思う。
――ところでリンク。君はボコブリンを食べたことはあるか?
「え!? いきなり食べることの話!? いや食べたことはあるけどさ……美味しくなかったし……って、そうじゃなくて!! あれだけのボコブリンをどうするの!? ま、まさか……!?」
――どうするかって、もちろん食べるつもりだが?
「やっぱり!?」
「当たり前に決まってるだろう」、そんな意思を込めて伝えた言葉は危ないやつを見るような目と共に肯定された。
そもそもの話、『"ボコブリン"』という魔物は「
まぁ、普通に調理したところでは食えたものではない料理が完成するのだが……そこは調理法一つでなんとでもなる。
実際、"ボコブリン"を調理して食べたことのある人間、つまり私がこの場にいるのだ。
ならば問題ないだろう。
だからこそ、私はいまだに抗議してくるリンクにこう言ったのだ。
――だがリンク、食べてみたくはないか?
「なにを!?」
――『レバニラ炒め』という料理があるんだが……
「!? な、なにその料理……!?」
そう言うだろうと思っていたよリンク。
――私の知識では、「"獣の内蔵"」と「"ニラ"」と呼ばれる香草を炒めて作るのだが、それを真似て"ボコブリン"の肝で作ってみたことがあるのだ。それが想像以上に美味くてな……どうだ?
「ぐ、にっ、うっ、うーん……ほ、本当に美味しいんだよね!?」
――味は保証する。だから今回のは戦いではなく『狩り』だ。あれだけの食材の群れを逃すのは惜しい。分かるな?
「わ、分かった! それじゃ、お願いね料理人さん!」
――分かっているとも。それでは行くぞ――!
交渉は成立した。
あとは奴らを『狩る』だけだ。
そうして、私はリンクを小脇に抱えながら、その場から跳躍したのである。
人々が眠りに落ちる頃、彼ら――『"ボコブリン"』達はある場所を目指していた。
それは人間達が拠点としている場所であり、特に今日は人が多く集まっている。
ならば、ここらでは手に入らない貴重な物資も多いだろう。
知恵を蓄えた一部のボコブリンが計画し、多くの仲間と徒党を組んで大地を駆けていく。
本来のボコブリンならここまでの群れをなさないだろう。
もしかすると、これも厄災の影響なのかもしれない。
だが、今はそんなことなどどうでもいい。
ボコブリン達にとっては、人を襲い、物資を略奪することを考えるだけで頭が一杯なのだ。
『ゲヒャヒャヒャ!!』
群れの中でも一際目立つ黒いボコブリンが突出し、馬宿へと突っ込んでいく。
「な、なんだあれ!?」
「ボ、ボコブリンだ! ボコブリンの群れだ!」
「それにしてはあまりにも数が多すぎるんじゃないか!?」
騒音を聞き付けた旅人達が馬宿から顔を出し、慌てて迎撃の用意をとろうとするが、このままでは間に合わない。
『人間は俺達と同じく、急に襲われると慌てることしかできない』、蛮族であるボコブリンとは言えど、知恵を回せば裏をかけてしまう。
だからこそ、ボコブリン達は勝利を確信してしまったのだ。
『ゲヒャヒャヒャヒャッ――――――――ヒャ?』
――先行していたボコブリンの首が宙を舞う光景を目にするまでは。
『ゲヒャ――グギャ!?』
『ギャビッ!?』
『ゲバァッ!?』
その事に理解が追い付く前に、首が飛んだボコブリンの後を追うようにして後続のボコブリン達の首が飛ぶ。
最後方にいたボコブリン達はその姿を目にして、慌てて馬の脚を止めさせた。
――だからこそ、見えてしまったのである。
――夜闇に紛れてナイフを振るう、たった一人の『狩人』の姿を。
『グギュッ!? ギガガッ!!??』
――ふむ、活きが良い。肉質も良し。匂いは……『"ガンバリ草"』を売ってもらうとしよう。
「な、なんだあの男は!?」
ボコブリン達にとっては同族を瞬きする間に何匹と殺し、それでありながら返り血を一切浴びていない不気味な人間。
襲撃をかけられていた馬宿の住人からしてみれば、突然現れた男がボコブリンを纏めて切り殺したのだ。
1体だけでも並の人間には対処が難しいというのに、この男は瞬きする間に大量のボコブリンを屠ったのである。
双方ともに混乱してしまうのは仕方ない。
――だが、事態の急変はそれだけでは終わらなかった。
『グベッ!?』
『ギャヒィ!?』
「っ、一発で仕留めきれなかった……! 今度は外さない……!」
どこからともなく降ってきた矢によって、最後尾のボコブリンたちが射抜かれていく。
最初の数発は外れたものの、そこから射角を修正された矢玉は、綺麗にボコブリンたちの頭部を貫いていた。
「すぅ……ふぅ…………一点、集中ッ……!」
矢を放っていたのはリンクだ。
しかもただ矢を放つだけでなく、近くの森林に身を潜め、気付かれないようにしてからの長距離狙撃を行っている。
ただの人間が出せる精度ではない。
弓の扱いが上手いとされるリト族であってもここまでの速さと正確さのある狙撃は難しいだろう。
いくら記憶を失う前の彼女が英傑と呼ばれた人物であったとしても、これはまさしく『人間離れ』した神業だ。
『ゲ、ゲヒィ……!?』
そんな2人に挟まれたボコブリンたちにとってはもはや詰みである。
こうして、数分と経たずにボコブリンの群れは掃討されたのだ。
――よし、材料はあるな。早速調理を始めよう。
「きゅ、休憩する間もなく料理かぁ……」
――当たり前だ。先程、簡易的に食事をとったとはいえ、量は全くもって足りていない。それともなんだ、今日の夕飯はなくても……
「ウソウソウソ! ちゃんとお腹減ってるから!!」
――冗談だ。
ボコブリンの群れを掃討した私とリンクは、目的地としていた『"双子馬宿"』に到着し、休む間もなく調理を開始し始めた。
今回の材料は活きがいい。特に群れを率いていたと思われる黒いボコブリンから採れた肝なんかは特にだ。
これなら予定していた通りの料理――『レバニラ炒め』ができるだろう。
早速捌いて……いきたいところだが……
「……やっぱり、その大きさのまま捌くの難しくないかな……?」
――しくじったな、もっと大きいまな板を用意するべきだった……。
そう、ボコブリンの死体が大きすぎたのである。
私が今回の旅で持ってきているのはあくまで一般的なサイズのまな板であって、流石に成人と同程度の体格のボコブリンを捌くには役不足。
この旅の道中では一人で食事をとることが多かったため、ボコブリン1匹を日中に狩った後はじっくり捌けたのである。
しかし今回はリンクとの2人旅であり、なおかつ今回は……
「な、なぁアンタ、一応在庫にあった『"ガンバリ草"』と調理用の『"油"』、それと各種調味料を持ってきたが……ボコブリンを食う奴なんて初めてだぜ……」
――協力感謝する。今回の食事は楽しみにしてくれたまえ
「……ほ、本当にボコブリンを食べるのよね……?」
――安心してくれ。こいつらは見た目こそ醜悪だが、味に関しては豚に近い。なら後は適切な調理をすれば安全に食べることができるのだからな。
「おじちゃん変な人だね……」
馬宿の住人から食材を譲ってもらう代わりに、それ相応の数の食事を作ることになったのだからな。
まぁ、いいだろう。大人数で食卓を囲むほど食事というのは美味くなるもの。
ならば腕によりをかけて作らねば。
――だがまな板をどうするか……血抜きに関しては既に完了している。ある場所で学んだ「魔法」というものであっという間に終わらせられたから、あとは捌くだけなのだが……
「……ねぇ、料理人さん。魔法で物を浮かせられたりする?」
――可能だが? しかしそれを一体どうすれば……
「それでボコブリンの死体を浮かせて捌いたりって出来ないの?」
――………………リンク、君は天才か?
「駄目だこの人、料理のことしか頭にない……」
そうだ、魔法を使えばまな板を使わずに調理できる。
私には思いつかなかったことだ、流石はリンクである。
ということでまな板の問題は解決したので早速調理していくこととする。
魔法を使うことで死体を浮かし、ボコブリンを捌いていく。
「うっ、やっぱ魔物臭さが強いな……これほんとに食えるのかよ……」
「へ、変な臭いね……」
風に運ばれてきたボコブリンの匂いを嗅いだ住人達がそう言うが、こればかりは仕方ないと思っている。
――そもそもボコブリンという魔物は雑食性である。
果物、野菜、魚、肉……果てには虫ですら食べてしまう悪食さを持ち、それらの混合した臭いが体に染みついているのだ。
基本的には蛮族のような生活を送るボコブリンだが、中には綺麗好きなボコブリンもいる。
しかしそれらの特異個体も雑食性は変わらないためやはり臭いはきついものであった。
それらの臭いはどうやっても断ち切ることは難しい。
だからこそ、今回用意させてもらった『"ガンバリ草"』を使わせてもらうのだ。
――リンク、そこにある『"ガンバリ草"』の臭いを嗅いでみてくれ。
「?? 別にいいけど……って何この匂い!? は、鼻が……!?」
――強烈だろう? その食材は私の故郷で言うところの『"ニンニク"』に近い香りと味をしていてね。それらの香りは肉の臭みを消すために使われるほど強烈なのだよ。
――『"ガンバリ草"』
今回使っていく『"ガンバリ草"』……私の故郷で言うところの『"ニンニク"』は、それはもう強烈な香りを放つことで有名で、食べてしまえばその日は口からニンニクの臭いが取れないと言われるほど。
私の知るニンニクは、古くから香辛料として使われ、疲労回復、強壮作用があることが知られており、古代エジプトや古代ギリシアでは、薬として使われていたといわれている。
よく『スタミナ定食』のと銘打たれている食事には大体入っているほどニンニクはすさまじい。
調理前と後では香りが劇的に変化し、調理後の匂いは空腹の男たちが思わず白米をかっ食らうほど。
そんなニンニクによく似た『"ガンバリ草"』も、それらと同じ効果を持っているのが、実際に調理をした過程で分かったのだ。
そして、レバニラ炒めにもニンニクは使われている。
ならば作るしかない……!
「こ、この変な臭いの野菜で料理作るの……? 本当に大丈夫なの……?」
――安心したまえリンク。調理前と後では匂いが別物になるぞ。
「それならいいんだけど……」
なんだかんだ言いながらも、リンクは私の腕前を信じてくれているようである。
そのことに少しばかり感動しながらも、私はボコブリンを捌く手を止めない。
「おいおい、あのおっさんマジでボコブリンを捌いてやがる……!」
「ってか、捌いてるだけなのにうまそうに見えてくるのはなんだ……!?」
「すごい……あとで教えてもらおうかしら……?」
馬宿の住人達の言葉を聞き流しながらボコブリンを捌き切った私は、捌かれた肝を切り分けていく。
おおよそにして一口大、よく動いていた個体だったのか少し筋肉質な肝を手早く切り、別の作業に移りながら魔法を使うことで片手間に残った血を抜いていった。
次に調理し始めたのは、魔法で乾燥させた『"ガンバリ草"』だ。
先程、ニンニクと似た植物であると言った『"ガンバリ草"』はその使用方法もニンニクと似ている。
茎は野菜として、球根(鱗片)は香辛料として使われており、今回は両方使っていく。
球根の中央にある芽は消化しにくいため取り除いておき、球根は潰してから刻む。
こうすることによって、炒めた時にこの野菜特有の香りが増し、食欲増進に繋がるからだ。
刻んだあとはそばの焚き火に鍋を置き、すぐさま『"油"』を引く。
今回使う油も馬宿に宿泊していた商人から礼としてもらったものだ。
数日前、リンクに振る舞った『ピリカラチキンソテー』に使った『"バター"』を使う手もあったが、あれは上品すぎるため今回は使わないでおくことにする。
貴重であることを抜きにしても、やはりバターは特別なときに使わないと……という思考もあって今回はおいておくことにしたのだ。
それはさておき、油を引いた鍋にすぐさま刻んだ『"ガンバリ草"』の鱗片を入れ、軽く炒めていく。
なぜこんなことをしているのかについては、『"ガンバリ草"』の香りを油に移すためである。
私の持論として、食事を楽しむことの中には、『味』だけではなく『香り』も重要だと思っているのだ。
例えば、いくら美味かろうと燃え尽きた灰のような香りでは食欲も沸かないものだ。
だからこそ、少しの手間が後の食事をグッと美味しくする。
「な、なんだこの匂いは……!? は、腹が減ってきた……!」
「お、美味しそうな匂い……」
うむ、良い感じに香りが出てきたな。
周りの観衆も美食の匂いを感じてきたところで、私の様子を見守りながら暇になっているであろうリンクに声をかける。
――リンク、そこの血抜きができたボコブリンの肝をとってそのまま鍋に入れてくれ。
「え、あ、分かった!」
――よし、リンク! そのまま交代だ!
「え!? ちょ、いきなり!?」
――鮮度を落とさないように最後に残しておいた『"ガンバリ草"』の茎を切って炒めるだけだ! それまで持ちこたえてくれ!
「……あーもう! 分かったよ!」
そしてリンクがボコブリンの肝を持ってきたところで、すぐさま彼女と交代する。
ここから先は時間との勝負だ。
リンクが炒めてくれている間に、最後に残していた『"ガンバリ草"』の茎を炒めていく。
今回仕留めたボコブリンの数は10匹を軽く超えているため、それ相応に『"ガンバリ草"』の量も多い。
だが早めに切りすぎるといくら私の手際といえど、鮮度が落ちてしまう。
それならばと最後まで残していたのだ。
咄嗟にリンクに任せたが、彼女の手際はそれなりに良い。
これならば間に合わせられそうだ――――!
――はぁああああああああ!!
「な、なんだこの手際のよさは……!?」
「ハ、ハイリア様じゃ……ハイリア様のお姿が見える……」
「しっかりしろじいさん! 料理で死ぬとか孫に笑われるぞ!?」
よし、用意していた『"ガンバリ草"』を全て切り終わった。
リンクに視線を向ければ、必死な表情で炒めてくれている。
――リンク! 交代だ!
「!! あとは頼んだ料理人さん!」
すぐさま『"ガンバリ草"』を運び、リンクと交代しながら鍋に投入する。
炒めていた肝の状態は……よし、こちらも大丈夫そうだ。
用意してもらった各種調味料を加え、このまま炒め続ければ待ちに待った食事が完成する!
そして持ち得る力を発揮して、私は食事を完成させていくのであった。
――……お待たせして申し訳ない。
「お、おぉ……これが……!」
――『レバニラ風ボコブリンの肝のガンバリ草炒め』だ……ご賞味あれ。
馬宿の集会所にて、我々にとっては遅めの夕食であり、一度夕食をはさんだ住人達からしてみれば罪深い夜食ということになる。
今回出来上がったのは『レバニラ風ボコブリンの肝のガンバリ草炒め』だ。
立ち昇る香りは食欲をそそり、空きっ腹であった我々はともかく、一度腹を満たしているであろう住人達ですら腹を鳴らすほど。
これが元々はボコブリンだと言われても信じないだろう、それほどまでの魅力がこの食事にはあったのだ。
――それでは我々は先にいただいておこう。ではリンク、手を合わせてくれ。
「……い、いただきます……!」
周りの者達が固唾を呑んで見守る中、私とリンクが先に食べてみる。
立ち昇る香ばしい香りに誘われるがまま、私とリンクは一口食べてみた。
瞬間、私とリンクは固まった。
「………………………………」
「……ど、どうだあんたら? 本当に美味いのか……?」
口に含んだ瞬間、固まってしまった私達の様子を見て「やっぱり不味かったか……?」というような視線を向けてくる住人たち。
しかし、私達が感じたのはその正反対の感想だった。
――……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………美味い。
「うわ、すごい美味しい!!!!」
そう、美味い。
とにかく美味いのだ。
それも慣れ親しんだが故のガッツリとしたこの肝と、ガツンと来る『"ガンバリ草"』の香りがたまらない。
これは箸が進んでしまうのも仕方ない。現に私がそうなっているのだから。
凄まじい勢いで箸を進めていく私とリンクの様子を羨ましそうに眺めている住人達に向けて、私とリンクは感想を言い合う。
「すっごいね料理人さん! こんなに美味しくなるなんて!」
――だから言っただろう? 調理方法さえ適切なら魔物であろうと食べることはできるのだ。そこに工夫を凝らせばさらに美味くなるということも知っておくといい。
「そ、そんなに美味いのか!? お、俺も食ってみよっと!」
「あ、ずりぃぞ! 俺も食ってみる!」
そしてそんな私達の雰囲気に釣られて、住人達も食事を進めていく。
こうして賑やかになった馬宿で、私達は夜を越えるのであった。