トレセン学園に代々伝わる行事の一つに『継承』というものがあり、その継承には、とある噂が存在する。
オカルティズムな要素が多々見られるウマ娘、ひいてはトレセン学園の噂、不思議の中では、比較的害の無い方の噂だ。
毎年一月になると、今年デビューするウマ娘と去年トゥインクルシリーズを走り切ったウマ娘が三女神像の広場に集い、祈りを捧げる行事なのだが。
その時、一部のウマ娘は奇妙な感覚に囚われる事があるという。身体が芯から熱くなるような、不思議な力が漲るような、そんな感覚であると言う。
中には、距離適性が伸びたとか、苦手だった芝/ダートが走れるようになったという話もある。
一般的にはそのような話は眉唾物だろう。
だが、トレーナーの間では実しやかに語り継がれ、そして一部のウマ娘達は異口同音に告げる。
「確かにそれはある」と。
そして、うちのミホノブルボンがあの時、三女神像の前で私と出会った時、どうやらその継承と同じ感覚があったらしかった。
彼女があの時ぼうっとしていたのは、継承により、白昼夢に近いものを見ていて、そこから帰還した直後だった。という事らしい。
だが、その出来事があったのは10月半ばの事だ。
継承が起きるには2ヶ月ほど早い。
一月以外に継承が起きる事など、果たしてあるのだろうか。
「望み薄そうだなぁ……」
継承起きる事は自体そう多くないし、そもそもオカルト現象だ。
調べた所で記録としては残ってなどいないだろう。
だが、距離適性が伸びるかもしれないとなると、ここはちゃんと調べなければならないだろう。
たとえそれが非科学的なものであるとしても、むしろ、非科学的であるからこそ、その実態は把握しておく必要がある。
心当たりは、ある。
今年の夏の上がりウマ娘、菊花賞ウマ娘のメジロマックイーンだ。
夏季のトレーニングを経て大きく力を付けるウマ娘は数多く居るが、その中でもメジロマックイーンのそれは特に顕著と言えるだろう。
春季は骨膜炎に悩まされていたようで、成績としては目立たないものだが、その後の神戸新聞杯、菊花賞は共に力強い勝ち方が印象に残っている。
本命はあくまで天皇賞という事で、春の盾への最終調整に向けて有マ記念は出走を回避。
オグリキャップのラストランは同家のメジロライアンが立ちはだかるようだがが、彼女が継承儀式の影響を受けている可能性はありそうだ。
幸い、彼女のトレーナーとは交流がある。天皇賞まではまだ時期があり、ピリ付いてもいない頃だろうという推測を立てて、早速伺ってみる事にした。
のんびりとトレーニングをしている、わけでもなさそうな?メジロマックイーンの……スイーツを頬張る様子を見ながら、彼女のトレーナーと話をした。
デートのお邪魔だったかと思い遠慮しようかとも思ったのだが、別にそう言うわけでもないから大丈夫らしい。このペアの事はよく分からない。
「『継承』ですか?毎年一月にやっている」
「ええ、あの時の話を聞きたくて。
継承の噂はご存知ですよね」
「能力とか適性が伸びるってやつですよね?確かにマックイーンにも何度かありましたけど、ご期待に添えるかは微妙かもしれません」
ピコピコと耳を動かしつつ、こちらの様子を伺っていたらしいメジロマックイーンの方を2人で見やる。
「三女神像の広場には無論、
でも、仰られるような事象があったかは、ううん……あったような、無かったような……」
チラチラとスイーツに目を向けながらも思案顔のメジロマックイーン。
残念ながら、彼女の記憶には印象深く残ってはいないようだ。
トゥインクルシリーズで活躍するようなウマ娘であれば大なり小なり経験があるのではないかと推測していたのだが、そういうものでもないのかもしれない。
「たとえば、夏合宿の前後はどうかな。
メジロマックイーンさんは今年の夏の上がりウマ娘。もし、大きく力を付けた要因の一つに継承が関わっているなら、詳しく紐解きたいのだけど」
「夏合宿付近は……特に記憶にありませんわね。でも確か以前……あれは……」
二口目を口に運び、甘味を補給するメジロマックイーン。
担当トレーナーの微笑ましそうな柔らかな笑みには気付いていない。
そのまま天を見上げ、クルクルと回る耳を眺めていると、不意にマックイーンが両手を合わせた。
ご馳走様ではない。彼女のご褒美スイーツはまだ半分以上残っている。
「そうですわ!今年の春頃に一度、三女神像の広場に赴いた事があります。
確か、誰かに呼ばれて行ったと思うのですが……ええと、申し訳ありません。詳しい事は殆ど覚えておらず」
「いや、大きな進歩だよ。春頃の事なんだね」
「ええ、そこで突然、白昼夢のようなものを見た気がします。トレーナーさんには話していたと思うのですが」
「ううん。半年前となると流石にそんな覚えてないかなぁ。でも確かに、三月四月辺りで記録が伸びた時期があったね」
「おお!是非詳しく!」
「記録は取ってあるので、後で共有しますよ」
ビンゴだ。きっとそれが発生した『継承』の可能性が高い。
一月以外にも起きている。まだ詳しい事は分からないが、もしかすると、夏の上がりウマ娘とは関連があるのかもしれない。
「それ以外の部分だと……ねぇマック。覚えている範囲で何かないかな。たとえば白昼夢の内容とか」
「白昼夢自体は一月の継承の時と似たようなものですわ」
「え、一月の継承でも見てるの?」
「えっはい。見てますわよ?」
初耳だ。
彼女の担当も、様子を見るに今知ったらしい。
「一月の継承は、お顔の伺えない、影のような二人のウマ娘から光のカケラを受け取る、ような内容でした。
でも春の継承の方は、走っている二人の背中を追いかけるような、そんな内容でしたわね」
参考になるかは分かりませんが、と最後に付け加えるメジロマックイーンに、驚愕する私たち。
あの儀式そんな事が起きるのかとちょっと怖くなった。
「でも、興味深い話が聞けました。
ありがとう、メジロマックイーンさん。それからトレーナーさんも」
「これくらいならお安い御用ですわ。またいつでも訪ねてくださいまし」
「資料は後で送っておきますよ。こういうのはお互い様ですから」
メジロマックイーンの、春の伸びも良い参考になるだろう。これはより詳しく調べなければと思っていた所で、更なる来訪者が現れた。
「"TPD"*1……。『遅刻』だね。
でも感じる。此処は、新しい軌道へのスイングバイがあるよ。
だから、ネオユニヴァースも"ASEM"*2、『共有する』をしたい」
変わった身なりの、変わったウマ娘が、現れた。