奇怪なウマ娘だ。
一声聞いてそう思った。
うちのブルボンもかなり不思議な喋り方をするが、この子程ではない。
そう確信できる。まるで話が分からないのだ。
「……トレーナー」
彼女も、私たちに伝わってない事を察しているのだろう。
不意に明後日の方を向いて、助けを求めるようにそう呟いた。
すると、
「ユニ」
何処からともなく、彼女のトレーナーであろう人物が現れた。
人バ揃って神出鬼没だ。
「こんな所にいた。急に走り出したりして、何かあったの?」
「アファーマティブ。"ANOI"*1……『求める』の波動を感じたよ。
恐らく、きっと、この人が、新しい軌道……新しい宇宙へのスイングバイの為の、"REEN"*2」
「そうか、この人が……」
彼女のトレーナーは、流石だ。理解出来ているらしい。
私と、そしてメジロマックイーンのトレーナーは意思の疎通すら難しく、上手くやりとり出来なかった。
メジロマックイーンもそうだが、まさにベストパートナー。この二人以外あり得ないという、運命の導きによって出逢ったのだろう事は想像に難くない。
なおウマ娘同士ならばどうかとメジロマックイーンにも協力してもらったのだが、彼女も意思疎通は難しそうにしていた。
「もしかして、前に話していた"SETO"*3?」
「ネガティブ。でも、ネオユニヴァースの"昇華"を、補助してくれる。
多分、"G???"……の、後?……んん……」
突然現れて、完全に自分達の世界を作り上げてしまうネオユニヴァースとそのトレーナー。
私たちには話の内容が見えて来ないが、彼女のトレーナーも、先ずは共有と理解を優先している。といった所だろうか。
ベストパートナーである事は間違いないのだろうが、未だ日が浅いのか、まだスムーズな意思疎通とはいかないようだった。
苦労している。
「……先ずは、"CMIN"*4。ネオユニヴァースは"対話"をしたい。わたしはまだ、"GSO"*5だから。ゆっくり。ね」
流石にそろそろ、引き戻した方が良いだろうか。
「えっと、つまり、どういう事?」
割って入るように声をかけた。
ネオユニヴァースは口を開きかけたが、迷った挙句、閉口してしまう。
その顔色の変化は薄いが、何となく分かる。彼女は恐れているのだ。
自分が話しても、理解されないかもしれない事を。
代わりに、彼女のトレーナーが口を開いた。
「ユニは、私たちは交流をしたい。ユニが伝えたい事、聞きたい事……言葉は難しいかもしれませんが、良ければ聞いてやってください。
私も、出来る限り補助しますから」
言葉は難しいが、それでも対話を望んでいる。やはり、彼女もまた、一人のウマ娘であり、交流を求める存在らしい。
ブルボンに通じる所があるな、と少しだけ思った。
「トレーナー。『断絶』は、アルファ星のシンチレーションが起こしているよ。他の人とは、少しだけ"DIFF"*6。
皆、虜になってるんだ。自分だけの、"DSTY"*7に。
だから、『コネクト』にはトレーナーが"MORT"*8。これはこれで、スフィーラ……ううん、とっても、スフィーラ……! だね」
そう言って控えめに微笑む姿は、しかしてブルボンのそれとは少し異なる。
ネオユニヴァースは、彼女よりも感情表現が僅かながらも優れているらしい。
ブルボンも負けてはいられない。
が、先ずは継承の話だ。
唐突に現れたネオユニヴァースは、何とも不思議な雰囲気を纏ったウマ娘だ。もしかすると、そういったオカルト事象にも詳しいのかもしれない。
「マックイーンの共有する継承と、あなたの"ANOI"*9は、『近似』。
でも、少しだけ、違う」
「そうなんですの?」
「アファーマティブ。マックイーンは、継承の儀式の、1年と約90地球日後に、継承に遭遇している。
でも、ミホノブルボンは……『ボイド』。まだ"PATH"は、通じていない……?でもこれは……ううんと……」
「えと、ミホノブルボンは、恐らくあなたの担当ウマ娘ですよね。
1月にある継承の行事はまだ未経験ですか?」
「ええ、その筈です。デビューは来年の予定ですから。
しかし、担当ウマ娘の名前を、私は告げていなかった筈なんですが……」
彼女の担当トレーナー曰く、ネオユニヴァースは時々、まだ共有していなかった情報を知っている事があるらしい。
それがどのような手段で為されているのかは推測の域を出ないが、前提となる条件を揃え、組み合わせる事で推測している。というのが、トレーナーの見解のようだった。
「……やっぱり、儀式はしていない?
でも、ミホノブルボンは、"SETI"*10を果たしているよ。
此処に、"WLE"*11があるね」
「……ミホノブルボンは、既に継承をしている?そしてそれが、……何か悪い影響を齎している、かもしれない。という事?」
「"MABTE"*12。でも、確信は……『ボイド』
影響が『未知』なんだ。そのベクトルも、運動量も、現時点では"ABSS"*13だから、先ずは、"可視である"を、したい」
「時期外れの継承による影響が良いものか悪いものか、それがどのくらいのものなのかを、調べるんだね。でも、どうやって調べようか。そう簡単に調べられるものではないし」
ネオユニヴァースのトレーナーの言う通り、継承とは一般に毎年1月に行われる行事の事を指し、それによって引き起こされる能力の向上、つまり、現象としての継承は公になっていない。
未だ解明の進まない事象の、更に例外を調べるのは困難を極めるだろう。
「やはり実地調査ですか、今回のメジロマックイーンさんのように、一人一人地道に聞いて回る。というのは」
「オカルトや学園の歴史、事情に詳しい人にポイントを絞るのも良いかもしれませんわね。例えばシンボリルドルフ先輩ですとか」
「"MAZY"*14だね。どのアプローチも、一定の成果を期待できる。
なら、ネオユニヴァースは……もっと"求める"をしたい。三女神像に、"METI"*15を試みるよ」
METI。
その意味の解読、解説のために彼女のトレーナーの方を向く。
だが今までとは一変し、トレーナーの顔は、少しだけ強張っていた。
「……待った、ユニ。それは少し危険が伴わないか?もしかしてだけど、自分を実験台に、継承を起こそうとしている?」
「アファーマティブ。そう」
「流石に賛成できない。自身のアスリート人生を、自らの意思で棒に振るかもしれないんだよ」
「アファーマティブ。可能性は0ではない。でも、"EQEX"*16だから。ネオユニヴァースも、"背負う"をしたい。ミホノブルボンと、同じだけのリスク。を」
ネオユニヴァースのトレーナーは、納得がいかない様子だった。
当然だろう、受動的にそれが起きたミホノブルボンと違い、彼女は自ら未知に飛び込もうとしている。無策でそれを為そうというのでは、私だって反対するだろう。
「勿論、"チャレンジャー号の教訓"は、ネオユニヴァースの中に生きているよ。"OBSS"*17を用意して、"双子星"で臨むよ」
「……相棒はどの星を選ぶ?」
「マーベラス。あの子が、適任」
心当たりがない。恐らくデビュー前の子だろう。
「マーベラス……シャカール……タキオン……。"交信"してみるよ、天の川の星々と。
"MUTX"*18が、推奨される、筈だから」
微かに微笑むネオユニヴァースは、私の目からも少しだけ楽しそうに見えた。
「わたし達は、互いの重力に惹かれ合う。"星系"が作れるね。
これはきっと、スフィーラ……!だね……!」