翌る日のカフェテリア。
そこでは、異様な三人組がティータイムを楽しんでいた。
側から見るだけでも、その雰囲気が奇妙な事は一目瞭然で、誰もその周囲には近付こうともしない。
その雰囲気作りの一端を担うウマ娘。
輝くような金髪のロングで顔を覆い尽くし、机に突っ伏しているネオユニヴァース。普段の彼女らしからぬ、また、その容姿からは想像し得ない行動が、場の異様さを加速させる。
そのネオユニヴァースを慰めるようにテーブルを囲むのはマーベラスサンデーとミホノブルボン。
一癖も二癖もある面子に、皆気圧されてしまっていた。
また、三人共話し方が独特な事で有名であった。
「墜落……ネオユニヴァースは、着陸出来なかった」
「まあまあ☆そんなに落ち込まずに〜ネオ。収穫もあったんだしマーベラス★」
「はい。タキオンさんも仰っていましたが、実験に失敗は付き物です。むしろ、この結果は想定の範囲内かと」
ネオユニヴァースとマーベラスサンデー、二人で臨んだ継承は、上手くいかなかった。三女神は望みには応えず、何も起こらなかったのだ。
だが、そもそも失敗する可能性、何も起きない可能性の方がずっとあり得た実験だ。珍しく落ち込むネオユニヴァースに対し、アグネスタキオンとエアシャカールは冷静に慰め、それはミホノブルボンとマーベラスサンデーも同様であった。
途中、マーベラス空間の展開による、三女神との接続が試みられる珍事こそあったものの、初回の実験としては成果は『ある』方だ。というのがアグネスタキオンの主張だった。
その後、何らかのインスピレーションを得たらしいタキオンと、他に予定のあったシャカールは"慰める会"には欠席している。
「着陸には時間が"MUST"……。早過ぎず、遅過ぎず、"その時"が来たウマ娘に、継承は起こる」
「そういう事★
あたしもネオも、タキオンもシャカールも、まだその時じゃない」
マーベラス空間上で何かを掴んだらしいマーベラス曰く、"今は時期じゃない"
失敗の原因とは、偏にそれであるという。
「つまり、一月の行事に参加しているか否かは関係なく、近くデビューするウマ娘であれば、誰しも継承は起こり得る。という事でしょうか」
「マーベラス☆ブルボンの言う通りだよ。
だからネオも落ち込まないで、あたし達もそのうち来るよ。今じゃないだけ★」
「スフィーラ……ネオユニヴァースは、"CMG"*1を起動させるよ」
机に頭を預けるのをやめてムクリと起き上がったネオユニヴァース。立ち直るのに少々時間を要したが、その表情は今を以って変化ない。
心なしか、おでこが少し赤いくらいだ。
「なんか意外かも。ネオも焦る事ってあるんだね」
「……焦る。ですか?」
可笑しそうにクスクスと笑うマーベラスサンデーに、ミホノブルボンは首を傾げる。
彼女は焦っている。と言われても、付き合いの短いブルボンにはピンと来ない。
「アファーマティブ。ネオユニヴァースは、"昇華"したい。したかった。
だから"HOPE"。"継承"が"SRBS"*2になると思った。
でも……」
「……失敗したから、がっかりしちゃった?」
こくりと頷くネオユニヴァース。対するマーベラスサンデーの瞳はしかして、一層キラキラと輝き出した。
慰める。とはまた異なる感情のようだ。これは、彼女が
「もしかして〜、ネオが強くなりたいのって、誰かの為だから。だったりする?」
「……エントロピーが、増大する。ネオユニヴァースは……少し"恥ずかしい"ね」
「キャー★ やっぱり!」
ミホノブルボンの耳がピクリと動いた。
珍しく頬を赤らめるネオユニヴァースに釣られて、マーベラスサンデーも興奮気味に身体をくねらせる。
「ネオがそんなに良い人を見つけるなんて……!とってもとってもマーベラス☆
焦っちゃう気持ちもマーベラス★」
「……ネオユニヴァースさんには、『その人の為に強くなりたい』という思いがあるのですか?
しかし、強さとは自分の為にこそなれど、誰かの為。になるのでしょうか」
「え~?ブルボンだっているでしょ?
あたしには分かるよ。ブルボンにも
「私にも……ですか?」
「アファーマティブ。ネオユニヴァースにも、観測できる。
ミホノブルボンにもわたしと同じ、"二連星"のシンチレーションがある」
暫く考え込み、ミホノブルボンは首を振る。
ブルボンにとって、己の強さはあくまで己の為のものだ。自分が強さを求めるのだとしたら、それは自分の為だ。それ以外思い付かない。
「でもでも、まだまだマーベラスは始まったばかり☆
これからゆーっくり、育んでいくものだからね」
「"楽しみ"に、してるね」
既に"答え"を知っているらしい二人。
しかし、ミホノブルボンはその答えを聞く事はしなかった。
これは恐らく、自力での解決が望まれるものだと分かっていた。
"誰かの為に求める強さ"
今までとは趣の異なるそれを、今後のタスクとして胸に留めつつ、何だか気恥ずかしさを覚える話題から逸らし、否、軌道修正の為に、継承の話に戻す。
僅かな体温の上昇は、しかして誤差の範囲だとして考慮しない事にした。
「継承はね、多分"気にしない"のが一番だと思うよ」
「気にしない……ですか?ここまでずっと調査して来たものですが」
「スルーが、推奨される……?それは、"ブラックホール"の解明に、現状では不足だから?」
「うん。今回ので分かった事もあるけど、大半の事は"分からない事が分かった"だけ。人による所も大きいみたい?
だから徒労に終わる事だってある」
暴かない方が良い
今回のは、まさにそういうモノらしい。というのがマーベラスサンデーの言だった。
「それに〜……ブルボンの継承はもう済んでるんでしょ?
だったら、後はトレーニングあるのみってあたしは思うな。来年デビューするなら尚更ね」
「確かに、確実性の低い継承よりも、一歩ずつでも確実に強くなれるトレーニングをこそ、私たちは取り組むべきなのでしょう」
「! そうと決まれば!一緒にトレーニングしよう!
直近で良い日は〜……23日!どう?」
「今後の予定を検索……。
すみません。12月23日はトレーニングを休み、マスターと一緒に中山競馬場にレース観戦へ行く予定となっています」
「中山……つまり、ターゲットは彼女。だね」
「はい」
ちょうど、カフェテリアのテレビが、その抽選会を映している。
そこではオグリキャップが、「8」と描かれたボールを掲げていた。
4枠8番。それがオグリキャップに割り振られた枠順であった。
「ラストラン。オグリキャップさんの最後のレースを、見届けに行きます」
一つの時代が終わろうとしている。
オグリキャップという歴史が今、終わろうとしている。
情熱とは、ただ一つの種火にて持続するものではない。
ミホノブルボンも、そして、トウカイテイオーも、また、此処に居る皆々も、オグリキャップという炎を受けて、情熱を継ぎ、そして自らもまた炎となりて次代の熱を継がんとするのだ。
本音で言えば戦いたかった。
だがそれが例え叶わぬとしても、せめて会って、一言声をかけたかった。
ついにその日はやってくる。
第35回有マ記念。私たちは、伝説を観る。