サイボーグ、乙女回路増設中   作:補陀落はくろ

6 / 6
ミッション「慰める会」

 翌る日のカフェテリア。

 そこでは、異様な三人組がティータイムを楽しんでいた。

 側から見るだけでも、その雰囲気が奇妙な事は一目瞭然で、誰もその周囲には近付こうともしない。

 

 その雰囲気作りの一端を担うウマ娘。

 輝くような金髪のロングで顔を覆い尽くし、机に突っ伏しているネオユニヴァース。普段の彼女らしからぬ、また、その容姿からは想像し得ない行動が、場の異様さを加速させる。

 

 そのネオユニヴァースを慰めるようにテーブルを囲むのはマーベラスサンデーとミホノブルボン。

 一癖も二癖もある面子に、皆気圧されてしまっていた。

 また、三人共話し方が独特な事で有名であった。

 

「墜落……ネオユニヴァースは、着陸出来なかった」

「まあまあ☆そんなに落ち込まずに〜ネオ。収穫もあったんだしマーベラス★」

「はい。タキオンさんも仰っていましたが、実験に失敗は付き物です。むしろ、この結果は想定の範囲内かと」

 

 ネオユニヴァースとマーベラスサンデー、二人で臨んだ継承は、上手くいかなかった。三女神は望みには応えず、何も起こらなかったのだ。

 だが、そもそも失敗する可能性、何も起きない可能性の方がずっとあり得た実験だ。珍しく落ち込むネオユニヴァースに対し、アグネスタキオンとエアシャカールは冷静に慰め、それはミホノブルボンとマーベラスサンデーも同様であった。

 

 途中、マーベラス空間の展開による、三女神との接続が試みられる珍事こそあったものの、初回の実験としては成果は『ある』方だ。というのがアグネスタキオンの主張だった。

 その後、何らかのインスピレーションを得たらしいタキオンと、他に予定のあったシャカールは"慰める会"には欠席している。

 

「着陸には時間が"MUST"……。早過ぎず、遅過ぎず、"その時"が来たウマ娘に、継承は起こる」

「そういう事★

 あたしもネオも、タキオンもシャカールも、まだその時じゃない」

 

 マーベラス空間上で何かを掴んだらしいマーベラス曰く、"今は時期じゃない"

 失敗の原因とは、偏にそれであるという。

 

「つまり、一月の行事に参加しているか否かは関係なく、近くデビューするウマ娘であれば、誰しも継承は起こり得る。という事でしょうか」

「マーベラス☆ブルボンの言う通りだよ。

 だからネオも落ち込まないで、あたし達もそのうち来るよ。今じゃないだけ★」

「スフィーラ……ネオユニヴァースは、"CMG"*1を起動させるよ」

 

 机に頭を預けるのをやめてムクリと起き上がったネオユニヴァース。立ち直るのに少々時間を要したが、その表情は今を以って変化ない。

 心なしか、おでこが少し赤いくらいだ。

 

「なんか意外かも。ネオも焦る事ってあるんだね」

「……焦る。ですか?」

 

 可笑しそうにクスクスと笑うマーベラスサンデーに、ミホノブルボンは首を傾げる。

 彼女は焦っている。と言われても、付き合いの短いブルボンにはピンと来ない。

 

「アファーマティブ。ネオユニヴァースは、"昇華"したい。したかった。

 だから"HOPE"。"継承"が"SRBS"*2になると思った。

 でも……」

「……失敗したから、がっかりしちゃった?」

 

 こくりと頷くネオユニヴァース。対するマーベラスサンデーの瞳はしかして、一層キラキラと輝き出した。

 慰める。とはまた異なる感情のようだ。これは、彼女が輝き(マーベラス)を見つけた時のそれと同じであった。

 

「もしかして〜、ネオが強くなりたいのって、誰かの為だから。だったりする?」

「……エントロピーが、増大する。ネオユニヴァースは……少し"恥ずかしい"ね」

「キャー★ やっぱり!」

 

 ミホノブルボンの耳がピクリと動いた。

 珍しく頬を赤らめるネオユニヴァースに釣られて、マーベラスサンデーも興奮気味に身体をくねらせる。

 

「ネオがそんなに良い人を見つけるなんて……!とってもとってもマーベラス☆

 焦っちゃう気持ちもマーベラス★」

「……ネオユニヴァースさんには、『その人の為に強くなりたい』という思いがあるのですか?

 しかし、強さとは自分の為にこそなれど、誰かの為。になるのでしょうか」

「え~?ブルボンだっているでしょ?そういう人(マーベラス)

 あたしには分かるよ。ブルボンにもそういう人(マーベラス)、いるよ?」

「私にも……ですか?」

「アファーマティブ。ネオユニヴァースにも、観測できる。

 ミホノブルボンにもわたしと同じ、"二連星"のシンチレーションがある」

 

 暫く考え込み、ミホノブルボンは首を振る。

 ブルボンにとって、己の強さはあくまで己の為のものだ。自分が強さを求めるのだとしたら、それは自分の為だ。それ以外思い付かない。

 

「でもでも、まだまだマーベラスは始まったばかり☆

 これからゆーっくり、育んでいくものだからね」

「"楽しみ"に、してるね」

 

 既に"答え"を知っているらしい二人。

 しかし、ミホノブルボンはその答えを聞く事はしなかった。

 これは恐らく、自力での解決が望まれるものだと分かっていた。

 

 "誰かの為に求める強さ"

 今までとは趣の異なるそれを、今後のタスクとして胸に留めつつ、何だか気恥ずかしさを覚える話題から逸らし、否、軌道修正の為に、継承の話に戻す。

 

 僅かな体温の上昇は、しかして誤差の範囲だとして考慮しない事にした。

 

「継承はね、多分"気にしない"のが一番だと思うよ」

「気にしない……ですか?ここまでずっと調査して来たものですが」

「スルーが、推奨される……?それは、"ブラックホール"の解明に、現状では不足だから?」

「うん。今回ので分かった事もあるけど、大半の事は"分からない事が分かった"だけ。人による所も大きいみたい?

 だから徒労に終わる事だってある」

 

 暴かない方が良い遺跡(もの)もある。

 今回のは、まさにそういうモノらしい。というのがマーベラスサンデーの言だった。

 

「それに〜……ブルボンの継承はもう済んでるんでしょ?

 だったら、後はトレーニングあるのみってあたしは思うな。来年デビューするなら尚更ね」

「確かに、確実性の低い継承よりも、一歩ずつでも確実に強くなれるトレーニングをこそ、私たちは取り組むべきなのでしょう」

「! そうと決まれば!一緒にトレーニングしよう!

 直近で良い日は〜……23日!どう?」

「今後の予定を検索……。

 すみません。12月23日はトレーニングを休み、マスターと一緒に中山競馬場にレース観戦へ行く予定となっています」

「中山……つまり、ターゲットは彼女。だね」

「はい」

 

 ちょうど、カフェテリアのテレビが、その抽選会を映している。

 そこではオグリキャップが、「8」と描かれたボールを掲げていた。

 4枠8番。それがオグリキャップに割り振られた枠順であった。

 

「ラストラン。オグリキャップさんの最後のレースを、見届けに行きます」

 

 一つの時代が終わろうとしている。

 オグリキャップという歴史が今、終わろうとしている。

 

 情熱とは、ただ一つの種火にて持続するものではない。

 ミホノブルボンも、そして、トウカイテイオーも、また、此処に居る皆々も、オグリキャップという炎を受けて、情熱を継ぎ、そして自らもまた炎となりて次代の熱を継がんとするのだ。

 

 本音で言えば戦いたかった。

 だがそれが例え叶わぬとしても、せめて会って、一言声をかけたかった。

 

 ついにその日はやってくる。

 第35回有マ記念。私たちは、伝説を観る。

*1
Control Moment Gyroscopes. 人工衛星の姿勢制御装置

*2
the Space Shuttle Solid Rocket Boosters.スペースシャトル固体燃料補助ロケット。シャトルの発射を支える為の2本のロケット

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。