Area50 ──50番目の未踏領域──   作:MIKKA

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(1)訓練開始とハプニング発生

 

 ()()()5()0()」探索()()()()として()()()()()()の行われるこの日。

 

 夜明けを控えた森の入口には調査部隊の隊員達三十名余りが集まっていた。

 

 

 

 部隊の長を務めるのはこのリシャレア王国王女サンドラ

 金色に染められた髪を結ぶ彼女の背丈は、周りの男たちにも見劣りしない。

 小麦色に日焼けした肌、蒼い瞳、切れ長の鋭い目つき、長い手足。

 細身の体つきだが背筋や腹筋、腕などはまるで戦闘部族のように鍛えられている。

 

 

 まだ弱冠十六歳の彼女は、祖父である現国王の深い寵愛を受ける孫娘でありながら、王族一の開拓精神で知られる勇敢な冒険家でもあった。

 サンドラ王女は、軍の一個小隊クラスの人数、それも強者のベテラン達を前にしながら怖気づくことなく気を保っていられた。

 

(わたしが……わたしこそが、二つに分かたれたこの国の全土統一を成し遂げてみせる!)

 

 王女の胸中には、かつて一つだったもののいつしか分断されてしまった祖国への想いがあった。

 

 *

 

 リシャレア王国

 50に別れた行政区画のうち最北の区域、「エリア50」

 広い森と湖で知られ、()()()()()()()()()()()()()()()()ようだが、いつしか原因不明緑色の濃い霧が覆いつくし立入困難になった。

 以後、300年間ずっと域内は謎に包まれており、未踏の土地となっている。

 そればかりか、霧は他区画へも拡大を続けてゆき、いつしか国土の半分を飲み込んだ。

 今では飲み込まれた複数のエリアを総称した俗称となっている、それが「エリア50」である。

 

 

 王女がこの地の探索を望む理由。

 それはリシャレア王国の低迷である。

 

 濃霧の拡大により国土の半分を失ったリシャレア王国は他国に比べて経済成長率が低く、都市にも農村にも失業者が溢れている。

 緑の霧は今も広がり続けており、霧のすぐそばの北部地域に今も残る人たちの心中は「いつ自分の居場所が飲み込まれるかわからない」と穏やかではない。

 霧や霧に伴う閉塞感を嫌った多くの人たちが南下を志すも、多くが職にありつけずに餓死している。

 そしてそれとは対照的に、霧から遠い南部地域は見た目上においては繁栄を遂げている。

 元々王都や主要都市の多くが南部に位置するこの国の議会や有力者は、「遠くの北部地域より自分の住む地域の発展が大切」と考え、南部の振興にのみ注力してきたのだ。

 結果、南部には幾つもの見上げるビル群が鎮座し、近代国家の様相をなしている。

 しかし眼下を見れば、路上生活者求職者が行く宛もなく項垂れているのが当たり前の光景となっていた。

 

 

 サンドラ王女は南部の宮殿に住んでおり恵まれた暮らしを謳歌しながらも、各地の求職者のいたたまれなさや、霧の迫る北部の状況を憂いていたのだ。

 権力的にトップとはいえない王女という立場では彼らを今すぐに助けることは難しいが、それでも恵まれた暮らしによって積み上げてきた資産を元手に、王女自ら「エリア50」探索を行うことによって事態打開への糸口を見つけたいと考えていた。

 

 

 サンドラ王女は周囲にかけられた言葉を思い返す。

 

「お前の考えは無謀だ」

国王でさえ有効打に欠けるのだから」

自然現象に太刀打ちできるわけがない」

「濃い霧に加えて気温も低く、危険だ」

 

 彼らの言い分は全くもって正論であり、わからなくはない。

 しかし彼女には、かつて「エリア50」へ挑み、唯一帰還を成し遂げた者への憧れがあった。

 冒険家、エンシオ=アウノラ。

 王女にとって、彼の存在こそが「エリア50」を諦めきれない理由であった。

 

 

 

 十三年前。

 当時二十八歳だったエンシオ=アウノラは、霧を通り抜け「エリア50」より帰還後、その年のうちに人知れず姿を消すまでの間に多くの画と書を残した。

 曰く、霧を抜けた先には……幻想的な森と湖、現在のリシャレア領のものとは異なる特徴を持つ生態系、幾つもの支流網へと続く利用価値を秘めた大河、豊富な鉱山資源。

 これらが、手つかずのまま残されているという。

 エリア50内部の状況と利用価値の可能性を僅かではあるが明らかにしたアウノラの功績に、サンドラは強い憧れを抱いていた。

 彼が偉大な成果を残した事実が王女の心の支えとなっていたのだ。

 

いつか自分もアウノラのように「エリア50」を冒険し、リシャレア王国を救うんだ……優れた冒険家である彼に出来なかったことでも、きっと私なら)

 

 不可能を成し遂げたアウノラの偉業はサンドラ王女に大きな勇気を与えていた。彼を思うだけで心の傷が楽になるほどに。

 いつしか、王女は意図せず笑みを浮かべていた。

 

 *

 

「何笑ってるんですか、王女殿下」

 

 サンドラ王女は完全に妄想の世界にトリップしていたが、耳元で女性が囁く声が聞こえたことにより一瞬で現実世界に戻らざるを得なかった。

 

「あああいえええ? どうかしまひた?」

 

 

 そう言いながら慌てて振り向くとそこには幼馴染のボーイッシュな少女が立っていた。

 麦畑のような金色の長髪雪のような白い肌、整った顔立ちに大きな瞳。細身な身体。

 背丈はサンドラよりもさらに一回り高い。

 髪が長いのにどことなく男装も似合いそうなかっこよさを備えた彼女は名をレーナといい、冒険隊では(サンドラを除けば)唯一の女性隊員でもある。

 レーナは慌てるサンドラを笑って面白がった。

 

「その反応は傑作だよサンドラちゃん……あははw 何度呼んでも答えないと思ったらw」

「レーナか。ちょっと考え事をしていてね、すまなかった」

「もっかい見せて下さいよw さっきの反応」

「早いとこ忘れてくれ」

 

 調子づくレーナに対してサンドラはすぐに真剣な表情に戻ってしまった。

 レーナはそれを残念がった。

 

「ちぇー、殿下ってば真面目ちゃんなんだから。もう少し恥ずかしがってくれても良いのに表情すぐ戻っちゃってさ」

「君はそうやっていつも面白がっているけれどもだな、私は歴とした王女なのだぞ。緩んだ姿を晒せば皆の士気に乱れが出る」

「じゃあさわたしがフランクに話しかけてるのは良いわけ? 幼馴染だから?」

「ああ……それにレーナにはいつも感謝してるしな」

 嫌々そうに感謝を告げたサンドラに対し、レーナは嬉しそうだ。

「へへ、そんなふうに思っててくれてるなんてぇー、嬉しいなっ、なんちゃって」

「……あんまり調子に乗らないで貰いたい」

「はいはい。そういう反応も可愛いのがサンドラちゃんの良いところなんだよにゃー」

「おだてたって何も出ないぞ。そこらで終いにしてくれ」

 

 レーナは釘を刺されてからも嬉しそうなのは変わらず、他の隊員の元に話しかけるためにサンドラの元を離れていった。

 サンドラは、そんなレーナの様子をしんみりと眺めた。

 彼女にはレーナの陽気さや活発さに救われてきた自覚か強くあった。

 そして、そんなレーナが自らの部下として隊に入隊し、盛り上げ役まで買って出てくれ、隊員の雰囲気が良くなりつつあることを好意的に受け止めていた。

 

(私も冒険家として大きな成果を挙げたい。レーナみたいに優れた部下もいるわけだし。いけるはず……!)

 

 

 それから程なくして、出発の予定時刻がやってきた。

 30名ほどの隊員は、皆一様に引き締まった表情をしている。

 この森はリシャレア王国の最北部のすぐそばに位置しており、縦断仕切ってしまえば目の前には霧の壁がひろがる。

 つまり、すぐそばに「エリア50」があるのだ。

 「エリア50」の霧が広がってしまえば、たちまちあたりは視界不良になり、訓練の継続は極めて困難になる。

 そのため、油断は禁物だ。

 

 

 *

 

 

「さあ、行こうか」

 

 サンドラ王女の号令により、部隊は森の入口へと向かっていく。

 全員が鎧を纏い、ある者は馬に騎乗、別の者は馬にそりを引かせた。

 強力な編成であり離れたところから見ても圧巻だっただろう。

 

 

 隊員達は人里離れた森の中を突き進んでいく。

 森の中には馬の蹄鉄が地面を蹴り上げる音がこだましていく。

 だが、勢いの良い音とは対照的に光景自体は地味だ。

 道中では、ヒグマやオオカミ、グズリなどさまざまな野生動物と遭遇した。

 決められた通りに隊員の弓矢が構えられるものの、彼らは各々に暮らしているだけだ。

 隊を襲う様子はないので、特に接近を試みることなくスルーする。

 縦断訓練は、だんだんと天を昇っていく太陽のように、開始して暫くは順調だった。

 しかし、ふと木々の奥から不気味に物音が聞こえ、それは近づいていく。

 

 ふと、レーナが自らのを見て不思議そうに呟いた。

 

「切り傷……? いつの間に……!?」

 

 彼女の腕には一直線にが入り、鮮血が滲んでいた。

 

 

「あれを見ろ!!」

 一人の隊員叫びにより隊員たちは頭上の空を見上げた。

 彼らは戦慄する。

 ()()()()()()()()()()

 見上げるほど大きな、見たこともない謎の獣だ。

 人の背丈の何倍もの巨大な体躯を誇るソレは悠然と立ち尽くし、こちらを見下ろしている。

 

「『ユニーク』」

 

 王女が呟く。

「──あれこそ、アウノラの書にあった獣」

 獣は空に溶けるような青色で、体は見るからにイノシシのような形をしていたが、それとは明らかに異質な何かだった。

 ()()()()()()()()()が頭部から鼻先までを覆っていて、六本生えているように見える。

 獣の足元に、だんだんとがたちこめていく。

 

「あれは、魚!?」

 

 からは魚の群れが、に乗って向かってくるように見えた。

 空飛ぶ魚。

 

「うわぁぁ……!!」

 

 一人の隊員が叫ぶ。

 彼を魚群が啄んでいる。

 傷が入って蝕まれていく男の体は、たちまち宙に浮かされると魚が元いた方へと持っていき、王女からは見えなくなった。

 振り返ると今度は隊員の一人が腕を引っ張られている。

 サンドラは叫んだ。

「魚へを打って! 早く!」

「魚? 何も見えないぞ?」

「見えない? ()()()()()()()()()()

「後でいいだろ? が強くてそれどころじゃねえ」

「風は……確かに強いけれど……そうじゃなくて!!」

 

 

 しかし、悲劇はこれだけでは終わらなかった。

 達は次々と隊員を狙う。一人、また一人と装備が割かれて傷が入っていき、ある者は身体が宙に浮かんでいく。

「お願い、もうやめて!」

 王女は魚の大群に向かって叫び、部隊は必死に逃げ続けるが、被害は止まる事を知らない。

 何人も浮かんでいく。

 しかし、隊員達には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 代わりに彼らが感じ取ったのは暴風の恐怖。

 

殿下貴方に何が見えているかは私達には分かりません。しかし一つの事実として、が我らの隊員を攫っている。ここは……」

「ええ。逃げましょう」

 

 王女と一同はただ逃げる以外になく、全速力で馬を走らせて隊員達が連れ去られたその場所から離れていく。

 なだらかな斜面を必死に登り、獣との距離を稼ぐ。

 

 

 数十分逃げ回ると、高い土地のせいか()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そこまで走りつづけてやっと獣達は諦めたようで、気づくと姿はなくなっていた。

 

 結局、先頭を急ぐ王女や側近たちこそ無事であったが。

 行方不明者七名、負傷者十一名。

 後方の隊員達七名が、魚達の急襲によって連れ去られ帰らぬ人となってしまった。

 王女の心は悔しさでいっぱいになる。

 それを押し殺して出てくるのは一言が限界だった。

 

「皆、すまない」

 

 謝るサンドラに対し、黙り込むことしかできない隊員たち。

 

「みんな顔を上げて」

 重い空気の中で、ただ一人口を開いたのはレーナだった。

 

「今の状況は最悪だ……七名が風によって連れ去られ、わたしを含め多くの者たちが怪我を負った。王女殿下も、皆をここに連れてきたことを悔いている」

 

 レーナの言葉によって、隊員の視線がサンドラ王女一人に集中する。

 彼女涙目を浮かべ、隊の皆がみたこともないほど憔悴していた。

 

 

「だが、それでも希望はある」

 

 レーナが呟く。

 ()()()()()()()()()()()()()()

 レーナ力を込めて宣言した。

 「わたしたちが目にしたものは、霧の向こうに()()()()()()()()()()()()()という証拠だ。……かのエンシオ・アウノラが記述した通り、「エリア50」には()()()()()()()()()が必ずある」

 






 世界の情報
 1. サンドラ=フォン=リシャレア

 リシャレア王国の王女兼冒険家。
 十六歳。
 現在のリシャレア王国は東西南北の各部と最北部(「エリア50」)の5地方で構成されているが、最も繁栄を極める南部の宮殿に暮らしている。
 危険が多く王族本来の務めではない冒険家業の許しを得られているのは、王位継承順位が伯父・アーロン皇太子と従姉・レベッカ王女に続く三位であり、王になる可能性が低いためである。
「エリア50」探索の姿勢を見せない議会の姿勢に反発していることで政治的に微妙な立場になるも、祖父・クラウス現国王には寵愛されている。
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