私が望むとき、仮面ライダーは蘇る   作:妄想作家

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 悪魔の声が響いたとき、既に僕はこの街にいた。眼の前に立つナニカは名も知らぬ少女を素材とすることで新たな世界に降り立つ計画を嬉々として話し、ただの隷属する亡霊でしかなかった僕はただ怨敵に加担してしまった。

 自由意志はなく、平和を砕くだけの燃え滓になった自分には、戦う資格も並び立つ資格もない。

 一歩間違えば手にかけていたかもしれない少女……彼女はルリ子さんと力を合わせることでこの身体に嵌められた首輪を解いたようだ。

 だが、元々闘争の果てに襤褸切れのように、骸骨のように生きる意思を削がれたこの身体ではもう立つことはできない。足も手も言うことを聞かない。壊れたマスクも、ただ愚か者の男の素顔を覆い隠してくれるだけ御の字という状態だ。

 一文字。ルリ子さん。僕はこのまま、死ぬ方がいい。助けなくても良い。何もかもを裏切った男にもはや筋を通す力も資格もない。

 本郷の頭の中に渦巻く後悔の念は、深く楔を打ち、自分で自分の心を潰すかのようだ。

 それでも、一つだけ。彼のなかで後悔以外の想いがある。

 彼女を元の世界に帰したい。彼女は、この因縁に関係のない、明日を生きる若人を犠牲にしたくない。

 復讐者の中に芽生えたこの想いは、沈まずに心の真ん中に根を張っている。


 ―何を迷っている? ―

「……誰だ? 誰の声だ」

 ―俺のことは誰だっていい。今はあまり時間がない―

 本郷の心に響く謎の男の声は、急かすように彼に語りかける。

 ―盗み見るようで済まないが、君の記録を観させてもらった。俺には、君の心情を真に分かってあげられることはできない……。確かに君は、君にとっての大きな間違いを犯したようだ。最後まで足掻き、踏ん張った先で、約束を果たせなかったことを、ずっと後悔している―

 名も知らぬ男の声は、本郷の心の柔らかい所を抉るように彼の後悔を言葉にして、再認識させてくる。

 ―復讐の焔を心に宿し、アヴェンジャーとして奴らの手駒になってしまった。それでも、君の仲間はそんな君を見捨てずに、君のことを信じてその首輪を解き放った。それが何故かわかるか? お前が本郷猛だから信じて命を懸けてくれたんだ。一度仮面ライダーの名を背負いたちがある決意をしてくれたお前だからこそだ。―

 自分の中の諦念を突きつけ、それでいて再起を呼び掛ける声に、本郷は段々と自分の中で新たな炎が燃え上がるのを感じる。

 ―彼女の信頼に応えたいなら、『彼女』のことを救いたいなら、ここで諦めるな! 。諦めてしまっては、また後悔しか残らない。復讐者で終わってはいけない。今必要なのは、それでも立ち上がる決意だ。本郷猛、君はまだ立ち上がれるはずだ―

 復讐ではなく、信頼という名の継ぎ火。

「僕は、どうすればいい。まだ何かできるのだろうか」

 ―できる―

「僕は……もう一度仮面ライダーを名乗る資格が……あるのか」

 ―人々の自由と平和を守る戦士であれば、それでいい。さぁ、立て、本郷猛。お前にはまだやるべきことがある。我らとショッカーの因縁に巻き込んでしまった若人を助けられるのは、俺たちしかいない―

「家に、帰す……」

 ―そうだ、迷子の子どもの手を引き、先導する。先を生きる命の火が、後に続く子どもたちの希望の灯火になる―

 ―もう一度、立ち上がり、戦う決意をした君にならば、力を貸すことができる。―

 その時、彼の心を覆い尽くしていた闇は霧散し、草原の果てから青空が始まる。まるで、ずっとそこにあったように感じる。風が鳴いている。風になびく草原のが心を揺らし、青空は広がり続ける。

 ―行こう。本郷猛……いや、仮面ライダー第1号―

 あぁ、行こう。

 彼は、風に背を押されるまま歩き出す。その一歩はやがて駆け足となり、風と一つになる。

 ―さぁ、変身だッ! ―







逆:纏

「おい! 本郷の方はどうなってる!」

 

「存在の自己矛盾を引き起こしてフリーズしてる。なにかキッカケがあれば起こせる、と思う」

 

 ルリ子は本郷の状態を確認した後、仰向けに寝かせてベルトとマスクに手を翳す。

 

「じゃあ、なんとか早めにしてくれねえか? そっくりさんたちならまだしも、この化け物達をまとめて相手してちゃ撤退すらできん!」

 

「クモ、サソリ、ハチ。俺の知っているSHOCKERのオーグとはまるで違う! 一体何なんだコイツらは!」

 

 一文字たちが藤丸の奪還に飛び込んできたときには、取り囲むのはショッカーライダーのみ。彼らの戦闘経験と性能をもってすれば雑兵もいいとこ、苦戦などするはずもないが、生き残った3人のショッカーライダーは突如として頭を抑え、呻き、痛みに苦悶の声を上げた。すると、彼らのマスクは内側から砕け、スーツは爪の生えた手で自ら引き裂き、皮を破り捨てるようにして新たな姿へと変わった。

 

 蜘蛛男、蜂女、蠍男。

 

 自らをそう名乗った怪人は、先程よりも上昇したその肉体の性能を十二分に発揮して仮面ライダーとサーヴァントに対して反撃を始めたのだ。

 

 奇しくも彼らの知るオーグと同じモチーフであるが、自分たちの知るオーグよりも、より怪物としての意匠が強い怪人たちは、一文字やイチローたちを遥かに凌駕する怪力を持って二人を翻弄する。

 

「我らショッカーに歯向かう愚か者どもめ! 死ねぇ!」

 

 蠍男の吹きかける溶解液を紙一重で躱す一文字は、溶解液のかかって溶け崩れる調度品を見て戦慄する。

 

「俺の知ってるサソリよりも強力な毒を持っているようだな……!」

 

 イチローはSHOCKERにいた頃の記録を遡るが、ここまでの威力ではなかったことに気づく。

 根本的に何か、設計思想が違う。

 

「SHOCKERはこんな奴らまで作ってたなんて知らねえぞ! こきつら一体どこから湧いて出てきた!」

 

「知らん! そもそも俺の知るSHOCKERのどのチームのコンセプトからも逸脱している!」

 

「お前が知らねえなら、こいつ等本当に何なんだ!? ほんっとうにもう嫌になる……!」

 

 第0号としての性能をフルで使えば、応急処置で繋ぎ止めた体が崩壊しかねないために全力を出しきれないイチローは、蜂女の振るうサーベルの切っ先をいなし、毒針を躱す。

 

 蜘蛛男はオベロンとアルトリアの二人をカドックが指揮しているが、なんとか捌いている状況だ。その均衡もあと数分で崩れてもおかしくないほど、蜘蛛男の蜘蛛糸による妨害と撹乱に翻弄されている。

 

「オベロン、蜘蛛糸の射線をズラせ、敵と位置取りをかぶせろ!」

 

「簡単に言わないでよ! タイマンって苦手なんだからさ!」

 

 オベロンは相手の死角から奇術師のように攻撃を繰り出し、出鼻を挫くことで蜘蛛男の攻撃に対応しようとしている。が、しかし、蜘蛛男にはモチーフ元の蜘蛛のように複数の目がその顔に備わっている。

 オベロンは攻撃のパターンを変えながら死角を探っているが、多眼ゆえの有利さを多分に活かしている蜘蛛男を相手に優勢を取るにはにはまだまだ時間がかかりそうだった。

 

「我らショッカーの崇高な目的のために、貴様たちには犠牲になってもらうぞ!」

 

 蜘蛛糸を吐きオベロンを捉えようとするが、アルトリアの放つ魔力刃でそれらはことごとく失敗している。しかし、魔力は無限ではない。それも数が重ねれば負担が大きくなり、いつかは放つことも出来なくなる。

 蜘蛛男は狡猾だ。獲物の状況を見定め、的確に弱点を抉り続ける。

 ショッカーの科学力が生み出したこの強靭な体と蜘蛛の特性があれば、奴らの攻撃をいくら食らったところで雀の涙でしかない。

 

 今はただ、獲物が弱るその時を、網を構えて待ち構えている。

 

 

 

 アヴェンジャーのマスクに手を翳しながら、額に脂汗を浮かべてルリ子はその瞳を青く輝かせる。

 

『ルリ子さん! なにか今の私達にできることってないの!?』

 

「今の私では無理。正直生前ならまだしも、キャスターのガワのせいで今の私には戦闘はからっきし!」

 

『そ、それじゃあどうすれば……』

 

「策がないわけじゃない。今のこの状況を打破するには、彼のプラーナを呼び起こせれば、きっと……」

 

 疑似サーヴァントとして顕現しているルリ子は、生前ではできなかった技能が一つある。振動を2つ合わせると増幅するように、藤丸と自身のプラーナを複合してパリハライズの出力を飛躍的に上げるという技能だ。

 彼女の疑似サーヴァントとしてのスキルとして昇華された、生体コンピュータとしての精密さとパリハライズを組み合わせ、アヴェンジャーの目を覚まそうとしていたのだ。

 ルリ子の言葉を聞き、一文字は彼女に託すことに決めた。彼にとってルリ子との付き合いはほとんどないといってもいい。しかし、自身の洗脳を解き、マフラーを託してくれた彼女の言葉を信じるには、一文字にとってはただそれだけで十分だ。

 

「頼むぜ、本郷」

 

 一瞬ではあったが、改造人間としての視力で見えた、仄かに光る複眼を見た一文字は祈った。

 

 神頼みなんて性に合わないと普段なら一蹴する彼が、今はただ本郷の帰還を祈っている。

 だが、その間も、蠍男の溶解液は、的確に彼の神経を疲弊させていた。

 

「俺たちは、1人じゃないって言ったろ!」

 

 あのトンネルの中、自らの宣誓を聞いた本郷が呟いたものを彼は今も心に留めている。

 

「俺とお前、二人でダブルライダーって、お前が言ったんだ!」

 

 体を翻して溶解液を避けた先、一瞬でも目を外してしまった一文字が失策を悟り蠍男の方を向いたときには、既に蠍男の一手が迫っていた。

 

 

 振り向いた一文字は、スロー映像を見るかのように、迫りくる爪を見ていることしかできなかった。ついに一文字はマスクへの直撃を許してしまい、複眼が割れて、その欠片が彼の額と頬を切る。

 

 

「一文字!」

 

 イチローが呼びかけるも、一文字は頭部へのダメージによりふらついており、膝を付き今にも倒れそうだ。

 

「……あ……ぁ」

 

 夕焼けよりも真っ赤だ。いや片目だけだ。なら半分か。

 

 血が流れてるのか。眼に入ったようだが、欠片で失明しなかっただけマシか。

 

 一文字は飛びかけた意識のなかで、混乱した思考が奔る。

 

「バッタごときが……飛び跳ねてばかりでいい加減飽きてきたわ」

 

 蠍男がその手の爪で本郷の頸を挟み持ち上げる。マスクを砕くほどの怪力に締め上げられれば、オーグの耐久力があっても切断することは容易いだろう。

 

「一文字! クソっ! 貴様、そこをどけぇッ!」

 

 イチローは、霊基に鞭打ち、両手を突き出し、プラーナの波動を放つ。

 

 しかし、蜂女は新体操を思い出させる身軽さでその隙間を掻い潜り懐に飛び込んだ。

 

「お友達がピンチになった途端にこの有様。本当にそれでもSHOCKERのトップにいた男?」

 

 蜂女がここで選んだのは殺害用の毒ではない。このさじ加減一つで止めをさせる状況において、あえてここで神経麻痺の毒針を打ち込んだ。

 

 体を痙攣させながら、イチローが膝から崩れ落ちる。様を見て蜂女は嗤う。

 

「いち、もんじ……!」

 

 なんとか声を振りしぼったイチローの胸部へ、蜂女は、つま先を抉るように蹴り込む。足を振り切った姿勢から、ポーズを取り、彼女は愉快そうになおも嗤い続ける。

 

「兄さん!」

 

 ルリ子が藤丸の声で呼びかけるもイチローの体には麻痺が残っており、なんとか起き上がろうとする彼の動きは緩慢になっている。

 

 ギリギリと一文字の首を絞める蠍男。

 

 サーベルの切っ先を向け、四つん這いの状態で震えるイチローへ歩み寄る蜂女。

 

 隙をつき、アルトリアの杖を糸で絡め取り、漸く捕まえたオベロンへ向けてその剛腕を振り下ろそうとする蜘蛛男。

 

 先程までの威勢が嘘のように、たった3人の怪人に逆転された。

 

 藤丸立香という少女を助けるために、彼女は今できることを模索する。だが、今の私は緑川ルリ子であって、サーヴァントでしかない。自身の頭脳から出る答えは、彼我の性能比較と変わらない結末の予測のみ。

 

 イレギュラーが重なりすぎている。もはや彼女には、眼の前で横たわる男へ祈ることしかできない。

 

 その時、アクセルを吹かす、心を奮い立たせるエンジンの嘶きが聞こえた。それは幻聴でもなんでもなく、この場にいる全員に聞こえる音だった。

 

「なんで、どこから……」

 

 さらなる異変に先に気づいたのは蜘蛛男だった。オベロンの鮮やかな羽を掴みその頭を握りつぶそうとしたときに、蜘蛛男の複数備わった目は、もはや身じろぎ一つもしない本郷の方へと向けられた。

 

「……なんだ。なんたこの胸騒ぎは」

 

 イチローと一文字のバイクは、戦いのさなかで逃走手段を確保されないように、糸で取り上げて壁際へ投げ捨てたままだ。それ以外、ここにライダーのバイクはない。

 しかし、ならばこの耳鳴りのような、この音は何だ……! 

 

 怪人たちは一様に困惑を隠せない様子であり、ルリ子はここで賭けに出た。

 

 

『「お願い……。起きて……!」』

 

 

 2人の声が重なり、鈴のように響く。

 ベルトに置いていた手を、彼のボロボロの左手に移し、そっと握りしめる。

 

 

『たとえ復讐にその身を焼いても、それでもう終わりだなんてことはないから!』

 

 藤丸の脳裏に浮かぶ復讐者たち。恩讐の炎に薪を焚べつつも、彼らは藤丸立香というと縁を結んでくれた。

 

「私の知るあなたなら、きっと立ち上がれる。私の知るあなたじゃなくても、あなたは本郷猛であるならば!」

 

 ルリ子の死後、本郷猛は激情の中でもう一度戦う決意を固めた。

 複眼が微かに光る、胸部装甲にプラーナの輝きが漏れ出る。

 

「そんな! 動ける訳がないわ!」

 

「蠍ぃ! あのゴミを殺せぇ!」

 

 蜘蛛男は、最も近い距離にいる蠍男に叫んだ。一文字を放り捨てて、蠍男は駆け出す。

 

「なっ!? 貴様、その手を離せ!」

 

「おぇ……ごほっ……ッ! 離すかよ! 絶対に!」

 

 這いつくばったまま蠍男の足を掴み、駆け出そうとした一歩を阻止した一文字は、真っ赤な目のまま蠍男を睨みつけ、そのまま両手で足を掴む。

 

 

「本郷ォ!」

 

 

 一文字が叫んだとき、本郷の複眼がさらに強く光る。

 そして、肉を貫く音ともに消える。

 

 

 

「残念でしたぁ」 

 

 

 蜂女はルリ子の肩に手を回し、囁くように戯ける。

 仰向けに寝転がった本郷の横で、ルリ子は座っていた。その背後から、蜂女は音もなく忍び寄っていた。

 そして、そのままサーベルが本郷の一突き。

 イチローのプラーナを持ってしても100%の抵抗ができなかったその毒を、今度こそ殺害を目的とした神経毒を直接刺し入れた。

 

 蜂女は笑いが止まらない。仮面ライダーを二人も、二人も自らの毒で刺した上で希望を摘み取ってやった! 

 なんて面白い、なんて楽しい。なんて気持ちがいいのだろう。

 

「あはははははは! なんて、なんて呆気ない! なんて滑稽なの! 耳障りな音が聞こえたときはどうしようかと思ったけど、なんてことないじゃない!」

 

 覆いかぶさるようにルリ子を後ろから抱きしめて、蜂女は嗤い続けた。

 

「さぁ、愛しの男と同じ場所に送ってあげる!」

 

 蜂女はそのままルリ子のことを突き飛ばした。尻餅をついたルリ子は一心同体の藤丸の分の怒りを込めた眼光を蜂女に向けるが、ただ蜂女の愉悦を増大しただけだ。

 

「あなたも!仮面ライダーのごみどもみんな!ショッカーの全世界制服の礎となれ!」

 

 蜂女がサーベルが振り絞る。怪人としての性能を十全に発揮して、腕のバネから放たれる銀色の剣先が風を切り、目障りなほどに美しいルリ子の瞳を貫こうとする。

 

 

 だが彼女の瞳に剣先は届かず、蜂女の腹部へと、風を切る音とともに黒い残像が走り、轟音とともに蜂女が壁にめり込む。パラパラとコンクリートの欠片と粉塵が舞い、蜂女の姿が見えなくなる。

 

 歪む視界の片隅に、自身の吐き出した血が床に垂れているのを見た蜂女は思考する。

 

 なぜ? もうすでにチェックメイトのはずなのに。なぜそんなに慌てているの? いや違う、なぜ、今私は倒れているの? 

 

 壁にめり込み、地面に倒れ込んだ蜂女。体内のフレームが軋み、腹部の内部機器が凹み、損傷する痛みに耐えながら、なんとか立ち上がると目の前には影が立っていた。

 

 ぼやけた影の輪郭がだんだんと人型に収束して、頭部には赤く光る眼がこちらを見据えている。そして影から手が伸びて彼女の首元を掴むと、そのまま投げ飛ばして蜘蛛男の方へと飛んでいく。

 蜘蛛男たちは飛んでくる蜂女を受け止め切れずにそのまま全員で倒れこむ。自身の上でただ身じろぎするしかない蜂女へと蜘蛛男は怒りを隠せない。

 

「蜂女! 貴様何をやっている! 何が起きた!」

 

「わか、らない……あれは……ぁ……なんなの……」

 

 続いて蠍男へと、光とともにどこからか現れたサイクロンが体当たりをして、二人の怪人の方へと吹き飛ばす。

 

 誰も動けない。今の数秒で起きたことが誰にも説明できなかった。

 

 ただ一つわかることはある。

 

 

「一文字」

 

 

 蜂女が投げ飛ばされた方から影が歩いてきた。

 

 影はやがて晴れていき、黒いスーツからメッキが剥がれるように、深緑の革の鈍い光を放つ真新しいスーツが現れる。

 ライダーのマスクが反転し、ヘルメットに戻ったところで、彼は一文字へと手を差し伸べた。

 

「大丈夫か、一文字」

 

「お、ぉぉ……は、ははは! あぁ……あぁ! 大丈夫さ!」

 

 一文字は、その手を強く握り、立ち上がる。

 

 アルトリアとオベロン、そしてカドックはその二人が並び立ったときに、二人のスーツが非常に似通っていることに気づいた。

 

 

「あのスーツとベルト。 あの人、もしかしてっ!」

 

「いやいやまさか、こりゃ驚いた。 ごっそり霊基が書き換わってるなんてプリテンダーも真っ青だよ」

 

 本当に心底驚いたようにオベロンは目を丸くする。

 外野の驚く声も耳に入らない。一文字は掴んだ手を確かめるように握り、ついぞ言うことのなかった言葉を口に出す。

 

 

「おかえり、本郷」

 

「ただいま、一文字」

 

 一文字の手を取り、引っ張り上げた本郷は、ふらつく彼を支えながら一文字と向き合った。

 

 若干の麻痺が残っているが、大部分を解毒し一文字のもとへとイチローも集まる。

 

 ルリ子が、続いて本郷に歩み寄る。

 

「信じてた。必ず目覚めるって」

 

「……ルリ子さん、僕は」

 

「言わなくていい。あなたは、ちゃんと私のことを助けてくれた。それだけでいいの」

 

 ヘルメットのバイザーから覗く瞳は未だに後悔の念が消えずにいるが、その中にはもはや消えることはない闘志が燃え盛っている。

 

「ルリ子さん、いやマスター、僕は……」

 

 言いかけたところで、蜘蛛男が彼らに向けてクモ糸を放つ。

 

「伏せろ!」

 

 一文字が叫ぶと同時に彼は弾丸のように迫るクモ糸を掴み、手繰り寄せ、蜘蛛男と綱引きのような状態となる。

 

「こっちだこっち!」

 

「それ!」

 

 身動きの取れなくなった蜘蛛男にめがけてオベロンの指揮で七色の蝶が攻撃を仕掛ける。後を追うようにアルトリアの振るった杖から光が迸り、地面を走りながら蜘蛛男達をまとめて爆発に巻き込む。

 心強い仲間たちが作ってくれたこのチャンスを無駄にはしない。

 

「本郷、起き抜けに悪いが、一仕事だ」

 

「本郷猛、俺が言うのもなんだが……今は、共に奴らを倒そう」

 

「あぁ……行こう、一文字、イチローさん!」

 

 

 ヘルメットを被った三人は一列に並ぶ。

 万感の思いを込め、叫ぶ。

 

 

「変身ッ!」

 

「変身」

 

「変身!」

 

 

 イチローのヘルメットが半分に割れるようにして展開し、額から突き出た蝶の器官を包むようにマスクが閉じる。

 本郷と一文字の顔に、涙の跡をなぞるような赤い傷跡が浮かび、ヘルメットが裏返るように仮面ライダーのマスクへと変貌する。

 

 

 仮面ライダー第0号、仮面ライダー第1号、仮面ライダー第2号が並び立つ。

 

 

 だが、第1号の変身はこれで終わらない。タイフーンの巻き起こす風が彼の体を覆うように竜巻を起こし、彼の体をさらに強靭なものへと変える。

 

 グローブとブーツは銀へ、深緑のスーツは鮮やかな緑へと染まる。

 

 マスクの緑を塗りつぶすように、走り抜ける風のような水色へと変わり、本郷は叫ぶ。

 

 

「僕の名は、ライダー」

 

 

 彼らの後ろに立つルリ子は、藤丸の持つマスター権限により彼のステータスが書き換わったことを知覚する。

 

 

 

【復讐者】バッタオーグの文字が風に舞う落ち葉のように剥がれ、飛び散り、その名前が書き換わる。

 

『真名風動』

【ライダー】仮面ライダー1号

 

 

 マスターである少年少女は、彼の背中を見て確信する。この人がいればきっと大丈夫だ。その背中には、理由はなくともそう思わせてくれる強さがある。

 

 マスクの中で激励をくれた男の声を思い出す。今のこの力と、あの時の言葉を考えれば、あれがだれだったのかは彼の頭脳をもってすれば簡単な話だ。

 

「恐れ多くも、【仮面ライダー1号】の歴史をこの身に預かった!お前たちの野望は、すべて打ち砕く!」

 

 自分とは違う、どこかの世界の本郷猛。もう一人の自分が、紡いだ【仮面ライダー】という称号を託された。彼の心はもう折れることはない。

 

 仮面ライダーたちはそれぞれ敵を見据え構える。3人の怪人と対峙し、駆け出す。

 

 仮面ライダーとショッカーの、本当の戦いが今始まった。

 




ここまでご覧いただきありがとうございます。

英霊と疑似サーヴァントという性質を組み合わせたらこう言うのができないかなと思って、ずっとこういう絵を見たくて頑張って書いてきましたが、このストーリーの個人的見せ場をまた一つ迎えることができて嬉しく思います。

思わずネタバレしそうになってしまうので返信できていませんが、感想が届く度にすべて目を通しています。
そういった応援もあって、拙いながらもここまで続きました。

もうしばらくお付き合いください。
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